長距離を走るツーリングライダーに人気が高いアドベンチャーは、どちらかというと大排気量車が多いが、日本では扱いやすい250ccクラスも人気がある。そのなかから今回は、スリムな単気筒エンジンを搭載し、未舗装路も走れるタイヤを履いたスズキ「Vストローム250SX」に試乗。同シリーズのオンロード向け「Vストローム250」との違いも見ていこう。
チャンピオンイエローNo.2、パールブレイズオレンジ、グラススパークルブラックの3色をラインアップ
スズキ「Vストローム」シリーズは、幅広い排気量をラインアップするアドベンチャーシリーズ。1,050ccや800ccなど大型が中心ではあるが、扱いやすいサイズの「Vストローム250」も根強い人気がある。そのシリーズに2023年に加わったのが、今回紹介する「Vストローム250SX」。元々インドなどアジア圏向けに販売されていたものが、日本市場に導入された形だ。
既存の「Vストローム250」が2気筒エンジンで前後17インチホイールを組み合わせたオンロード向けのマシンなのに対し、「Vストローム250SX」はスリムな単気筒エンジンに、19インチの大径化されたフロントホイールを搭載。未舗装路での走破性を高めている。
既存のオンロード向け「Vストローム250」。サイズは2,150(全長)× 880(全幅)× 1,295(全高)mmで、重量は191kg。メーカー希望小売価格は668,800円(税込)
オフロードに対応するタイヤを履いた「Vストローム250SX」。サイズは2,180(全長)× 880(全幅)× 1,355(全高)mmで、重量は164kg。メーカー希望小売価格は569,800円(税込)
亀甲のようなパターンの未舗装路にも対応したフロントタイヤ。サイズは100/90-19
リアタイヤのサイズは140/70-17。ブロックは広く低めなので舗装路でも抵抗は少なそう
ブレーキはシングルディスクで、バイブレ製のキャリパーを装備
「Vストローム250SX」のエンジンは、248ccの水冷2気筒を搭載する「Vストローム250」とは異なり、同社の「ジクサー250」などと同じ249ccの油冷単気筒を搭載している。最高出力は26PSと、24PSの「Vストローム250」よりパワフルだ。
比較的新しい設計の油冷エンジンは、水の代わりにオイルを冷却に用いる。SOHCの4バルブで、ショートストロークタイプの設計。最高出力の発生回転数は9,300rpmと高く、最大トルクは22Nmを7,300rpmで発生する
オフロードで石などが当たらないように、エンジン前部にアンダーガードを装着
デザインは、鳥のクチバシを思わせるフェンダーを基調とする「Vストローム」シリーズらしいもの。LEDのライトを採用したことで、既存モデルより精悍なイメージとなった。高速ツーリングがしやすいように、大型のウインドスクリーンも装備している。
フロントライトをLED化し、多角形のデザインを採用。現代的な印象のフロントフェイスを作り出している
アドベンチャーマシンらしく大型のウインドスクリーンを装備。高さ調整などはできない
シートは足付きに影響する部分を絞り込んだ構造。タンデムシートがセパレートになったタイプで、キャリアも標準装備
オフロード専用マシンのように広い、全幅880mmのハンドルを装備。未舗装路で車体を押さえ込みやすい。グリップ部分にあるハンドガードも、オフロードマシンっぽい装備だ
ステップのゴムラバーは取り外してオフロードマシンのようなステップにすることも可能
出口が2本になったタイプのマフラーを装備。エキゾーストパイプは下側に取り回されている
デジタルタイプのメーターを採用。回転数やシフトインジケーター、燃料計も見やすい。メーターの左側にはスマートフォンなどの充電に使える給電用のUSBソケットを装備
