日々存在感を高めているキャッシュレス決済。当メディアでは毎月、キャッシュレス決済関連の動きを月イチでまとめた連載、「おトクの真相! 月刊キャッシュレス展望」を掲載しています。今回は、2021年のキャッシュレス決済の総まとめとして、連載で取り上げた題材に最新情報を交え、5つのテーマに再編集してお届けします。
(本記事の日付は特別な記載がない限り2021年のもの)
最新の情報で登録者数が4,400万人を突破するなど、決済サービスとして圧倒的な規模を誇る「PayPay」。ちょうど1年前、やはり年末のキャッシュレスふりかえり記事でPayPayの登録者数が3,300万人を突破したことお伝えしていましたが、今年1年間で約1,000万人を上積みしてきました。
PayPayの規模の拡大に拍車をかけそうなのが来年に控えている「LINE Payとのサービス統合」です。今年3月、PayPayを傘下に持つZホールディングスと、8,000万人のユーザーを抱えるコミュニケーションアプリLINEが経営を統合。これにより、LINEの決済サービス「LINE Pay」とPayPayが国内の決済サービス事業を2022年をめどに統合し、PayPayに一本化すると発表しています(海外ではLINE Payブランドが存続予定)。今年すでに、PayPayの加盟店でLINE Payを使った支払いが可能となっており、LINEポイントからPayPayボーナスへの交換もスタート。着々とサービス統合に向けて動いています。
▼参考記事
2022年にPayPayとLINE Payがサービス統合。4月より加盟店連携などがスタート(価格.comマガジン)
https://kakakumag.com/money/?id=16771
2021年は、規模の拡大とともにPayPayのブランド強化が印象付けられた1年でもありました。2月の「PayPay証券」(前身はOne Tap BUY)誕生を皮切りに、「PayPay投信」(前身はYjam)、「PayPay銀行」(前身はジャパンネット銀行)、「PayPayカード」(前身はワイジェイカード)、「PayPay保険」(前身はYahoo! JAPN保険)と、既存のヤフー系金融サービスが次々に商号を変更し、PayPayブランドに統一されています。
※画像はPayPayのプレスリリースより
大きな話題を呼んだ、PayPay銀行、PayPayカードと比較すると、PayPay証券、PayPay投信、PayPay保険などの注目度は相対的にやや劣る感は否めませんが、それでも金融領域の幅広い分野にPayPayブランドが広がったのは確か。ユーザーから見ても、あらゆるサービスでPayPayの名を目にするようになった感覚があったのではないでしょうか。
なお、当初の計画では、FX取引を提供していたヤフー系の「ワイジェイFX」も「PayPay FX」になる予定でしたが、5月に同事業がGMOグループに買収されたことから、この計画は立ち消えとなったようです。
PayPayをはじめとするQRコード決済(スマホ決済)各サービスは、サービス開始当初については、導入手数料や加盟店の決済手数料を無料にして加盟店を拡大し、いわば採算に目をつぶる形でシェアを広げてきました。しかし、今年10月、PayPayが先べんを付ける形でいよいよ収益化に舵を切りました。それが「PayPay加盟店の決済手数料有料化」です。
これにより、10月以降、PayPayの加盟店においてユーザーがPayPayで決済すると、決済額に対して「1.98%」の手数料がかかるようになりました(キャンペーンや契約プラン等によってパーセンテージは異なる)。このPayPayの動きに対して、「楽天ペイ」「au Pay」「d払い」の各決済サービスは、利用条件などのしばりはあるものの、加盟店の決済手数料無料の継続を発表し、PayPayに対抗する構えを見せたことも話題になりました。
PayPayのその後の動きについても少しフォローします。11月に開催されたZホールディングスの第2四半期決算説明会の資料によると、決済手数料有料化後の加盟店の解約割合は、加盟店数に対して「0.2%」、取扱高ベースでも「0.1%」にとどまっているといいます。
※画像は、Zホールディングス第2四半期決算説明会資料より。トピックスの項で決済手数料有料化後の加盟店の解約について触れられています
この数字をどう見るかは意見が分かれるところだとは思いますが、筆者個人としてはかなり少ない印象を受けます。それだけ、これまでにPayPayが築いてきたシェアやブランド力が効力を発揮しているのではないでしょうか。今後も、キャッシュレス決済のメインプレーヤーのひとつとして、PayPayの動向に注目が集まります。
キャッシュレス決済に欠かすことのできないのが各種ポイントですが、2021年は、銀行がポイントサービスを強化した1年でもありました。
