NTTドコモのスマートフォン「M Z-01K」(ZTE製。以下、M)は、折りたたみ式の2画面ボディが特徴。価格.comマガジンでもすでにレビューをお届けしている。今回、そんな「M」の企画立案を主導したNTTドコモの大平雷太プロダクト企画担当部長に、質問を投げかけてみた。
洗練が進むいっぽうで、面白みには欠けるスマートフォン市場に一石を投じる野心作「M」。その設計を主導したNTTドコモの大平雷太プロダクト企画担当部長にインタビューを行った
価格.com:最初に、大平さんと「M」の関係と、製品化の流れをお教えください。
大平:現在のプロダクト(製品)の仕事を始めたのは今から3年半ほど前で、それ以前はずっと営業に関する仕事をしておりました。最近のスマートフォンはどれも洗練されてきていると感じていました。洗練自体は市場が成長して来ていることの現われで、歓迎できることなのですが、そのいっぽうで、ちょっと面白みにかけるかな、もっと便利なものがあるのではないかと思っていました。そして、2016年の夏ごろに2画面折りたたみのボディを、今の技術で作れないか試作を始めました。そして今回の製品は海外への展開も考えていたので、海外キャリアの意見を聞きつつ、企画を本格的に進めてきたというのが大まかな流れになります。
価格.com:「M」の先祖として引き合いにされることの多い「MEDIAS W」(2013年発売、NECカシオモバイルコミュニケーションズ製)を念頭に、今の技術で再現するというのが原点になるのでしょうか?
大平:確かにまったく意識しなかったわけではないですが、「MEDIAS W」の当時はまだ制約が多く、お客さんに受け入れられない部分もあったという反省もあります。ただ、今はスマートフォンで動画や雑誌を見たり、ゲームと、使い方の幅が広がっています。そうしたユーザーの利用状況の変化を踏まえて、今ならもっと面白いものができる、(2画面折りたたみボディを)もっと楽しんでもらえるお客さんも多いのではないかなと思っております。
一部に熱心なファンはいたものの、販売面では成功したとは言いがたかった「MEDIAS W」。それから5年、OSレベルのマルチウインドウ対応や、ディスプレイの狭額縁化など、5年分の技術の進歩を取り入れ、ユーザーの利用環境を見込んで開発されたのが「M」だ
価格.com:発売から1か月半ほど経過しましたが、ユーザーからの反応はいかがでしょうか?
大平:実際に使った方の意見と、そうでない方の意見で大きく分かれているように思います。使ったお客さんからは、「これはいい」「意外と使える」という意見をいただいています。たとえば、片方の画面で攻略サイトを表示させつつゲームをしたり、ARを使ったオンラインゲーム「Ingress」と「ポケモン GO」を同時に表示させるなど、本当にお客さんによってさまざまですけど、想定していないような使い方を皆さん工夫しておられるようです。逆に、使っていないユーザーの方には、最初から「自分には2画面は必要ない」と判断されてしまう傾向がありますね。おそらくそのような方も、使ってみたら便利さに驚いていただくのではないかと思います。
価格.com:そのようなユーザー間の温度差は想定されていましたか?
大平:実は想定はしていましたが、ここまで話題になるとは思っていなかったのも事実です。ただ、話題になることと、手に取って実際に使ってみることの間には大きなハードルがあることも感じています。
価格.comに寄せられるユーザーレビューの傾向も、高評価と厳しい評価で二分される傾向。個性的な端末だけに評価が分かれるのは仕方ないところか
価格.com:価格.comに寄せられるユーザーの意見を見ると、ボディデザインが「大きく感じる」とか「少々無骨」という意見も見られました。このデザインに行き着いた背景を教えてください。
大平:「M」は2画面なので、2画面での使い勝手にももちろんこだわりましたが、それ以上に重視したのは1画面で使ったときの使いやすさです。折りたたみ式のフィーチャーフォンであれば、使う場合に必ずヒンジを開きます。ただ、この「M」については、ヒンジを開かなくてもそのまま使うことが可能なので、普通の(1画面の)スマートフォンとして使いやすいかを重視しました。具体的には薄さと重さ、それに対抗するものとして、価格とのせめぎあいでした。
これに対してお客さんからの反応も、「2画面だけど薄い、軽い」という方と、「普通のスマートフォンと比べて厚い、重い」という両方があり、基準にするものを何にするかで評価が分かれています。2画面合計の画面サイズは計算上6.8インチになりますが、7インチのタブレットと比較すれば、約226gは軽いかもしれない。
SDカードやSIMカードを装着した状態で価格.comマガジンで計測したい重量は229g(カタログ値で226g)というボディは、ユーザーが何を比較対象にするかで印象が大きく分かれるようだ
価格.com:ボディにもう少し丸みを持たせることは可能でしたか?
大平:企画段階では、もう少し丸みを持たせて、ボディも薄くできるのではないのかな、と考えていました。ただ、両面ガラスである構造から、最適なデザインを考えて、 結果としてちょっと角ばったものにしました。
価格.com:現状はブラック1色のみですが、カラーバリエーションの追加はお考えですか?
大平:個人的にはカラーは追加したいですね。もっと女性にもアピールできるような色を。
エッジが角ばったボディは大きさを感じやすい。現状では、デザイン上そうしたようだ
価格.com:FeliCaポートや防水対応は、やはり難しいのでしょうか?
