レビュー

自宅に置く価値あり! BOSSのギターアンプ「Nextone Stage」の“真空管ロマン”がアツい

趣味ギタリストにとっていちばん悩ましいギター機材って、やっぱりギターアンプですよね。エフェクターと違って設置スペースを取るので、あれもこれもと自室に置くわけにもいかず、自分にとってベストと思える1台を見極めて選ばなくてはいけません。

最近はVOX「amPlug」シリーズのような、持ち運びにも便利なヘッドホンアンプを使用する人も多いでしょう。とはいえ、やはりギターは大音量でがっつり鳴らすのが1番! どうせなら「コレは自室に置く価値あり」と思えるアンプに出会いたいものです。

そこで、こんな製品はいかがでしょう? このデジタルモデリングアンプ全盛時代に、独自の設計回路で真空管ギターアンプを再現するというスペックがアツい、BOSS「Nextone Stage」です。以下より、ロマンの極めっぷりをレビュー!

普段はオーディオ製品のレビューを主戦場にしながら、趣味でギターを弾いている筆者。“ご自宅ギタリスト”を代表して、Nextone Stageの魅力を語ります

真空管アンプもデジタルアンプもしっくりこない……

「これぞギターアンプ!」という音色と満足感を確実に与えてくれるのは、真空管による増幅回路と大口径のスピーカーを搭載したチューブアンプだと思います。

しかし、そのようなチューブアンプは概して高価だったり、使いこなしにコツが必要だったり、中〜長期的には真空管交換を筆頭としたメンテナンスも必要だったりします。最近は超小出力で小型のチューブアンプもあるのですが、選択肢がそれほど広いわけではありません。

そこで近年広まっているのが、デジタル技術によるモデリングで真空管増幅回路の動作をシミュレートし、その音色や反応を再現する「デジタルモデリング系アンプ」です。アマチュア自宅ギタリスト向けの小型モデルはもちろん、ここ数年ではプロギタリストがステージやレコーディングで愛用するほどのクオリティに達している製品さえあります。

1台でさまざまなギターアンプの名機のサウンドを叩き出せるので、多彩な音色を使い分ける必要のあるギタリストには特にありがたいのではないでしょうか。

……なのですが、むしろ逆にと言いますか、プロの仕事道具としては文句なしの完成度に達したデジタルモデリングアンプですと、アマチュアが趣味で使う場合に「ちょっとおもしろくないかも……」と感じる方もいるかもしれません。デジタルモデリングアンプはビンテージでもなければ最新でもなく、現在のスタンダード(=つまり普通)なので、逆に「趣味性」という点でのインパクトや満足度が弱くなる面もあるわけです。

ローランド/BOSS独自の「Tube Logic」に今こそ注目

そんなあなたにご紹介したいのが、BOSS「Nextone Stage」です。2019年3月7日時点での価格.com最安価格は、59,400円(税込)。

見た目はまぁごく普通のギターアンプだが……

見た目はまぁごく普通のギターアンプだが……

こちら、真空管アンプのサウンドを鳴らせる製品なのですが、真空管増幅回路は入っていません。しかもモデリングとも異なるのです。真空管アンプの1つひとつのパーツの精密な動作と、それぞれが相互に作用し合って起きる複雑な振る舞いを徹底的に分析し、アンプ全体をトータルに設計した「Tube Logic」という概念が反映されたアンプです。

デジタルモデリングアンプがスタンダードのこの時代に、独自設計でチューブアンプを再現しようというそのロマン! 実用性だけでなく趣味性も全開! そのおもしろさを、以下に解説していきましょう。(※2019年3月8日追記:記事初出時、「アナログ回路で真空管サウンドを再現する」と記載しておりましたが、製品がフル・アナログスペックのように誤解を招くため本文を修正しました。お詫びし訂正いたします)

アンプの定格出力は40Wで、口径12インチのスピーカーユニットを装備

アンプの定格出力は40Wで、口径12インチのスピーカーユニットを装備

▼真空管ギターアンプならではの“クセ”

真空管ギターアンプには、「ならではのクセ」みたいな動作がいくつもあります。まず、オーディオ用真空管アンプで想定される限界を超えた増幅でこそ、真空管ギターアンプは本領を発揮します。そのせいでといいますか……その限界超えとなる最大音量付近でないと心地よいひずみを得られにくいんです。

さらに、最大出力ギリギリで要求される大電力の供給に電源トランス等が応えきれず、瞬間的な電圧低下を引き起こすサグ。普通はエラーとして扱われるようなこの現象も、ギターアンプでは真空管増幅ならではの音色や反応に欠かせない要素として求められます。ほかにも、スピーカーを含めてさまざまな回路やパーツが相互に複雑に干渉することで生み出されているのが、真空管ギターアンプの音色と感触なのです。

