最新装備+欧州テイストの走りを、驚きの価格で実現した新型5ドアハッチバック

スズキ「バレーノ」開発者インタビュー&試乗レポート

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スズキの新型モデル「バレーノ」が2016年3月9日より発売開始となった。「スイフト」よりもひとまわり大きいコンパクトハッチバックであり、生産はインドで行われるという。いったいどんな狙いで生まれたクルマなのか? 開発のトップへのインタビューと試乗記を通して、モータージャーナリストの鈴木ケンイチ氏がレポートする。

インドで生産されることでも注目を集める、スズキの新しい5ドアハッチバックが「バレーノ」だ

インドで生産されることでも注目を集める、スズキの新しい5ドアハッチバックが「バレーノ」だ

開発は日本、チューニングは欧州、製造はインド。スズキの世界戦略を体現する「バレーノ」

試乗に先立ち、開発のトップであるチーフエンジニアの伊藤氏に話を聞くことができた。以下、インタビュー形式でお送りしよう。

伊藤邦彦氏第二カーライン チーフエンジニア 1988年入社。入社して車体設計所属となり「カプチーノ」などの車体を設計。その後、内装設計部に異動。そして「バレーノ」開発からチーフエンジニアとなる。

鈴木:まったく新しいモデルとして「バレーノ」が生まれましたが、その誕生の経緯を教えてください。

伊藤:まず、プラットフォームを新型にしようよ! という話がありました。プラットフォームを軽くすることで、効率をよくしようという狙いです。また、軽くなれば動力性能や足回りもすべてよくなります。そこで、軽自動車用、Aセグメント用、Bセグメント用に、それぞれ新しいプラットフォームの開発がスタートしました。「バレーノ」は、Bセグメント用のプラットフォームの第一号車となります。

そうしたプラットフォームの話とは別に、もうひとつの流れがあります。それは、インドでの話です。インドで弊社の「スイフト」は、おかげさまでかなり売れていますが、逆に、それによって普通のクルマになってしまっています。

鈴木:いわゆるスタンダードなクルマということですね。ありきたりというか……。

伊藤:日本やヨーロッパで「スイフト」は“デザインがいい”とか“走りがいい”というほかにないキャラクターがあります。それがインドでは普通のクルマになってしまいました。目にも見慣れてしまったと。

それに対して、ライバルとなるヒュンダイの「i20」が、ヨーロッパのデザインそのままにインドに入ってきていて、“高級感もあって非常にいい”と。そのため、「スイフト」のシェアをおびやかす存在になっています。ヒュンダイ全体としても、かなりレベルアップしていて、市場の受けもいいんですね。そうした中で、“もう少し、大きくてプレミアムな感じのクルマが欲しいよ”というインド側の要望もありました。

鈴木:3年前にインドへ取材に行ったとき、現地のディーラーの人から「もっと高いクルマがほしい。スズキには「スイフト」より上のクルマがないから、「スイフト」のお客さんがアップグレードしようとするとほかのブランドに逃げてしまう」と聞きました。

インドでは、スズキのブランドは大衆車として定着している。「バレーノ」は上位車種と位置づけられ、高級車を扱う別ブランド「NEXA(ネクサ)」で発売される

伊藤:なので、「バレーノ」は販売チャンネルも変えて、「ネクサ」という高級ブランドをもうけて、そこで売っています。

鈴木:専用の販売店なんですね。ほかに売っているクルマはあるのですか?

伊藤:1号車が「SX-4 S-CROSS(エスクロス)」です。「バレーノ」は2台目になります。順次、車種を増やしていく予定です。なにしろ、スズキのブランドイメージは大衆車なので、ブランドイメージを含めて、販売チャンネルを変えて、高級方面にも力をつけていこうという狙いです。

鈴木:プラットフォームの一新とインドの要望がマッチしたのですね。

伊藤:そうです。サイズ的にインドでは全長4mという税制上の都合もあります。でも、4mならばヨーロッパでもBセグメントのど真ん中。じゃあ、ヨーロッパでも出そうと。そうなると当然、「スイフト」との棲み分けが必要ですね。「スイフト」のお客さまには、居住性や荷室のスペースに不満を持っていることもあるので、そういったお客さまに、もう一度、スズキに振り返ってもらおうと。また、世の中にはダウンサイザーという流れもあります。そうした視点から「バレーノ」を出そうという話になりました。

開発は日本、チューニングはヨーロッパ、生産はインドのマネサール工場で行う。販売も、日本、ヨーロッパ、インドの3地域が対象だ

鈴木:プラットフォーム、インドの要望、「スイフト」に不満を持つ人への回答、ダウンサイザー対応。そうした要望に応えるのが「バレーノ」なのですね。

伊藤:そうです。日本でも、“販売10万台を目指す”という声が社内にあったので、目標台数は少ないけれど、“日本でも売ろう”と。インド、ヨーロッパ、日本という3拠点での思わくが合致しました。