三菱UFJ銀行は、今年6月より、auの共通ポイントである「Ponta」を導入しました。それまでは、同行の利用状況に応じてATMの利用や振り込みなどにかかる手数料などが優遇される制度を採用していましたが、この制度を一新。同行を利用することでPontaが貯まる仕組みに変わっています。また、同行は、来年2022年に向け、ドコモの共通ポイントである「dポイント」が貯まる新しいデジタル口座を提供することも明らかにしています(5月発表)。
▼参考記事
三菱UFJ銀行でPontaが貯まる! 6月にメガバンク初の共通ポイント導入(価格.comマガジン)
https://kakakumag.com/money/?id=16537
ドコモと三菱UFJ銀行が業務提携。dポイントが貯まる新デジタル口座を提供へ(価格.comマガジン)
https://kakakumag.com/money/?id=17013
三菱UFJ銀行が共通ポイントを導入しているのに対し、グループ内のポイントに“共通ポイントらしさ”を加え、ユーザーサービスに活用しているのが三井住友銀行です。
三井住友銀行は以前、同行を利用することで「SMBCポイント」という三井住友銀行独自のポイントが貯まる仕組みを採用していましたが、昨年2020年、三井住友グループ(SMBCグループ)のポイントである「Vポイント」が貯まる仕組みに変更しています。また、このタイミングで、同グループの三井住友カードで貯まるポイントも、それまでの「ワールドプレゼント」からVポイントに変更され、銀行とクレジットカードで同じポイントが貯まる仕組みに一本化されました。
そして今年2月、このVポイントをスマホ決済に使える「Vポイントアプリ」がリリースされ、ポイントの使い勝手が大きく向上しました。Vポイントは1ポイント=1円の価値があり、このアプリを使うことでリアル店舗での「Visaのタッチ決済」や「iD決済」に対応。もちろんネットショッピングにも使えます。また、銀行やクレジットカードで付与されるポイント以外に、クレジットカードからのチャージにも対応しています。3月には、三井住友カードの支払いに充当できる「〈新〉キャッシュバック」も導入され用途を広げています。
2021年2月にリリースされたVポイントアプリを使うと、Vポイントを各種支払いに利用可能
今のところ、Vポイントを三井住友グループ以外で貯めることはできず、楽天ポイント、Ponta、dポイントなどのいわゆる共通ポイントほどの汎用性はありませんが、その使い勝手や狙いは、共通ポイントと近いものがあると言えます。
三菱UFJ、三井住友両行がポイントをユーザーへのサービスに導入した背景には、昨今のポイント人気の高まりがあるのは間違いないでしょう。銀行の取引によってポイントが付与され、しかもそのポイントが銀行以外でも貯まり、使い勝手も悪くないとあれば、それにひかれて新規口座開設をする人も出てきそうです。
また、両行とも「ネットバンキングのログイン」という低いハードルに対してポイントを付与している点にも注目です。昨今、銀行が紙の手数料の発行や切り替えに手数料をかけるケースが増えており、その背景には、紙の手数料にかかる印紙税など銀行側の負担が指摘されています。ポイント付与をフックに、ネットバンキングの利用者を増やそうという狙いもあるのかもしれません。
今年、SBI証券と三井住友カードという業界のリーディングカンパニー同士の業務提携が本格スタートしました。両社は昨年9月の段階ですでに個人向けの資産運用サービスにおける業務提携を発表しており、これに基づき、今年6月に2つの新サービスをスタートさせています。ここでも鍵となるのは「ポイント」です。
画像は三井住友カード公式サイトより
新サービスのひとつめが、三井住友カードが発行するクレジットカード(提携カード含む。ビジネスカードなど一部カードは対象外)で、SBI証券が取り扱う「積立買付が可能なすべての投資信託」(2021年6月24日時点で2,507本)が購入できる「三井住友カード つみたて投資」というサービスです。クレジットカードで積立投資ができるという目新しさに加え、このサービスでは一部のカードをのぞき、カード側のポイント(Vポイント)も貯まる点に注目が集まりました。
2つめは、SBI証券での取引状況に応じてVポイントが貯まる「SBI証券 Vポイントサービス」です。これは、SBI証券における国内株式取引などの手数料や、投資信託の保有残高に応じてVポイントが貯まるサービスで、たとえば「投資信託取引」の場合、対象の投資信託の月間平均保有額1,000万円未満で年率0.1%のVポイントが付与されます。月間平均保有額1,000万円以上なら還元率は0.2%にアップします(一部投資信託の付与率は年率0.1%未満)。
