ファイナンシャルプランナーの山崎です。前回は「ビットコインやFXは投資でなく投機?」と題し、「投資」と「投機」の違いを説明しました。今回は本やゲーム、DVDなど、つい自分が好きなものを買いそろえてしまう「積ん読(つんどく)」「積みゲー」「積みDVD」のクセがある人に向けて、賢い買い物術をお伝えします。
購買行動の一種として「積む」があります。たとえばゲームであれば、「いまはすぐ遊べないけれど、いつかは遊ぶ」つもりで発売日に買い、棚に載せておく状態のことを指します。これは「積みゲー」と呼ばれる行為です。
もちろん「積む」という以上は、1つのゲームで終わらないことを意味します。遊ぶ暇もないまま次のゲームを購入し、ケースを重ねていくので「積む」です。いくつか重ねていくうちに、下のほうのゲームは開封もされずに埋もれることになります。
同じことを書籍でやった場合は「積ん読(つんどく)」、DVDなどのソフトを買い貯めている場合は「積みDVD」となります。
オタクというのは一般にコレクション欲、所有欲がありますので、こういう状態になりがちです。しかし、マネープラン上は大きな問題です。どんなに考えても、そのための支出は、あなたに所有欲を満たす以外の何のメリットももたらさないからです。新品のパッケージを正規価格でそろえる行為は、非常にもったいないといえます。
今回はそんな「積み」の買い物について考えてみます。
かつてベストセラーのゲームソフトなどは、買えるときに買っておかなければ、いつ入手できるかわからないリスクがありました。当時の記憶が残っている人は、つい初回発売日に買ってしまいます。ところが、最近では入手に焦る必要はほとんどなくなりました。
初回限定版に魅せられて買い、積んでしまう人もたくさんいます。ゲームやアニメソフトなどは「初回限定版」と銘打ち、いろんなオマケをつけて販売することが多いようです。ファンである以上「これは絶対に入手しなければ」と躍起になり、つい買ってしまいます。
しかし、数か月後にネットで検索していたら、初回限定版が半値で売られていることに気がつくことも意外と多いものです。ちなみに、価格.comで「お気に入り」登録をしておくと、最安値がすぐ通知されて便利です。
(関連記事:価格.comのマイページを活用しながら「安値を待つ」習慣を身に付けよう)
制作者を支えるのだ、と「積み消費」を正当化する人もいますが、最近のメディアは初回のパッケージだけで収入を得ているわけではありません。アニメならネット配信などで息長く視聴されていたりします。
「積み」の買い方が一番問題なのは、初回版を焦って買って、視聴したり、遊んだりする暇がないまま、その間にすぐ廉価版が発売されることです。
いまの時代、多くの媒体で「廉価版」が出るようになりました。初回限定版をBlu-ray(ブルーレイ)ディスクで全巻そろえても、その後に「完全生産限定版 Blu-rayボックス発売決定!」とやられます。ちゃんと見ていない間に、別の特典がついた割安なものが並ぶことになります。もう一度買うのはまったく馬鹿らしいといえます。
ゲームも一定期間を置いて廉価版のパッケージを発売することが、いまや一般的です。しかも有料配信されていたダウンロードコンテンツがセットでお得に入手できたりします。遊んでいなかった人にとっては、お得な買い物ができることになります。
書籍も単行本で出たものが文庫版になることは、誰でも知っていることです。単行本と文庫本の価格差はほぼ半値という感じです。読まない小説を寝かせ、文庫本を書店で目にするのは残念です。ただし、最初から文庫本で発売されるライトノベルに限っては廉価版が発売されないので、このケースでは例外的です。
書籍については絶版になるリスクがあることが、少しだけ「積み」を正当化しやすい理由として挙げられます。確かにコミックの第1巻などは印刷部数が抑えられ、タイミングを外すとなかなか手に入らないこともあります。
また、書籍は基本的に価格が変わりませんので、買う時期で値段の変化はありません(再販売価格維持制度)。そのため、発売日に買うのと数年後に買うのとでは購入時点で価格差がつくことが基本的になく、むしろ本棚に並べておくことのほうが「読みたいときに読める」という有利さをキープできました(中古書籍はのぞく)。
ところがこの問題もまた、「発売日にすぐ買うのが有利とは限らない」ようになりました。そう、電子書籍です。電子書籍の面白いところは、キャンペーン価格の存在です。ベストセラーのビジネス書がパワープッシュされてポイント還元率が上がったり、そもそもの購入価格が下がったりすることがあります。
出版社のキャンペーンや著者ごとのキャンペーンなどが設定されると、「コミック20冊全巻で○○円!」とか「全巻半額!」といったキャンペーンになります。
こうなると、電子書籍については「すぐ読まないものはすぐ買わない」のが鉄則となります。むしろ値下がりのタイミングを待って、お得なときにコツコツ買いそろえるほうがいいわけです。
いまの若い世代、20〜30代の読者の中には、ここまで読んで「そういう買い方は意味がわからないんだけど…」と思う人が多いかもしれません。それは、世代が若くなるにつれて、所有に対する執着のようなものが減ってきているからです。
ゲームはスマホゲームの基本プレイ無料が標準で、アニメや映画は月額課金のオンライン配信を当たり前のように利用していると、所有欲がほとんど無意味であると考えるようになります。月額課金サービスをいくつも契約するのはオススメできませんが、それでも「積む」よりは賢い消費行動といえます。
ライフスタイルは「所有」から「シェア」あるいは「オンデマンド」に変わりつつあります。千葉商科大学の伊藤宏一教授はこれを「ライフプラン3.0」と呼んで研究されていますが、割高な所有がマネープラン的に有意義ではないと、きちんと考える時期に来ていると思います。「積む」という買い方は、もう時代遅れなのです。
マネープランとして考えたとき、あなたが積めば積むほど、将来に向けたお金を貯める余地を少なくしているといえます。しかも、積んだものの資産価値は落ち続けていきます。
毎月2万円「積む」人は、30歳から60歳にかけて720万円を「積む」ことになりますが、その後の廉価版などにより価値が半減したとすれば、360万円はムダな出費だったということになります。
逆に、毎月2万円ずつを30年にわたって年利4%で資産運用できたとすれば、「積む」ことで消えるはずだった720万円は1388万円まで増え、人生でたくさんの安心をつかむことができるチカラとなります。そこから廉価版を買ったとしても、1000万円のお釣りが来るほどです。割高な買い物を繰り返してお金がなくなった人が老後破産におびえることと比べ、大きな違いです。
毎月2万円積み立て、年4%の運用収益があった場合の投資成果の推移(金融庁のシミュレーション機能をもとに作成)
私もかつては「積む」オタクでしたが、28歳から30歳の頃、徹底的に「積む」を禁じてみたことがあります。すると、「使わなくても自分の人生の豊かさはたいして変わらない(しかもお金は貯まる)」ことに思い知らされました。
あなたがもし「どうもお金が貯められない」と悩んでいるなら、「積む」消費をストップするところから始めてみましょう。
もちろん、本当に大好きなもの、本当にいますぐ読んだり遊んだりしたいと思うものを発売してすぐに買うことは、ムダでもおかしいことでもありません。感動や喜びは生活においてとても大事な要素ですし、発売当日にわくわくして本屋に駆け込んだりする気持ちはいつになっても忘れたくないものです。
「買ったその日にパッケージを開けてちゃんと遊べるもの」だけに消費を限る。それは賢い買い物術の外せないポイントの1つではないでしょうか。
※本記事は、執筆者個人または執筆者が所属する団体等の見解です。