急速に広がるLED、アダプティブヘッドライトなどユニークな新技術も登場

夜間の走行に必須、近年目ざましい進化が続く「ヘッドライト」

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数年前に、高級車から採用され始めたLEDヘッドライトは、最近では軽自動車やコンパクトカーでも広く見かけるようになった。また、アダプティブヘッドライトのように、今までなかった発想の技術も広まりつつある。ヘッドライトの歴史を振り返りつつ、ハロゲン、HID、LED、各光源の特徴などを、モータージャーナリストの森口将之氏が解説する。

夜間の走行など誰もが使うヘッドライトは、車の歴史とともにある重要な部品だが、最近はLEDなど新しい光源の登場などもあり進化が目ざましい

石油ランプから始まったヘッドライトは、ハロゲン、HID、LEDへ進化した。

ヘッドライトは自動車が生まれて間もない頃から、不可欠な装備のひとつであり続けてきた。19世紀に製作された初期の自動車にも、石油を燃料としたランプが取り付けてある。まもなくトーマス・エジソンが実用化した白熱電球を使うようになり、長らくこれが一般的となってきた。しかし、近年、このヘッドライトにさまざまな技術革新が押し寄せていることをご存知の人もいるだろう。
最初の技術革新はハロゲンライトの登場だった。通常の白熱電球はガラス製の球の内部にアルゴンなどの不活性ガスを封入し、そこでプラスとマイナスの電極につながれたフィラメントを光らせている。

しかし、この白熱電球は寿命が短く、明るさに限界があるなど、欠点も数多くあった。そこで電球内にハロゲンガスを混ぜることにした。その結果、化学反応により明るさ、寿命ともに引き上げることができた。こうしてハロゲンライトが久しくヘッドライトの主流になった。

続いて登場したのが「HID(ハイ・インテンシー・ディスチャージ:高輝度放電)」だ。当初は「ディスチャージヘッドライト」、「キセノンヘッドライト」と呼ばれることもあったが、現在はHIDという名称が一般的になっている。市販車ではBMWが初めて採用した。

HIDの構造はハロゲンとはかなり違う。プラスとマイナスの電極はフィラメントでつながってはおらず、特殊なガスを封入したガラス管の両端に電極があり、放電させることで内部の物質が発光するという仕組みなのだ。

似たような照明はいろいろな場所で使われている。家庭や会社でおなじみの蛍光灯は、内部に水銀蒸気を封入し、ガラス管の内側に塗った蛍光塗料で放電の光を青白く変換している。道路の照明に使われるオレンジ色のナトリウム灯は、その名のとおりナトリウム蒸気を使っている。

しかし、蛍光灯を見ればわかるように、放電式ライトは灯りがつくまで若干時間がかかる。この時間を短縮するために有効なのがキセノンガスで、自動車用として多用されるようになった。

ところで、HIDはプロジェクター式ヘッドライトで使われることが多い。こちらはヘッドライトの形状を示す言葉で、従来のヘッドライトでは電球の周囲にリフレクター(反射板)を使って光を集めていたのに対し、プロジェクター式は筒の中に電球を入れ、レンズによって光を集めるという違いがある。HIDはハロゲンライトに比べて熱を発生せず、寿命も長いうえに、発光部分が点に近いので、プロジェクター式と相性がよかったようだ。

HIDは、瞳のように見えるレンズの付いた筒「リフレクター」と組み合わせられることが多い。レンズを使うので照らす範囲を制御しやすい

LEDは応答の速さ、省エネ&長寿命が魅力。明るさは今のところHIDのほうが有利

そして最近のトレンドが、続々と装着車が増えている「LED(発光ダイオード)」だ。半導体そのものが光るという点で、ハロゲンやHIDとは原理がまったく異なる。

自動車用としてはまずリアコンビネーションライトとして採用された。いち早く導入した1台が、筆者もかつて所有していた1998年発表のマセラティ「3200GT」だ。しかし、当時のLEDは明るさが不足気味で、ブーメランライトと呼ばれた3200GTも北米の灯火基準をパスできず、モデルチェンジで白熱電球を用いたリアコンビライトに変更されてしまった。

自動車の灯火としてLEDをいち早く使ったのはマセラティ「3200GT」のリアコンビネーションライト。今見ても非常に特徴的なデザインだ

しかし、LEDの技術革新は日進月歩で進み、光量も十分になってきた。2007年にはレクサスが初のLEDヘッドライトを搭載。その後一気に広まっていった。

こうやって歴史を振り返ってみると、LED、HID、ハロゲンの順に性能が高いと思うかもしれないが、一概にそうとも言い切れない。

たしかにLEDは長寿命・省電力であり、熱もほとんど発生しない。さらに、灯火まで若干の時間のかかるHIDと比較してレスポンスの速さという点でも優位に立つ。しかし、明るさについては、現時点ではまだHIDのほうが上というのが多くの専門家の意見だ。