両サービスは併用可能なので、投資信託取引の場合、前出の「三井住友カード つみたて投資」で0.5%のVポイントを貯めつつ、「SBI証券 Vポイントサービス」で保有額に応じたVポイントも貯めることも可能です。
▼参考記事
SBI証券×三井住友カード「クレカ積立」スタート! ”投資”でVポイントをゲット(価格.comマガジン)
https://kakakumag.com/money/?id=17259
12月には、三井住友カードの利用状況をスマホで確認できる「Vpassアプリ」上で、SBI証券の総合口座の情報を表示させるサービスもスタートしています。
「三井住友カード つみたて投資」を利用している筆者もさっそくアプリ上で設定をして、SBI証券の口座残高を表示させてみました。筆者は日ごろ、証券口座の残高をひんぱんにチェックする習慣はありませんが、クレジットカードの残高は少なくとも月に1回はチェックしています。その際に、証券口座の残高が同じ画面で目に入ってくることで、株式投資への関心が高まる可能性を感じました。投資に目を向けさせるという意味では、面白い仕掛けかもしれません。
両社は今後も、三井住友カードの入会と同時に必要情報の自動連携によるSBI証券の口座開設申し込みや、Vポイント1ポイント=1円として、SBI証券の投資信託の買付に利用できる「Vポイント投資」なども開始予定で、ますますその連携を強めていく見込みです。同様の取り組みとしては、マネックス証券がアプラスと組んだクレジットカード「マネックスカード」の発行を今年開始し、来年からこのカードを使った積立投資が始まる予定です。来年は、「クレカ×証券」のサービスがさらに盛り上がるかもしれません。
決済サービスやクレカの利用などで貯まったポイントを疑似的に運用できる「ポイント運用」サービスの人気がじわじわと高まっています。PayPayが運営する「ボーナス運用」は、今年12月にユーザー数が500万人を超えたことを発表。2020年4月のサービス開始以来、約1年間で300万人のユーザーを獲得し、その7か月後に早くも500万人を突破とハイペースで規模を拡大しています。
2018年からサービスを開始した、楽天の「ポイント運用 by 楽天PointClub」も今年ユーザー数500万人を突破(2021年8月時点)。auの「au PAYポイント運用」は100万人を突破(2021年5月時点)、少々古い数字になりますが、ドコモの「dポイント投資」も70万人突破(2020年12月時点)と、各社の類似サービスも着々とユーザーを増やしています。
当メディアでも、7月に「PayPayボーナス運用」「楽天ポイント運用」の1年間の実体験レポート記事を公開したところ、今もなお多くのアクセスを集め続けており、ポイント運用の人気ぶりを裏付けています。
実際に体験したもののひとりとしてポイント運用の魅力を表すと、「決済サービスやクレカの“おまけ”でもらったポイントを増やせること」に尽きると思います。ポイント運用は手数料無料で楽しめる投資の疑似体験サービスでありながら、実際の金融商品の値動きに連動してポイント数が増減します。もちろん減ることもありますが、増えた場合には実際の支払いに使うこともできる(=増やせる)ので、うまくいけばかなりのおトク感を味わえるわけです。
筆者が体験したPayPayのボーナス運用の場合、連動する金融商品は「DIREXION S&P 500 3X(SPXL)」、「SPDR S&P500 ETF」というアメリカを代表する複数の企業の株価に連動するETF(上場投資信託)です。筆者は、よりハイリスクハイリターンの後者でほぼ全ポイントを運用していましたが、今年、米国株が好調だったこともあり、下の画像のとおりなかなかの好成績を収めています。当メディアで取材したPayPay(ヤフー)経済圏のヘビーユーザーのように、ボーナス運用で8万円台にまで残高を増やす人もおり、今年は比較的増やしやすい環境だったことも確かで、これもユーザー増の追い風になっているのでしょう。
12月時点の筆者のPayPayボーナス運用の運用画面。運用益は80%を超えました
ポイント運用サービスは手数料無料と書いたばかりですが、この年末に大きな動きがありました。2021年12月24日、PayPayは、2022年3月24日よりボーナス運用の一部を有料化することを発表しました。具体的には、PayPayボーナスを運用ポイント(運用できる状態のポイント)に交換する際に1%の手数料がかかるようになります。なお、運用ポイントからPayPayボーナスに引き出す際は、これまでどおり手数料はかかりません。
3月より、PayPayボーナス運用で運用する際に1%の手数料が発生。FXのスプレッドにも似た仕組みが導入されます
