自動車ライターがズバッと解説! 3分でわかる自動車最新トレンド

航続距離が伸び、次世代環境車の主役になりつつある電気自動車の最新事情

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日産「ノートe-POWER」が国内でも注目されている。世界を見渡しても、実用性を高めた電気自動車(以下、EV)の発表が続いており、ハイブリッドやディーゼルの次を担う環境車の主役とみなされつつある。そんな最新のEV事情を森口将之氏が解説する。

航続距離の短さを克服したEVが増加中、高価かつ特殊なクルマというイメージが急速に薄れつつある

航続距離の短さを克服したEVが増加中、高価かつ特殊なクルマというイメージが急速に薄れつつある

ネックだった航続距離が大幅に伸び、価格も下落している電気自動車

国内では市販化もされた燃料電池自動車(FCV)や、プラグインハイブリッド車(PHV)の増加の影に隠れていたように見えたEVが、ここへ来て再び注目を集めている。きっかけとなったのは昨年秋に開催されたパリモーターショーだった。多くのブランドがEVを次世代の主力として位置付けていたのだ。

中でも個人的に目を引いたのは、日本の自動車メディアではあまり紹介されなかったが、海外ではかなり注目を集めたルノーの「ゾエ(ZOE)」、アライアンスを組む日産自動車の「リーフ」よりひとまわり小さなEV専用車だ。ゾエは2012年から販売されているが、ルノーのお膝元でもあるパリモーターショーで発表された新型は新開発バッテリーを搭載することで、満充電での航続距離をこれまでの240kmから、一気に400kmに伸ばしたのである。

同じパリショーではBMWも、やはり以前から販売していたEV専用車「i3」の新型を初公開し、航続距離を200kmから300kmに延長しているとアナウンスした。こちらはすでに日本でも発売されており、欧州とは異なるわが国での計測方法では229kmから390kmへと、400km近くまで伸ばしたことから、国内の自動車メディアでも大きく報じられた。注目すべきは航続距離が上がっても、車両価格は上がっていないことだ。新しい「i3」の日本での価格は499万円で、以前の229km時代と同一なのである。

このほかパリショーでは、メルセデス・ベンツがコンセプトカーの「ジェネレーションEQ」を発表。電動化だけでなくコネクテッド、自動運転、シェアリングにも考慮した新しいブランドとして展開することを表明した。さらにフォルクスワーゲン(VW)も、2020年に発売するというゴルフと同格の自動運転EVコンセプトカー「I.D.」を公開した。

このほかパリショーでは、メルセデス・ベンツがコンセプトカーの「ジェネレーションEQ」を発表。電動化だけでなくコネクテッド、自動運転、シェアリングにも考慮した新しいブランドとして展開することを表明した。さらにフォルクスワーゲン(VW)も、2020年に発売するというゴルフと同格の自動運転EVコンセプトカー「I.D.」を公開した。

ルノーのEV「ゾエ」は、フル充電での航続距離をこれまでの240kmから、一気に400kmまで伸ばした

ルノーのEV「ゾエ」は、フル充電での航続距離をこれまでの240kmから、一気に400kmまで伸ばした

国内でも販売中のBMW「i3」も、航続距離が倍近く伸びている。しかも、価格は据え置きだ

国内でも販売中のBMW「i3」も、航続距離が倍近く伸びている。しかも、価格は据え置きだ

米国では以前からゼネラルモーターズ(GM)が電動車両に積極的だ。2010年に他社に先駆けてPHVの「シボレー・ボルト(Volt)」を発表し、2015年にモデルチェンジを受け現行型に進化しているうえに、昨年EVの「ボルト(Bolt)EV」もやはりシボレーブランドから発売した。

もちろん、テスラモーターズの動きも見逃せない。2008年にロータス「エリーゼ」をベースとした「ロードスター」を発表し、日本でも2年後に発売された。その後も現在の主力である大型セダンの「モデルS」、跳ね上げ式ドアを持つ7人乗りクロスオーバー「モデルX」を相次いで登場させた。

これまでのテスラは、日本での価格が1000万円クラスというプレミアムモデルだったが、昨年発表した「モデル3」はモデルSやモデルXより小柄であるうえに、米国での価格は3万5000ドル(日本円換算で約400万円)からと大幅に安くなっており、現地では発表初日だけで10万台以上のバックオーダーを抱えたほどの注目を集めている。

テスラの「モデル3」は、米国の価格で3万5000ドルから。同社の高級車「モデルS」や「モデルX」と比較するとほぼ半額だ

欧州発のEV開発。バッテリー技術の進化で一気に本格化

こうした流れに対応して、トヨタ自動車が動いた。昨年11月、EVの開発を担う新たな社内ベンチャーを立ち上げると発表したのだ。

トヨタは従来、次世代環境車の主軸はハイブリッド車(HV)やFCVだと位置づけており、EVは近距離移動に特化して開発していくと表明していた。事実、現在のトヨタEVの主力は「i-ROAD」や、グループ会社であるトヨタ車体が生産する「コムス」などの超小型モビリティであり、コンパクトカー以上の車格では目立った動きを見せていなかった。

しかし、世界が急速に電動化への流れを加速させる中で、トヨタ、豊田自動織機、アイシン精機、デンソーのトヨタグループ4社から1名ずつ、計4名が参加する直轄組織として、12月にEV事業企画室を開設。室長はプリウスのチーフエンジニアとしても知られる豊島浩二氏が就任した。

