ダイハツは、「東京オートサロン2025」において「モータースポーツ」と「地域貢献」という2つの軸でブースを演出している。
ブーステーマは、“お客様に寄り添い、暮らしを豊かにする”というもの。「ミライース GRスポーツ コンセプト」をのぞくすべての車両にナンバーが付いており、実際に走行してすでに活躍しているクルマたちだ。当記事では、それらの展示車両についてお伝えしたい。
まずはモータースポーツから。「“モータースポーツの裾野を広げ、走る楽しさをみんなのものに”という思いがあります」と話すのは、ダイハツ コーポレート統括本部 ブランド推進室 モーターショーG主任の米山知良さん。現在、ダイハツはトヨタガズーレーシングからのれん分けされた形で、ダイハツガズーレーシングチームとしてモータースポーツ活動を行っている。
たとえば、「コペン GRスポーツ」でラリージャパンに参戦したり、全日本ラリー選手権のオープンクラスには「ミライース」をベースにターボと5速マニュアル化した車両で出場したりしている。その活動からフィードバックして手が加えられたのが、今回参考出品されている「ミライース GRスポーツ コンセプト」だ。
「ミライース GRスポーツ コンセプト」のフロント、リアイメージ
「ミライース」はもともと軽量で燃費がよく、かつ空力もよいことからモータースポーツの条件にマッチしたクルマとも言える。そこへ、「ターボ化と5速マニュアル化することで走りが楽しくなり、スポーツカーのエントリーモデルとしての役割が担えれば」そんな思いを込めたと米山さん。さらに、「モータースポーツは、ハードルが高く感じられていることから、もっとみんなが裾野で楽しめるようなクルマを目指して作っています」と語る。
「ミライース GRスポーツ コンセプト」の横には、全日本ラリー選手権などに参戦している「ミライース」も展示されていた
ダイハツ コーポレート統括本部 ブランド推進室 DAIHATSU GAZOO Racing G事業・商品本部 商品企画部 車種企画室の殿村裕一さんも、「『ミライース』は、1円1ミリ1グラムにこだわって開発されたクルマです。非常にベーシックで燃費がよく、エコ&スマートなクルマなのです。それをベースに、パワフルなユニットと5MTを搭載することで、素性のよさから走っても楽しいという世界が切り開けましたし、それなりの装備にすれば全日本ラリーもまったくOKです。これを、そのまま市販化してもよいのでは」というイメージだったそうだ。同時に、「300万円以下、あるいは軽やAセグメントで楽しいクルマは少ないので、そのあたりを担えるかもしれません」とも語る。
左が米山知良さんで、右が殿村裕一さん
パワートレインは、「コペン」のユニットや「タント」などを流用。「軽のプラットフォームはサイズも決まっており、共通部分が非常に多いので実はやりやすいのです」と殿村さんはコメントする。
東京オートサロン2025の会場では、「ミライースGRコンセプト」に関するアンケートを実施。「その声や期待によっては、市販化できるかもしれません」と述べ、殿村さん個人としても市販化を実現したいとの思いを語った。
ラリーへ実際に帯同しているサポートカーが「ハイゼット トラック ジャンボ EXTEND2」だ。東京オートサロン2023で展示されていたコンセプトモデル、「ハイゼット トラック ジャンボ EXTEND」を実用化した車両になる。
「ハイゼット トラック ジャンボ EXTEND2」
コンセプトモデルでは、荷室の外側のボディがロの字型で、それを引き出すことで空間を拡大していた。だが「ハイゼット トラック ジャンボ EXTEND2」では、コの字型にされていることで、引き出したときに床面がなくなっている。引き出した空間にカーテンをつけることで、選手が中で着替えができたりデッキチェアを置いてミーティングができたりするなど使い勝手がより向上している。
地域貢献としては、防災用車両2台と工事現場用車両1台を出展。地域に寄り添い、日々の暮らしを守ることがテーマだ。
災害救助車のうちの1台が「ハイゼットトラックリフト 災害支援車」だ。福岡県久留米市と大分県にはダイハツの工場があるが、特に久留米市は筑後川水系が5年連続で氾濫している。そこでダイハツは、ボランティアとして参加するようになり、ボランティアセンターの運営やコーディネーター研修を受けてコーディネーターも行うようになった。
そして、災害に対しダイハツとして何かできないだろうかということから作られたクルマが「ハイゼットトラックリフト 災害支援車」だ。ダイハツのこれまでの経験のほか、社会福祉協会や市、NPO団体などと会話をしながら、必要な道具などを備えていったという。