手数料無料がユーザーの支持につながっていたことは間違いなく、こうしたサービス変更の常ではありますが、SNSなどでは「改悪」の声が目立ちます。ここまで各社が順調にサービスを広げてきたポイント運用ですが、テーマ1で触れた「PayPay加盟店の決済手数料有料化」と同様に、PayPayが先陣を切って有料化を開始したことで、今後の行方はやや不透明な状況になったと言えそうです。
今年後半に登場し、2022年も注目されそうなのが、2つの「移動が価値になるアプリ」です。
10月に日本に上陸したのが、2019年にアメリカで生まれた「Miles(マイルズ)」です。スマートフォンにアプリをダウンロードし、GPSの使用を「常に許可」にしておくと、スマートフォンのデータに基づきAIが移動手段を判定。世界中どこにいても1マイル(約1.6q)の移動に対して、アプリのオリジナルポイントである「マイル」が付与されます。
移動するだけでポイントが貯まっていくアプリ「Miles」
▼参考
“移動が価値になる”アプリ「Miles」日本上陸! さっそく徒歩と電車で試してみた(価格.comマガジン)
https://kakakumag.com/money/?id=17642
付与されるマイル数は移動手段によって異なり、基準となるのが「自動車」で、1マイル(約1.6q)移動するごとに1マイルを獲得。「電車」や「バス」などなら貯まるマイルは3倍。「自転車」なら5倍、「ランニング」「徒歩」なら10倍、逆に「飛行機」なら0.1倍と、環境にやさしい移動手段を選ぶほど、同じ距離に対するマイルの付与率が増えるのが特徴です。貯まったマイルは、協賛企業から提供される割引クーポンやギフトカードなどに交換することができます。
移動することでおトクになるユニークさが受け、Milesの日本でのローンチは大きく報道されました。その後も各種メディアでの報道が相次いだことで人気が過熱。新規ユーザー数の急増から移動履歴の反映に大幅な遅延が生じたことなどを受け、11月28日に新規ユーザー登録が一時的に停止されており、現在、年明けのユーザー登録再開に向けてサーバー増強などの対策が取られているようです。
この「移動することが価値になる」アプリを独自で展開するのが、航空会社のANA(全日本空輸)です。12月に、飛行機に限らず徒歩・電車・自転車・自動車など、日常生活のあらゆる移動を通してポイントを貯めることができるスマホアプリの「ANA Pocket」(iOS版)をリリースしました。Milesと同様に日常の移動で移動手段に応じてポイントを獲得できるほか、「徒歩と電車で50km移動すると100P」など、ゲーム感覚で楽しめる「チャレンジ」という機能も用意されています。
2021年12月20日にリリースされた「ANA Pocket」(iOS版)(画像はANA Pocket公式サイトより)
貯めたポイントは、ANAマイルやデジタルギフト券、ANAスカイコイン(ANAの航空券や旅行商品の支払いに使える電子マネー)などが当たる「ガチャ」に使うことが可能です。当たる商品の内容は会員プランによって異なり、たとえばANAマイルを当てたい人は月額550円のANA Pocket Pro会員になる必要があります。
この2つの「移動が価値になるアプリ」の登場の背景には、新型コロナによって制限されてきた行動が徐々に戻ってきたことがあると考えられます。ただし、両アプリの狙いはやや異なっています。Milesは貯めたポイントを協賛企業の商品やサービスの割引等に使えるわけですが、その先に協賛企業への送客につなげる狙いがあります。かたやANA Pocketは、飛行機以外のシーンでポイントが貯まり、それを自社へのマイルや電子マネーへ交換できる可能性を提供することで、自社のユーザーつなぎ止めの狙いがあるものと考えられます。
いずれにせよ、人々の動きが戻りつつある局面において、この2つのアプリが今後つばぜり合いを繰り広げることは必至。来年も目が離せない展開になりそうです。
こうしてあらためて2021年のキャッシュレス決済をふりかえってみると、ポイントを媒介にして、さまざまな金融サービスの連携が進んだ1年と言えそうです。
実際、ポイントの存在感は日々増しているように感じます。野村総研によると、2020年度のポイントやマイレージの発行額は1兆円を超えていると推計されています。新型コロナの影響で2019年よりは若干下回ったものの、今後の景気回復局面において、ポイント発行額はさらに増えていくことが予想されています。
今年の最後に登場して話題になった「移動が価値になるアプリ」のように、今やポイントは、買い物のおまけにとどまらず、日常生活の行動によっても付与される時代となりました。来年もユニークなサービスの登場を期待したいところです。
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