26年ぶりに登場した国産スーパーカーの2代目

初代の志を受け継ぐホンダ「NSX」試乗&開発者インタビュー

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ついにホンダの新型「NSX」が日本に導入される。初代の誕生から26年を経て生まれた2代目モデルは、どのような特徴を持ち、どんな走りを見せるのか?作り手はどんな気持ちであったのか? モータージャーナリストの鈴木ケンイチ氏が試乗と開発者インタビューを通してレポートする。

四半世紀ぶりのモデルチェンジで、出力は倍に、価格は約3倍になり、文句のないスーパーカーとして生まれ変わった2代目NSX。それにこめられたテクノロジーや情熱とは?

3モーターのハイブリッドシステムを持つ2370万円のスーパーカーとして復活

「ようやく」というのが正直なところだ。2000年代後半にV10エンジンで開発がスタートしたもののリーマンショックで計画が挫折。その後に計画は復活したが、エンジンレイアウトの変更や発売延期などの紆余曲折を経て、2016年の発売を迎えた新型「NSX」。日本では、8月25日より予約を開始、翌2017年2月27日よりデリバリーを開始する。

待たされただけに(?)、新型NSXには、驚きの機構が採用された。それは3つのモーターを使う「SPORT HYBRID SH-AWD」というハイブリッドシステムだ。NSX専用に開発された最高出力373kW(507馬力)/最大トルク550Nmの3.5リッターV6ツインターボエンジンをミッドシップに搭載し、そこに付随するトランスミッションの9速DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)に35kW(48馬力)のモーターを内蔵。これだけなら普通のハイブリッドだが、新型NSXでは、さらに左右の前輪にそれぞれ27kW(37馬力)のモーターを装備。1つのエンジンと3つのモーターを組みあわせたシステム合計出力427kW(581馬力)/646Nmのハイブリッドとした。しかも、前輪の2つのモーターは別々に作動させてコーナーをより曲がりやすくする。これをトルクベクタリング機能と呼ぶ。つまり、507馬力の強力なエンジンを基本としつつも、DCTのモーターで立ち上がりをカバーし、前輪のモーターでコーナリングを助ける。力強い走りとすぐれたコーナリング性能を、3つのモーターで実現するのだ。

ミッドマウントされたV6エンジンは、初代の横置きから縦置きに変更。エンジン単体で373kW(507馬力)という途方もないパワーを誇る

ボンネット内には左右の前輪用のパワートレインや、補機類がところ狭しと詰まっている

ボンネット内には左右の前輪用のパワートレインや、補機類がところ狭しと詰まっている

新型NSXの驚きはそれだけではない。今回の開発のリーダーはテッド・クラウス氏というアメリカ人だ。生産もアメリカ・オハイオ州メアリビルズで行われる。ただし、パワートレインの開発は日本が担当で、9速DCTやツインモーターユニットも日本で生産されアメリカに送られる。新型NSXは日米ホンダの共同作品なのだ。

そんな2代目NSXの生産は年間数千台規模。価格は2370万円。量産スポーツカーではなく、「スーパーカー」呼ぶべき価格帯である。日本への初年度導入は100台。それでも、あっというまに2年分以上のオーダーが集まったという。

大人しく走るシーンでは気難しさは一切ない

それでは、実際に走らせたNSXの様子をレポートしよう。

試乗は神戸周辺の市街地だ。シフトレバーの代わりにボタンがあり、ギヤチェンジはパドルで行う。クワイエット/スポーツ/スポーツ+/トラック(サーキット向け)の4走行モードの切り替えは専用のダイヤルで行う。もちろん2ペダル。操作系はシンプルだ。ただし、パドルがプラスチックそのままというのはいただけない。インテリア全体に超高額モデルとして、もう少しプレミアム感があってもいいのではないだろうか。

