日本で無糖茶の王者と言えば「緑茶」。
そのペットボトル市場で、個人的に四天王だと思っているブランドが
・キリンビバレッジ「キリン 生茶」
・サントリー「サントリー緑茶 伊右衛門」
・日本コカ・コーラ「綾鷹」
・伊藤園「お〜いお茶」
です。同じ緑茶飲料でありながら、それぞれに歴史やストーリーがあり、味わいもコンセプトも異なります。その四天王の中で今回取材したのは、誕生20周年を迎えてリニューアルした「キリン 生茶」です。
2020年3月3日にリニューアル発売された「キリン 生茶」。誕生から20年の間に、市場がどう変わってどう進化してきたのかに迫ります
筆者がリニューアルされた「キリン 生茶」を気になった理由は、同社によるユニークな企画にありました。それはなんと、メディア用として特別に再現した、デビュー当時の「キリン 生茶」と最新作の「キリン 生茶」の味比べが体験できる、というもの。20年と言えば、赤子が成人になるほどの時間が流れているわけで、おいしさの進化にもよっぽど自信をお持ちなのだろうと思ったのです。
ということで、製造元であるキリンビバレッジのマーケティング担当者を直撃。「キリン 生茶」の歴史や最新作のポイントなどを、飲み比べレポートとともにお届けします。
キリンビバレッジ マーケティング本部のブランド担当、唐澤あかねさん。2019年1月から現職で、以前は「キリン 午後の紅茶」の中味開発を手がける“リケジョ”でした。ティーアドバイザーの資格を持つ味覚のプロでもあります
「キリン 生茶」が誕生した背景には、当時の緑茶市場が抱える課題が関係していたとか。1990年代にはすでに無糖茶市場はあり、拡大もしていましたが、緑茶は烏龍茶やブレンド茶といったカテゴリーに比べて味覚の差別化が少なく、現在ほど満足度が高くなかったそうです。そこで出てきた発想が“生”という新提案でした。
「生ビール、生ハム、生チョコなど、日本にはさまざまな“生”があり、実際の味わいのほかに、言葉としてもおいしいイメージがありますよね。ならば、お茶にも生があってもいいのでは、という発想から出発したと聞いています」(唐澤さん)
2000年3月21日にデビューした初代「キリン 生茶」。この500mlボトルは、10か月で2289万箱という驚異的な販売実績を叩き出し、「日経流通新聞賞・最優秀賞」を始め、多数の賞を獲得しました
ブランド名やイメージだけでなく、製法や味わいも“生”であることをコンセプトに開発はスタート。低温抽出製法と生茶葉抽出物の使用によって、茶葉のうまみと甘みを引き出したおいしさを作り出すことに成功したのです。
この味は、それまでの緑茶飲料のスタンダードが苦みや渋みだった方向性に対する、真逆とも言えるアプローチ。これがかえって新鮮だとして受け入れられ、味の違いで緑茶を選ぶ時代が到来しました。そして2001年、他社も「うまみ」と「甘み」にフォーカスした新商品を発売する流れとなり、“緑茶戦争”と呼ばれるムーブメントが生まれました。
緑茶市場全体は拡大するいっぽうで、競争は激化していきます。ライバルの出現などによって2005年以降の「キリン 生茶」は苦戦が続きました。ひとつの対策として、“生”の価値を当初の「うまみ」から「すっきり」「リフレッシュ」へとリニューアルを敢行したのですが、それが「水っぽい」「薄い」というマイナスにつながる側面もあり、「キリン 生茶」はペットボトル緑茶がトレンドから王道へと定着する流れの中で埋没してしまったのです。
こうして受難の時代が数年間続いた末、2016年に転機を迎えます。クルマでたとえるなら、“マイナーチェンジ”ではなく“フルモデルチェンジ”と言えるような改革がなされたのです。
2016年に筆者が撮影した、大リニューアル前後の「キリン 生茶」。両端のボトルが第1章の最終モデルで、中央が今に続く新たなDNAを宿したニュータイプです。ガラス瓶をモチーフにしたスタイリッシュなボトルは、停滞気味だった緑茶市場にセンセーショナルな話題を巻き起こしました
「初代の発売から17年目。世間ではペットボトル緑茶が当たり前の存在となっていたうえ、無糖飲料には水や炭酸水なども台頭していた中、『生茶』として新しいことができたら、緑茶市場をもっと盛り上げられるかもしれないという想いを抱きながら開発に挑みました。あえて伝統や常識にこだわらない形で、現代に合うおいしいお茶を目指し、“生”のコンセプトも『おいしいを呼び起こす言葉』から『茶葉の生命力』へと再定義。お茶のいいところをまるごと引き出した緑茶にするため、製法も一新しました」(唐澤さん)
この改革によって、「キリン 生茶」はそれまでの緑茶飲料のスタンダードだった「素朴」「伝統」のイメージとは異なる「現代的」「ナチュラル」という独自のポジションを獲得する結果に。発売4日で100万ケースを突破して3週間後には200万ケースを超え、2016年は前年比163%の販売実績を達成。V字回復を成し遂げ、ブランドとしては第2章の幕開けとなったのです。