今回フィーチャーするTube Logicは、このさまざまな要素が複雑に相互作用して生み出される真空管アンプのサウンド、フィーリング、そしてレスポンスを徹底的に追求しているそう。

この技術はもともと、1990年代にローランドから登場した「Blues Cube」シリーズのアンプが初出。結構歴史があるのです。そのBlues Cubeが2010年代に再登場した際にこの技術もアップデートされ、続いてローランドグループの別ブランドであるBOSSにも導入され、この「Nextone」シリーズが誕生したという流れです。

こちらがローランドの「Blues Cube Hot」

こちらがローランドの「Blues Cube Hot」

開発初期のプロトタイプ。詳しくは同社「The Tube Logic Story」サイトにて(https://www.roland.com/jp/promos/tube_logic/)

Nextone Stageのココスゴ!

しかもNextone Stageはロマン1点勝負ではなく、その実力もすばらしいのです。真空管らしい音色と感触の再現性は実に高度に仕上がっていますし、さらに「Tube Logicならでは」の利便性も備えています。

▼1:実用的パワー・コントロール

まずは便利ポイントから紹介していきましょう。ひとつは「パワー・コントロール」機能です。

このパワー・コントロールノブによって、音色と音量の調整が飛躍的にやりやすくなる!

このパワー・コントロールノブによって、音色と音量の調整が飛躍的にやりやすくなる!

Nextone Stageは、アンプ出力40W、スピーカー口径12インチ。ライブステージにも対応できる余裕のスペックですが、代わりにベストの音色を叩き出せる音量の基準も大きいので、小さなステージ、ましてや自宅で使えるものではありません。

そこでパワー・コントロール機能です。アンプの出力を「0.5W/HALF/MAX」と切り替えられます。もちろん、大音量時のアンプ回路全体の相互干渉のシミュレートを維持したままに、です。特に0.5Wモードなら、自宅利用も可能。音量が小さくなれば耳への聴こえ方はやはり変わりますが、それでも真空管アンプとして違和感のない音色や反応は変わらずです。

▼2:よりどりみどりのアンプタイプ

もうひとつは、「パワーアンプ・タイプ」切り替え機能です。

真空管ギターアンプには、歴史的で代表的ないくつかのモデルが存在します。それぞれ用いる真空管の種類も回路の設計も異なり、もちろんサウンドも異なります。Tube Logicで真空管アンプを再現するにしても、どのタイプを再現するかによってサウンドが全然違ってくるわけです。

もうおわかりでしょう。このNextoneシリーズ、Tube Logicで再現できるパワーアンプのタイプを、複数から選べるのです!

真空管アンプの名機たちがこの1台に!?

真空管アンプの名機たちがこの1台に!?

それぞれ真空管の種類から名前が付けられており、BOSS公式の案内文によると以下のような具合です。

・「6V6」多くのアメリカン・スタイルの小型アンプに搭載されており、甘く、バイト感があり、心地のいいコンプレッションが特徴です。

・「6L6」アメリカン・スタイルの大型アンプやモダンなハイゲイン・アンプに搭載されており、抜けの良さと高いヘッドルーム、ふくよかなミッドレンジで知られています。

・「EL84」50年代後半〜60年代前半に登場したブリティッシュ・コンボ・アンプのパワー管として有名。小音量ではクリアできらびやかなクリーン・トーン、クランク・アップすれば、深くマイルドなひずみが得られます。

・「EL34」ブリティッシュ・スタック・アンプのパワー管。暖かみのある骨太なトーンが愛されています。ロック・ディストーションといえばこのサウンド。

……直接的に言ってしまうわけにもいかないのでしょう。少し遠回しな言い方ですよね。そこで、あくまでも筆者の推測ベースであることをお断りしたうえで、もっと直接的に言い換えてみましょう。

・「6V6」→Fender Deluxe Reverb、Princeton Reverb等
・「6L6」→Fender Bassman、Mesa/Boogie等
・「EL84」→VOX ACシリーズ
・「EL34」→Marshall

これらの名機を意識した設計になっているかと思われます。しかも、スイッチひとつで切り替え可能。アンプの魅力は音色の幅や操作の便利さだけではありませんが、この機能に関しては素直にうれしい方が多いのではないでしょうか。

▼3:その他スペックもチェック

ほかの機能もさらっと確認しておきましょう。Tube Logic周りでは、PCアプリ「Nextone エディター」が用意されています。こちらを使うと、トーン回路の方式をアメリカンとブリティッシュの2方式から選べたり、真空管回路におけるバイアス電流やサグの具合をいじってサウンドやレスポンスを調整したりと、真空管アンプを自作するかのようにマニアックなセッティングが可能です。