シフトレバーはなくボタン式、クラッチなしの2ペダルなど、スーパーカーならではのコックピット

シフトレバーはなくボタン式、クラッチなしの2ペダルなど、スーパーカーならではのコックピット

試乗車の内装はオプションのカラー「サドル」は、見た目はかなり豪華だ

試乗車の内装はオプションのカラー「サドル」は、見た目はかなり豪華だ

メーターは液晶ディスプレイ。走行モードが変わると表示される情報も変更される

メーターは液晶ディスプレイ。走行モードが変わると表示される情報も変更される

始動ボタンを押すと、勇ましくブオン!というブリッピングとともにエンジンが目覚める。スポーツカーならではの演出だが、設定によって大人しく始動することも可能とか。この気配りは日本車らしい。ボディは全長4490×全幅1940×全高1215mmと、それなりに大きいが、視界の広さもあり、街中でも、それほど扱いにくさはない。フロント2輪で走行するEVモードは、あっと言う間に終わる。あまり積極的にEV走行させるつもりはないのだろう。また、オプションのカーボンのブレーキディスクは、極低速では初期の効きが悪い。まあそういう仕様だと思って気をつけるしかないだろう。街中を流すだけでは、まったくもってスーパーカーではない。高速道路では、路面のうねりにハンドルをとられることもなく、まっすぐに走る。ほんの少しステアリングに別の力が働くフィールがあるのは、前輪の2つのモーターによるトルクベクタリングで直進走行を助けているからとか。街中では、気難しさは一切なかった。これなら女性でも扱えるのではないだろうか。

全長4490×全幅1940×全高1215mmというサイズは、スーパーカーらしいボリュームだが、視界は意外と良好

全長4490×全幅1940×全高1215mmというサイズは、スーパーカーらしいボリュームだが、視界は意外と良好

このクラスのクルマに実用性を求めるのは野暮だが、エンジン後方のラゲッジは最小限

このクラスのクルマに実用性を求めるのは野暮だが、エンジン後方のラゲッジは最小限

底の知れないコーナリングパフォーマンス

ワインディングに入って“スポーツモード”を試す。一気にエンジン音のボリュームが上がる。コーナーでは、本当にレールが敷いてあるように、路面をがっちりつかむ。本来、パワフルなミッドシップは、プッシング・アンダーが出やすいものだが、その予兆さえ感じさせない。これがSPORT HYBRID SH-AWDの魔法なのだろう。“スポーツ+”モードに切り替えれば、さらにスポーツ度がアップ。強いブレーキングでは、勝手にシフトダウンのブリッピングを行ってくれる。アクセルを最後まで踏みきれば、恐ろしい加速を味わえる。500馬力級は伊達ではない。そんなときに頼りになるのがカーボンのブレーキディスクだ。効き始めてから、その奥のコントロール幅が広がるのだ。

すさまじいパワーを受け止めるカーボンブレーキ。極低速の効きはいまいちだが、踏み込んだ先の領域で、コントロールできる幅が広い

しかし、さらに恐ろしいのはコーナリングだ。徐々にペースを上げても、コーナリングはオン・ザ・レールのまま。いったいどこに限界があるのか! 底が知れないとはこのことだ。500馬力を超えるパワーがありながらも、どこまでも曲がるハンドリングと強烈なブレーキがあるため、怖さがない。それどころか「こんなに速く曲がった!」と嬉しくなってしまう。しかし、ここが落とし穴だ。いくら高性能といえども、どんどんスピードを上げれば、どこかで物理の限界を超える。そうならないよう新型NSXのドライバーには強い自制心が必要とされる。

サーキットで数々のクルマを走行させてきた評者をして「底が知れない」と言わしめるコーナーリングの限界性能。それだけに、正しく扱うにはドライバーの自制が求められる

1989年に誕生した初代NSXは、操るのに手間ひまが不可欠であったスーパーカーを、誰もが日常に使えるレベルまで引き寄せた、いわばスーパーカー民主化のさきがけであった。そして、2代目となった新型NSXは、最新の3モーター搭載ハイブリッドであるSPORT HYBRID SH-AWDを使うことで、初代のDNAを現代によみがえらせた。この最新技術によって、誰が乗っても、とんでもない高いレベルの走りを味わえてしまうのだ。新型NSXは、初代同様にスーパーカーの民主化を、さらなる高みまで進めてしまった。