大平:この「M」のプロジェクトを進めるにあたり、私自身FeliCaをよく使うひとりでもあるので、最後まで入れたいと思っていましたが、構造上載せられなかった。ただ、この2画面だから金輪際載らない、ということはないと考えています。
価格.com:2画面の影響でアンテナを載せるスペースがないのでしょうか。「Xperia XZ」などは本体の表側、フロントカメラの脇にFeliCaポートを搭載していますが……
大平:今回はちょっと難しかったですが、実は、発売スケジュールにもう少し余裕があれば搭載できたと思います。ただ、この「M」については、なるべく早くユーザーにお届けしたいと考えて、発売スケジュールを優先させていただきました。
ニーズの多いFeliCaポートの搭載は最後まで検討されたが、スケジュールの都合で見送られたという。技術的に不可能というわけではないようだ
価格.com:防水対応の可能性はどうでしょうか?
大平:こちらは、ヒンジが問題になっています。このヒンジはただ折れ曲がるだけじゃなく、折れ曲がる角度を検知して、完全に閉じると片面しか表示しないなど、動作にフィードバックさせる繊細な構造になっています。そのため、防水については企画の段階で搭載しないことを決めていました。ただ、これも技術的にまったくできないということではない。現状ではボディサイズの大型化、機構の複雑化などのデメリットも考えて、この形になったということです。
価格.com:もし次期モデルがあるとすれば、これらは改良される要素になりそうですね。期待しています。
センサーが埋め込まれており、見た目以上に繊細なヒンジ部分。ここがネックとなり、防水対応は企画の初期段階で見送られた
価格.com:ボディにばかり注目が集まりますが、そのほかで、ここに注目してほしいという点はありますか?
大平:私のこだわりとして、「M」を山折にして立てかけて、ストリーミング動画を観る場合に、いい音で聴きたかった。「M」は、(サウンドエンハンサーの)「DOLBY ATMOS」に対応していますから、スピーカーはもちろん、イヤホンをつなげても音はいいので、ミニオーディオとして使ってもらいたいですね。「M」の製造を担当しているZTEは、オーディオ性能にこだわった「AXON(アクソン)」シリーズの実績があり、そのノウハウが「M」にも活用できたのは幸いでした。
音に関係するもうひとつのこだわりのポイントがマイクです。(前方)8mくらいまでの範囲に設定された指向性マイクなので、ビデオチャットやオンライン会議の場合、かなりキレイに音を拾います。このマイクを使えばビジネス向けスマホとしても能力は高いでしょう。
山折にして立てかけると、迫力のあるサウンドを楽しめる
大平:こだわりのポイントは、カメラにもあります。カメラをあえてアウトカメラ1個だけにしました。立てかけてセルフタイマーや笑顔認識で撮影すれば、2,030万画素のイメージセンサーで自撮り撮影ができますが、こうした機種はなかなか見当たらないと思います。
もうひとつ、「設定」→「ディスプレイ」→「大画面モードのフォントサイズ」のチェックを入れれば、2画面表示時に文字を大きくする機能があります。これを使えば7インチクラスのタブレットくらいの文字サイズになりますから、文字がだいぶ見やすくなるでしょう。大画面は、情報量が高まることで注目されやすいですが、文字を大きく見やすくもできるのです。
フロントカメラも兼用するメインカメラ。フロントカメラとして見れば、自撮り撮影の画質はかなり高い
2画面のユニークな使い方として、ストリーミング動画の演奏に合わせて、キーボードアプリでの合奏を披露。音楽が大好きだという大平部長が、高速のタッチ演奏を実演してくれた
価格.com:「M」の後継があるとすれば、どのような点の進化が考えられますか?
大平:スマートフォン一般はどんどん薄くなっているので、その技術をキャッチアップすれば現状よりも、コンパクトなものができるでしょう。スマートフォンとしての基本性能も、普通に使って使いやすい限界を突き詰めていきたいです。画面サイズの大型化や解像度の向上よりも、有機ELディスプレイに注目しています。有機ELはボディの薄型化や高画質化に有効ですから。また、2020年ごろには5Gのサービスも考えられますし、通信速度の進化もあります。「M」はまだ第一歩なのかなと思っています。
価格.com:折り曲げられる有機ELパネルはいかがでしょうか?
大平:折り曲げられるという点では「M」との相性はいいですが、折り曲げる機構部分をどうするのかなど、現状だと課題もある。また、折り曲げられるより、カチッとした平面のほうが使いやすそうな印象です。
価格.com:重さについてはどうでしょうか、仮に200gを下回ればかなり話題になると思います。重量とトレードオフの関係になりやすい電池の持続性についても合わせてうかがえますか?
大平:バッテリーの容量は、まさにサイズとトレードオフの関係ですが、バッテリーの技術革新は進んでおり、同じサイズ、重量でもよりコンパクトなものが登場しています。なので、ボディを大きくせずに、電池が以前より長持ちするモデルが登場する可能性は高いと思います。
価格.com:「M」が登場した際に、5年ぶりのボディスタイルということで、並々ならぬ執念を感じました。NTTドコモの社内には、2画面折りたたみボディの復活を虎視眈々と狙い続けていた方がおられたのでしょうか?
大平:ひょっとするとそれは私なのかもしれませんね(笑)。個人的に「MEDIAS W」は大好きで、結局2台買いました。また、NTTグループの幹部の中にもこのスタイルのファンがいまして、2画面折りたたみスタイルに対する根強いファンがいるのだなと思うことはたびたびありました。
価格.com:それは心強いですね。ありがとうございました。