L字型に配置された2気筒エンジンと強制的にバルブを開閉するデスモドロミックという機構を採用し、多くのバイク好きに高い評価を得ているイタリアンブランド「ドゥカティ」。そのドゥカティから久しぶりに、普通自動二輪免許で乗れる400ccモデル「スクランブラー Sixty2」(以下、Sixty2)が発売された。排気量を抑え、同社ラインアップの中では唯一100万円を切る価格設定とされたSixty2の魅力をお伝えする。
「スクランブラー」というシリーズ名は、元々は1962年に発売されたアメリカ向けの輸出モデルに付けられていたもの。まだオフロード専用モデルがラインナップされていなかった当時、ダートで行われるレースなども走れるバイクとして高い人気を博した。1975年に生産が終了となったが、ドゥカティにとって「スクランブラー」はアメリカ進出を成功させた記念すべきシリーズなのだ。
そして40年の時を経た2015年、当時のバイクのイメージを踏襲したレトロな外観に、現代的な性能のエンジンや足回りを与えられた“ネオレトロ”マシンとして新しい「スクランブラー」シリーズが復活。細部のデザインやパーツは異なるが、803ccの空冷L型ツインエンジンを搭載した「アイコン」「クラシック」「アーバン・エンデューロ」「フル・スロットル」の4モデルをリリースした。そのラインアップに加わる形で誕生したのが、399ccの「Sixty2」。Sixty2の名は初期のスクランブラーが小排気量(250cc〜350cc)であったことから、発売された1962年にちなんで付けられた。このことからも、単なる排気量を小さくしたモデルではないというメーカーの意気込みが伝わってくる。まずは、Sixty2の車体をチェックしていこう。
シンプルでオーソドックスなバイクらしいデザインの車体サイズは、860(幅)×1,165(高さ)×2,150(長さ)mmで、車重は183kg(燃料と油脂類を含む)
身長175cmの筆者がまたがると、かかとまでベッタリと足がついた
空冷のL型2気筒エンジンは小排気量(399cc)ながら、高回転まで回した際に本領を発揮するドゥカティ得意のデスモドロミック機構を採用している。8,750rpmで30kW(40hp)の最高出力と8,000rpmで34Nm(3.5kgm)の最大トルクを発揮
消音性能の高い小ぶりのマフラーだが、回転数を上げると歯切れのいい排気音が乗り手の耳に届く
曲線を描くタンクのラインともよくマッチする、丸型のライトを装備。フロントフォークは正立式のショーワ製41Φ
スイングアームに直付けされるタイプのリア・サスペンションを採用しており、車体左側に搭載。ストロークは前後ともに150mmで、カヤバ製となっている
フロントブレーキは、320Φのシングルディスクにブレンボ製の2ピストンキャリパーを組み合わせている
245Φディスクに1ピストンキャリパーで構成されたリアは、前後ともにABSを標準装備
18インチのフロントホイールを備え、タイヤはピレリ製のMT60RSを採用している。タイヤの太さは110。ちょっとしたフラットダートなら入って行けそうなパターンだ
リアにも、ピレリ製のタイヤを装備。サイズは17インチで、太さが160となっている
座面がフラットなシートは、前後のポジション移動がしやすい。前側の幅を絞ることで、足つきのよさにも貢献
シート下からのぞくように配置されたテールランプは、大きさを十分に確保しながらも外観上の存在感は少なく、シンプルな見た目に一役買っている
Sixty2の購入を検討する際に気になるであろう、排気量の大きな既存の「スクランブラー アイコン」(以下、アイコン)との違いも紹介しておこう。実は、排気量が約2倍異なるマシンでありながら、車体のサイズはあまり変わらない。相違点はいくつかあるが、最大の違いはエンジンだ。803ccの「アイコン」の最高出力は54kW(74hp)/8,250rpmで、最大トルクが67Nm(6.8kgm)/5,750rpmなのに対し、399cc のSixty2は最高出力30kW(40hp)/8,750 rpm、最大トルク34Nm(6.8kgm)/8,000rpmとなっている。