初代NSXは、扱いやすいスーパーカーという新しい領域を開拓した。2代目もまた、ハイベルの走りを誰もが手にすることができる

NSXの開発に携われたことは、誇りに思っています

浅川 雅信氏 本田技術研究所 四輪R&Dセンター 統合制御開発室 第1ブロック 主任研究員(写真左)萱場 貴氏 本田技術研究所 四輪開発センター 第3A技術開発室 第2ブロック 研究員(写真右)

続いて日本において、新型NSXのパワートレインの開発に携わった2人のエンジニアに話を聞くことができた。以下、インタビュー形式で紹介しよう。

鈴木:まず、お2人の担当を教えてください。

浅川:ハイブリッドの制御ですね。パワートレイン全体の動かし方のプロジェクトリーダーを務めました。

萱場:北米機種のプロジェクトリーダーをやっています。エンジン単体の性能を担当しました。

鈴木: NSXを私たちは特別な存在と見ていますが、ホンダの中の人にとっても特別なものなのでしょうか?

浅川:そうですね。私は間違いなく、NSXを特別なクルマだと思っています。

北米における高級ブランド「アキュラ」で発売される。日米合作のスーパーカーのイメージが前面に押し出された特別なクルマだ

萱場:特にうちの最近のラインアップでいうと、国内でいえばミニバンが売れていますけれど、「やっぱりスポーツモデルが欲しい」というお客さんがいます。北米では、初代のNSXもそうでしたが、NSXはアキュラのフラッグシップという意味もあって、やはり求められる声があります。それは世の中が要求しているものだという認識が私たちの中にあって。今回は、時間がかかりましたが、世の中に出すことができたということですね。

鈴木:それは感慨深いというか、やりがいがあったのですか?

浅川:そうですね。

萱場:個人的な話をすると、僕が20年前に初めて海外テストで乗ったクルマが、マイナーチェンジした3.2リッターのNSXでした。「こういうクルマを作れる会社はすごいな!」という思いがありました。その後、プロジェクトリーダーではありませんが、「S2000」や「タイプR」のエンジン開発をずっと続けてきたこともあり、今回、このプロジェクトに参加できたことは、非常によかったなと思っています。

鈴木:ホンダの誰もが、いつかNSXに携わりたいと思っているんでしょうか?

浅川:私たちの開発チームのメンバーに接しますが、やはり特別なクルマという感じはします。一般的な量産車とは違った動かし方や、商品性にかかわるエモーショナルというかエキゾチックな部分があって、そこをワイガヤ議論していって話を進めてきたんですけれど。そこはかなり盛り上がりました。相当にモチベーションが高いんですね。最初は、僕から指示していましたが、だんだん後半になってくると勝手に進むくらい本当に盛り上がっていましたよ。

Cピラーはエアインテークとつながったデザイン。ボディとの間に隙間があるのが特徴

Cピラーはエアインテークとつながったデザイン。ボディとの間に隙間があるのが特徴

鈴木:浅川さん自信も盛り上がっていましたか。

浅川:ホンダはやっぱり常にチャレンジし続けたい。そして、やるからには、そのカテゴリーでトップをとりたいという会社です。しかも、それを認められる会社。発売までに、まわりの状況にいろいろ左右されましたが、もう1回チャレンジできたと。このタイミングで関われたのは、私も本当に誇りに思っています。

鈴木ケンイチ

鈴木ケンイチ

新車のレビューからEVなどの最先端技術、開発者インタビュー、ユーザー取材まで幅広く行うAJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。

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2017.8.19 更新
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