長らく小排気量バイクをラインアップしていなかったトライアンフから2024年1月に登場した、排気量398.15ccの「スピード400」。“普通二輪免許で乗れるトライアンフ”として注目を集めた「スピード400」の仕上がりを確かめてみた。
「CARNIVAL RED/STORM GREY」「CASPIAN BLUE/STORM GREY」「PHANTOM BLACK/STORM GREY」の3色をラインアップ
近年のトライアンフのバイクに搭載されているエンジンは、スポーティーな3気筒と大排気量の2気筒が主力だが、「スピード400」は単気筒エンジンを採用している。400ccクラスの単気筒エンジン搭載モデルというと、ホンダ「GB350/S」が人気を集めているが、「GB350/S」のエンジンが空冷なのに対し、「スピード400」は水冷。最高出力を見ても「GB350/S」が20PS/5,500rpmで、「スピード400」が40PS/8,000rpmと倍のパワーを発揮する。
サイズは814(全幅)× 1,084(全高/ミラーを除く)mmで、重量は170kg。メーカー希望小売価格は729,000円(税込)とかなりリーズナブルだ
398.15ccの単気筒エンジンはDOHCの4バルブ。空冷風のフィンが刻まれているが、水冷だ。縦長のラジエーターを前面に装備している
マフラーは現代的な形状。ややカチ上げられたシルエットでバンク角を確保している
また、ボア×ストローク値も注目したいポイントだ。「GB350/S」などの空冷単気筒エンジンは、低中回転域のトルク感が強い特性を持つロングストロークタイプが主流。いっぽう、「スピード400」は、エンジンのボア×ストローク値が89×64mmと、ストロークのほうが短いショートストロークタイプを採用している。回転上昇がスムーズで、回転を上げてパワーを絞り出す特性なので、単気筒エンジンでも「スピード400」は高回転まで回す走りが楽しめそうだ。
車体デザインは、丸目ライトとティアドロップ型のタンクというオーセンティックなバイクらしいもの。同ブランドの大排気量車とも共通するデザインで、質感も高い。灯火類はすべてLEDを採用しており、懐かしさを感じるシルエットと現代的なスペックをうまく融合させている。
LEDの丸目ライトの中央にはブランドのロゴを配置。ヘッドライトを囲むようにデイタイムライトも装備している
トライアンフらしいトラディショナルな形状のガソリンタンク。塗装の品質も高く、大排気量車に見劣りしない
シートはタンデム部分がタックロールのようになった独特のデザイン。前側を絞り込んだ形状で、足つき性に貢献する
全幅814mmの幅広いハンドルを装備。高さは抑えられているため、適度な前傾姿勢を作り出す。バックミラーはバーエンドに装備される今風のレイアウトだが、ハンドル幅が広いので、慣れるまでは視線移動の大きさに少しとまどうかもしれない
メーターはアナログのスピードメーターにデジタルディスプレイを組み合わせた仕様。デジタルディスプレイに回転数や選択しているギアなどが表示される
足回りに目を向けても、倒立式フロントフォークやラジアルマウントのブレーキキャリパーを装備し、リアにはモノショックを備えるなど妥協を感じないスペックだ。ABSやトラクションコントロールなど現代のマシンらしい電子制御も装備しているが、走行モードの切り替えには対応していない。
フロントタイヤのサイズは110/70 R17。10本スポークのキャストホイールを採用し、ゴールドのアウターチューブが主張する倒立フォークと組み合わせる
ブレーキはシングルディスクだが、バイブレ製のラジアルマウントキャリパーを採用し、制動力とコントロール性を確保
リアタイヤのサイズは150/60 R17。ピレリ製「ディアブロロッソIII」のラジアルタイヤを履く
「スピード400」は、トライアンフのなかではもちろん、400ccクラスマシンにおいてもリーズナブルな価格だが、装備やスペックは申し分なく、戦略的に価格を抑えたモデルだと言える。そんな「スピード400」の走りを味わうため、街中を中心に試乗し、高速道路を使って郊外のワインディングも走ってみた。
シート高は790mm。身長175cmの筆者の場合、両足のかかとがギリギリ接地しないくらいなので、足つき性は良好だ。単気筒らしくスリムで軽量な車体なため、片足でも支えやすい
エンジンをかけると、単気筒らしい歯切れのいいパルス感のある排気音が響く。所有欲をくすぐるいい音だ。スロットルに対するレスポンスも鋭く、ショートストロークで高圧縮のエンジンであることを感じさせる反応のよさ。「トルクアシストクラッチ」機構のおかげでクラッチの操作性は軽く、クラッチをつないで走り出すと、予想していたよりもパワフルで、軽くアクセルを開けるだけで鋭い加速が味わえる。ロングストロークの空冷単気筒とは一線を画するレスポンスのよさだ。市街地では自制心が必要なほどの加速が味わえた。
ショートストロークのエンジンだが、単気筒らしいパルス感を味わいながら走れるのが気持ちいい。ついついアクセルを開けたくなってしまうので、ちょっと自制心が必要なくらいだ
パワフルで鋭い加速とともに、すぐれたブレーキング性能を感じた。バイブレ製のシングルディスクブレーキは十分以上の制動力を持ち、フロントフォークや車体の剛性感が高いのでブレーキング性能はかなり高い。
ただ、サスペンションのストロークはフロントが140mm、リアが130mmとロードスポーツとしては長めなので、姿勢の変化は大きめ。街乗りではピッチングによる姿勢変化が曲がりやすさに貢献するが、少しペースを上げて高速コーナーなどを曲がろうとすると、姿勢を落ち着かせる必要がある。具体的には、外足のステップと膝で車体を抑え込むようにすると、コーナリング中の安定感が増した。このあたりの動き方は、ややオフロードマシン的と言えるかもしれない。スーパースポーツのように車体に任せて曲がっていくより、積極的にライダーが操作する必要があるのも「スピード400」の面白さと言えるだろう。
ピッチングによる姿勢変化は大きめだが、それを利用して積極的にマシンを操る感覚が楽しい。サスペンションの性能は高いので、コーナリング性能は折り紙付き
オーソドックスだが高品質でトライアンフらしい雰囲気を持った外観デザインに、レスポンスの鋭い水冷単気筒エンジンや現代的なスペックの足回りを備えた「スピード400」は、眺めても走っても満足できるマシンだった。特に、単気筒らしい鼓動を感じながら爽快に吹け上がるエンジンは魅力的で、コーナーの立ち上がりなどでトラクションを感じつつアクセルを開けていくのが非常に楽しい。これだけの魅力を備えていながら729,000円(税込)という価格は、かなりのバーゲンプライスと言えるだろう。
ちなみに、「スピード400」と同じエンジンを搭載した兄弟モデル「スクランブラー400 X」もリリースされている。フロントタイヤが19インチ、サスペンションストロークが前後150mmと足回りが異なり、オフロードバイクっぽさが増した印象だ。ツーリング先で未舗装路などに出会った際は「スクランブラー400 X」のほうが走破性は高そうだが、メーカー希望小売価格は819,000円(税込)と、「スピード400」より90,000円高い。スクランブラー的なスタイルは魅力的なので、好みや用途に合わせて選ぼう。
ライトや手元にガードを装備し、マフラーも2本出しとなる「スクランブラー400 X」。ハンドリングも「スピード400」とは異なる
●メインカット、走行シーン撮影:松川忍