NTTドコモから2020年7月30日に発売された富士通の5Gスマートフォン「arrows 5G」は、arrowsシリーズとしては約3年ぶりのハイエンドモデルとなる。今もファンの多い富士通製端末だが、かつての大文字「ARROWS」時代とは雰囲気の異なる製品となっていた。
NTTドコモの「arrows 5G F-51A」(以下、arrows 5G)は、富士通のスマートフォン「arrows」シリーズとしては3年ぶりのハイエンドモデルだ。価格.comの「スマートフォン・携帯電話」カテゴリーにおける人気ランキングは16位で、レビュー投稿数は18件、満足度は4.33ポイントと、低価格な製品が人気の中心を占める中では比較的善戦している(いずれも2020年8月16日時点の数値)。
そんな「arrows 5G」だが、実は富士通単独の設計ではなく、Snapdragonシリーズを製造する米・クアルコム社との協業によるリファレンスモデルが母体となっている。このリファレンスモデルは、5Gで使われる新しい周波数帯「ミリ波」エリアでの安定した通信を追求したもので、本機も5G通信では、Sub-6とミリ波の両方に対応している。
「arrows 5G」のボディは、約76(幅)×164(高さ)×7.7(厚さ)mm、重量約171gという薄型・軽量設計だ。このボディに3,120×1,440のQHD+表示に対応した約6.7インチの有機ELディスプレイを搭載している。手にとって真っ先に感じるのはその薄さと軽さだ。従来の4G向けアンテナなどに加えて3基のミリ波用アンテナを搭載しながらこれだけコンパクトにまとめられているのはすごい。なお、このボディは、従来のarrowsシリーズで特徴的だったタフネス仕様ではないが、IPX5/8等級の防水仕様と、IP6X等級の防塵仕様をクリアしている。また、家庭用の泡タイプのハンドソープまたは液体の食器用洗剤を使って洗うことも可能だ。これまでも「arrows Be」シリーズのように、低価格モデルでは洗剤で洗えるものはあったが、ハイエンドモデルでは珍しい。
ボディ前面はハイエンドモデルらしく、全面ディスプレイという感じの狭額縁設計。背面は樹脂製で複雑なグラデーションの塗装とパターンがプリントされている
約7.7mmという薄型ボディが特徴。富士通では、ミリ波対応の5Gスマホとしては世界最薄であるとしている
ボディは石けんで洗うことができる。しかも耐洗浄性能は、3年間毎日石けんで洗うことを想定して設計されているという
本機の有機ELディスプレイは大画面かつ解像度も高く、発色も良好だ。機能面でも、ディスプレイ指紋認証や、フロントカメラを収めたパンチホール、長辺がわずかに湾曲した曲面ディスプレイなど、ライバル機と比べても見劣りしない。ただ、パンチホールのサイズがかなり大きい。また、今期のハイエンドモデルでは対応している製品の多い、倍速駆動には対応していない。リフレッシュレートは60Hzのままなので、スクロールのなめらかさや残像感では見劣りを感じる面は否めず、この点はあとひとがんばりしてほしかったところだ。
パンチホールを備えた曲面ディスプレイを採用し、狭額縁設計と手になじみやすいデザインを実現している
画面右上に大きくくりぬかれたパンチホールはかなり存在感がある。あとひと回り小さくできれば、よりハイエンドモデルらしい高級感が感じられただろう
ボディ下面にUSB Type-Cポートを搭載する。ヘッドホン端子は非搭載だが、USB Type-Cポート→ヘッドホン端子の変換アダプターが同梱される
そのほかの機能面では、FeliCaポートとNFCポートを搭載しているが、フルセグ・ワンセグのテレビチューナーは非搭載。虹彩認証機能や、指紋認証センサーを使って画面の拡大やスクロールが行える富士通独自の機能「エクスライダー(Exlider)」も搭載が見送られている。かつてのarrowsシリーズのハイエンドモデルと言えば、ライバルをしのぐ多機能が特徴だったが、本機は、クアルコムとの協業によるリファレンスモデルがベースであるため、ハードウェアはかなりシンプルだ。
