3分でわかる自動車最新トレンド
自動車ライターがズバッと解説! 3分でわかる自動車最新トレンド

IT企業vs.自動車メーカーの対立図式では見えてこない、自動運転技術の本当のトコロ

自動車に関係する気になるニュースや技術をわかりやすく解説する新連載「3分でわかる自動車最新トレンド」がスタート! 連載1回目は、昨今注目を集める自動運転技術を取り上げる。とかく、アメリカのIT企業の動向ばかりが注目され、国内メーカーの劣勢というトーンで語られるが、詳細なテクノロジーや世界的な視点で見ると違った実相が見えてくる。自動車やその周辺技術にも詳しいモータージャーナリストの森口将之氏が解説する。

昨今、センセーショナルに取り上げられやすい自動運転技術。しかしそのプレーヤーは多様で、目指すものも違っている

技術はあった。だが、“黒船”Googleの登場で、国内の自動運転技術が顕在化した

今年2015年の東京モーターショーでも何台かコンセプトカーが展示された自動運転車。10年前にはほとんど話題にならなかった技術が今なぜ注目されるようになったのか。それは音楽業界や携帯電話業界におけるアップルのような、黒船的存在が登場したことが大きい。黒船の名はもちろん、「Google」である。

それ以前から自動車メーカーも自動運転の研究はしていた。しかし、クルマの魅力のひとつとして、自分の意志で自由に移動できることがあったから、自己否定になるような自動運転は表沙汰にしたくないという空気があった。そこへ自動車業界とは縁がないと思われていたGoogleが、自動運転の研究を行っているという一報が入った。

“あのGoogleが自動運転技術に参入する”というインパクトが、技術の認知度を高め、国内の雰囲気を一転させたのは事実

自動車メーカーにとってはまさに青天の霹靂。この一件がきっかけになって、メーカーも自動運転の研究開発を表に出すようになった。現在では、どこが最初に実用化するかという競争になっている。

この間、技術は飛躍的に進歩した。昔は車体の各所にやぐらを組んで巨大な機器を取り付けたうえに、路上にも機器の設置が必要と言われていたのに、現在はボディに小さなセンサーを埋め込むだけでOKになっている。

具体的には、自車位置を認識するGPS、カメラ(映像)、レーダー(電波)、レーザー(光線)、そして車両の動きを感知するセンサーからの情報を元にして、アクセルやブレーキ、ステアリングを操作する。

大きなハードウェアの追加も不要で、路上の機器も不要になるなど、自動運転をめぐる技術は進展している。そういう背景もさまざまな企業が参画する余地となっていると言えよう

IT企業の“シティ型”と自動車メーカーの“ハイウェイ型”では、目指すものが大きく違う

では、最初に自動運転車を実用化するのはどこなのか。メディアの中には、グーグルVS自動車メーカーという構図を作り上げて対決ムードを煽っているところもあるようだが、僕は当面はそうならないと見ている。両者が自動運転を目指すフィールドは、現状では異なっているからだ。つまり自動運転車には2種類ある。名前を付ければ“ハイウェイ型”と“シティ型”になるだろうか。

自動車メーカーが取り組んでいるのは“ハイウェイ型”。運転支援システムを発展させたもので、歩行者や自転車がおらず、一方通行の高速道路なら制御が楽ということもあって、多くのメーカーが高速道路からの導入を考えている。

運転支援システムのうち、すでに衝突回避・被害軽減ブレーキ、前車追従クルーズコントロール、レーンキープアシスト、ステアリング操作アシストなどは実用化されている。現在は手放し運転は法律で禁止されているけれど、その気になれば巡航中は自動運転が可能なレベルにはなっている。

実験車両に何度か乗った感想を言えば、車両側の技術は完成形に近い。当然だろう。ほかの乗り物を見れば、東京の新交通システム「ゆりかもめ」は運転士がいないし、飛行機も上空ではオートパイロットが当然となっている。クルマが自動運転できないのは時代遅れだ。

自動車メーカーの推進する“ハイウェイ型”は、既存のクルマのボディや運転支援システムの延長線上にある

自動車メーカーの推進する“ハイウェイ型”は、既存のクルマのボディや運転支援システムの延長線上にある

IT企業の推進する“シティ型”は走行するロボットのようなもの

では“シティ型”とは何か。こちらはGoogleをはじめとするIT企業や大学、研究機関が中心となって開発したもので、一定の地域内で走らせることを想定している。日本でもIT企業の「DeNA」が自動運転技術に豊富な経験を持つZMPと設立した、その名もロボットタクシーという会社がある。その名が示すとおり、考え方としてはロボットにタイヤを付けたような存在に近い。

