自動車ライターがズバッと解説! 3分でわかる自動車最新トレンド

国内でも急増しているディーゼルエンジンのメリットとは?

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自動車に関係する気になるニュースや技術をわかりやすく解説する連載「3分でわかる自動車最新トレンド」。連載18回の話題は、ディーゼルエンジンだ。ハイブリッド車が優勢だった国内のエコカーだが、海外メーカーに加えて、マツダの「スカイアクティブD」が人気を集めるなど、ディーゼルエンジンを見直す機運が盛り上がりを見せている。モータージャーナリストの森口将之氏が、この状況を解説する。

ヨーロッパの交通事情に向いているとされていたディーゼルエンジンだが、国産車でもマツダ車を中心に急速に広がりを見せている。今ディーゼルが見直される理由は何だろうか?

一定の速度で走り続けやすいヨーロッパの交通事情に向いたディーゼルエンジン

ディーゼルエンジンを積んだ車種が、少しずつ増えてきている。中でも目立っているのが欧州車で、今年はフランスPSAグループのプジョー、シトロエンおよび「DS」と、イタリアのマセラティが加わり、ブランドだけでも10を数えるまでになった。

なぜここまで欧州にはディーゼル車が多いのか。理由のひとつとして、現地のクルマの使われ方がディーゼルエンジンに向いていることがある。

欧州の多くの都市は、いわゆるコンパクトシティで、都市機能が凝縮している。ゆえに郊外の一般道を走っていると、次の都市まで家を見ることがほとんどなかったりする。信号にもめったに遭遇せず、たまに訪れるラウンドアバウト(環状交差点)でスピードダウンする以外は、一定のペースで走り続けられる。

日本の都市部のように、住宅が点在していて、道路には信号が多く、ストップ&ゴーを繰り返すような場面では、低速域をモーターでアシストするハイブリット車が環境にやさしく燃費もよい。しかし欧州のような道路状況では、ディーゼルの環境性能、燃費性能が引き立ってくる。

プジョー「308シリーズ」には、2.0リッターと 1.6リッターの2種類のディーゼルエンジンが搭載されている。写真は1.6リッターの 「BlueHDi ディーゼルエンジン」を搭載する「308SW」

ボルボもディーゼルに力を入れているメーカーだ。新開発の「D4エンジン」は排出ガスの後処理不要で、高い環境性能を実現している

原理的に効率がよいディーゼルエンジン

ガソリンエンジンに比べて音や振動が大きいので、そうとは思えないかもしれないが、そもそもディーゼルはガソリンより効率ですぐれている。

ガソリンエンジンが、燃料と空気の混合気にスパークプラグで点火するのに対し、ディーゼルは空気を圧縮して高温としたところに燃料を噴射して着火させるという違いがある。よって圧縮比はガソリンより高く、空気に対する燃料の量はガソリンより少ない。これが効率の高さにつながっている。

ターボチャージャーとの相性もよい。ガソリンエンジンは燃料と空気の比率に理想値があるので、低回転では空気の吸入量を絞っているが、ディーゼルは燃料噴射量のみを調節し、空気の吸入/排出量は一定。よって低回転から力強くタービンを回すことができる。

同じ排気量のガソリンターボとディーゼルターボを比べると、多くの場合ディーゼルのほうが最大トルクが大きく、燃費がよいのは、この効率の高さゆえだ。もちろんCO2排出量も少なく、地球温暖化防止にも寄与する。

欧州ではこうした特徴に着目し、ディーゼルはクリーンかつスポーティーというイメージでアピールしているブランドもある。低回転から発生する太いトルクが力強い加速をもたらすからだ。BMWをベースとして高性能・高品質な乗用車を作り続ける「アルピナ」も、ディーゼル車を用意しているほどである。

キャブレターで名声を確立したアルピナは、ガソリンエンジンのイメージが強いが、現在は「D3 BITURBO」など数種のディーゼルモデルもラインアップされている

結果としてディーゼルの進化を後押しした、石原慎太郎・元都知事のディーゼル規制

半面、ディーゼルには高い圧縮比に耐えるため、エンジンのパーツを重く頑丈に作らねばならないという欠点もあり、これが音や振動の大きさにつながっている。さらに独自の燃焼方法ゆえ、排出ガスをクリーンにするのが難しい。特に目立つのは、空気中の窒素と酸素が化合して生まれるNOx (窒素酸化物)と、燃料が不完全燃焼した場合に発生するPM (粒子状物質・この場合はススのこと)という、2種類の有害物質だ。

この問題に早くから対応したのが東京都だった。1999年に当時の都知事、石原慎太郎氏が、記者会見場でススの入ったペットボトルを振りながら、当時のディーゼル車の排出ガスが有害であることをアピール。NOx とPMに関する厳しい規制を施行した。いわゆる「ディーゼル車NO作戦」だ。

続いて日本国内の規制値も同様に厳しくなった。物流業界に配慮してか、特に小型車について厳しい規制になったので、乗用車のディーゼルモデルは相次いで販売終了を余儀なくされた。

同じ時期、欧州でもディーゼル車の排出ガスは問題になり始めた。しかし、日本よりディーゼル車が普及しており、いきなり厳しい規制を導入すると混乱を招くうえに、少し前に日本で生まれたハイブリッド車という新世代の環境対応車にディーゼルで対抗していこうという戦略もあり、少しずつ規制を強化していくという措置が取られた。

この過程で、燃料を筒の中に貯めておくことで噴射の回数や強弱をきめ細かく制御できるようにしたコモンレール方式、微粒子を除去するフィルターDPFなどが開発された。このコモンレールは音や振動の低減にも効果があった。

