900を超えるMVNO(仮想移動体通信事業者)が競い合う現在の格安SIM市場では、「ありきたりなサービスでは生き残ることができない」として、ユニークな料金プランやオプションを提供するキャリアがいくつも登場しています。
特定のアプリによる通信を無料化する「ゼロレーティング」(カウントフリー、データフリーとも)や、大手携帯キャリア3社すべてのネットワークから回線を選べる「マルチキャリア」などはそのメリットも理解しやすいのですが、なかには「これってどんなメリットがあるの?」と戸惑ってしまうサービスもあります。
そこで今回は、一見すると不自由に思える格安SIMの特徴的な料金プランについて、そのメリットを探ってみようと思います。
ひとつ目は、IIJが「IIJmioモバイルサービス」において2019年2月から提供を開始したばかりの料金プラン「ケータイプラン」です。
格安SIMが登場したばかりのころは、データ通信しかできない料金プランが主流でした。最近では音声通話が使えるプランも定着しましたが、今でもデータ通信専用のプランはほとんどの格安SIMで契約できます。
ケータイプランはその逆で、音声通話に特化した料金プラン。月額料金は993円です。携帯電話番号による音声通話の発着信とSMSの送受信はできますが、そのままでは低速通信を含めデータ通信そのものが利用できないという、かなり思い切ったプランです。
どうしてもデータ通信を使いたいときは、コンビニや家電量販店などで販売されているIIJmioモバイルサービスの「クーポンカード」(500MBで1,500円、または2GBで3,000円。いずれも非課税)を購入すれば、データ利用量をチャージできます。ただし、追加クーポンの価格は最初からデータ利用量があるプランに比べて割高です。ケータイプランは「データ通信しない」ことを前提に契約するべきでしょう。
2019年2月にスタートしたばかりの「ケータイプラン」。5月8日までは初期費用が1円になるキャンペーンを実施中です(IIJmioのWebサイトより)
スマートフォン全盛の現代において「外出先で通信ができない」のはとても不自由です。LINE、SNS、メールによるコミュニケーションができないのはもちろん、地図も表示されませんし、最新のニュースもチェックできず、YouTubeも見られません。カメラで写真は撮れますが、送信ができないので自分のスマホで楽しむしかありません。
スマホを普通に使いたい人が選ぶことはないと思われるケータイプランですが、どんなメリットがあるのでしょうか。
●安い維持費で携帯電話番号を持ちたい
データ通信が不要な用途で、なるべくコストを抑えたいケースでは、月額1,000円を切るケータイプランの安さを生かせます。IIJは、
・待ち受け専用回線の維持費を抑える
・長期間の海外渡航中、日本に置いていく回線を解約せずに電話番号を維持したい
・スマホと2台持ちするガラケー用
といったケースにおいて、ケータイプランをすすめています。
ただし、ケータイプランより月額料金が安い格安SIMもあります。たとえばソニーネットワークコミュニケーションズの「0SIM」では、月額756円で音声通話SIMを契約できる上に、毎月500MBまでなら追加料金なしでデータ通信も利用可能です。
キャリアを乗り換えてもかまわないなら0SIMのほうがコストを抑えられますが、海外渡航中に休眠させておく回線のように、「IIJとの契約を維持しつつコストを抑えたい」ケースではケータイプランが有効です。
●子ども用の回線として契約する
ケータイプランを「子どもに持たせるスマホ用の回線」として活用することもできます。
子どもにスマホを持たせる上で心配なのが、使いすぎによる依存症や、SNSなどでのトラブルです。ケータイプランのSIMを子どものスマホにセットしておけば、Wi-Fi環境がなければインターネットにアクセスできず、屋外では電話とSMSしか使えない「究極の通信制限付きスマホ」を作り上げることができるのです。
その上で、Wi-Fi環境下での通信に備えて家庭ではペアレンタルコントロール機能付きのWi-Fiルーターを導入したり、IIJがオプションサービスとして提供している「iフィルター」のようなフィルタリングサービスを併用したりすれば、家庭内の通信も管理できます。
ケータイプランでもIIJmioのモバイルオプションを追加することが可能。外出先で公衆無線LANが使えるWi-Fi接続サービスにも対応しています(IIJmioのWebサイトより)
次は、楽天の格安SIM「楽天モバイル」が「組み合わせプラン」のひとつとして提供している「ベーシックプラン」です。
ベーシックプランは、通信速度が上り下りともに最大200kbpsと低速の代わりに、データ通信量が使い放題の料金プランです。月額料金は音声通話SIMが1,350円、データ通信SIMが567円となっています。
「組み合わせプラン」における料金プランの一覧。ベーシックプランは月額料金が最も安く、最大200kbpsでデータ通信使い放題のプランです