「ハイゼットトラックリフト 災害支援車」
特徴的なのが、荷室に搭載されている分電盤だ。「以前、現場にボランティアの人が来てリールコンセントを次々とタコ足配線していった結果、ボヤ騒ぎが起きたことがありました。そこで我々は、技術職ですので分電盤を作り、ソケットにはひとつしか挿さないなどのルールも整備しました」と、実際に活動を行っている担当者は話す。
「ハイゼットトラックリフト 災害支援車」に備えられている分電盤
また、2024年の能登にもボランティアセンターを立ち上げるために向かったそうだ。そこで、初めて雪や寒さを経験し、チェーンやスタックヘルパーなど冬に対する装備も必要なことに気付き、徐々にアップデートしたという。
実際の災害救助現場へ出動している「ハイゼットトラックリフト 災害支援車」は、本当に心強いだろう。
防災士の資格を持ち、YouTuberでタレントでもある“さばいどる”かほなんさんとコラボし、防災啓発活動に活躍しているのが「アトレー ワイルドレンジャー2」だ。実際に、かほなんさんに使ってもらい、アドバイスを受けながら作り上げたという。
左が「アトレー ワイルドレンジャー2」で、右の人物が防災士のさばいどる・かほなんさん
これから発売予定のハードカーゴ社製のルーフキャリアが装着されており、タイヤは前が12インチから14インチへアップすることで走行安定性を向上。また、ワークランプなど災害現場で役に立つものも装備されている。カラーリングは、かほなんさんのイメージと災害のときにも目立つことから黄色と黒にされた。
ルーフにはワークランプのほか、災害現場で役立つスピーカーも備わっている
荷室には、防災アイテムが入れられている引き出し型のボックスを搭載。その中には、消火器やジャッキ、電源、チェーンソーやスコップ、斧、バールなど、実際の災害時に役立つ数々の装備が収納されている。
荷室には、防災アイテムを収納できるボックスやポータブル電源などを搭載している
かほなんさんは、「アトレー ワイルドレンジャー2」に乗って災害に関する啓発活動を随時行っているそうだ。
「ハイゼット トラック ツールベース」は、工事現場の作業環境の改善が目的で、軽トラックの荷台へ「ツールベース」を載せることで、ミーティングや休憩、道具の積載が可能となっている。
工事現場のために作成された「ハイゼット トラック ツールベース」。実際に、全国の建機リース会社を通して20か所ほどへ実験的に貸し出しが行われている
ダイハツでは、軽トラックの荷台に載せることで移動販売車になる箱、「Nibako(ニバコ)」を以前から開発、提供している。今回は、「Nibako」をさらに活用できないかという活動の一環になる。
その背景について、米山さんは「道路工事などの現場では、熱中症になったり、休憩の時には道路の日なたで休憩したりなど、過酷な環境なうえに、成り手も減ってきています。そこで、『ハイゼット トラック ツールベース』によって働き方を変えることで、一緒に働きたいと思ってもらえるような目的で作っています」と述べる。
「ハイゼット トラック ツールベース」の特徴は、電子レンジや温冷庫、ポットなどを置くことができ、テントも装備されていることから日陰で休憩が取れるようになっている。また、棚を利用することで整理整頓でき、「Nibako」の中にすべてを収納できることからセキュリティも万全だ。さらに、ツールベースにはフォークリフト用のスリットも入っているので、積み下ろしもしやすいこともポイントのひとつになる。サイドには白板を設けることで、事務所が設置できない場所でもミーティングが可能となっている。このように、働き手と雇用側の双方のニーズに応えるのが「ハイゼット トラック ツールベース」だ。
「ハイゼット トラック ツールベース」を逆サイドから見ると、軽トラの荷台へ箱が載せられていることがひと目でわかる
実際に使用されている現場からも、好評な様子だ。「見た目がよく、周囲の人からもクリーンに感じてもらえています。また、しっかり休憩などができるので、現場の監督さんからも好評です」と言う。
最後に、米山さんは「地域に寄り添い、日々の暮らしを守る。(「オートサロン2025」のダイハツブースでは)地域に貢献しているクルマを出展していることがポイントです。今回は、主にカスタムカーでの提案ではなく、ダイハツは実際に普段からこういう活動していることを知ってもらうための機会にしたかったのです」とコメントしたのが印象的だった。
身近なメーカーとしてのスタンスを持ち続けているダイハツだからこそ、今回のオートサロンでもあえて地域防災や働き方などに目を向けてもらおうという心遣いが感じられた。まさにダイハツらしい展示だ。