筆者は普段、「自堕落王(ジダラキング)」なんて名乗って、ゴロゴロ&ダラダラして生きていますが、残念ながら、怠惰に寝ているだけでは生活費が稼げない!という厳然たる事実は無視できません。
ということで、最新文房具のレビューなんかを書く“文房具ライター”なることもやっていたりして。ただ、そんな仕事をやっていくにあたり、僕にはひとつ致命的な欠点があります。それは、字が死ぬほどヘタということ。
字がヘタだからこそ、「自分の書き癖に合う、字がきれいに書けるペン」はないものかとあれこれ模索し続けた結果、やたらと文房具に詳しくなってライターになる、という流れではあるんですが……。しかし、そんな仕事に就いたところで、字はやっぱりヘタなまま。恥ずかしいので、日常的にもできるだけ手書きをせずに済ませられないか、とばかり考えています。
原稿を書くのもPCで済むし、プリンターもあるしで、普段は大体何とかなっているんですが、それでもたまには、手書きを要求されることもあるじゃないですか。マジで世の中から筆記具が完全に消滅したらいいのに、ぐらいは思うほど字がヘタなんですが、そうなるとまず失業確定なのが、難しいところ。
であれば、仕事を失わずに済み、かつ手書きをしないで済む、ラクな道具を探すのが正しいですよね。
紙にダイレクトに印字できるコンパクトなプリンターも、宅配便などの複写式伝票には使えません。スマホ経由での手書きレス伝票作成もあるっちゃあるけど、すべての宅配サービスで使えるわけじゃなし。やっぱり手書きはまだ必須なんですが、そこを何とか機械に代わってもらうわけにはいかないものか、と。ムシのいい話ですけど、でも、そんなのがちゃんと出回っているんだから、世の中ってチョロい。
人間に代わって手書きしてくれる夢のマシン「ワードライタ BL-80N」
その手書きマシンというのが、ホチキス(ステープラー)でもおなじみMAXの「ワードライタ BL-80N」です。
従来モデル「ワードライタ BL-80」のバージョンアップモデル(筆記速度向上など)として、2021年1月に発売されました。見た目は、キングジムの「テプラ」などのラベルプリンターに似た雰囲気ですが、これがどうやって手書きをしてくれるのか、ピンとこない人もいるかも。
であれば、実際に動いているところを見てもらうのが手早いでしょう。
まずは、本機のキーボードで文字を入力して、本体を紙の上に位置合わせして乗せて、スイッチオン。
ほら、ちゃんと手書きしていますよ。
いや、書いているのは機械なので、手書きの概念がややあやふやですが、機械のアーム(手)がガシャガシャ動いて書いているんだから、よしとしましょう。何より、めっちゃ読みやすいし。
機械に最適化された動きなので、ひらがなの「う」を下から上へ書くとか、書き順はめちゃくちゃなのも、ちょっと面白い。
文字の入力はこのキーボードで。あまり早打ち入力できるタイプではないので、長文を打つには時間がかかります
本体に印刷されたQRコードからマニュアルが見られます。細かな設定項目などが多いマシンなので、サッと確認できるのはうれしい
ちなみに、アームが保持しているのは、軸こそ専用軸ですが、中身はごく普通の油性ボールペン。なので、普通に筆圧も発生して、複写伝票にバッチリ対応しています。
筆圧が必要でないなら、油性サインペン(ここではSTAEDTLERの「ルモカラー」)に専用アタッチメントを装着して使うことも可能。
専用ボールペンは、グリップの端がネジになっているので、これでアームに固定します
アタッチメントを使えば、市販のサインペン(専用ボールペンよりも描線がくっきり)も使えます
器用なことに、この手書きマシンは、複数の字体を書き分けられます。
インストールされている字体は、やや丸文字気味で読みやすい標準字体に、スマートなペン字体、太字、明朝体、楷書体と、全部で5種類。標準字体とペン字体以外はかなり太めですが、これをボールペンでどうやって書くかというと、こんな感じ。