中身も一新され、にごり具合からしてまったくの別物。自宅では作れないお茶を追求し、最新テクノロジーで茶葉を“まるごと”微粉砕した“かぶせ茶”の粉末による、新たなおいしさに仕上げたのです
ここまでのストーリーを聞いたところで、いよいよ飲み比べを体験。デビューした2000年当時の味わいを再現した初代「キリン 生茶」と、20年を経て生み出された最新版「キリン 生茶」を交互に飲んでみました。
左が初代で右が最新版。ボトルのデザインは、丸みを帯びたシルエットから一時期シュッとタイトになり、再びゆとりを持ったシェイプに仕上げられました。ファッショントレンドもビッグ→タイト→ビッグへ変遷したのとリンクしていて興味深いです
2016年に刷新された時も、「このリニューアルはかなり攻めたなぁ」と思うぐらいはっきりした進化だったと記憶しています。ただ、この飲み比べはそれ以上。「同じブランドでここまで味が変わっていいんですか!?」と言えるレベルで異なります。
デビュー作で強く感じたのは、きらびやかで青々としたうまみ。個人的に、当時の「キリン 生茶」には青のりを思わせるダシのような余韻があったと記憶していますが、そのニュアンスが青春の思い出とともによみがえりました。
にごりの秘密は、底面の沈殿物にも。微粉砕した茶葉を加えることで、全体的な味の輪郭が増強されているのです
そして最新作。
デビュー作で感じた華やかな酸味や青々しいうまみが抑えられつつ、より上品な方向に昇華された印象。まろやかなボリューム感が広がった後に、爽やかなグリーンフレーバーが伸びやかに抜けていきます。若々しさは持ちながらも、大人な味わいになった感じを受けました。この味は、どんなテーマを掲げて作られたのでしょう。唐澤さんに聞きました。
「ブランドのDNAである、“生”のよさをより伝えたいと考えました。というのも、2016年の刷新時はボトルシェイプを始めとしたデザインが印象的だったため、おいしさの革新性が伝え切れていなかったのではないかと思ったんです。そこで、私たち自身も原点の“生”を再解釈して中味を構築しました。最近のひとつ前の旧作と飲み比べていただくと、わかりやすいと思います。ぜひどうぞ」(唐澤さん)
左がひとつ前の2019年版。こちらも、最新の2020年版と飲み比べてみました
ということで、こちらも比較。デビュー作との違いほど大差がないのは当然ですが、2019年版のよさをキープしつつ、より洗練された気がします。最新作は、2019年版の延長上に甘みやうまみが一層伸びやかにプラスされています。さらに、余韻に残る香りが洗練されていて、澄み切った爽やかさも感じます。ファッション用語で言えば、「抜け感」が増したような、さりげないゆとり。
「イメージは、野菜を生でかじった時のような豊かな素材感です。私たち自身、新作の開発に当たって生の茶葉をかじり、そこで感じた甘み、爽やかさ、香り立ちなどを意識しながら取り組みました。そして最終的には、緑茶の甘みやまろやかさのさらなる強化に成功し、これまでたどり着けなかった境地まで来られたと自負しています」(唐澤さん)
デビュー作(左端)のラベルに描かれていた茶葉のイラストは、最新作(右端)で形を変えて復活。デザインの一部に、原点回帰への想いが感じられます
そして今回は、特別にフードペアリングも体験。新しい「キリン 生茶」に合うのはどんなフードなのかを、外部の研究機関に調査依頼したところ、出た答えはなんと、チーズケーキ! 相性は1番合うと思われそうな和菓子以上だったそう。
チーズケーキは、ほんのり香ばしいベイクドタイプがオススメとか。昨今人気のバスクチーズケーキもベイクドタイプです
うん。想像した以上に口が素直に受け入れてくれます。濃厚なチーズケーキをすっきりとリセットするというよりも、きれいなハーモニーで包み込まれる感じ。
「いろいろな食べ物との相性を試した中、100点満点中96.8点と高得点だったのがチーズケーキでした。新しい『キリン 生茶』のうまみや苦みが、チーズケーキの甘みや酸味と補完し合って好バランスだったのだろうと思います。また、今回の『キリン 生茶』で強めた甘みや爽やかな香りが、チーズケーキのよさをジャマせずうまくまとまったのかなと」(唐澤さん)
お茶には青々しい酸味が、チーズケーキにも柑橘系のブライトな酸味があり、それが調和しているのかもしれません。このペアリングはどなたでも体験できるので、ぜひ新しい「キリン 生茶」とともに試してみてください。
食の分野に詳しいライター兼フードアナリスト。雑誌とWebメディアを中心に編集と撮影をともなう取材執筆を行うほか、TVや大手企業サイトのコメンテーターなど幅広く活動中。