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自動運転の頭脳、「ダイナミックマップ」の正体に迫る!

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最近話題の自動運転を支えるキーとなる技術のひとつが「ダイナミックマップ」と呼ばれる地図データだ。ダイナミックマップが必要とされる理由やその中身、そして世界をリードしている日本の取り組みを、モータージャーナリストの森口将之氏が解説する。

写真は、レクサスの自動運転実験車。「ダイナミックマップ」は、自動運転には必須の基礎技術で、自動運転の実用化時期を占う意味でも、その動向から目が離せない

安全な自動運転には、刻々と変わるリアルな道路情報「ダイナミックマップ」が必須

自動運転が話題になり始めると同時に、耳にするようになった言葉のひとつに、「ダイナミックマップ」がある。日本語に直訳すると「動的地図」ということになるが、これだけではよくわからないという人も多いだろう。

しかし実は、私たちの頭の中にも、ダイナミックマップのようなものが入っている。たとえば寒い夜、暖房器具を同時に何個も点けたらブレーカーが落ち、停電になったときを想像してもらいたい。懐中電灯を手にしながら、自分の手足をセンサーにしてブレーカーの場所に行くが、そのときどこに扉があり、どこに段差があるかはおよそ検討がつくだろう。自分の頭の中に部屋の形や家具のレイアウトといった細部の情報までインプットされているからだ。

いっぽう、自動車の運転は、認知、判断、操作の3要素から成り立っている。目や耳で周囲の状況を“認知”し、その状況に対して自分はどうすべきかを脳で“判断”し、手足を使ってステアリングやペダルを“操作”することで、望ましい方向に車両を導く。

これが自動運転車になると、認知はカメラやレーダー、レーザー(ライダー:LIDAR/Light Detection and Rangingと呼ぶこともある)などのセンサーで行い、判断は人工知能(AI)がつかさどる。そして油圧や電動のアクチュエーターでスロットルやブレーキ、ステアリングを操作することになる。

自動車の運転は、認知、判断、操作の3要素から成り立っているが、自動運転ではスムーズかつ安全な運行のために周囲の状況を先読みするデータが必要

それなら自動運転に地図は必要ないのではないか?と思った方がいるかもしれない。たしかに身のまわりで「自動運転」している製品のひとつ、ロボット掃除機は、スラム(SLAM:Simultaneous Localization and Mapping)と呼ばれる技術を使い、走りながらセンサーを使って部屋の地図を作成し、その地図に沿って掃除をしている。

しかし、自動車の運転はそんなに簡単かつ単純なことではない。なによりも衝突すれば運転者や同乗者、そして歩行者などが命を落とす可能性もある。念には念を入れた安全対策が求められる。さらに言えば、認知、判断、操作の3要素だけで成り立っているとは言えない。

ロボット掃除機は、室内の地図データを作りつつ走行している

ロボット掃除機は、室内の地図データを作りつつ走行している

たとえば大通りを走っていて、少し先の細い路地に左折して入る場合には、あらかじめもっとも左の車線に移動しておく必要がある。右折の場合もそうだ。でも名古屋市街のように、中央にバスレーンが設置されているような場所では、右折といってもいちばん右側の車線に入ってはいけない。ひとつ左側の車線で直進するバスや対向車を待つことになる。

さらに信号機があれば、その信号が黄色や赤に変わっていく可能性も頭に入れる必要がある。その手前に横断歩道があれば、歩行者が道路を渡ろうとしているかどうかを確認する。これまでの運転経験を元にして、状況を先読みし、車線を変更したり徐行したりという行動を、無意識のうちに取っている。これを自動運転でもやってのけるために、細かい情報がつめこまれたダイナミックマップが重要になるのである。

写真は名古屋市街のバスレーンの様子。実際の道路は、走っていいレーンの有無、信号など複雑な情報の複合物だ。ダイナミックマップはそんな道路のリアルな状況をこと細かにデータ化する

ダイナミックマップの高精度空間情報は、センチメートルオーダーの精度を誇る

では、なぜこのデータを地図ではなく、ダイナミックマップという別の呼び名で呼んでいるのか。それは、ダイナミックマップには、既存の地図と比べて、2つの大きな特徴があるからだ。

ひとつは高精度空間情報であること。道路はただ道幅だけを示すのではなく、個々の車線まできめ細かくデータ化される。そして信号や標識、周囲の建物などは立体データとして読み込まれる。これにより標識に基づいた走行、建物を感知しながらの走行ができるようになる。

ダイナミックマップの特徴である高精度空間情報の例。縁石やレーン中心線の位置、標識などセンチメートル単位の情報を備えている。(写真は、株式会社ゼンリン提供)

もうひとつは、時間軸によって4つのレイヤー(層)に分かれていることだ。日本では1か月単位で動く静的情報、1時間単位で動く准静的情報、1分単位で動く准動的情報、1秒単位で動く動的情報の4階層に分けている。