もうひとつ、ひとつの光源でかなりの明るさが確保できるHIDに対し、LEDは単体では光量不足であり、まとまった数を集めて初めてヘッドライトとして成り立つという違いがある。近年はこれを逆に利用したテクノロジーやデザインが登場している。

ひとつは一部の車種に搭載が始まったアダプティブヘッドライト、つまり対向車を幻惑させずに遠くを照らす技術だ。多くの光源を用い、かつ反応にすぐれるLEDだから可能になった技と言える。現にマツダはこの技術を「ALH(アダプティブLEDヘッドライト)」と呼んでいる。

多数の光源をコントロールして対向車を幻惑させずに照らすアダプティブヘッドライトはLEDの特徴を生かして生まれた技術だ

もうひとつ、多くの光源を用いるLEDはデザインの自由度が高い。今年市販化が予定されているルノーグループの「アルピーヌ」は、LEDで円を描くことで丸型ヘッドライトを表現しているし、北欧神話由来の「トールハンマー」を模したT字型を描いたボルボ「V40」などのように、LEDでアイデンティティを示すブランドもある。

年内に市販される予定のルノーグループ「アルピーヌ」の新モデルは、LEDで描かれた円が特徴のヘッドライトを搭載する

ひとつの光源が小さいことを逆手にとって、デザインに取り込むのも最近のトレンド。写真のボルボ「V40」は、北欧神話の「トールハンマー」をLEDで表現している

自動車用品店には、後付けのLEDやHIDも数多く販売されている。しかし、ハロゲンヘッドライトを装着していた車種は、それに合わせてライトユニットのデザインがなされているので、光り方が異なるHIDやLEDに付け替えただけでは、望むだけの性能向上が得られないこともある。理想はやはり、ライトに合ったデザインのヘッドライトを用意することなのだ。

アフターパーツでLEDやHIDの付け替え用バルブが発売されている。しかし仕組みが異なるので、そのまま替えただけでは、望んだ性能が得られるとは限らない

効率のよいHIDやLEDなら、安全確保のため昼間の常時点灯もアリ

ここまで主として技術面をつづってきたが、ヘッドライトについてはもうひとつ、触れておきたいことがある。それは点灯のタイミングだ。

日本のドライバーは、ヘッドライトは家の照明と同じように、夜に点けるものという意識を持っている人が多いようで、早朝や夕方、雨や雪の日など、少々見にくい状況でも点灯せずに走っている人が多い。しかし欧米の道を走っていると、同じ状況で多くのクルマがヘッドライトを点けていることに気付く。

彼らは明るさを確保するためだけでなく、自分の存在を他者に教えるためにヘッドライトを利用しているようだ。スウェーデンやオーストリアなど、エンジン始動中は常に点灯という法律になっている国もあるし、初期設定でポジションランプが点灯する仕様になっているクルマも多い。

日本でも二輪車は常時点灯だ。自分もライダーのひとりなので納得している。自らの存在を教えることで事故を防止するという姿勢である。でも、四輪車のドライバーには、こういう考え方が希薄なのではないだろうか。

最近はオートライトを装備するクルマが増えてきた。しかし、さまざまなクルマを試すと、ヨーロッパ車はまだ明るいと思えるタイミングで点灯するのに対し、日本車ははっきり薄暗くなるまで作動しないクルマが多い。これも先に書いた意識の違いが現れているのかもしれない。

道路は「公道」という表現があるとおり、公共空間である。家のように、自分や家族が見えればそれでいいという場所ではない。不特定多数の人間から自分が見えるかどうかも重要になる。

ハロゲンと比べて消費電力の少ないLEDやHIDの普及もあって、走行中ならヘッドライトを点けっ放しにしてもバッテリーが上がってしまうような事態はほとんどなくなった。だからこそオートライトが作動しなくても、自分の感覚で「暗いな」と感じたらライトを点ける習慣を、ひとりでも多くの日本のドライバーが身につけてほしい。それが自分の安全にもつながるのだから。

二輪車の常時点灯が事故を減らしたように、ヘッドライトには自分の存在を他者にアピールする目的もある。効率のよいHIDやLEDなら常時点灯してもバッテリーにかかる負担は小さいため、積極的に利用したい

森口将之

森口将之

1962年東京都生まれ。自動車業界のみならず、国内外の交通事情や都市計画を取材しメディアを通して紹介。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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2017.7.28 更新
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