“弾丸”試乗レポート

最新のDRIVE-Eエンジンを搭載するボルボ「S60」「XC60」の実力はいかに?

ボルボの中核モデルとなる60シリーズに新エンジンが搭載された。強力なパワーを誇るT6エンジンと、燃費にすぐれるT3エンジンの2種類だ。それぞれを搭載したモデルの走りをモータージャーナリストである鈴木ケンイチ氏がレポートする。

新しいダウンサイジングターボエンジンを搭載するボルボ60シリーズが登場。その実力に迫ってみよう

新しいダウンサイジングターボエンジンを搭載するボルボ60シリーズが登場。その実力に迫ってみよう

ボルボのエンジン戦略に則った2つのエンジン

2016年2月1日より、ボルボの60シリーズに2つの新エンジンが搭載された。60シリーズは2015年のボルボ販売の約36%を占める主力モデルであり、メルセデスベンツの「Cクラス」やBMWの「3シリーズ」などをライバルとするCセグメントモデルだ。ボディタイプ別に、セダンを「S60」、ツーリングワゴンを「V60」、SUVを「XC60」と呼んでいる。同シリーズは、2008年デビューのXC60に端を発するモデルであり、すでにモデル末期に近づいている。新鮮味は薄いけれど、見方を変えれば熟成が進んでいるともいえる。昔から「欧州車は熟成の進んだ後期モデルがおすすめ」という意見から、中古車市場では最終モデルの相場価格が高いという現象があるほど。後期モデルをあえて選ぶ人も珍しくはないというわけだ。

2リッター以下の4気筒のDRIVE-Eを搭載する。左がT3エンジンを備えるS60、右が高出力のT6エンジンを備えたXC60だ

そんな60シリーズに追加されたのが、「DRIVE-E」と呼ばれる新世代エンジンである。ボルボが自社開発した、この新世代エンジンは“2リッター以下の4気筒”であり“ガソリンエンジンとディーゼルエンジンも基本構造は共通”という特徴を持つ。つまり2リッター4気筒エンジンを基本にするということだ。その基本エンジンに過給器をプラスしたり、排気量をダウンするなどして出力を調整し、出力の小さい方から大きい方へ、T3、T4、T5、T6、T8と展開する。そしてディーゼルはD4と呼ぶ。DRIVE-Eを、小型ハッチバックから大型SUVまで搭載するという、絵に描いたような選択と集中は、ボルボのように小さなメーカーらしい戦略だ。

今回、追加されたのは、基本のエンジンにスーパーチャージャーとターボチャージャーの2つの過給器を備えたT6エンジン。そしてショートストローク化で排気量をダウンしたT3エンジンだ。T6エンジンは最高出力225kW(306ps)/5700rpm、最大トルク400Nm/2100〜4500rpmで、従来の3リッター直列6気筒ターボの代替となる。旧来同等のパワーを備えつつ、最高60%もの燃費向上を実現した。

スーパーチャージャーとターボチャージャーを組み合わせるT6エンジン。3リッター直列6気筒クラスのパワーと、最高60%もの燃費向上を両立させている

いっぽう、T3エンジンは排気量を1497ccに下げつつも、最高出力112kW(152ps)/5000rpm、250Nm/1700〜4000rpm、JC08モード燃費16.5km/l(S60/V60)を実現。NAエンジンでいえば2.5リッターなみの出力とコンパクトカーなみの省燃費を両立しているのだ。

排気量を1497ccまでダウンさせて2.5リッタークラスのパワーとコンパクトカー並みの燃費を誇るT3エンジン

排気量を1497ccまでダウンさせて2.5リッタークラスのパワーとコンパクトカー並みの燃費を誇るT3エンジン

スタイリッシュさと充実の内容で、世界的な人気の高さも納得!
「XC60 T6 R-DESIGN」

T6エンジンを搭載するXC60 T6 R-DESIGNに試乗する。初登場は2008年となり、モデル末期のクルマだ(写真は欧州仕様)

306馬力を誇る強力なT6エンジンは、セダンとワゴン、SUVのすべてに搭載された。しかも、フルタイム4WD機構と8速AT、専用内外装を備えたR-DESIGNを組みあわせた最上級グレードとして投入される。セダンが「S60 T6 AWD R-DESIGN」(614万円)、ワゴンが「V60 T6 AWD R-DESIGN」(634万円)、SUVが「XC60 T6 R-DESIGN」(719万円)となる。燃費はセダンが13.6km/l、ワゴンが12.8km/l、SUVが12.3km/l。300馬力クラスとしては良好な数字といえるだろう。

前述のT6エンジンを搭載。306馬力のパワーと低燃費を両立させた、ダウンサイジングターボエンジンだ

前述のT6エンジンを搭載。306馬力のパワーと低燃費を両立させた、ダウンサイジングターボエンジンだ

トランスミッションは8段のAT。多段ATとダウンサイジングターボとの組み合わせは相性がよい

トランスミッションは8段のAT。多段ATとダウンサイジングターボとの組み合わせは相性がよい

試乗は「XC60 T6 R-DESIGN」であった。デビューがずいぶんと前であるが、若々しくスタイリッシュなルックスには、古くささは感じない。専用の20インチのホイール&タイヤも迫力十分だ。インテリアもR-DESIGNならではの上質感が感じられる。Harman/kardonのプレミアムサウンドシステムのサウンドは、音質に暖かみがある。さすが高級オーディオと納得するばかりだ。