このうち、地図データベースとして作成されるのは静的情報の部分。「Google」の「ストリートビュー」の撮影車両のように、屋根の上にさまざまなセンサーを装着した専用車両でデータを拾い、作成していく。この高精度地図情報をもとに、センサーで得た歩行者や車両などの動的情報を組み合わせて、ダイナミックマップが作られるのだ。

高精度空間情報を静的情報として基層にし、その上に、時間軸の異なる准静的情報、准動的情報、動的情報が多層的に被せられる(図版は、内閣府 総合科学技術・イノベーション会議 戦術的イノベーション創造プログラム(SIP)・自動走行システム担当提供)

ダイナミックマップのうち高精度空間情報に当たる情報は、専用車両に取り付けられたセンサーで実際の道路状況を読み取って作成する(写真は、アイサンテクノロジー株式会社提供)

ダイナミックマップの国際標準化で大きな成果をあげている日本

日本では、2013年に創設された内閣府のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)に、その翌年となる2014年、自動走行システムの部門(SIP-adus)が設けられた。メンバーは内閣府、総務省、国土交通省、経済産業省、警察庁などで、これまで20回以上の議論が行われている。実はこの動き、国際的にも注目すべきものだ。

2016年2月、地図データベースに関する国際規格「ISO 14296」が制定された。実はこれ、ダイナミックマップの静的情報の国際標準化を日本が提案し、欧米の標準化機関であるCEN、ETSI、SAEなどと連携して進めてきた結果生まれたものである。

もちろん米国ではGoogle、欧州では携帯電話のメーカーとして知られる「ノキア」の地図部門だった「ヒア(Here)」などが、以前からダイナミックマップの研究開発を進めている。ちなみにこのヒアは2015年12月、ダイムラー・BMW・アウディの3社が共同で買収を行い、傘下に収めている。だが、3か月後に制定された国際規格のベースになったのは日本の提案したプランだった。

さらに我が国は、2016年6月、国内自動車メーカー9社と三菱電機、ゼンリン、パスコなど地図•測量メーカーが合弁で、その名も「ダイナミックマップ基盤企画株式会社」という新会社を設立させている。ちなみに今回の記事は、同社の担当者の話をもとに書いている。

同社は、ダイナミックマップの静的情報を提供する事業会社への移行を目指して、地図データの作成仕様やメンテナンス手法の検討を進めている。現在は全国の高速道路と自動車専用道路における高精度地図に関する業務を行っており、2018年度までのデータ提供を目標にしている。

つまり、今まさにダイナミックマップのプラットフォームを作ろうとしているわけで、このプラットフォームをベースに今後、各自動車メーカーが動的情報の組み込みやインターフェイス開発などを個別に行うことになるようだ。

ダイナミックマップの観点からも、自動運転実用化はバスやトラック、地方のほうが有利

日本の自動車業界は典型的なピラミッド(垂直統合)型であり、プラットフォーム(水平展開)型ビジネスを得意とする米国のIT企業に比べると、自動運転のような新しい分野への進出が不得手だと言われてきた。ところがダイナミックマップの分野では逆に、日本がいち早くプラットフォーム型を採用しているのが興味深い。

とはいえ自動運転の夜明けが近いと考えるのは早計だ。自動車は好きな時に好きな場所に行けることが魅力ではあるが、それは逆に、全国の高速道路から裏通りまでくまなくダイナミックマップを用意しなければならないことを意味する。実現のためには相応の歳月が必要となるだろう。
その点ではバスのような、決められたルートを走る車両のほうが、ダイナミックマップの作成は楽であり、自動運転のハードルも低い。

DeNAが今年から実験走行を始めた無人運転小型バス「イージーマイルEZ10」の関係者に聞いたところ、まず手動走行でルートのダイナミックマップを作成し、それに沿って車載センサーを用いて自動運転を行うと説明していた。
ライドシェアやタクシー、宅配便のトラックなども、ほぼ決められたエリア内を走り回るので、ダイナミックマップ作りは楽だろう。車両や道路が少ない過疎地も同じことが言える。筆者が乗用車よりバスやトラック、大都市より地方のほうが自動運転は導入しやすいと考える理由のひとつはここにある。

しかし、将来的な目標が、全国・全車自動化であるのは言うまでもない。その実現のために地道な取り組みを進めている新会社の動向は、これからもチェックし続けていくべきだろう。

決まったルートを走る、バスや宅配トラック、ライドシェアやタクシーはダイナミックマップを用意するのも比較的容易。自動運転の実用化はこれらの車種や地方で先行しそうだ

森口将之

森口将之

1962年東京都生まれ。自動車業界のみならず、国内外の交通事情や都市計画を取材しメディアを通して紹介。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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2017.2.20 更新
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