2023年11月10日に発売された新しい「PlayStation 5」(以下、PS5)。AVライターの筆者が気になるのは画質や音質の実力だ。ボディがスリム化、軽量化されたということは内部回路の設計も変わっているはずで、実測したユーザーによれば、消費電力が減っているとする声もあるようだ。こういった改良が画質や音質にも少なからず影響を与えている可能性がある。“新旧”の比較も含めて、使い勝手や操作性など「PS5」のAVプレーヤーとしての実力を改めて確かめてみよう。
新「PS5」はスリムなサイズとなったことが最大の特徴で、サイズは約358×216×96mm(横置き時の幅×奥行×高さ)と従来モデルと比較して30%以上小型化。重量も約3.2kg(ディスクドライブ搭載モデル)と18%も軽量となっている。採用する技術や機能はそのままで、内蔵するSSDストレージは1TBだ。
希望小売価格はディスクドライブ搭載モデルの「CFI-2000A01」が66,980円(税込)、ディスクドライブなしのデジタル・エディション「CFI-2000B01」が59,980円(税込)。昨今の物価高騰などの影響もありSSDストレージが増量されているとはいえ、従来よりも価格が高くなっているのは少し残念。
ただし、ディスクドライブの着脱が可能になり、デジタル・エディションを購入した後でもディスクドライブを購入して増設できるようになっているなど、改善が図られた点もある。なお、1台付属するDualSenseワイヤレスコントローラーには変更はない。
まずは開梱から。箱自体がかなり小さくなった印象だ。旧「PS5」はゲーム機としては意外なほど大きく感じたが、新「PS5」はそれほど大きいとは感じない。今では店頭でも容易に購入できるようだが、店頭で買ってそのまま手持ちで持ち帰るのも不可能ではないと感じる。
箱から本体を出すと、やはり数値以上に小さいと感じる。旧「PS5」は縦置きではちょっとしたインテリア家電のような存在感があったし、横置きでは横幅430mmのAV機器と変わらないサイズ感でかなり大きな印象だった。しかし、新「PS5」はいわゆるゲーム機として常識の範囲に収まるサイズ感になったと感じた。もちろん軽量になったので、箱から出すときやラックなどに置くときもあまり気を使わずに済む。
新「PS5」も縦置きと横置きの両方が可能で、横置き用の脚部パーツが付属する。そのまま縦に置いても問題なさそうだが、別売で縦置き用スタンド「CFI-ZVS1P」も発売されている。地震などが気になる日本では縦置き時はスタンドを使ったほうが安心だろう。
ラックに新「PS5」を横置きした状態。透明の脚部パーツを使って安定させる
黒いライン部分に横置き用の透明パーツを装着した状態。透明樹脂で目立ちにくく、簡素ながら安定感にすぐれる
旧「PS5」はシンプルなフォルムながら曲面主体で付属のスタンドでの横置きはちょっと安定感に欠けていた。現在では横置き用のアダプターが各種発売されているくらいだ。新「PS5」はそのあたりがうまくできていて、シンプルな脚部パーツだけで十分に安定した設置ができた。
「ディスクドライブの振動の影響が……」などと安定した設置性にうるさいAVマニアの筆者としては、これは大きな改善だと感じた。コンパクトで軽くなったので取り扱いもしやすくなったし、それでいて象徴的なフォルムやデザインはほぼ同じなのだから、凄い進歩だと感じた。
スタンドを使わずに縦に置いた状態。重量物が下にくる配置なのでスタンドなしでも安定した設置は可能(地震などに対する転倒対策は必要だろう)
横置き時の底面側。着脱式のディスクカバーが備わったため、ボディに斜めのラインが入る
横置き時の上面側。斜めのラインが入ったデザインで、上側は光沢調、下側はマット調になっている
背面の接続端子はHDMI出力、LAN、USB Type-A×2で旧型と変わらない。前面にあるUSB端子はUSB Type-C/Aが各1つだったのが、USB Type-C×2となった。このあたりは現代的なアップデートだろう。接続性というか拡張性は同じだ。
背面部。左からHDMI出力、LAN、USB Type-A端子×2、右端が電源用のメガネ型端子。装備としては旧型とまったく同じ
別売の縦置きスタンドも接続してみると、ベース部分が円形の光沢シルバーでなかなかカッコイイ。どうやら旧「PS5」でも使えるようで、ネジ穴がふたつある。本体にあるネジ穴のキャップを外して付属のネジ(手締めまたはコインなどで締められる)で固定する。当然かなり安定した設置ができ、よほどの衝撃がなければ転倒することはなさそう。それに背も低くなっているので、見ていて不安になるような感じもない。
