「運転して楽しいクルマ」。そう聞くと最初に思い浮かぶのは、スポーツカーやサーキット、峠道を走るようなシーンがイメージされるかもしれませんが、実は「運転の楽しさ」は、普通に街中を走っているだけでも十分に感じることができます。
というのは、運転しているときに感じる「楽しさ」には種類があり、高い速度や強いG(重力)などジェットコースターなどに通じるような要素から、自分が思い描いたとおりにクルマを動かすことによるもの、自分がクルマのパーツのひとつに溶け込んだかのような一体感に浸れるもの、心地よく感じる音や振動など、さまざま。極限までの速度やGによる楽しさはサーキットでしか味わえないかもしれませんが、それ以外は一般道や高速道路でも体感できるのです。
サーキットを走らなくても、クルマの楽しさは十分実感できるのです
ただ、それらが“すべてのクルマで”体感できるかというと、そうではないことが多いと思います。人それぞれ感じ方が異なるので、まずは自分に合ったクルマを探すところが出発点です。
アクセルペダルには頭でイメージした応答性があるかどうか、ハンドルを回したときのフィーリングは意思と一致しているかどうか。ブレーキ操作は違和感なく安心してできるか、不安な死角などがないか。また、シートのフィット感やメーターの見やすさなども、運転中の楽しさに関わってくることがあります。
昨今はハイブリッドなどの電動化技術を搭載したクルマが多くなっていますが、どういう条件やシーンでモーターが介入してくるかは、メーカーごとまたモデルごとに異なりますので、それらが自分のフィーリングに合っていると感じるクルマを選ぶことも、運転が楽しいと思える要件のひとつと言えます。
これらを踏まえて、多くの人に運転が楽しいと思ってもらえるクルマをピックアップしました。
まずはスズキ「スイフト」。先代まではスポーティー路線が強めのイメージがありましたが、実は誰もが普通に運転して楽しく、安心なクルマをスズキは作り続けてきました。
新型はデザインや使い勝手に関して、Z世代を意識した未来感ある雰囲気に仕上げていますが、新開発の1.2L直列3気筒エンジンとISG(モーター機能付き発電機)にリチウムイオンバッテリーを組み合わせたシステムに、5速MTもしくはCVTを設定しています。このパワートレーンを始め、世界の道を走り込んでセッティングした足回りなど、走りの面では、すべてが思いどおりに操れる気持ちよさ、楽しさをしっかり実現してきています。
特段速いクルマではありませんが、運転が非常に楽しい「スイフト」
トランスミッションの種類を問わず、走り出した瞬間から軽やかさ、伸びやかさが味わえます。また、カーブでの安定した挙動や、高速道路の継ぎ目などの段差を乗り越えても、スッとしなやかな足さばきで通過してくれて、いつもの道を走っても楽しいと感じられるコンパクトカーです。
一般道でも楽しく、気持ちよく走れるクルマを意味する「RS」グレードが、久しぶりに「フィット」で復活しました。「e:HEV」と呼ばれる2モーターのハイブリッドと、1.5Lガソリンモデルをラインアップ。トランスミッションはCVTのみですが、開発チームが3年にわたってみずから「e:HEV」モデルで耐久レースに参戦し、ハイブリッドシステムを最大限に生かしながら、いかにスポーティーで爽快な走りを実現するのか、試行錯誤を繰り返してノウハウを蓄積していきました。
そのため、「フィット」の中でもこの「e:HEV」モデルの「RS」にだけ、「ノーマル」「エコ(ECON)」「スポーツ」の3つのドライブモードと、アクセルオフ時の回生量を4段階から選択できる減速セレクターが搭載されています。
レースで得た知見を市販車に還元するところに、ホンダらしさが現れています
そして、この「スポーツモード」に標準を合わせたというサスペンションセッティングが見どころのひとつ。他グレード比較でスプリングレートは4%ダウン、リアは26%アップ、フロントのスタビライザー径も4%アップしており、ショックアブソーバーは前後共に減衰力をアップすることで、直線だけでなくコーナリングでのロール姿勢も安定させています。
発進直後からのダイレクトな応答性や、モリモリと加速しつつ滑らかなフィーリングにワクワク。カーブでは一筆書きのようにつながりのある挙動が、ドライバーの爽快感を高めます。ハイブリッドらしい運転の楽しさが味わえる1台と言えます。
3台目は、フランス生まれのオシャレなコンパクトカーとして日本でも人気のある、ルノー「ルーテシア」。ガソリンモデルと「E-TECH HYBRID」というハイブリッドモデルがラインアップされており、ガソリンモデルは爽快なキビキビ感、ハイブリッドモデルは上質な軽やかさが特徴です。
特に、意のままに操る楽しさが大きいのはガソリンモデル。新開発された1.3Lの4気筒直噴ターボは、走り出した直後から最大トルクが湧き出して、遅れのないレスポンスで伸びやかな加速フィールが気持ちよさを誘います。信号の多い道では頭の中の動きと見事にシンクロした挙動で、まるでクルマと一体となっているような楽しさが味わえます。
扱いやすいボディサイズで、欧州メーカーのクルマへの思想を味わえる「ルーテシア」
そして高速道路に入ると、ボディサイズがふた回りくらい拡大したのかと思うほど、安定感があってしっかりとした落ち着きのある走りを見せてくれます。カーブではジワリと荷重移動していくような身のこなしで、ロングドライブの心地よさも格別です。
4台目は、キュートなデザインやオシャレな雰囲気で「ひと目惚れ買い」をしそうになる人も多い、イタリア生まれのコンパクトカー、フィアット「500(チンクエチェント)」。
3ドアですが後席も備えており、乗り降りさえ気をつければ大人でも座れるスペースがあります。クーペモデルと、屋根が開くソフトトップモデルの「500C」がありますが、どちらも一般道を運転しているだけで楽しいクルマでもあります。
キュートなデザインだけで購入候補にあげる人も多い「500」は、走りもいいんです!
現在、1.0Lのツインエアエンジンの生産が終了し、1.2Lエンジンのみとなっていますが、楽しさのキモとなるのがATモード付5速シーケンシャルトランスミッション。
これはAT限定免許の人でも運転でき、ATモードとMTモードが選べるようになっています。ATモードにしてアクセルを踏み込むと、ウーンと加速した後に、ガックンと失速するようなショックが……。そして再びウーンと加速が始まるという独特のフィーリングで、何も知らずに初めて乗った人は「なんじゃこりゃ!?」と思うかもしれません。でもこの操作にはコツがあり、アクセルを踏んで回転数が上がったところで、一瞬だけアクセルの力をゆるめ、再び踏み込むと力強く、気持ちよく加速してくれるんです。
この操作ができるようになってくると、クルマと息を合わせて二人三脚をしながら疾走しているような、不思議な爽快感が芽生えてくるとともに、運転がうまくなっていく充実感を味わうこともでき、いつしか虜になっているというわけです。
こうした、ちょっとクセの強いクルマを手なづけるように運転することも、楽しさの一種と言えるでしょう。
ということで、普段の買い物や送り迎えの道でも楽しいを思えるようなクルマは、1人ひとりにピッタリなクルマが必ずあると思います。そうした視点で愛車選びをしてみると、毎日が変わっていくかもしれないですね。
写真:島村栄二(スイフト)、編集部(フィットRS、ルーテシア)、ステランティスジャパン(500)
※2024年5月27日、記事の一部を修正しました。