鈴木:欧州でも「スイフト」はBセグメントとしては、少し小さかったんですね。

伊藤:ヨーロッパしかり、インドも日本も、「スイフトはちょっと小さいぞ」というお客さんがかなりいるんですね。若い20代の方が「スイフト」に乗っていただいているうちに、奥さんと一緒になって、「スイフトの走りは楽しいな」と。でも、子供ができると、「あれ? これでは窮屈だ」と奥さんから指摘される。「もう少し大きいのが欲しい」という声は、全世界からあったんですよ。なので、全世界で、なんとかそういうお客さまをつなぎ止めておきたいと、少し大きくさせてという声がありました。ですから最初からインド専用ではなくて、全世界へ向けて「バレーノ」は開発しています。

室内空間や内装の質感など、「スイフト」よりも車格は上。ファミリーカーとしても使いやすい

室内空間や内装の質感など、「スイフト」よりも車格は上。ファミリーカーとしても使いやすい

鈴木:日本で生産するという選択はなかったのですか?

伊藤:それはボリュームがないからですね。やはり、日本単独でいこうとすると、年間10万台くらいないと割に合いません。日本も「スイフト」の看板が大きいし、「ソリオ」もあります。それに「バレーノ」は3ナンバーになってしまいますので、日本市場で爆発的に売れるとは……。それで、まずは一番売れるインドで作りましょうと。

鈴木:「バレーノ」は、もうインドでは売っているのですか? 

伊藤:2015年10月から発売しています。

鈴木:インドでの評判はどうですか?

伊藤:すごくいいんですよ。まだ、登録台数でいうと、月でだいたい1万台弱。だけど、バックオーダーをかなり抱えています。今は、ちょうど立ち上がったばかりの日本向けの生産が忙しくて、インド向けがなかなか回らないという状況です。

鈴木:中身は、各地域向けで違うのですか?

伊藤:ボディの作り方は基本的に一緒ですけれども、足回りやエンジンはぜんぜん違いますよ。日本と欧州は一緒ですけれど、インドは違います。

「スイフト」の場合、欧州向けは日本の「スイフト」よりもスポーティーに振っています。欧州と同じものを日本では「スイフトRS」として売っていますが、それだと、日本のお客さまには「多少堅いよ」とおっしゃる方もいます。ですが、「バレーノ」は、もともと、「スイフト」よりも大人がゆったりと乗れるようなセッティングになっているので、欧州と日本との差をつける必要がありませんでした。基本的な足回りのセッティングやハンドリングは、欧州のものをそのまま持ってきています。ただブレーキは違います。時速200kmからブレーキを踏むシチュエーションが日本にはないので、そこは変えています。

鈴木:まさに、以前欧州生産を輸入した「スプラッシュ」と同じですね。スプラッシュは、個人的に相当に印象がよかったクルマです。

伊藤:クルマの作り方やコンセプトとしては、同じです。向こうのものをそのまま持ってくるという。

鈴木:“「スイフト」よりも大きい”ということを含めて、「バレーノ」の特徴はどういうものでしょうか?

伊藤:スタイリングと居住性、経済性や動力性能をバランスよく詰め込んだことです。クルマとして、どっちにも偏っていない。下手をすると平凡なクルマになってしまいますが、Bセグメントに求められるさまざまな要素を、ひとつのクルマに詰め込んだということです。荷物が積めればいいだけではありませんし、動力性能だけじゃない。さまざまな特徴が、ひとつのクルマとして結晶したということです。

鈴木:どこかに特化するというよりも、バランスよくということですね。最後に何かメッセージはありますか。

伊藤:軽くて剛性のあるボディに、最新型のエンジンを積み込んでいますので、動力性能や効率もいい。スズキならではの走りを残しながら、そういうパッケージングや経済性を訴求しています。「スイフト」とは違ったクルマとして「バレーノ」を味わっていただきたいなと思います。

ラゲッジスペースはVDA方式で容量320リッター。6:4分割可倒式のリアシートや上段、下段に装着できるラゲッジボードを使った空間のアレンジも可能

パワートレインの異なる2つのグレードを用意

生産はインドながらも、欧州や日本市場への投入を前提に開発された「バレーノ」。そのため「バレーノ」のコンセプトモデルとなる「iK-2」は、2015年3月のジュネーブショーでワールドプレミアを飾っている。
 
「バレーノ」のデザインは「リキッドフロー」をテーマとし、「凝縮したエネルギーを前に解き放つイメージを表現し、流麗でエレガントなスタイリング」を狙っているという。インテリアのテーマもエクステリア同様の「リキッドフロー」であり、曲線と曲面で構成されたもの。エモーションを感じるデザインが特徴だ。