別売のスタンドを使って縦置きした状態。底面の吸気口をふさがないよう、わずかなすき間が確保されていて、見た目も美しい
縦置き用スタンドを装着した状態。ドライバーなしでも装着ができるのは便利
せっかくなので、旧型と新型を並べてみた。やはり結構小さくなっているのがわかる。横置き時の横幅自体はそれほどの違いでもないが、奥行きが短くなっているし、高さも抑えられている。薄型テレビ用のラックなど奥行きが狭い場所でも設置できるなど、設置性はずいぶんとよくなっている。
左側が新型、右側が旧型。ボリューム感がかなり違う。なお、画質・音質の比較検討に使った旧型は最初期型の「CFI-1000A01」だ
奥が旧型、手前が新型。背の高さや奥行きも全体にコンパクト化されている
左が旧型、右が新型。ディスクドライブ部のフォルムの違いがわかりやすい 。Ultra HDブルーレイ再生時の騒音について、シビアに比較すれは違うかもしれないが、どちらもそれなりにうるさいことには変わりなかった。筆者宅では視聴位置のかなり後ろに設置したこともあり、音量を上げてしまえば取り立てるべき差はないと感じた
ではさっそく起動してみよう。初回の電源投入時に自動的にディスクドライブを認識して、「PS5」に登録するかを聞いてくる。そこだけが旧型と比べて異なっていたが、それ以外はすべて同様。接続するテレビやスピーカーなどの設定、ネットワーク設定、アカウント登録などは共通だった。
ここでは、Ultra HDブルーレイプレーヤーなどのAV用途をメインにチェックしておきたい項目を紹介する。旧「PS5」でも同じだが、おさらいを兼ねてチェックしてみるとよいだろう。
初回設定などをひと通り済ませて、まずチェックしたいのが設定の「スクリーンとビデオ」。対応するディスプレイであれば1440p出力も行えるし、HDMIの新機能であるVRR(可変転送レート)、ALLM(自動低遅延モード)にも対応する。HDRにも当然対応しているので、必要に応じて選択しよう。「スクリーンとビデオ」の項目には、「BD/DVD」の項目もある。これはブルーレイ/DVDプレーヤー用の基本設定だ。リージョンコードの変更もできるが変更回数は限られているので、変更する場合は注意しよう。
設定にある「スクリーンとビデオ」の項目。接続したディスプレイに合わせて機能を選択する
「スクリーンとビデオ」画面の下にスクロールすると、HDRについての設定項目がある
「スクリーンとビデオ」にある「BD/DVD」の設定。いわゆるプレーヤー設定だ
続いては「サウンド」の設定。接続したHDMI機器に合わせて設定を行う。筆者はAVアンプに接続しているが、薄型テレビやサウンドバーなどの設定も用意されている。さらに、ワイヤレスヘッドセット(ヘッドホン)を接続した場合のヘッドホン用設定もある。
このほか、薄型テレビやヘッドホン用の3Dオーディオの設定もある。独自の3Dオーディオ技術でテレビの内蔵スピーカーやヘッドホンでも立体的なサラウンド再生が実現できる機能だ。
AVアンプの設定では5.1/7.1chの設定やスピーカーの設置角度(実測して入力する)など専門的な項目もあるが、3Dオーディオ設定ではコントローラーのマイクを使ったキャリブレーション(薄型テレビの場合)、テスト音声を聞いて最も自然な位置に音が鳴るようにするユーザー最適化(ヘッドホンの場合)など、よりサラウンド音声を正確に再現するための設定もあるのできちんと設定をしよう。
「サウンド」にある「音声出力」の設定。接続した機器に合わせて設定を行う
そして、Ultra HDブルーレイプレーヤーとして最も肝心な設定のひとつが「音声フォーマット」。ここで「Dolby Atmos」を選択しておくことで、ブルーレイソフトの再生だけでなくゲームなどでのDolby Atmos音声を楽しめる。Dolby Atmosに対応した薄型テレビやAVアンプ、サウンドバーを接続している人は忘れずにここの設定を確認しよう。
「音声出力」の設定の最後にあるのが「音声フォーマット」の設定。Dolby Atmos再生の環境が整っているならば、ここで「Dolby Atmos」を選択することを忘れずに
ではまずはUltra HDブルーレイソフトの再生からチェックしておこう。まずはおさらいとなるが、「PS5」でのDolby Atmos音声への対応の変遷について。