※出力とトルクの数値は、日本仕様のモデルのものです
左がSixty2で、右が「アイコン」。「アイコン」のサイズは845(幅)×1,150(高さ)×2,165(長さ)mmとなっており、Sixty2とそれぞれ11〜15mmの差しかない。排気量が400cc強も違うとは、外観からはわからないだろう。なお、シート高も20mmしか相違はない
正面からは、フロントフォークが41Φの倒立式を採用している「アイコン」(右)のほうがやや迫力があるように見える。ちなみに、「アイコン」はブレーキキャリパーがラジアルマウントの4ピストン式を搭載
ドゥカティの並々ならぬ想いが詰まった400ccモデルのスクランブラーに試乗してみた。今回走ったのは、主にSixty2がターゲットとしているであろう一般道だ。広い幹線道路から街中の狭い道、そして高速道路や郊外のワインディングなどにも足を伸ばす。
手前に曲げられたハンドルによって、アップライトな乗車姿勢に。上体が起きているので街中では先の見通しがつきやすい
エンジンをかけて走り出すと、まず感じるのがアクセルの開けやすさ。排気量の大きなモデルのドゥカティは低速からトルクフルなエンジンが魅力のひとつだが、トルクが大き過ぎてスピードが出せない街中などではギクシャクしてしまうことも多い。それに比べ、Sixty2のエンジンは“パワーが出過ぎない”ので安心してアクセルを開けていける。もちろん、ドゥカティおなじみのデスモドロミック機構で高回転までスムーズに吹ける特性はそのまま! 気持ちよい加速は健在だ。このように書くと非力なバイクのように思われてしまうかもしれないが、一般道はもちろん高速道路でもアクセルをひと開けすれば追い越しもスムーズにできる。
上体がかなり起きているため、前方が見渡しやすい。高速道路などでは風圧を感じるが、街乗りなどには向いている
Sixty2の走りの楽しさは、コーナーを曲がる時にも実感できた。アクセルが開けやすいので姿勢を安定させやすいうえ、車体が重過ぎず、足回りも硬すぎないので寝かせやすい。最近のスーパースポーツモデルのように“攻める”という感覚ではないが、意のままに曲がっていく感じが非常に楽しい。
速度の乗る高速コーナーでなく、街中の交差点などを曲がるだけでも楽しい!
そして、走り始めて10分ほど経過した頃、まるで長く乗っている自分のバイクのように体になじんできた。筆者はこれまで何十台ものバイクに乗ってきたが、短時間でここまでなじんだバイクは初めて。エンジンパワーと足回りのバランスがとれていることと、ライディングポジションが自然なことが、そのように感じる要因かもしれない。このフレンドリーさは別格だ。
Sixty2は排気量と価格を抑え、エントリーライダーを意識した戦略的なモデルであるため性能もそれなりかな……と予想していたのだが、いい意味で裏切られた。乗りやすさは確かにエントリー向けではあるものの、バランスがよく、バイクを操る楽しさが味わえるのでベテランライダーも十分に満足できるはず。
また今回、街中で試乗したついでに未舗装路も走ってみたところ、よく動くサスペンションやダートトラック風のタイヤと低い重心が相まって不安感なく走れた。目を三角にしてスピードを出したりコーナーを攻めるのではなく、田舎道をツーリングしながら、ちょっとした未舗装路にも足を伸ばすといった、ゆったりとした乗り方がしっくりくる。ただ近場を走るだけでも楽しかった“バイクに乗り始めた頃の気持ち”を思い出させてくれる乗り心地は、大きな魅力と言えるだろう。
カメラなどのデジタル・ガジェットと、クルマ・バイク・自転車などの乗り物を中心に、雑誌やWebで記事を執筆。EVなど電気で動く乗り物が好き。