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自動車メーカーとIT企業が独自の方法でしのぎを削る「コネクテッドカー」

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「コネクテッドカー」という言葉が、近頃また注目を集めている。簡単に言えば、インターネットに繋がっているクルマのことだが、今までも似たような概念のものはあった。それが今また注目されているのはなぜか? 改めてコネクテッドカーが業界で注目を集めている背景を、森口将之氏が解説する。

インターネットに繋がり、情報をやり取りする「コネクテッドカー」。似たような概念は古くからあるが、その背景が変わってきた

自動運転の実用化を目前に、車載センサーが集めるビッグデータに注目が集まる

コネクテッドカー、コネクティッドカー、つながるクルマと、言い方はいろいろあるが、クルマとインターネットを結び付け、移動しながらさまざまな情報をやりとりする技術が、ここへきてまた注目を集めはじめた。トヨタ自動車が2016年11月1日、その名も「コネクティッドカー戦略説明会」と題して、クルマそのものではなく、クルマとクルマをつなぐ技術をテーマとした説明会を開いたことが大きそうだ。

ただし、コネクテッドカーという言葉が一般的に使われはじめたのは最近だが、それ以前から近い考え方はあった。「ITS」(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)がそれだ。基本的には同じものが、“コネクテッドカー”として再び注目を集めるようになった背景は、自動運転に代表されるように、自動車にとって情報技術が今まで以上に重要なものと認識されてきたからだ。

最初にコネクテッドカーの大元にあたるITSの概要を解説しよう。ITS JapanのWebサイトによると、ITSとは人と道路と自動車の間で情報の受発信を行い、道路交通が抱える事故や渋滞、環境対策など、さまざまな課題を解決するためのシステムとして考えられたという。1995年には横浜で第2回世界大会が行われているから、歴史はそれなりにある。
ITSはバスやトラック、緊急車両など範囲が広く、高速道路の電子料金収受システムであるETCなど実用化されている技術も多い。この中のひとつにカーナビの高度化があり、携帯電話の電波を活用してインターネットと結び付け、クラウド上にビッグデータを構築することで、さまざまな情報を提供するサービスが考えられた。後にこのサービスは「テレマティクス」と呼ばれることになる。

我が国では、テレマティクスの実用サービスとして、すでにトヨタの「G-BOOK」や「T-Connect」、日産の「カーウイングス」、ホンダの「インターナビ」などがある。たとえばT-Connectでは、カーナビの地図の自動更新はもちろん、音声入力、オペレーターサービス、メンテナンスサービスなどに対応している。海外でもGM(ゼネラルモーターズ)の「オンスター(OnStar)」など、主要ブランドが同様のサービスを展開している。

ITSやその中に含まれるテレマティクスの基本的な概念は、コネクテッドカーのベースになっている

ITSやその中に含まれるテレマティクスの基本的な概念は、コネクテッドカーのベースになっている

オープンプラットフォームとして自動車業界に食い込もうとしているIT企業のコネクテッドカー戦略

ここまで読み進めてきた方は、テレマティクスは自動車会社主体のサービスであることがおわかりだろう。過去のこのコラムでも書いてきたように、自動車業界は典型的な垂直統合型、ピラミッド型であり、頂点に車体メーカー、その下にナビを含めたコンポーネントを手がけるサプライヤーがあるという構図である。
だから、カーナビメーカーも、開発にはタッチしているはずなのに、独自にテレマティクスサービスを商品化することはほとんどなく、カーメーカーの技術のひとつとして提供するというスタイルになっている。

そこに名乗り出たのが米国IT企業の両雄、アップルとグーグルだ。彼らは2010年頃から車載用OSの開発をスタートしており、2014年にはアップルが「CarPlay」、グーグルが「Android Auto」の名で発表した。するとフェラーリやメルセデス・ベンツなど、多くのブランドが対応を表明。日本車では今年発表されたスズキ「イグニス」が初搭載して話題になった。

スズキのクロスオーバー「イグニス」では、CarPlayとGoogle Autoに対応のしたナビを選ぶことができる

スズキのクロスオーバー「イグニス」では、CarPlayとGoogle Autoに対応のしたナビを選ぶことができる

両OSに共通して言えるのは、自分たちのブランドにしか搭載しないカーメーカー独自のテレマティクスとは異なり、多くの企業やブランドに提供するというオープンプラットフォームの考えである。まさに水平展開、プラットフォーム型ビジネスを得意とするIT企業の特徴が発揮された形である。

CarPlayやAndroid AutoのWebサイトには、対応しているブランドのエンブレムが掲載されているが、前者は主要メーカーのほとんどが名を連ねており、Android Autoもトヨタ、フェラーリ、BMW以外の多くのメーカーが対応している。当然ながら両OS対応というブランドも多い。

アップルやグーグルが、自動車作りに参入するという噂が流れて久しい。しかし、アップルは具体的なプロトタイプを出したことがなく、自動運転ブームの張本人と言えるグーグルは今年フィアット・クライスラーとの提携を発表したばかりなのに、先日は自動運転車の開発を新会社に移行させると公表するなど、やや揺れ動いている印象がある。