旧「PS5」の発売時はDolby Atmosへの対応はUltra HDブルーレイ/ブルーレイソフトのみの対応で、ゲームや動画配信アプリでの音声ではDolby Atmos非対応だった。これが、2023年のアップデートで「PS5」の3Dオーディオ機能を使ってDolby Atmos音声への対応を実現。ゲーム音声(基本的に5.1/7.1ch出力)もDolby Atmos音声で楽しめるようになった。動画配信アプリについては各配信アプリのアップデートによって順次対応していくようだ。
ディスクドライブに「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」のUltra HDブルーレイをセット。するとホーム画面の「メディア」にディスクのアイコンが表示され、ソフト名まで表示された。ブルーレイプレーヤーとしてもなかなかよくできている。
アイコンを選択すると、ローディングと再生がスタートする。出画スピードは一般的なUltra HDブルーレイプレーヤーと大きくは変わらない。決して長く待たされるわけではないが(数十秒ほど)、ゲームでのSSDによる快速ローディングを体感しているとやや待ち時間が長く感じる。
「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」をディスクドライブにセットした状態。ディスクタイトルなどが表示される
あとはコントローラーの操作でメニュー画面の呼び出しや再生操作もひと通り行える。実はこの再生中にも設定が必要で、設定を行わない初期状態ではDolby Atmos音声が出力されない。
プレーヤーアプリにも設定項目があり、「音声フォーマット」を初期状態の「リニアPCM」から「ビットストリーム」に切り替える必要があるのだ。旧型でも同様に設定する必要があるのだが、設定をしたのがずいぶん前のことなのですっかり忘れていた。
ホーム画面にある「設定」を何度見直してもUltra HDブルーレイだけがDolby Atmos出力できないので混乱した。「PS5」で初めてUltra HDブルーレイソフトを再生するときは忘れずに設定しよう。一度設定すれば特に変更の必要はなかった。
Ultra HDブルーレイ再生中の画面。AVアンプの情報表示画面を出すと、Dolby Atmos音声であることが確認できた
Ultra HDブルーレイ/ブルーレイ/DVDソフトの再生中にコントローラーのOPTIONボタンを押すと、再生中のディスクタイトルや映像/音声フォーマットなどを確認できる。確認したい「設定」は一番下にある「・・・」アイコンを押すと表れる
プレーヤーアプリオプションメニュー。ここにある「設定」を選択
「設定」では、映像のノイズリダクションなど各種設定が可能。Dolby Atmos出力をするには、「音声フォーマット」で「ビットストリーム」を選択する
これで無事にDolby Atmos音声での再生ができる。肝心の画質・音質だが旧「PS5」と比べてほぼ同様。細かく見比べると違いはあるかもしれないが、ほぼ同じ印象だ。旧「PS5」が新「PS5」に比べて画質・音質が劣っているということはなかったので安心した。
画質については、4K&HDRの精細さや色の鮮やかさは十分。パッケージソフトの高品位な映像をしっかりと味わえるレベルだ。精細さやディテールはきちんと出すいっぽうで、黒側の階調性がやや苦しく暗部や暗いシーンが少し見づらいことが少し気にはなった。高額なUltra HDブルーレイプレーヤー/レコーダーと比較するとそれなりに差はあるが、比較的安価なUltra HDブルーレイプレーヤー/レコーダーと比べても遜色はない。
音質は低音の迫力がしっかりと出てメリハリがある。こちらも高級プレーヤーと比べれば小さな音の再現性や空間の広がりなどで物足りなさはある。ゲームなども含めて、バトルやアクションを存分に楽しめるパワフルな音の出方をする傾向も感じた。そのため、音楽映画などを見ると、もう少しデリケートな表現や楽器の音や歌声のリアルな質感が欲しいとも感じる。このあたりは欲張りというもので、そこまで画質・音質を求めるならば数十万円にはなる高級プレーヤー/レコーダーが必要だ。
少し気になったのが、音声フォーマットの対応について。Netflixなどのアプリは接続している機器(テレビやAVアンプ、サウンドバーなど)が対応している映像・音声フォーマットに自動で合わせてコンテンツを出力する。