街中をゆるゆると走らせれば、306馬力もあるスポーティさはほとんど感じられない。エンジンは静かで、ゆったりと走ることができる。20インチもあるタイヤとスポーティサスの乗り味は若干硬めだが不満が出るほどではない。ステアリングも重めだが、意外とジェントルに走るのだ。高速道路にステージを移しても、その印象は変わらない。ゆったりとした気分でいれば、悠々と走る。300馬力級の性能から「飛ばせ!飛ばせ!」と急かされることはないのだ。とはいえ、アクセルに乗せた足先に力を込めれば、間髪いれずにグイと一歩踏みだし、グングンと速度を上げてゆく。3500回転前後で過給がターボのみになるらしいのだが、トルクの谷や変動はなく、まるで大排気量エンジンのようなフィール。その気になってステアリングを切れば、俊敏な身のこなしを見せてくれる。まさにドライバーの気分のまま、自由自在の走りができるのだ。

また、歩行者やサイクリストを検知する衝突被害軽減自動ブレーキから全車速追求機能付きACCや斜め後ろを監視するBLISなどの運転支援機能の充実もボルボならでは。惜しむらくは、パワステが古い油圧系ということもあり、レーンキープに関しては、ステアリング操作にシステムが介入しない警告だけというものになっている。

試乗車はHarman/kardonのプレミアムサウンドシステムを搭載

試乗車はHarman/kardonのプレミアムサウンドシステムを搭載

とはいえ、スタイリッシュなルックスとインテリア。SUVならではの利便性。上品で快適な乗り心地。それでいて飛ばしたいときもしっかりと応えるパワーと俊敏性も備える。デビューは古いけれど、アップデートを続けることで、高い商品力を維持し、いまだに世界中で売れ続けるのもなっとくの内容であった。

特別仕様のR-DESIGNはレザーシートに加えて、アルミパネルや専用の本皮ステアリングを備える

特別仕様のR-DESIGNはレザーシートに加えて、アルミパネルや専用の本皮ステアリングを備える

リアシートは、40:20:40の3分割可倒式

リアシートは、40:20:40の3分割可倒式

最もベーシックでありながら、ボルボらしさは十分に味わえる
「S60 T3 SE」

軽いボディを生かし、コンパクトなボディに十分なパワーをもたらすT3エンジンを搭載するS60 T3 SEを試乗した(写真は欧州仕様)

続いてはT3エンジンを搭載したセダンのS60 T3 SEだ。XC60のT6と比べるとパワーは半分。ところが街中を普通に走っていれば、それほどの差は感じない。目線が低いこともあり、クルマが小さく感じる。実際に車両重量は約300kgも軽い(XC60 T6の1880kgに対して、S60 T3は1580kg)。これだけ軽ければ、パワーが半分でも、身のこなしが半分になるわけもない。ただし、高速道路の追い越し加速ではパワー不足の分、アクセルを踏み込んだ際に起こるシフトダウンのキックダウンが入るため、どうしても一呼吸待つことになる。パワー十分のT6であれば即座の加速だ。ただし、よほどの飛ばし屋でないかぎり、T3でパワー不足を感じるシーンは、それほどないことだろう。また、パワー云々以前に、高速直進性がよいという、欧州車共通の魅力も備わっている。そして運転支援システムは、XC60よりも世代の若いS60らしく、より充実したものになっている。XC60に備わる運転支援はもちろん、レーンキープはステアリング制御介入を実施する、さらに進化したものが装備されているのだ。

S60 T3 SEに搭載されるT3エンジン。こちらは6段ATとの組み合わせだ

S60 T3 SEに搭載されるT3エンジン。こちらは6段ATと組み合わせた

また、試乗のS60 T3 SEのインテリアは素そのもので、なんだか寂しい。同じデザインでありながらもXC 60 T6 R-DESIGNがいかにゴージャスかということをめて思い知らされたのだ。とはいえ華美ではなく、シンプルでセンスのよいインテリアは、北欧テイストのカジュアルさがある。これはこれで魅力的なのではないだろうか。

XC60と同じデザインだが、ベーシックモデルらしく簡素にしつらえられたインテリア。しかし、センスのよさはさすが

しかし、S60 T3 SEは、シリーズの中でももっとも排気量が少なく、内装も素という、ある意味、地味なモデルである。輸入車ということで、どうしてもゴージャスなグレードに目が奪われがちだが、こうしたベーシックなモデルにも、独自の魅力はある。実際にボルボの“素のセダン”を求めるユーザーは、昔から一定数存在しているのだ。「高そうだろう! すごいだろう!」と見栄は張れない。しかし、そこがいいのだ。威張れなくても、高速走行は欧州車ならではのよさがある。北欧デザインは華美ではないけれど、スタイリッシュでセンスがいい。また、値段はエントリーだが、安全のための運転支援装備類は、最上級グレードと同じ。高速走行のよさにセンスのよいデザイン、そして高い安全性。それらは、ベーシックモデルとなる素のセダンでもしっかりと味わうことができる。いわゆるコスパが高いのだ。もちろん、もう少し高い実用性が欲しいなら、20万円高いステーションワゴンのV60 T3 SEという選択もある。それほど飛ばさないよ! という人であれば、T3エンジン搭載車で十分。賢い買い物となることだろう。

ホールド性と長時間座っていたときの疲労感の少なさが魅力のシート

ホールド性と長時間座っていたときの疲労感の少なさが魅力のシート

試乗車はレザーシートだが、クロスシートももちろん用意されている

試乗車はレザーシートだが、クロスシートももちろん用意されている

鈴木ケンイチ
Writer
鈴木ケンイチ
新車のレビューからEVなどの最先端技術、開発者インタビュー、ユーザー取材まで幅広く行うAJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。
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田中 巧(編集部)
Editor
田中 巧(編集部)
通信を中心にしたIT系を主に担当。Androidを中心にしたスマートデバイスおよび、モバイルバッテリーを含む周辺機器には特に注力している。
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