可読性の高い標準体や手書き風のペン書体あたりが、使用頻度高そう
字の輪郭をまず書いて、ちょっとずつ周囲をなぞって太くしていき、最後に白い部分をグリグリと塗り潰すという、なかなかにプリミティブな手法。最初に見た時は、思わず「そういうやり方かよ!」と声が出るのもやむなしですよ。複雑な漢字もちょっとずつ塗り潰して書いていく様子はなかなか楽しくて、ついついじーっと見入ってしまいます。楽しい。
あまりの楽しさにキャッキャしちゃいそうですが、冷静に考えると、これ、どこまで実用的なのかというのは気になります。なんせ、定価で税込16万円弱ですから。
ユーザー層として想像できるのは、ペンで手書きをすると死ぬ呪いをかけられている人か、日常的に同じ内容の手書きを大量に行う必要がある人。
つまりは、宅配伝票やマニフェスト用紙(産廃物の管理票)といった複写紙を業務として書く必要のある企業向けって感じですよね。
業務で使うと考えれば、まず思いつくのが伝票記入。MAXから借りている「BL-80N」のデモ機を返却する際も美しい文字で発送できます
そもそも価格的に考えても、「字が汚いから手書きするのイヤだなー、ぐらいで手を出していいものじゃない」というのは、さすがの「自堕落王(ジダラキング)」でもわかります。ただ、せっかくデモ機をメーカーからお借りしたんだから、個人レベルで手書きをラクにして得られるメリットはないものか、というのも考えたい。
文字間などを数値で設定できるので、定められたマスに文字を埋めるのも問題なし(写真では、設定を間違えて、ややはみ出しました)
まずひとつあげられるとしたら、文豪の人用ではないか、と。
普通の作家やライターはPCで仕事すりゃいいですが、文豪と名乗るのであれば、ここはやっぱり原稿用紙に手書きでないと、箔が付きません。とは言っても、手書き原稿の字がヘタだと、いろいろと面倒は多いでしょう。
悪筆の宮沢賢治や黒岩重吾は編集者泣かせで有名ですし、石原慎太郎に至っては、あまりに字がヘタ過ぎて、編集部に彼の字が解読できる専門家……通称「慎太郎係」を置かざるを得なかったという話もあるほど。
石原慎太郎も「BL-80N」を持っていたら、編集者が泣かずに済んだだろうに
そんな悪筆文豪だって、縦書きもできる「BL-80N」があれば大丈夫。1マスのサイズと行間に合わせて設定すれば、このとおり、原稿用紙にも美しい字で手書きが可能となります。
問題があるとしたら、1度に書ける範囲が最大で120mmという点。400文字詰め原稿用紙のタテ14マスまでしか埋められないので、やや紙のコスパは悪くなります。まぁ、16万円近い手書きマシンを導入している時点で、小さなコスパを気にする文豪もいないと思いますけど。
学校の宿題だって「BL-80N」があれば……!
あとは、同じ字をラクに繰り返し書けるという部分を生かして、漢字の練習帳を埋めるのもアリかもです。これなら、延々と漢字を書き続ける無間地獄のような宿題だって、あっという間にクリア! 読み仮名だってちゃんと記入できます。
きれいな文字で漢字がスラスラ! ただし、原稿用紙と同じく、紙の下のほうのマスが埋められないのは問題ですが
「漢字練習帳が心の底から憎い」というお子さまには、これは福音となるかもしれません。少なくとも僕が小学生の頃にこれが手元にあったら、間違いなく使っていたような。
当然のように、先ほどの筆記可能範囲が足りてない問題に加えて、そもそも漢字をおぼえるという点で役に立つのか問題や、先生に即バレるだろう問題とあれこれ山積してますが……(よい子は自分で頑張ろう!)。
最新機能系から雑貨系おもちゃ文具まで、何でも使い倒してレビューする文房具ライター。現在は大手文房具店の企画広報として企業ノベルティの提案なども行っており、筆箱の中は試作用のカッターやはさみ、テープのりなどでギチギチ。