曲面や曲線が多用されるダッシュボード周辺。流れる液体をイメージしたデザインコンセプト「リキッドフロー」を表現している

プラットフォームは開発されたばかりの最新のBセグメント用。フロントからリヤにかけて骨格が連続しており、耐衝突/剛性/強度/NVHといった基本性能を高めつつ軽量化を実現しており、なんと、エントリーグレードでは車両重量910kgで、上級のターボモデルでも950kgという、非常に軽量なクルマに仕上がっている。

搭載するパワートレインは2つ。新開発の1リッター直列3気筒の直噴ターボ(最高出力82kW/111馬力)と6速AT、もうひとつが、1.2リッター直列4気筒(最高出力67kW/91馬力)のエンジンとCVTをそれぞれ組みあわせている。

グレード編成も2つで、1リッターターボが上級のXT(161万7840円)で、エントリーが1.2リッターのXG(141万4800円)。上級のXT用には、レザーシートやカラーのマルチインフォメーションディスプレイなどを揃えたセットオプション(11万160円)を用意する。安全装備となる、ミリ波レーダーによる衝突被害軽減自動ブレーキ(時速5〜100kmで作動)とアダプティブクルーズコントロール(ACC)は、両グレードとも標準装備となっている。

搭載されるエンジンは2種類。左が上位モデルのXTに搭載される1リッター3気筒の直噴ターボエンジン、右はエントリーモデルのXGに搭載される1.2リッター4気筒エンジン

欧州車テイストの走りと充実の装備をお手頃価格で!

最初に試乗したのは上級のXT。レザーシートなどのセットオプションを装備し、合計の価格は173万円ほど。レザーシートとACC付きの衝突軽減自動ブレーキが、この価格帯のクルマに装備されていることに驚く。

16インチのアルミホイールや、ドアミラーに備わるLEDの方向指示器を備えているのがXTのエクステリア上の大きな特徴

XTではディスチャージヘッドランプを標準装備。いっぽうXGではマルチリフレクターハロゲンヘッドランプが搭載される

XTのエンジンは1リッター3気筒の直噴ターボ。力感も十分でロングドライブも疲れにくそうだ

XTのエンジンは1リッター3気筒の直噴ターボ。力感も十分でロングドライブも疲れにくそうだ

ステアリングの手応えはしっかりとしていて、どっしりとまっすぐに走る。小さなクルマだけれど、動きは落ち着いている。足の動きは硬めだが、乗り心地が悪いというほどではなく、コーナリングの安心感のほうが勝る。1リッター3気筒の直噴ターボはトルクフルで力感も十分以上。軽快とはいえないが、高速道路を長距離移動するときに疲れにくいだろう。まさに欧州車テイストだ。

後席と荷室は、さすがに「スイフト」とは比べものにならないほど広い。大人が後席に乗っても十分な空間がある。大人4人でのロングドライブでも不都合はないだろう。

試乗した上位モデルのXTはオプションのレザーシートが装着されており、室内には高級感が感じられた

試乗した上位モデルのXTはオプションのレザーシートが装着されており、室内には高級感が感じられた

リアシートにも余裕がある。大人4人が座ってもきゅうくつな思いはしない

リアシートにも余裕がある。大人4人が座ってもきゅうくつな思いはしない

続いてベーシックなXGに。乗り込んですぐに、インテリアの寂しさが気になった。XTとの差は、あからさまだ。ただし、走りの差は小さい。確かに1.2リッターのNAエンジンは、XTの1リッターターボよりも力感に劣る。高速道路の合流や追い越し加速でも、より多くアクセルを踏む必要があった。しかし、不足というわけではない。また、フットワーク自体の印象はXTもXGも、それほど変わらない。どちらも欧州車テイストになっている。

XGは、ホイールキャップ付きの15インチタイヤを装備する点が外見上の大きな相違点

XGは、ホイールキャップ付きの15インチタイヤを装備する点が外見上の大きな相違点

XGのエンジンは1.2リッター4気筒。XTに比べるとカタログ上のパワーの差はそこそこあるが、体感レベルの違いはさほど大きくない

XGのシートの表面素材には一般的なファブリックが使われるため、落ち着いた印象

XGのシートの表面素材には一般的なファブリックが使われるため、落ち着いた印象

走り味は、完全な欧州車テイスト。それでいて上級グレードのXTなら装備が充実している。逆にいえば欧州車テイストの走りを、これほどコスパよく手に入れることのできるクルマはない。どこかのCMではないけれど、「お値段以上」の内容であったのだ。「バレーノ」の国内の販売目標は年間6000台。ささやかな数字ではあるけれど、「バレーノ」を選ぶ人は、なかなか通な人に違いない。

欧州車テイストの走りをこれほどの低価格で実現する。しっかりとした走りは妥協したくない、そんなユーザーに向けた一台だ

鈴木ケンイチ

鈴木ケンイチ

新車のレビューからEVなどの最先端技術、開発者インタビュー、ユーザー取材まで幅広く行うAJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。

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2017.8.19 更新
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