そのいっぽう、新しい機能として、本機をファイルサーバーとして利用する「FASTシェア」や、「arrows Be4」にも搭載されていた指紋センサーを使ってアプリの起動を素早く行う「FAST フィンガーランチャー」 が搭載されている。「FASTシェア」は近隣のスマートフォンとのファイル共有のための機能だが、クライアント側のアプリとしてWebブラウザーを使い、認証にはQRコードを使うなど、誰でも簡単に扱えるように工夫されている。また、ゲーム最適化機能の「快適ゲーミング」も新搭載されている。
「FASTシェア」は本機を一時的なファイルサーバーにし、外部端末からはWebブラウザーを使ってアクセスするというもの。QRコードを使うことで認証を簡略化させており、簡単にアクセスできる
「arrows Be4」にも搭載されていた指紋認証とリンクしたアプリランチャー「FAST フィンガーランチャー」を搭載している
ゲーム最適化機能の「快適ゲーミング」が新たに搭載された。CPUの処理性能を最適化させる「CPUブースト」を搭載するほか、Android 10に実装されている「Wi-Fiローテイテンシー」機能をアクティブにする設定が行える。また、ボタンひとつでスクリーンショットを撮影する機能も搭載されている
本機に搭載されるSoCは、最新世代のハイエンド向けSoC「Snapdragon 865」だ。このSoCは、サムスン「Galaxy S20」シリーズや、ソニーモバイル「Xperia 1 II」、シャープ「AQUOS R5G」などにも搭載されている、ハイエンド5Gスマホではおなじみのもの。このほか、メモリーは8GB、ストレージは128GB、最大1TBまで対応するmicroSDXCメモリーカードスロットを組み合わせる。OSはAndroid 10だ。なお、SoCの冷却には、薄型のベイバーチャンバー冷却システムを搭載しており、効果的な冷却が行える。
実際の処理性能を定番のベンチマークアプリ「AnTuTuベンチマーク」を使って計測したところ、総合スコアは468,137(内訳、CPU:131,675、GPU:186,769、MEM:78,828、UX:70,865)となった。このスコアを、SoCとメモリー容量が同じ「Xperia 1 II」の534,780(内訳、CPU:180,265、GPU:203,882、MEM:79,315、UX:71,818)と比較すると、明らかに数値が低いことがわかる。その理由は、本機は、発熱やバッテリー消費を抑えるためにSoCの処理性能にあえて制限がかけられているためだ。なお、この制限は、ゲーム最適化機能「快適ゲーミング」で解除できる。
液体を封入した超薄型のベイバーチャンバー冷却システムを内蔵している
左がベイパーチャンバーのないもので、右があるもの。サーモグラフィで発熱の様子を比較すると、ベイパーチャンバーはSoCの熱をボディ全体に拡散させていることが分かる
本機のAnTuTuベンチマークの計測結果。総合スコアは46万ポイント台となった。「Snapdragon 865」搭載機では60万ポイントに迫るものも少なくないが、本機の処理性能は初期状態ではあえて抑えられており、スコアはあまり伸びなかった
本機のメインカメラは、約1,630万画素の超広角カメラ(焦点距離16mm)、標準カメラとなる約4,800万画素の広角カメラ(焦点距離25mm)、約800万画素の望遠カメラ(焦点距離約78mm)という組み合わせのトリプルカメラだ。超広角カメラを基準とした場合、約4.8倍の光学ズームが行える。なお、フロントカメラは約3,200万画素だ。本機のカメラはフォトレタッチアプリ「Adobe Photoshop Express」との連携機能が備わっており、同アプリを使った画質調整が自動で行えるのが特徴。また、AIを使ったシーン認識機能や、最適な一瞬をAIが判断する「AIオートショット」機能も備えている。
メインカメラは超広角、広角、望遠という組み合わせのトリプルカメラを搭載する
