ヤマハから発売されている「トランスアコースティックギター」は、アンプや外部エフェクターを使わず「ギターの生音にエフェクトをかけられる」という新基軸のアコギ。“ヤマハのギター歴30年以上”の筆者が、愛を込めてご紹介します!
アンプがなくてもエフェクトをかけた状態で生音が出てくるのがすごい! ギター愛が加速します
中学2年に進級した春、お年玉を握りしめ、町の楽器店で初めて買ったフォークギターがヤマハの「FG300D」でした。ドレッドノートタイプと呼ばれるふくよかなボディから繰り出される迫力のドンシャリサウンドが楽しくて、夜中までガシャガシャかき鳴らして親にこっぴどく怒られたのはイイ思い出。
以来、大学進学で上京するときも、結婚して家族を持ったときも、いつもヤマハのギターは私の横にいました。30年以上前に買ったギターは今でも現役で、毎日心地よい音を響かせています。
かれこれ38年間、筆者の隣で現役を続けているヤマハ「FG300D」
私のようなフォーク世代のギターオヤジたちは、必ずと言ってよいほどヤマハのギターを1度は手にしています。それほど、私たちにとってヤマハのギターは身近な存在であり、なくてはならないものでした。
そんなヤマハのアコースティックギターが、“おもしろい方向”に進化したというので、早速お借りし弾いてみたのです。
今回ご紹介するのは、「トランスアコースティックギター」なるシリーズ。アンプを通さずに、ギター単体で生音にリバーブとコーラスのエフェクトをかけて演奏できるという、ちょっと変わったギターです。
左が「LL-TA」、右が「FG-TA」(本体カラーはともに「VT:ビンテージテント」)。このほかにも、ボディの形状と色が異なるモデルが「トランスアコースティックギター」シリーズとして、いくつかラインアップされています
ブリッジに内蔵されるピエゾピックアップが、弦の振動を電気信号に変換してエフェクト処理し、ボディ内部のアクチュエーター(加振器)に伝え、その加振器がギター全体を振動させることで、生音ながらエフェクトが効いた音を響かせる仕組みです。
いわば、ギターのボディがスピーカーのコーンの役目をしているのです。ラインを通じてエフェクト音をアンプから鳴らすエレアコは存在しますが、生音でエフェクトがかけられるのはヤマハのトランスアコースティックギターだけ。
裏板の内側に搭載するアクチュエーター(加振器)で、エフェクト信号を振動に変換してギター全体に伝えます
今回は、トランスアコースティックギターの第1弾モデルである「LL-TA」と、2018年1月に登場した最新モデル「FG-TA」の2機種をお借りしてみました。
LL-TAは、2016年11月に発売をスタートした人気モデル。同社の「LL16」(10万円・税別)をベースにトランスアコースティックシステムを搭載したものです。表板はイングルマンスプルース単板、裏・側板はローズウッド単板、ネックはアホガニー&ローズウッド5ピースで構成されています。メーカー希望小売価格は15万円(税別)です。
最新機種のFG-TAは、同社の「FG820」(37,000円・税別)をベースにしたアコースティックトランスギターのエントリーモデル。表板はスプルース単板、裏・側板はマホガニー、ネックはナトーで構成されています。メーカー希望小売価格は8万円(税別)です。
両モデルともに、本体に搭載するトランスアコースティック機構は同一。操作部は、ボディ左側面=ギターを構えたときにプレイヤーから見える場所に配置されています。「リバーブ」「コーラス」「ラインアウトボリューム兼トランスアコースティックスイッチ」の3つのダイヤルを装備しており、スイッチは長押しするとオンになります。
ボディ左側面にあるトランスアコースティックの操作部。下のラインアウトボリュームを長押しするとスイッチが入ります。オフにするときも長押しします
スイッチが入ったことは、ボディ内部の基盤のLEDが光ることで確認できますが、サウンドホールをいちいちのぞき込まなければいけないのがちょっと面倒。操作部にLEDを搭載して弾きながらでも確認できるようにすれば、演奏中にもオン/オフの切り替えができて便利だと思いました。
スイッチのオン/オフはサウンドホールから内部の基盤を覗いて確認。緑色LEDが点灯するとオン。ちょっと見づらい
エフェクトは「コーラス」「リバーブ・ホール」「リバーブ・ルーム」の3種類。リバーブ2種はひとつのダイヤルで切り替わります。「コーラス」を強くかけると12弦風のサウンドになり、豊かな音色が響きます。「リバーブ・ホール」は、抜けるような残響音で音に広がりを感じることができます。
いっぽう、「リバーブ・ルーム」はお風呂場のような若干くぐもった残響音で、手元に音の余韻が残る感じ。ソロ弾きは「リバーブ・ホール」、アルペジオは「リバーブ・ルーム」と、好みや曲によって変えて楽しみたいです。コーラスとリバーブ1種類を重ねてかけるとより12弦っぽくなるので、筆者は弾きながら“あの名曲”をなんとかマスターしよう! という気持ちなりました(笑)。
なお、電池ボックスはストラップピン(エンドピン)の部分にあります。秀逸なのは、単3乾電池2本を使用していること。一般的に、アコギに後付けでピックアップを取り付ける場合、電池ボックスはサウンドホールの内側(しかも奥の方)に設置され、電池交換をするのにいちいち弦をはずす必要があります。しかも9V電池が一般的なので、急な電池切れに困らないようストックしておく必要も。
いっぽうのトランスアコースティックギターは、電池ボックスがエンドピン部分にあるので取り替えが簡単。加えて、コンビニなどでも販売している単3乾電池を採用しているので、入手も楽です。
