サムスンのエントリー向けスマホ「Galaxy A20」は、NTTドコモ、au、UQモバイルの各社から10月末より順次発売されている。端末の価格は2万円前後だが、UQモバイルでは10,800円(税別)という新製品とは思えない驚きの価格設定がなされている。FeliCa対応の高コスパスマホとして注目している人も少なくなさそうだが、実力のほどを検証した。
スマートフォンは、ただの情報ツールにとどまらない。QRコード決済やおサイフケータイなど国の進めるキャッシュレス化の一翼を担うほか、電子チケットや家電製品との連携などいろいろな用途でも利用できる。また、3Gの通信サービスが2020年代の中頃に使えなくなるため、今までの3Gケータイや端末ではデータ通信や音声通話が行えなくなる。こうした社会の変化にともない、スマートフォンへの全面的な移行が提唱されているが、そこで求められるのが、必要な機能を備えたシンプルで安価なスマートフォンだ。
「Galaxy A20」は、サムスンのラインアップの中では、スタンダードモデル「A30」や「A7」(いずれも3万円前後)のさらに下に位置するエントリーモデルだ。約71(幅)×150(高さ)×81(厚さ)mmで、重量約151gのボディに、1,560×720のHD+表示に対応する約5.8インチの液晶ディスプレイを備えたミドルサイズの製品だが、近ごろのスマートフォンの中ではコンパクトな部類に入る。このボディは、IPX5/8等級の防水仕様とIP6X等級の防塵仕様をクリアしており、水没や汚れにも強い。機能面では、おサイフケータイなどで利用するFeliCaポートと、家電製品との連携などに使われるNFCポートの2種類の近距離無線通信に対応している。また、FMラジオチューナーを備えているのもユニークだ。特に、この価格帯としてはコストのかかるFeliCaポートを備えているのは珍しく、本機ならQRコード式と、タッチ式、両方の電子決済が利用できる。なお、指紋認証センサーは搭載されておらず、生体認証としては顔認証のみが利用可能だ。
約5.8インチの液晶ディスプレイを搭載。明るい場所でもクッキリ認識できる
シンプルな背面のデザイン。FeliCaポートが背面の上部に配置されている。指紋認証センサーは非搭載
ボディ下面にはUSB Type-Cポートが装備されている。USB PD規格に対応する急速充電に対応
ボディ上面にはヘッドホン端子が配置されている
最近のモデルとしては珍しくストラップホールが左側面に配置されている
スマートフォンの基本的な機能をつかさどるSoCは、サムスン製の「Exynos(エクシノス) 7884B」だ。これに、3GBのメモリーと32GBのストレージ、512GBまでストレージを増設できるmicroSDXCメモリーカードスロットを組み合わせる。OSはAndroid 9。
実際の処理性能を、定番のベンチマークアプリ「AnTuTuベンチマーク(Ver.8.X)]を使って計測したところ、総合スコア114,122(内訳、CPU:46,195、GPU:15,233、MEM:28,399、UX:24,295)となった。このスコアは、3万円台のスタンダードモデルであるシャープ「AQUOS sense3」の114,802(内訳、CPU:43,349、GPU:16,729、MEM:32,268、22,456)とほぼ同じ。ただ、実際の体感速度では、メモリーが3GBと少ないこともあって、ホーム画面の動作などでもたつく場合があった。全般的に処理性能に余裕があるとは言えないが、インターネットで調べ物をしたり、ストリーミング動画を視聴したり、たまにSNSやメールのやりとりをするなら十分だろう。また、ストレージが32GBと少なめなので、撮影した写真や動画は別売りのmicroSDXCメモリーカードに保存したほうがよさそうだ。
本機のホーム画面は、通常の表示モードに加えて、アイコンを大きく表示したり、長押しの時間を調整することで誤作動を防止できる「かんたんモード」を備えている。また、本機に限らずGalaxyシリーズに広く搭載されている、視認性を上げたり音を聞き取りやすくする機能も備わっている。こうした機能は、すまーフォトンに不慣れなユーザーに向けてのものであり、本機はそうしたエントリーユーザー層をメインのターゲットにしていることは明らかだ。以下、順番に紹介しよう。
通常は横4列のレイアウトが基本だが、「かんたんモード」では3列になり、アプリアイコンのサイズを大きく表示できる