「使い放題」という言葉には心を惹かれるものの、200kbpsといえばほかの料金プランでデータ通信量を使い切ったときの制限速度と変わらず、常に「ギガ死」の状態にあるとも言えます。データ通信が使えないわけではありませんが、オンライン動画の視聴やアプリのダウンロードには厳しい速度です。
●「データシェア」の子回線にする
一番のメリットは、楽天モバイルの回線どうしで繰り越したデータ利用量をシェアできる「データシェア」の子回線として使えること。特に「外出先での通信量がごく少ない」回線がある場合にお得です。
たとえば、毎月10GB近く通信する人と、数百MBしか通信しない人の2人家族で考えてみましょう。データシェアを利用しない場合の月額料金は、
「10GBプラン(月額3,196円)+3.1GBプラン(月額1,728円)=合計4,924円」
となります(いずれも音声通話SIM)。ここで、少ししか通信しない人がベーシックプランを契約し、10GBプランとデータシェアを組むと、
「10GBプラン(月額3,196円)+ベーシックプラン(月額1,350円)+データシェア利用料(108円×2回線)=合計4,762円」
と、わずか162円ながらもコストが安くなります。
同じ条件でもっと安く契約できる格安SIMもありますが、楽天モバイルには楽天スーパーポイントとの連携という大きな魅力があります。楽天モバイルの月額料金をポイントで支払うこともできますし、楽天会員が楽天モバイルの音声通話SIMを契約するとポイント付与率が2倍プラスされる(例:通常100円で1ポイント付与のところが100円で3ポイント付与される)のもメリットです。
楽天からは離れられないけれど、家族のスマホ料金はなるべく安くしたい。ベーシックプランは、そんな家庭の通信コスト削減に役立ちます。
日本通信が2019年3月5日に発売した「START SIM」は、データ通信量が毎月1.5GBまでで月額料金が1,490円という、小容量の料金プランただひとつしか提供されていない格安SIMです。
オンライン動画サービスやSNSを頻繁に利用するユーザーのなかには、1日の通信量が1.5GBを超える人もいるはず。そんなわずかな容量しか備えていないSTART SIMですが、どんなメリットがあるのでしょうか。
●いつでも好きなときに解約や乗り換えができる!
音声通話SIMであるにもかかわらず、START SIMには最低利用期間や違約金が設けられていないという大きな特徴があります。
「START SIM」には最低利用期間や解約金がありません(b-mobileのWebサイトより)
格安SIMのメリットは大手携帯キャリアよりも通信コストを安く抑えられるところですが、もちろんデメリットもあります。一番気になるのは通信品質でしょう。価格.comマガジンが毎月実施している速度調査でもわかるように、格安SIMには平日12時台や夕方などの混雑する時間帯において通信速度が遅くなりがちです。
スマホを使いたい時間帯や場所は人それぞれなので、あるユーザーにとっては許容範囲の速度でも、別のユーザーは不満を抱くかもしれません。自分にとって十分な通信環境かどうかは、実際に使ってみなければわからない部分でもあります。
しかし、通信品質やサービス内容など、どこかが満足できずに解約したいと思っても、大半の音声通話SIMには半年から1年程度の最低利用期間が設けられています。この期間内に解約すると、数千円から1万円程度の解約金が請求されてしまいます。
また、音声通話SIMに最低利用期間を設けていない格安SIMでも、契約から短期間でMNP(携帯電話・PHSナンバーポータビリティー)制度を利用して他社に乗り換える際の転出手数料を割高に設定している場合があり、事実上の違約金とみなすことができます。
START SIMには、こうした最低利用期間や解約金がありません。MNP制度の転出手数料も、契約からの期間によらず一律3,240円です。格安SIMのデメリットを経験したことがなくても、「ダメだったら乗り換えればいいや!」と、お試し感覚で比較的気軽に始められるのです。
b-mobileを使い続けたいと思ったら、最大で毎月15GBのデータ利用量が使える「990ジャストフィットSIM」に手数料なしで移行できます。START SIMの月額料金は1.5GBというデータ利用量を考えると割高なので、決心したらなるべく早めに移行するのがポイントです。
START SIMのように最低利用期間や違約金(割高な転出手数料も含む)が設けられていない料金プランは、ソニーネットワークコミュニケーションズの「nuroモバイル」でも2018年10月から「お試しプラン」の名称で提供されています。
お試しプランの月額料金はドコモ回線が1,080円、ソフトバンク回線が1,296円と安めですが、データ利用量は毎月わずか0.2GBしかなく、使い切ったあとの制限時の速度も最大32kbpsときわめて低速です。常用には向きませんが、nuroモバイルをその名のとおりに「お試し」するにはぴったりです。
キャリアとしても、お試ししたユーザーに気に入られれば、そのまま契約を続けてもらうことが期待できます。今後はこうしたお試し専用プランを採用するMVNOが増えていくかもしれませんね。