ゴテゴテとマルチエフェクターを内蔵したりはしていませんが、基本的なディレイ、トレモロ、リバーブは標準装備。ギターからアンプに直でも不足はありません。エフェクト・ループも用意してあります。

デジタル機器的に複雑なところは何もなく、普通にギターアンプらしいわかりやすい操作パネル

デジタル機器的に複雑なところは何もなく、普通にギターアンプらしいわかりやすい操作パネル

ライン、ヘッドホン、USBデジタルの出力には、スピーカーから音を出してマイクで録音した際のサウンドをシミュレートする機能が搭載されており、サイレントレコーディングにも対応可能です。

上記の出力のほかにエフェクト・ループも用意

上記の出力のほかにエフェクト・ループも用意

【動画あり】実際に弾いてみた! 良サウンドで実用性も高い

というわけで、以下は実際に弾いてみた印象です。今回は筆者私物であるFenderのメキシコ製モデル「Classic 70s Stratocaster」と組み合わせました。ナット交換やフレットの擦り合わせといったメンテナンスは自前で行なっていますが、ほかはサドルをチタン製に交換してある程度でおおよそノーマル状態です。

どのモードにもそれぞれうならされましたが、個人的に特に気に入ったのは、おそらくVOXアンプを意識していると思われるEL84モード。ほどよくひずませたクランチサウンドのジャギンッ! というエッジ感がすばらしいです。

また、おそらくMarshall風のEL34モードでは、リードチャンネルゲイン全開! ブーストスイッチオン! からのパワー・コントロールで音量ダウン! というセッティングにすれば、自宅でもご近所から苦情をいただかない音量でハードロック的なディストーションサウンドを叩き出すことが可能。ひずませにくいストラトキャスターとの組み合わせなのに、です。

なお、クリーンからクランチの領域では、パワー・コントロール機能に頼らなくとも、自宅での利用に差し支えない小音量での使用も十分に実用的です。というのもこのアンプ、ボリュームやマスターボリュームのノブをかなりしぼっても、音量が一気にガクンと落ち切ってしまったり音色が極端に変化してしまったりということがありません。

伝統的な設計の真空管アンプは、小ボリュームだと音量の微調整が難しかったり、ショボい音色になりがちなのですが、さすがこちらは最新設計。同じ音量でも、パワー・コントロールでしぼるのとマスターボリュームでしぼるのだとやはり少し音が違ってくるので、両方試して好みのほうを選ぶのがよいでしょう。

最新アンプなのにファズとの相性までイイ万能っぷり!

あとNextone Stageの特筆点としてあげておきたいのは、Fuzz Faceタイプのペダルとの相性のよさです。

今回使用した「Cornell 108 Fuzz」は、いわゆる“後期ジミヘン”的サウンドのFuzz Face系ペダル

今回使用した「Cornell 108 Fuzz」は、いわゆる“後期ジミヘン”的サウンドのFuzz Face系ペダル

1960年代に、当時のギターアンプに合わせて設計されたFuzz Faceペダル。現代のアンプと組み合わせると本来の音色を発揮できなかったり、ギター側のボリュームノブの調整での音色変化が損なわれたりと、使い物にならなくなることも少なからず。デジタルモデリング系アンプだと、Fuzz Faceとの相性に問題がないモデルのほうが少ないのでは? と思うほどです。

対してこのNextone Stageは、Tube Logicのおかげなのか、Fuzz Faceとの相性がすこぶるイイのです! パワー・コントロール機能による音量調整のしやすさも考慮すれば、ビンテージ真空管アンプよりもFuzz Faceと合わせやすいかも……。

以下の動画、ファズペダルを踏んではおらず、ギター手元のボリュームだけで音色を変えていることに注目です。

まとめ:ご自宅ギタリストのみなさん、ぜひ注目を!

というわけでまとめますと、音色は文句なし! 音量の調整幅もライブから自宅まで対応! スゴいぜNextone Stage!

ただし、12インチスピーカー搭載のフルサイズコンボなので、音量ではなく物理的な大きさから、置ける部屋が制限される点はどうしてもあります。NextoneかBlues Cubeに、10インチスピーカー搭載で横幅40cm以下といったモデルが追加されたらとてもうれしいのですが……。

しかしその実力は上述の通りで、ちょっと無理をしてでも「コレなら部屋に置きたい」と思えるほど魅力的。部屋の設置スペースに余裕があるという方にはイチオシの逸品です。アンプ選びに迷い続けているご自宅ギタリストのみなさま、ぜひ注目を!

高橋敦

高橋敦

オーディオ界隈ライター。現在はポータブルやデスクトップなどのパーソナルオーディオ分野を中心に、下からグイッとパンしていくためにてさぐりで活動中。

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