以下に、本機のメインカメラを使った作例を掲載する。初期設定のままカメラ任せのオートモードまたは、「Photoshop Express」モードを使用している。
超広角カメラで蓮池を撮影。周辺部分の画質が少し荒れており、空のハイライト部分が白飛びしかかっているものの、明るい日中のためノイズは抑えられている
上と同じシーンを広角カメラに切り替えて撮影。構図手前の蓮の葉脈の解像感や花の色味も良好で、青空や雲の表現も自然だ
左が補正なしのもの、右がPhotoshop Expressの補正をかけたもの。蓮の花の色彩を見ると違いがわかりやすいだろう。なお、Photoshop Expressモードは広角カメラのみで利用できる
超広角カメラで夜景を手持ちで撮影。手ぶれは抑えられているがハイライト部分が一部白飛びしているほか地面にもノイズが現われ始めている。感度はISO1600だったが、これ以上の高感度になるとノイズが顕著になる
上と同じシーンを広角カメラに切り替えて撮影。階調の表現力やディテールの再現度など、上の超広角カメラや下の望遠カメラより明らかにすぐれている。夜景を撮りたいならこちらのカメラを使いたい
上記2枚と同じシーンを望遠カメラに切り替えて撮影。ノイズは少ないものの少しぼんやりとした印象だ。これ以上暗い構図になるとノイズが目立ってくる
ハイエンドスマートフォンでは、カメラの画質競争が年々激化している。本機は、富士通としては3年ぶりのハイエンドモデルとなるが、超広角、広角、望遠というトリプルカメラを搭載しており、スペックだけ見れば、ライバルに対して大きな見劣りはしない。ただし、高感度撮影機能などでは見劣りする部分も見られる。
本機は4,070mAhのバッテリーを搭載する。スペックを見ると「電池持ち時間」は約110時間(5Gエリア)/約125時間(4Gエリア)となっており、競合モデルと比較してもほぼ同レベル。実際の電池持ちだが、今回の検証は7日間行い、1日3時間(ゲーム1時間を含む)程度利用したところ、48時間前後でバッテリーはゼロになった。丸1日は余裕で持ち、使い方によっては2日近く持つバッテリー性能と言えそうだ。
なお、NTTドコモで最高性能の充電器「ACアダプタ 07」を使ってもフル充電には約170分かかった。急速充電の性能はさほど高くないようだ。
クアルコムとの協業によるリファレンスモデルをベースとして3年ぶりにハイエンドモデルとして復活した「arrows 5G」。FeliCaポートは搭載するもののハードウェア的には比較的シンプルな内容で、その魅力は、薄さと軽さを両立したボディと、5Gのミリ波への最適化にある。ただし、NTTドコモのミリ波5Gサービスは今夏以降の開始予定で、まだ始まっていないため、その魅力をすぐに感じることはできないのが残念だ。
気になった点としては、ベイバーチャンバー冷却システムを組み合わせたハイエンドSoCを搭載しているにもかかわらず、初期設定では処理性能に制限がかけられている点だ。また、カメラ機能も、年々レベルが上がる競合モデルと比較すると見劣りする感は否めない。石けんで洗えるものの、富士通のスマホとしては珍しくタフネスボディではない点にも注意が必要だろう。
最後に価格だ。本機はNTTドコモのWeb直販サイト「ドコモオンラインショップ」では、112,508円(税込、5G WELCOME割適用時の価格)となっており、本機と同じくミリ波対応のサムスン「Galaxy S20+ 5G」との差額は約3,000円となっている。「Galaxy S20+ 5G」は12GBのメモリーを備えるうえに、カメラの性能もかなり高い。いっぽう本機は、0.1mm違いではあるがボディが薄く軽い、そして衛生的に使えるという利点がある。あとはミリ波のつかみ具合だが、これはミリ波サービスが始まるまでのお預けといったところだ。
FBの友人は4人のヒキコモリ系デジモノライター。バーチャルの特技は誤変換を多用したクソレス、リアルの特技は終電の乗り遅れでタイミングと頻度の両面で達人級。