河合楽器製作所(以下、カワイ)は、同社が手がける電子ピアノのフラッグシップモデル「NOVUS NV10」を発表した。価格は900,000円(税別)で、2017年10月に発売予定としている。同社の創業90周年記念モデルであると同時に、協業関係にあるオーディオメーカー“ONKYO(オンキヨー)”と共同開発されたことが大きな特徴だ。
カワイの電子ピアノは、入門者が初めてのピアノレッスン用に購入しやすい低価格帯のモデルが有名。90万円というハイグレード機を展開するのは、同社初のチャレンジとなる
オンキヨーの最新プリメインアンプ発表とあわせて演奏会が開催された
カワイの創業は1927年。初代社長の河合小市氏が、当時在籍していたヤマハから独立してピアノ作りをスタートした。それから今年で90周年を迎えたことを記念して開発されたのが、今回発表されたNOVUS NV10だ。
カワイの電子ピアノは、エントリー機であっても、黒鍵・白鍵ともに木製であることがひとつのポイント。さらにNOVUS NV10では、同社製グランドピアノに採用される鍵盤アクション「ウルトラ・レスポンシブ・アクションII」を、電子ピアノ向けに特別カスタマイズして搭載している。加えてダンパー機構も内蔵し、ペダルを踏んだときに鍵盤が軽くなるタッチ感の再現も図った。
実際に弾いてみると、低音部では重く、高音部に行くに従って軽くなる鍵盤の重さまで見事に再現されている。フラッグシップ機として、グランドピアノのような弾き心地を徹底追及していることが実感できる製品だ。
鍵盤は、黒鍵・白鍵ともにもちろん木製。生ピアノと同じように88鍵ひとつひとつの重さを変えている。開発時には同社製グランドピアノから、鍵盤ひとつひとつの重さを計測し、それを再現できるようにしたという
グランドピアノと同じ長さの鍵盤アクションを内蔵。ハンマーのパーツには、カーボンファイバー入りABS樹脂を使用しており、非接触型光センサーでハンマーの動きをより正確に検知する
ダンパー機構も搭載し、グランドピアノにおけるペダルを踏んだときのタッチ感の違いまで再現している
操作インターフェイスは5インチのタッチパネル液晶で、音色の切り替えが直感的に行える
Bluetooth機能にも対応しており、スマホと連携して音源を再生しながら弾くことも
本製品に内蔵されるピアノ音は、同社のフルコンサートピアノ「SE-EX」の音を4chサンプリングしたもの。しかも88鍵の音をすべてモデリングしているという徹底ぶりだ。そのピアノ音を高品位に再現するため、音の再生部にオーディオメーカーであるオンキヨーの技術が投入されている。
具体的には、音の解像度を高める「1-bit processing」や、可聴帯域外からの混変調ノイズを抑え可聴帯域の聴こえ方を向上させる「DIDRCフィルター」など、オンキヨーがオーディオ機器開発で培った独自技術を搭載する。
電子ピアノは、弾いたときに本体内蔵のスピーカーから音が出る仕組みだが、NOVUS NV10は16cm×1、10cm×4、ドーム×1の各ユニットを備える3ウェイ構成。ここにオンキヨー製パワーアンプ「Premium Amps」を搭載することで、スピーカー出力時の音質向上を図っていることにも注目したい。
さらにヘッドホン出力部には、オンキヨーと共同開発したディスクリート構成のアンプモジュール「Discrete SpectraModule」を搭載。ヘッドホン再生時の音質を高めたのもポイントだ。
本製品には、フルコンサートピアノ「SK-EX」の音をモデリング。そのほか、「SK-5」「EX」などの同社製グランドピアノ音を内蔵する
オンキヨーが培ったオーディオ技術を搭載することで、コンサートピアノ音の再現性を向上させている
スピーカー部は、16cm×1、10cm×4、ドーム×1の各ユニットを備える3ウェイ構成
写真上がDAC基盤で、下がオンキヨー製パワーアンプ「Premium Amps」の実物
ヘッドホンアンプ部に搭載される「Discrete SpectraModule」。カワイとオンキヨーが共同開発した
ちなみに、オンキヨーが7月上旬に発売する新しいプリメインアンプにも、同名のDiscrete SpectraModuleを搭載することが発表されている。基本が同じモジュールを、NOVUS NV10ではヘッドホンアンプ用に最適化し、プリメインアンプではパワー段用に最適化した形だ。オンキヨーの製品については、こちらの別記事で詳細をお伝えしているので、ぜひ参照されたい。
こちらが、オンキヨーのプリメインアンプ「A-9150」に搭載される「Discrete SpectraModule」。上のNOVUS NV10に搭載されるものと基本回路は共通だが、プリメインアンプのパワー段用に最適化されているため、形状は大きく異なっている
同じ生ピアノのメーカーとしては、ヤマハも電子ピアノを展開している。同社の場合、楽器とオーディオを両方とも手がけているので、自社内で培ったオーディオのノウハウを投入する形で電子ピアノ開発を行っている。いっぽうのカワイはあくまでも楽器メーカー。そこでNOVUS NV10では、オーディオメーカーのオンキヨーが持つ“音再現”の技術を取り入れたというわけ。オーディオメーカーと楽器メーカーが持つ経験を効果的に融合させた、音楽ファンにとって魅力的な1台だ。
河合楽器とオンキヨー&パイオニアマーケティングジャパンが開催した共同発表会では、ピアニストの圓谷綾乃さんによるNOVUS NV10の演奏も行われた。圓谷さんはNOVUS NV10の弾き心地について、「グランドピアノと同じ自然な感覚で弾けます。和音を弾くときの、手のひらで鍵盤をつかむような手ごたえも感じられるし、ペダルにも繊細に反応するので、音色のニュアンスをしっかりコントロールできます」とコメント。
「弾いていてストレスを感じず、いつまでも楽しく弾けます」と語った圓谷さん
実際の演奏については、ぜひ以下の動画をご覧いただきたい。上の動画はNOVUS NV10でスタンダードに弾いている様子で、下の動画はオンキヨーのプリメインアンプ「A-9150」を使ったオーディオ再生音とコラボした特別演奏だ。