トヨタが実験を進める超小型モビリティ「i-RORD」はバッテリー駆動だが、コンパクトカー以上でEVを推進する動きはなかった

なぜここまでEVが急に種目を集めるようになったのか。以前コラムで解説したPHVと同じように、欧州の戦略であることは間違いない。その発端となったのは言うまでもなく、VWのディーゼルエンジン排出ガス不正事件である。

ディーゼルエンジンのイメージは、あの一件で悪化したし、これ以上排出ガスをクリーンにしていくとなれば、今以上にコストが掛かり、価格競争が厳しい小型車への搭載は難しくなる。そこでメーカー別CO2排出量の規定に係数を設けてまでPHVを優遇したことは以前紹介したが(車種が増加するプラグインハイブリッドカー、その背景や思わく、そして強みとは?)、この間バッテリーの性能が急速に進化したこともあり、EVにも注力することにしたのだ。

たしかに従来は200kmそこそこしか走らなかったゾエやi3が、一気に約400kmも走るようになったという数字を見せつけられると技術の進歩を実感するし、これが500kmになればEVに乗り換えようかと思う人が急速に増えてもおかしくない。こうした状況を見て、今までEVに対して距離を置いてきたトヨタも動きはじめたようだ。

いっぽう、ルノーとともにEVを積極的に推し進めてきた日産は、やはりEVに積極的だった三菱自動車工業を傘下に収めた。このタッグは強力だ。「リーフ」と「i-MiEV」という、国産EVの代表車種2台が、同じグループに属するのだから。この出来事も、トヨタを動かした理由だろう。今後はルノーを交えた3社でモーターやバッテリーなどのメカニズムの共用化を進め、コストダウンを進めることが予想される。そしてここには、以前からルノー日産とアライアンスを組んでいるダイムラーも関わっていくことだろう。現にパリモーターショーで発表されたスマートのEV仕様は、ルノーのモーターが積まれていた。

世界的な進化と比べて見劣りする国産EV、その理由とは?

これらの海外の最新EVと比較して気になるのは、昨年のリーフのマイナーチェンジでの航続距離延長が、228kmから280kmと、ゾエやBMWと比べて控えめであることだ。これは日本の自動車メーカーが、特定の電池メーカーと独占契約を結んできたことが影響していると個人的に考えている。

EVの開発が本格化した際、日産はNECとオートモーティブエナジーサプライ、三菱は三菱商事、GSユアサとリチウムエナジージャパンという合弁会社をそれぞれ設立した。クルマ作りの主役はあくまで自動車メーカーであり、電池メーカーはサプライヤーのひとつであるという意志を明確にした形だ。つまりこれまでの自動車産業のピラミッド構造の中に、電池メーカーも組み込もうとしたのである。
だが、電池メーカーは国外にも数多く存在する。生産高で見れば韓国のサムスンやLGと日本のパナソニック、ソニーなどがシェア争いをしている状況だ。さらに中国も生産量を増やしている。当然ながら技術面やコスト面での競争は激しい。ルノーではこうした状況の中でLGのバッテリーを採用し、400kmクラスの航続距離を可能にした。

しかし、日本のように、特定の電池メーカーと独占契約を結ぶと、競争原理が働きにくく、コストダウンや技術開発は積極的ではなくなる。今後、EVの競争が激しくなる中で、互角以上に戦うためには、現状の体制を見直し、自由競争の中でバッテリーを採用するスタイルへ転換したほうがよいだろう。

走りや機能、デザインに特徴を持たせたEVが増え、ジャンルに厚みが出てきた

もうひとつ、今後EVの車種が増えてくると、他社との差別化が大事になってくる。その点でいち早く差別化を打ち出しているのがBMWだ。独自のサブブランドを構築し、主力車種のi3では個性的なデザインを採用しただけでなく、カーボンファイバー製モノコック、リサイクル素材を採用したインテリアなど、素材面でも先進的な取り組みを見せている。

いっぽうパワートレインについては、最近マイナーチェンジされたi-MiEVに注目したい。パドルを使って回生ブレーキの度合いを6段階から選べるからだ。アウトランダーPHEVで採用されているテクノロジーの転用であるが、下り坂や減速時に回生による充電ができるだけでなく、ドライバーが積極的に回生ブレーキの度合いを選ぶことができるので、より走りが楽しめるはずである。

2016年末にマイナーチェンジが施された三菱「i-MiEV」。パドルを使って回生ブレーキの度合いを調整でき、楽しい走りに生かせる

ちなみに昨年11月にノートに追加された「e-POWER」は、日産では「新しい電気自動車のカタチ」とアピールしているが、エンジンで発電した電気をバッテリーに貯めて走るという仕組みであり、HVとEVの中間的な存在と言える。ただ電池切れの心配なしに電動車両のよさを味わえるのは事実であり、EV人気を間接的に盛り上げる存在になりそうだ。

エンジンを発電に使う日産「ノート e-POWER」。バッテリー切れのわずらわしさがなく、EVへの橋渡しに最適だ

エンジンを発電に使う日産「ノート e-POWER」。バッテリー切れのわずらわしさがなく、EVへの橋渡しに最適だ

森口将之

森口将之

1962年東京都生まれ。自動車業界のみならず、国内外の交通事情や都市計画を取材しメディアを通して紹介。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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2017.8.19 更新
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