アドベンチャーマシンは、アップライトなライディングポジションと大きめのフェアリングで、長距離ツーリングを快適にこなせるのが特徴。近年は、オンロードツーリングに特化したモデルと、オフロードでの走破性を重視したモデルに分かれてきているが、「Vストローム250SX」は両者の中間からやや後者寄りだ。その特性をたっぷり堪能するため、高速道路を使って郊外まで出かけ、未舗装路も走ってみた。
シート高は830mmと高め。身長175cmの筆者が乗った場合、両足のつま先が接地するくらいの足付き性だ。車体がスリムで軽量なので、片足でも支えやすい
ハンドル幅が広く、やや車体の前に座るようなライディングポジションの「Vストローム250SX」は、足付き性もオフロードマシンに近い。着座位置が低く(シート高800mm)、ハンドル幅の狭い「Vストローム250」とは出自から異なる印象だ。
油冷単気筒のエンジンは低回転から豊かなトルクを発揮するため、街乗りでも扱いやすい。エンジンの特性に影響するボア(内径)×ストローク(行程)値は76.0mm×54.9mm。ショートストロークと呼べる設計だ。高回転域までスムーズに回る特性だが、「Vストローム250」の2気筒エンジンと比較しても低回転域でのトルクは強力で、発進加速も鋭い。そのトルクを発揮させたまま10,000回転まで回るので、高速道路を走ってもパワー不足は感じない。ただ、全域でフラットなトルクを発揮するため、高回転域での盛り上がりは希薄で、メカノイズも大きめだった。
フラットなトルク特性なので、高速道路の巡航はしやすい。250ccクラスなため、追い越しの加速はシフトダウンが必要だが、トルクが取り出しやすいので加速はスムーズだ
大型のウインドスクリーンの効果は大きく、頭の位置を少し下げるだけでヘルメットに走行風を受けなくなり、快適に高速移動できた
車体がスリムで軽量なため、コーナリングでバンクさせる操作はスムーズ。大径のフロントホイールのおかげもあり、バンクさせた後の安定感も高かった。走っていて感じたのは、ニーグリップがしやすいこと。ひざだけでなく足首まで車体にフィットするので、車体との一体感が高く、外側の脚全体を使って抑え込むように寝かし込むことができた。
コーナリングではオンロードマシンのような操作もできるが、どちらかというとオフロード的なリーンアウトの姿勢のほうが素直に動いてくれる印象
ひざが当たるタンクから足首の当たる部分までカバーが設けられているので、脚の内側全体でホールドしやすい
未舗装路も走ってみたが、砂利道や土の上でも不安感は少ない。未舗装路に対応したタイヤと19インチのフロントホイール、そしてよく動くサスペンションを搭載している恩恵と言える。オフロード専用マシンほどの走破性はないものの、ツーリング先で出会った未舗装路に不安なく挑めるだろう。
脚の内側で車体のホールドがしやすいので、スタンディングポジションでも安心して走れた
もちろん、着座した状態でもタイヤのグリップを感じやすく、オフロードを楽しみながら走れる
ツーリングでの使い勝手を検証するため、さまざまな道を走ってみたが、あらゆるシーンで乗りやすさを感じることができた。スリムで軽量な車体は街乗りでも扱いやすい。さらに、街中を走るだけでも、トルクフルなエンジン特性もあってキビキビした走りが味わえる。高速道路では大型のウインドスクリーンがあるおかげで、快適な巡航が可能。250ccクラスでも長距離のツーリングを楽しめる。
足回りやライディングポジションがオフロードマシン寄りの作りとなっているため、未舗装路を通過せずに楽しめる懐の深さも魅力だ。オンロード向けの「Vストローム250」よりも最高出力が大きく、低回転のトルクは豊か。それでいながら、メーカー希望小売価格は約100,000円安い。「Vストローム250SX」は、車検のない250ccクラスでアドベンチャーマシンに乗りたい人、未舗装路も含めた長距離ツーリングを楽しみたい人に最適な選択肢のひとつだろう。
●メインカット、走行シーン撮影:松川忍