原付二種クラスが手薄だったヤマハから登場した125ccの「XSR125 ABS」に試乗。このクラスにしては大柄なネイキッドのマシンは、どのような走りを味わわせてくれるのだろうか。
販売台数が減少している50c以下の原付一種クラスに代わって、125cc以下の原付二種が堅調に売上げを伸ばしている。その中のヒットモデルを見ると、「モンキー125」や「CT125・ハンターカブ」などホンダ車が中心だ。それに対し、ヤマハは近年このクラスにスクーターしかラインアップしていなかった。そんな状況を一変すべく、2023年10月から「YZF-R125」「MT-125」「XSR125」を続々とリリース。一気に125cc以下のスポーツモデルを充実させてきた。
2023年10月に「YZF-R125 ABS」と「MT-125 ABS」が発売され、2023年12月に今回試乗する「XSR125 ABS」が発売された。メーカー希望小売価格は「YZF-R125 ABS」が517,000円(税込)、「MT-125 ABS」が495,000円(税込)、「XSR125 ABS」が506,000円(税込)
3車種とも、前後17インチのホイールを装備したフルサイズマシン。12インチのコンパクトなマシンやレジャーバイクが中心のホンダに対して、フルサイズのスポーツモデルで勢力図を塗り替えたいというヤマハの戦略が感じられる。
エンジンと基本骨格は3車種共通だが、幅が広いハンドルや量感のあるガソリンタンクを備えた「XSR125 ABS」はワンクラス大きな250ccクラスのネイキッドマシンのよう。さらに、上質なペイントで仕上げられ、タックロールタイプのシートなどを備えたルックスは原付二種とは思えない完成度だ。
車体サイズは2,030(全長)×805(全幅)×1,075(全高)mmで、重量は137kg。現代の技術でレトロな雰囲気を作る「XSR」シリーズらしい“ネオレトロ”なスタイルだ
ホワイトメタリックB(シルバー)、ダルブルーソリッドB(ライトブルー)、ブラックメタリック12(ブラック)、ビビッドイエローイッシュレッドメタリック3(オレンジ)のカラーバリエーションが用意されている
存在感のあるサイズのガソリンタンクは、タンクカバーでティアドロップ型にデザインされている。ツートンカラーのペイントの質感も高い
バックスイープの少ない形状のハンドルは、幅が800mmオーバーとかなり広め。車格が大きく感じる要因のひとつだ
座面が広く、クラシックな印象を作り出すタックロールタイプのシートを装備。前側はやや絞り込まれている
小ぶりなケースの丸型ライトは「XSR」シリーズに共通するシルエット。ケースも同色に塗られ、質感が高い
コンパクトなサイドカバーと、ホール加工がされたアルミのプレートもシリーズに共通するイメージを作り出している
コンパクトで丸型のテールライトもネオレトロのコンセプトに合致する
エンジンは水冷の124cc単気筒で、最高出力15PS/10,000rpm、最大トルク12Nm/8,000rpm。低中速向けと高速向けの2種類の吸気カムを備える可変バルブ(VVA)機構を搭載し、低回転域でのトルクと高回転域でのパワーを両立している。クラッチレバーの軽い操作感とエンジンブレーキ時のリアタイヤのホッピングを抑制する、アシスト&スリッパークラッチも装備。同時期に登場した原付二種クラスの兄弟モデル「YZF-R125 ABS」と「MT-125 ABS」に採用されているトラクションコントロール機構は、「XSR125 ABS」には搭載されていない。
デルタボックス形状のフレームに対して、エンジンはややコンパクトに感じる。アンダーカバーも装備
大きめの筒型で容量を確保したマフラー。高回転域で透明感のあるサウンドを発生させるため、3段膨張マフラーを採用している
足回りの装備も、原付二種クラスのイメージを覆すくらい充実している。剛性の高そうなデルタボックス型のフレームに、倒立式のフロントフォークを採用。リアはモノショックで、フロント側110/70-17、リア側140/70-17の太めのタイヤを装着しており、見た目の迫力だけでなく、落ち着いたハンドリングを実現するための選択だということが想像できる。