視聴した「レッド・ノーティス」を例にすると、映像はDolby Vision、音声はDolby Atmosで配信されている。
この作品をDolby VisionとDolby Atmosの出力に対応した「AppleTV 4K」をプレーヤーとして確認してみよう。さらにどちらにも対応したテレビやAVアンプを使うと、映像は「Dolby Vision」で音声は「Dolby Atmos」のバッジが表示される。
「PS5」の場合はどうなるかと言うと、映像は「4K」「HDR」、音声は「5.1ch」のバッジが表示された。「PS5」のHDR対応フォーマットは現状ではHDR10規格のみ。HDR10+やHLG、Dolby Visionには非対応なので正しい挙動だ。
音声のほうがDolby Atmosにならないのは、どうやら動画配信アプリ(ソフト側)が対応していないためのようだ。
「PS5」のNetflixアプリを使い、「レッド・ノーティス」の情報を表示。映像のスペックとして「4K」「HDR」のバッジ、音声のスペックとして「5.1ch」のバッジが付いていた(2024年1月時点)
ところが、AVアンプで入力信号を確認すると、映像はHDR10、音声はDolby Atmosとして認識されていた。Dolby Atmosで配信されているタイトルだけでなく、5.1chやテレビ放送アニメなどのステレオ音声のはずのものまでDolby Atmosと表示されてしまうのだ。
「PS5」で「レッド・ノーティス」再生中に、AVアンプでの音声入力信号を確認してみると、Dolby Atmosだと認識されていた
"配信版は5.1ch音声のTVアニメ「ダンジョン飯」の情報表示。Netflixのアプリ上は映像「HD」、音声「5.1」のバッジが表示されているが、AVアンプではDolby Atmos音声が認識されてしまった。このようにすべての音声がDolby Atmosにアップミックスされてしまう現象はAmazonプライム・ビデオでも同様だった
実際に「Apple TV 4K」でのDolby Atmos再生と比べると、空間表現などで差異を感じるし、ステレオ音声のタイトルもいかにもアップミックスされたサラウンド音声のという印象になる。どうやらすべての音声信号を強制的にDolby Atmosにアップミックス(本来の音源よりも拡張してサラウンド再生)してしまうようだ。
最近のAVアンプに限らずサウンドバー、薄型テレビなどもアップミックス機能は盛り込まれていて、そのクオリティは日々向上している。たとえばステレオ音声をアップミックスしてもお風呂場で聴いているような過剰なエコーがかかることもなく、むしろ音の広がりや移動感が出てなかなか楽しい。だから、不具合というほどのことではないが、うるさいAVマニアに言わせると、すべてがアップミックスされてしまうこの仕様には不満を感じる。もちろん、これはDolby Atmosの再生に対応しているとは言えないだろう。
なお、旧「PS5」発売時からの仕様だが、Netflixなどのアプリでの24p再生には対応していない(60pでの再生になる)。不自然な映像補間が行われるわけではないので実用上問題ないとも言えるが、この点のアップデートも期待したいところだ。
こうした多少のいたらなさはあり、動画配信アプリでのDolby Atmos対応は不十分だと見なしてよい。だが、いずれは対応が進むと思われるのでそこまで心配することはないだろう。
家庭用ゲーム機として「PS5」を見るとなかなか高価だと感じられがちだ。しかし、昨今の半導体部品の不足や高騰を考えると低価格化はなかなか難しいし、「PS5」と同等の実力を持つゲーミングPCは10万円どころかもっと高価格となることを考えるとそもそもゲーム機としてのコストパフォーマンスは決して悪くない。
そして軽量/スリム化を果たしたことで設置場所に困ることも減り、使い勝手はずいぶんとよくなった。
Ultra HDブルーレイプレーヤーも動画配信サービスのための端末ももっと安い価格で販売されているが、それらを買い集めていくと部屋の中は結構雑然としていくし、それぞれリモコンが違うので使い勝手もよくない。
その点でゲーム機、Ultra HDブルーレイ再生、アプリでの動画配信対応が一体になった「PS5」は総合的なエンタメマシンとしてなかなか便利な存在だ。「PS5」専用のゲームもタイトル数が充実してきたし、今後も人気タイトルは目白押しだ。そのあたりまで考えると「PS5」はやはり魅力のあるマシンだと思う。