さらにNOxの除去手段としては、「アドブルー(AdBlue)」と呼ばれる尿素水溶液を噴射することで浄化を行う選択還元触媒や、NOxを吸収後、一時的に燃料を多く噴射することで浄化するNOx吸蔵還元触媒なども生まれた。

21世紀になってこうした技術がどんどん実用化されていくのと歩調を合わせて、欧州は排出ガス規制のレベルも引き上げていった。そして現行の「ユーロ6」でほぼ日本と同一になった。これによって、欧州のディーゼル車が次々に日本に上陸しているのである。結果から見れば、東京都をはじめとする日本の排出ガス規制は欧州の一歩先を行っていたことになる。

欧州車のディーゼルエンジンで増えているアドブルーを使った選択還元触媒。尿素水溶液を吹きかけて、NOxを無害な水と窒素に分解する

“低圧縮比”という逆転の発想を成功させた、マツダ「スカイアクティブD」

こうした流れの中でひとり、独自の技術でディーゼルエンジンのクリーン化を達成したブランドがあった。マツダである。

それまでディーゼルは、圧縮比が高ければ高いほど効率がよいという意見が多かった。しかし、空気を高温・高圧とすると酸素と窒素の化合が促進され、NOxの発生を増やすことも事実だった。そこでマツダは圧縮比を大幅に落としながらクリーンに燃焼できる技術を開発することで、選択還元触媒やNOx吸蔵還元触媒などなしに排出ガスを規制値内に収めることを可能とした。

「スカイアクティブD」と呼ばれるこのエンジンが、自動車業界で話題になっているのは、こうした逆転の発想ゆえである。しかも、低圧縮比で懸念される燃費も、筆者がドライブした限りでは悪くない。おまけに圧縮比が低いおかげで、音や振動も滑らかになり、高回転までスムーズに回る。

つまり、スカイアクティブDは、ディーゼルエンジンに対して「うるさい、臭い」とネガティブなイメージを持つ人の多い日本向きのディーゼルと言える。

音や振動が気にならず、燃費も良好な「スカイアクティブD」は、日本向きのディーゼルエンジンかもしれない

音や振動が気にならず、燃費も良好な「スカイアクティブD」は、日本向きのディーゼルエンジンかもしれない

マツダの改革はしっかり結果に現れた。同社のデータによれば、「スカイアクティブD」を出す前年、2011年の国内のディーゼル乗用車の販売台数は約8600台だったのに対し、2015年には約15万3000台に増えている。4年間で実に18倍だ。ちなみにその3分の2はマツダ車が占めている。

なぜここまでディーゼルは急激に伸びたのか。燃費がよいことに加え、日本は欧州に比べて軽油の価格が安く、ランニングコストが低く抑えられることもあるだろうが、ディーゼルは日本の道に向くと、多くの人が発見したこともあるのではないかと思っている。

「スカイアクティブD」を搭載するデミオ。路上で見かける機会が増えている

「スカイアクティブD」を搭載するデミオ。路上で見かける機会が増えている

高速道路の最高速度の低い国内の交通事情は、ディーゼルの出力特性と相性がよい面も

ディーゼルエンジンの出力特性に着目すると、ガソリン車にはない魅力があるのも事実だ。日本の高速道路は、最高速度が現状では100km/h止まりであり、高回転域に強いガソリン車が必ずしも優位とはならない。それよりも、低速での加減速が多いわけで、低回転で太いトルクを発生するディーゼルエンジンの特徴が生きる。

燃費の面では、たしかに都市内だけを短距離走行するなら、モーターがアシストするハイブリッド車のほうが有利だが、近場の移動は公共交通や自転車に任せ、遠くへ出かける時にクルマを使うような、ヨーロッパに近い利用スタイルなら、軽油とガソリンの価格差を含めて考えれば、ディーゼル車のほうが安くすむことも多い。

資源エネルギー庁が9月23日に発表したデータによると、9月20日時点のガソリンなどの店頭現金小売価格調査結果は、レギュラーガソリンが1Lあたり122.9円なのに対し、軽油は102.5円となっている。これを実燃費に換算すると、ディーゼル車の20km/Lとハイブリッド車の24km/Lで燃料代が同等になる。

ディーゼル車は、同じ排気量のガソリン車と比べると、コモンレールや還元型触媒、DPFなどの補機を数多く追加するため、車両価格は高くなる。でもそれは、モーターやバッテリーを搭載したハイブリッド車も同じだ。

日本のJC 08モード燃費は平均速度が低く、発進停止が多いので、ハイブリッド車がカタログ数値では有利ではあるけれど、先に書いたように、遠出をひんぱんにするようなドライバーなら、ディーゼル車のほうが燃費がよくなる場合もありうる。

昨年末に書いたフォルクスワーゲン不正問題についての記事で、筆者は「適材適所」という言葉を使った。ディーゼル車とハイブリッド車についてもこの4文字熟語が当てはまる。

これまで書いてきたように、ディーゼル車とハイブリッド車は得意分野が違っており、どちらがよいと二者択一で決められるものではない。自分のクルマの使い方をもう一度考え、その使い方に向いたパワーユニットは何かを考えれば、ディーゼルのほうがよいという答えが出る人もいるはずだ。

森口将之

森口将之

1962年東京都生まれ。自動車業界のみならず、国内外の交通事情や都市計画を取材しメディアを通して紹介。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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2017.6.22 更新
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