慣れるまではとまどいやすく、誤作動の原因になりやすい長押し操作だが、本機では「短い(0.5秒)」「普通(1秒)」「長い1.5秒」「カスタム」の4段階で調節できる
「高コントラストキーボード」は、キーボードの色をコントラストの高いものにして視認性を高めるもの。4種類のパターンから選ぶことができる
「Adapt Sound」は、個人ごとに異なる音の聞こえ方を調整する機能。イヤホンを使用した場合に有効となる
フォントのサイズとスタイルをそれぞれ調整できる。最大まで文字サイズを大きくすればかなり視認性が高まる
本機は容量3,000mAhのバッテリーを搭載している。バッテリーの持続性に関するカタログスペックを見ると、「電池持ち時間」が約140時間(NTTドコモ版「SC-02M」、au版「SCV46」ともに)となっている。この「電池持ち時間」は、平均的なスマートフォンの利用時間・内容に基づいて計測したもので、大体1日1時間程度使うことを条件にしている。つまり、本機は計算上6日弱はバッテリーが持続することになる。今回の検証に際して、5日間にわたり、SNSやメール、インターネットの検索などを1日1時間以内というペースで利用したが、フル充電から1回も充電をせずに済んだ。これだけバッテリーが持つのであれば、携帯電話からの乗り換えでも面食らうことは少ないだろう。
なお、本機は急速充電の規格のひとつである「USB PD」に対応している。USB PD対応の充電器を使えば、最短約100分で充電が完了する。
NTTドコモの共通ACアダプター「ACアダプタ07」は最高出力27Wまで対応しており、これを使えば約100分でフル充電が行える。なおauの「TypeC共通ACアダプタ02」も27Wの出力に対応しており、こちらも同じく約100分で本機をフル充電できる
近ごろのスマートフォンは複数のカメラを搭載するものが多いが本機のメインカメラは、約800万画素1基のみのシングルカメラ(35mm換算の焦点距離は27mm)だ。F1.9の明るいレンズを組み合わせている。なお、自撮りや顔認証に使うフロントカメラは約500万画素だ。
背面に備わるメインカメラは約800万画素のイメージセンサーを使用。カメラ1基のみのシンプルなカメラだ
フロントカメラは約500万画素。自撮りに加えて、顔認証にも使われる
以下に、本機のメインカメラを使って撮影した静止画の作例を掲載する。いずれも、初期設定のまま、カメラ任せのオートモードで撮影を行っている。
日中の目黒川。肉眼の印象に近い仕上がりでなかなか鮮明だ
紅葉するカエデを逆行で撮影。明暗差の大きな構図だが、自然な仕上がりで撮影できた
丸の内の夜景。手持ち撮影で10枚ほど撮影した中で最も鮮明なものを選んだ。筆者が依然試した「Galaxy」のスタンダードモデルよりも鮮やかで、2万円前後の製品としては良好な画質と言える
夜の花壇を撮影。肉眼でも相当暗いがフラッシュを使わずに撮影した。今回の作例の中では最も厳しい撮影条件で、シャッター速度は1/10秒となっている。本機には手振れ補正機能が搭載されていないので、柵や手すりなど何かでスマートフォンを支えたほうがいいだろう
本機のカメラは、日中であれば、発色に不自然さはなくかなりキレイな撮影が行える。夜景などの高感度撮影だが、手振れ補正機能が搭載されていないので手ぶれが少ないものを選べばよいだろう。この価格帯のスマートフォンでは、カメラの性能がいまひとつということも多いが、本機のカメラは一定の画質が確保されており、悪条件でない限り満足できる写真が撮影できる。
SIMフリー機を中心にスマートフォンの低価格化が進んでいるが、本機のような2万円前後の製品はそれほど多くはない。その中にあって、本機はFeliCa・NFCポートと防水・防塵対応ボディを備えつつ、指紋認証センサーを省略したり、メモリーやストレージの容量を最小限に抑えることでコストをギリギリまで削減している。
スペック的にはミニマムだが、日本国内で利用するうえで必要となるひと通りの機能を搭載しているので、初めてスマートフォンを使うケータイからの買い替え層にも機能面での不安は少ないだろう。逆に、コスパ重視のサブ機としてはあまり適していない。そういう用途なら、同じサムスン製であれば「Galaxy A30」や「Galaxy A7」のほうが向いている。
FBの友人は4人のヒキコモリ系デジモノライター。バーチャルの特技は誤変換を多用したクソレス、リアルの特技は終電の乗り遅れでタイミングと頻度の両面で達人級。