たしかに電気自動車や自動運転車にはIT分野の技術が重要だが、経験のない会社がゼロからクルマを作るのは並み大抵のことではないことを、一連の経緯は証明しているようだ。

アップルもグーグルもそれがわかっているから、クルマの開発を進めつつ、車載用OSを開発し、テレマティクス分野からも自動車業界に入り込もうとしているのだろう。短期間でほとんどのカーメーカーが対応を表明し、その一部ではコネクテッド分野の自社開発を控える動きもある。彼らの戦略は成功しつつあると言えるだろう。

ただ現状では、両OSでできるのは電話、音楽、地図といった、スマートフォンのアプリの範囲にとどまる。そのためいくつかのカーメーカーは、安価なクルマについては従来型のナビを装備せず、専用アプリを開発し、インパネにスマートフォンを固定し、このアプリを使ってもらうというスタイルを取っている。「簡易型コネクティッド」と呼びたくなるこの方式でも、基本的なサービスは受けられるので、これでよいというユーザーもいるだろう。

写真はGoogle Autoのもの。IT企業のコネクテッドがもたらすサービスは、スマートフォンのデータをクルマに応用したようなものが主体

トヨタのコネクテッドカー技術の対象はトヨタ車のみ

こうした状況の中で、トヨタは自前でコネクテッドカーを構築しようと考えるカーメーカーのひとつだ。2005年には車載用DCM(データ・コミュニケーション・モジュール)を実用化し、2011年にはビッグデータを処理する「トヨタスマートセンター」を開設するなど、相応のキャリアを重ねてきた自負があるのだろう。

その流れは今も続いていて、2016年1月にはマイクロソフトと共同でビッグデータの集約・活用を図るトヨタ・コネクティッドを、4月には車両データを保険会社に提供するTIMS(トヨタ・インシュランス・マネージメント・ソリューションUSA)を相次いで設立。同月には社内カンパニー制への移行にともない、コネクティッドカンパニーも設立しているから、その意気込みは並み大抵のものではない。

クルマに乗っていてもスマホと繋げないと使うことのできないCarPlayやAndroid Autoに対し、トヨタのコネクテッドカーはエンジンをかけた瞬間に通信がスタートするから、膨大なビッグデータを安定して収集することができる。これはカーメーカーの強みだ。

先月行われた発表会では、東京都内を走るトヨタ車のスピードを色分けして地図上に表示し、平均速度も出していた。膨大なデータを持っているだけでなく、それを見やすく伝えることができる技術にも感心した。これを使えば、たとえば雪が降った翌朝にどこが凍結しているかも、車速で判断できるという。もちろん、前回取り上げた、「ダイナミックマップ」にも応用できる。

自動車のビッグデータは応用の幅が広く、自動運転の頭脳であるダイナミックマップにも関わってくる

自動車のビッグデータは応用の幅が広く、自動運転の頭脳であるダイナミックマップにも関わってくる

集めたデータをわかりやすく表示するユーザーインターフェイスも重要。トヨタのコネクテッドカーは、そこまで踏み込んだ見せ方を研究している

また車両の状況を逐一チェックし、トラブルが発生した際にはいち早くドライバーに伝えるとともに、サービス工場にも連絡して修理の準備ができたりする「eケア」サービスは、開発・生産から販売・整備までを一手に引き受けるカーメーカーにしかできないサービスだろう。

さらにトヨタのコネクティッド戦略は、自動車保険やカーシェアリングにまで及ぶ。自動車保険については運転の状況をスコア化することできめ細かい保険料金を設定することが可能になり、カーシェアリングについては新開発のSKB(スマート・キー・ボックス)を装着することで、利用者のスマートフォンでドアの開閉やエンジン始動ができるようになっている。

トヨタの発表したコネクティッド戦略のひとつが、写真のスマート・キー・ボックス。スマホをクルマのキーとして利用できるというもの

情報インフラの整備とサービス提供の両面がからみながら、今後も進化が進む

ここまで紹介してきたトヨタのコネクティッドサービスは、もちろんトヨタのシステムを積んだクルマでないと利用できない。その点では、ほとんどのブランドで楽しむことができるアップルやグーグルのほうが間口は広い。しかし、きめ細かさという点では、クルマとサービスを一体で開発したトヨタに分がある。これは「カーメーカーvs.IT企業」のコネクテッド技術の比較すべてに当てはまる構図だろう。

コネクテッドカーには、ビッグデータ収集という情報インフラの整備のためという面と、ユーザーに利便性をもたらす新サービス提供のためという2つの面がある。両者が相互に進化しながら、これから数年間は開発競争が続きそうだ。

森口将之

森口将之

1962年東京都生まれ。自動車業界のみならず、国内外の交通事情や都市計画を取材しメディアを通して紹介。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

製品 価格.com最安価格 備考
iPhone 7 32GB SIMフリー 76,000 アップルのコネクテッド技術「Car Play」でも利用するスマートフォン
Nexus 5X 32GB SIMフリー 50,350 グーグルのコネクテッド技術「Android Auto」でも利用するスマートフォン
イグニス 0 「Car Play」や「Android Auto」にいち早く対応した、スズキのコンパクトクロスオーバー
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2017.2.20 更新
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