倒立フォークに太めのタイヤを履いた迫力のあるフロント周り。ブレーキキャリパーはバイブレ製だが、ロゴのないタイプだ。フロントタイヤは、兄弟モデル「YZF-R125 ABS」と「MT-125 ABS」よりもワンサイズ太い
タイヤは、不整地走行を想定したような大きめのブロックパターン。スイングアームは軽量なアルミ製で、裏面のリブで剛性バランスを調整している
ナンバーの色を見なければ原付二種だと思えないほどの車格を感じさせる「XSR125 ABS」の走行性能を確かめるべく、街中から郊外までショートツーリングしてみた。筆者は、兄弟モデルの「YZF-R125 ABS」と「MT-125 ABS」に試乗したことがあるので、それらとの乗り味の違いも確認したい。
シート高が810mmあり、身長175cmの筆者の場合、両足ともかかとまでは接地しなかった。125ccクラスとしては、足付きはいいほうではないが、車体が軽量なので体格の小さい人でも不安は感じないだろう
タンク周りが大きく、ハンドル幅もあるので250ccぐらいの排気量のバイクに乗っているような気分になるが、そのまま走り出しても「やっぱり125ccだった」とがっかりすることはない。低中回転域のトルク感が豊かで、125ccクラスのマシンで感じがちな非力さを感じない。高回転域もパワフルで、VVAが切り替わる7,400rpmまで回すと、排気音がやや甲高くなり、グイグイと車体を引っ張ってくれる。125ccクラスの4ストロークエンジンはピークパワーを追求すると低中回転域のトルクが薄くなりやすいが、VVA機構により、全域で十分な出力とトルクを確保。最近の4ストローク125ccエンジンは、これほど力強くなっているのかと驚かされた。
街中で十分な出力を確保しているだけでなく、郊外の幹線道路を走っても力不足を感じる場面はなかった
兄弟モデルよりもワンサイズ太いフロントタイヤの影響で、フロントの動き方はマイルド。そのおかげで、ゆったりした気持ちで走れた。前傾姿勢の強い「YZF-R125 ABS」だけでなく、「XSR125 ABS」と同じようにアップライトなハンドルの「MT-125 ABS」もフロントがスッと入るキレのあるハンドリングなのに対し、「XSR125 ABS」のハンドリングはしっとりした自然で落ち着きのあるもの。それでいて、リアタイヤは兄弟モデルと同じ太さなので、少し深く車体を傾ければ、125ccクラスらしい軽快さも顔を覗かせる。安定感と軽快さを両立した魅力的なハンドリングだ。
太めのフロントタイヤのおかげで舵角の付き方は穏やかだが、寝かしていく動きは軽快
クラスを超えた質感を持ち、またがっただけでも125ccクラスとは思えない車格を感じる「XSR125 ABS」。実際に走ってみてもワンクラス上のマシンに乗っているかのようなフィーリングを味わえた。この走行性能を実現した大きなポイントのひとつが、バルブタイミングを可変としたVVA機構を搭載したエンジンだろう。この機構のおかげで、125ccクラスとしては最高の15PSという出力に加え、低中回転域でのトルクを両立。ピークパワーを求めると実用回転域でのトルクが薄くなりやすい125ccクラスの弱点を補うには適したエンジンだと言える。
エンジンや車体、足回りなどの基本設計は兄弟モデルと共通だが、乗り比べると味付けは異なることがわかる。スーパースポーツタイプ「YZF-R125 ABS」はスポーティなハンドリングが味わえ、「MT-125 ABS」はアップタイプのハンドルを装備している点は「XSR125 ABS」と同じだが、着座位置やライディングポジション、ハンドリングのキャラクターが異なり、どちらかというと軽快感が重視されている印象。エンジンのフィーリングも、「YZF-R125 ABS」と「MT-125 ABS」は高回転まで回して楽しい特性なのに対し、「XSR125 ABS」は中回転域のトルクを生かして走るのが快適なセッティングだ。
125ccクラスの勢力図を塗り替えるポテンシャルを持つ車種が登場し、このクラスが今後どのような盛り上がりを見せるのか非常に楽しみ。少なくとも、フルサイズの原付二種については、ヤマハが他メーカーを一歩リードしたと言えそうだ。
●メインカット、走行シーン撮影:松川忍