この“シティ型”、自動車専門メディアではほとんど扱っていないけれど、実は地道に進化を続けている。そのひとつがヨーロッパ各地で実証実験を行っている「シティモビル」というプロジェクトだ。

シティモビルは、EUが研究開発資金の一部を援助するプログラムのひとつとして、2006年から第1期がスタートし、現在は2012年から2016年まで実施予定の第2期、シティモビル2が進行中だ。注目はそのメンバーで、シティモビル2の場合、欧州内の企業・自治体・大学など45もの団体が共同でプロジェクトを進めている。

車両はいずれもフランスのベンチャー企業、「ロボソフト(Robosoft)」、「ナヴヤ(Navya)」、「イージーマイル(Easy Mile)」が製作した。街中専用なので空力を追求する必要がなく、逆に空間効率が大事なので、どれも箱型だ。

これらの会社は、以前からテーマパークなどで自動運転車を走らせていて、ノウハウは豊富。フランスのラ・ロシェルという都市の公道で行ったシティモビル2の実証実験では、4か月の実証実験で合わせて1.5万人近くを運んだそうだから、成功したと見ていいだろう。

しかも最近、オランダの「ウィーポッド(WEpods)」やスイスの「ベストマイル(BestMile)」という組織が、これらの車両を使った独自の走行を計画。来年には一般人を乗せて公道を走る計画だという。もし実現すれば、世界で初めて公道で普通の人が乗れる自動運転車は、これになる。

こちらは、ナヴヤの実験車両「アルマ(Arma)」。EUの後押しもあり、ヨーロッパでは都市を走る自動運転車の実験が各地で行われている

前にも書いたように、自動運転車の技術のうち、車両側については現状でほぼ完成形に近いと考えている。問題は事故が起きた時の責任を誰が取るかなど、社会と関わる部分だ。その点でシティモビルなどの強みは、車両メーカーだけでなく、自治体や研究機関などがグループに入っていること。一定の地域内だけで独自のルールを作って走らせるというスタイルを導入しやすい。そういえばGoogleも今年、都市問題を技術で解決するための新会社「サイドウォーク」を設立した。

付け加えれば、“シティ型”はバスやタクシーやカーシェアリングなど、所有するのではなく利用するスタイルになりそうだ。バスやタクシーは運転手不足なので、その点でもありがたい。そしてGoogleがアップしたYouTubeのムービーでは、高齢者や子供、目の不自由な人などを自動運転車に乗せているシーンが目立つ。

「Google Self-Driving Car Project」のコンテンツは、高齢者や子どものモデルが目立ち、この技術が想定する利用シーンを暗示している

自動車メーカーとIT企業の持つ自動運転技術は、共存可能な関係

こうして見ていくと、“シティ型”の自動運転車はソーシャルなモビリティであることが分かる。たしかにまわりの人に自動運転について聞くと、高齢者や身障者のために実現してほしいと言う人が多い。最近は高齢者を中心に、ペダル踏み間違えや逆走など運転ミスによる事故が多い。こうした問題の解決に自動運転が効果的なのはいうまでもないだろう。

そのいっぽうで現役ドライバーの立場からいえば、長距離を快適安全に移動できる“ハイウェイ型”に惹かれる。その“ハイウェイ型”、つまり自動車メーカーの自動運転車は、多くが販売というスタイルを考えている。特にプレミアムブランドの自動運転車はどれも大型高級車で、付加価値を上げるための先進装備のひとつと考えているようだ。

つまり、“ハイウェイ型”と“シティ型”では、新幹線と路面電車ぐらい目指す方向性が異なっているわけで、対立軸に置くほうがおかしいと思わないだろうか。もちろん時代が進めば、お互いの領域がオーバーラップして、競争相手になるかもしれないが、現状では目的が明らかに違う。いずれにせよ、自動車メーカーだけを見て自動運転を判断するのは早計であり、さまざまな企業や団体がこの分野への参入を考えていることは知っておくべきだろう。

“ハイウェイ型”は高級車に搭載される付加価値として登場しそうだ。今後しばらくの間は、“シティ型”に取って代わられる、という性質の技術ではない

森口将之

森口将之

1962年東京都生まれ。自動車業界のみならず、国内外の交通事情や都市計画を取材しメディアを通して紹介。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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