電池ボックスはエンドピン部に設置。簡単に電池交換できます。単3乾電池2本利用。なお、ストラップピンはラインアウトジャックも兼ね備えているので、シールドを使えばアンプから音を出すこともできます
ヤマハのアコースティックギターはピックガードが特徴的ですが、トランスアコースティックは一見、ピックガードがないように見えます。しかし、実は透明なピックガードが貼ってあるのです。これにより木目がよく映えて、ボディの美しさがより一層際立ちます。
見えにくいですが、透明なピックガードが貼ってあります
それでは、動画を交えながらサウンドをご紹介しましょう。最初はFG-TAから。「エフェクトなしの生音→コーラスMAX→リバーブ・ホールMAX→リバーブ・ルームMAX→コーラスMAX+リバーブ・ルームMAXの重ねがけ→コーラスMAX+リバーブ・ルームMAXの重ねがけでアルペジオ」の順番で弾いています。なお、私は普段、家電製品のレビュー記事を専門としており、ギターは下手の横好き程度なので、テクニックに関しては目をつぶってくださいね(笑)。
FG-TAは、どちらかというと音が硬い感じがします。音が若いとでも言いましょうか。高音がかなりきらびやかに響き、とてもヤマハらしい音の出方です。ボディが軽く、気軽に弾けるので、若い人や女性などの入門編に最適な1台ではないでしょうか。
次にLL-TA。以下、FGと同じ順番で弾いてみました。
全体的にまろやかでやさしい音ですが、“ドンシャリ”の“ドン”が自分のお腹に響き、重厚な音づくりを感じます。中高音も粒がそろっており、エフェクトをかけなくてもボディ鳴りによる残響音が強く、心地よい余韻にひたることができます。
肝心のトランスアコースティックシステムですが、ボディ鳴りによる残響音、ボディ内部の空気感もマイクで拾ってエフェクトをかけるため、アンプを通じた音よりも豊かで艶のある響きが得られます。
これは実際に弾いてみないとわかりづらいことなのですが、他人の演奏を正面で聴くより、弾いているプレイヤー本人のほうがエフェクト効果を強く感じることができ、弾く人がかなり気持ちよくなれます。スコッチウイスキーでも飲みながら、自分の演奏にうっとり酔いしれる、そんなナルシズムに浸りたくなるギターなのです。
せっかくなので、私がよくギターを弾きに行く東京・大塚のミュージックバー「brother」にLL-TaとFG-TAを持ち込み、常連客たちに試奏してもらいました。
取材協力:東京・大塚「LiveBar brother」(http://ameblo.jp/livebarbrother/)。アットホームでステキな店内にトランスアコースティックギターを持ち込んでみました。以下、常連客たちが楽しんで弾いている様子を、動画でお届けします!
常連客たちの評判はすこぶるよく、皆で何度も試奏して楽しんでくれました。以下、常連客が弾いてみた感想をご紹介します。
▼トランスアコースティックシリーズ全体の感想
・弾いている本人がとても気持ちよくなれる。
・エフェクトをかけても音がクリア。ジャカジャカ弾いてもにごらない。
・リバーブをMAXにしてジャカジャカ弾くのがとても楽しい。
・アンプを通さなくてもサスティンがあり、その残響音が心地よい。
・ホームパーティーや路上ライブ、カフェでのライブなど、アンプがないところで演奏するのにちょうどよい。
・ライブのときにもエフェクターを持って行く必要がないのがイイ。
・コーラスをMAXでかけると12弦ギターのような厚みが出る。
・ウエストコースト系のサウンドにマッチしている。
▼FG-TAの感想
・エフェクトの効果でうまくなった気がして弾くのが楽しくなるから、入門用として最適なギター。
・マホガニーボディは音が明るく、ナチュナルでクセがなくてよい。
・弦高が低く、テンションも低めで弾きやすい。
・ボディが軽く、長時間弾いても疲れない。持ち歩きにもよい。
▼LL-TAの感想
・1音1音にムラがなく、低音から高音までバランスがよい。
・中高音のきらびやかなヤマハの特徴がよく出ているモデル。
・最初から中高音がよく鳴るので、弾き込むことで低音も出るようになり、よりバランスがよくなる。
・ボディが乾いて振動するようになると、さらによい音になる予感がする。育てるのが楽しみなギター。
・ローズウッドのボディは甘く伸びやかな音がする。メジャー(長調)サウンドのストロークによく合う。
誰かが1度弾き始めたら、どんどん仲間が加わってきて、セッションが止まりません! トランスアコースティックギターを楽しみ尽くす夜となりました
筆者は、就職して、結婚して子供ができてからもギターは弾き続けてきましたが、ちょっと前までは家の中で1人で楽しむだけでした。数年前、思い切ってフォーク居酒屋の扉を開けたとき、そこには自分のようなオヤジだけでなく、老若男女、年代・立場さまざまな人々がたむろし、みんなでギターをかき鳴らして歌を口ずさむ、そんな楽しい風景が広がっていました。
トランスアコースティックギターはひとりで楽しむのにも楽しい1台ですが、音楽仲間が集まる場に持ってゆき、仲間たちに自慢しながら一緒に弾ける最高のギアです。仲間たちも「弾かせて!」と言ってくること間違いなく、そこから楽しいセッションが始まることでしょう。リターンプレイヤーも、これから始めるビギナーにも、ぜひ手にしてほしいギターです。
■取材協力
東京・大塚「LiveBar brother」(http://ameblo.jp/livebarbrother/)