ソニーの名機「CLIE PEG-UX50」(写真左)と6型スマートフォン「F(x)tec Pro1」(写真右)を比較!
モバイル黎明期に誕生したPDAを振り返る本連載。前回(「Cosmo Communicator」と「HP200LX」による比較)に引き続き、「どこかPDAらしさを感じさせてくれるようなスマートフォン」と往年の名機による比較記事をお届けします!
今回ご紹介するのは、QWERTYキーボード付きの6型スマートフォン「F(x)tec Pro1」。物理キーボードを搭載した端末ということで、かつてソニーから発売されて人気となった名機「CLIE PEG-UX50」(以下、UX50)と比較し、モバイル端末の進化を改めて感じてみようと思います。
F(x)tec Pro1は2020年7月、スライド式のQWERTYキーボード付きスマートフォンとして、リンクスインターナショナルが国内販売を開始したモデル。一般販売に先がけ、クラウドファンディングで製品が発表された際も、大きな話題となりました。
スライド式QWERTYキーボード付きスマートフォンのF(x)tec Pro1
いっぽう、F(x)tec Pro1と比較するUX50は、ソニーが2003年8月、CLIE(クリエ)初となる横型キーボードを搭載したPDAとして発売したモデルです。
2003年8月にソニーから発売されたUX50
UX50は、無線LANやBluetoothを標準搭載し、Webブラウザー「NetFront Browser」やメーラー、PIM(パーソナル・インフォメーション・マネージメント)、そのほかのアプリなども使えるのが特徴でした。インターネットにアクセスできるため、当時、UX50でネットニュースを見たり、ブログを更新したりしているヘビーユーザーもいたほど。改めて振り返ってみると、現在のスマートフォンに近い使い方ができたPDAと言えます。
それでは、両端末を比較してみます。
いずれもQWERTYキーボードを搭載し、キーピッチは、F(x)tec Pro1が実測9mm、UX50が実測8mmでした。ともに、パソコン用のキーボードと比べるとキーピッチはかなり狭いのですが、キーとキーとの間に隙間を確保しており、押したいキーをきちんと押せる設計になっています。
F(x)tec Pro1のキーボードは、UX50より横幅がありますが、両手でホールドすれば親指タイプ、机に置けばタッチタイプも可能です。タッチタイプの際は、小指を使わずに、ほかの3本の指を使って入力するのがコツ!
F(x)tec Pro1は、「ESC」キーや「TAB」キー、「矢印」キーなどが配置されたフルキーボード仕様。キー配置は若干特殊な部分もありますが、慣れると問題なく入力できます
対して、UX50のキーボードは、標準状態でキートップがえぐられるような形状になっており、指先でその段差がわかる設計となっています。この工夫のおかげで、小さなキーボードでも比較的打ちやすかった覚えがあります。
とは言え、やはりこのサイズですし、キーストロークが浅いということもあって、スムーズに入力するには、かなりの訓練が必要。下記の画像にあるように、キータッチ改善シールをキートップに貼るという方法も効果的です。
今回ご紹介しているUX50は友人からの借り物で、キートップにはキータッチ改善シールが貼られていました。こうすることでキーをしっかり押し込むことができ、ミスタイプをかなり削減できます
ちなみに、UX50は本体の厚みがあまりないため、ホールドしにくいという問題がありました。しかし、本体底面に拡張バッテリーを装着すると少し分厚くなり、ホールドしやすくなります。バッテリーの駆動時間も長くなるので、この状態で使っているユーザーも多かったですね。
UX50(画像左)と、別売りの拡張バッテリー(画像右)。ちなみに、今回実機を貸してくれたUX50のオーナーは、拡張バッテリーを追加したUX50で、A4用紙数十枚分の原稿を書いていたとのこと
UX50に拡張バッテリーを装着したところ。分厚くなった分、ホールドしやすくなっています
次にカメラ機能を比較してみます。
F(x)tec Pro1のメインカメラは、1200万画素(F1.8)+500万画素(F2.0)のデュアル仕様。フロントカメラは800万画素(F2.0)で、テレカンにも使用できます。最新のスマートフォンと比べると、やや見劣りするスペックですが、普段使いであれば、問題ないレベルと言えそうです。
F(x)tec Pro1のメインカメラ。1200万画素(F1.8)+500万画素(F2.0)のデュアル仕様です
UX50には、約31万画素のカメラが搭載されています。当たり前ながら、現在のスマートフォンと比べると、画素数は圧倒的に少ないですね。このカメラ、レンズ部分が約300°回転するギミックを備え、さまざまなアングルで撮影できます。レンズはひとつしかありませんが、用途に応じてインカメラ/アウトカメラの両方の役割を果たすことができ、2003年の当時にしては、画期的な端末だったと思います。
UX50は、レンズ部分が約300°回転し、自撮りにも対応します。自撮りブームが来る前なので、先見の明があったのでは?
最後に、通信面を比べてみましょう。
スマートフォンのF(x)tex Pro1は、4Gネットワークに対応するほか、IEEE802.11a/b/g/n/ac準拠の無線LAN、Bluetoothといった無線通信もサポートしています。
いっぽうUX50は、IEEE802.11b準拠の無線LAN、Bluetoothに対応。携帯電話網はサポートしていませんが、内蔵の無線LAN機能を使ったり、Bluetoothに対応した携帯電話と接続したりすることで、インターネットを利用できます。つまり、現在のスマートフォンとほとんど変わらない環境で、ネットブラウジングやメールを楽しむことができたんです。
インターネット接続に対応するのも、UX50の大きな魅力
もちろん、Webサイトによってはレイアウトが崩れてしまうこともありましたが、ある程度の情報は、画面から把握できます。UX50の発売当時、外出先でインターネットに接続する人はさほど多くありませんでしたが、今にして思うと、画期的なインターネット端末だったと思います。
こうやってスマートフォンと比較すると、UX50は現在のスマートフォンに通じる機能が数多く搭載されている端末だということが、改めてわかりました。当時は「ユニークなCLIE」といった印象でしたが、携帯電話網に対応したうえで、もう少し後の時代に登場していれば、その評価も大きく違ったのではないかと思います。
ディスプレイがくるりと180°回転。このようなギミックにワクワクする感じも、現在のスマートフォンに欠けているのでは?
また、今回の比較を通して、PDAは工夫して使う余地があったということにも、気がつきました。実際に、PDAが普及していた時代は、周辺機器や改造パーツが数多く販売されていましたし、秋葉原にはPDAの本体を改造する店舗もありました。
当時は、宝探し気分でショップを巡回していましたね。PDAは未完成な部分があっても、自分好みにカスタマイズすることで、使い続けていくことができた端末だったと思います。あやしいパーツやサービスもありましたが、それはそれで、ワクワクしながら手に取っていた記憶があります。
いっぽうのF(x)tex Pro1ですが、ネットブラウズやメールも快適に行えるほか、QWERTYキーボードによってしっかり入力できるのが好印象。使っていて、ほとんど不満がありません。
同じくQWERTYキーボードを搭載するスマートフォン「BlackBerry KeyOne」のように画面が狭くありませんし、「Cosmo Communicator」のように、アプリごとに画面を回転させて使う必要もありません。キーボードを使いたいというユーザーにとって、よい選択肢になっていると思います。
簡易な作業であれば、F(x)tex Pro1は、パソコンの代わりになるかも?
また、F(x)tec Pro1は、「日本語」に設定するだけで、日本語を入力できるのもポイント。カスタマイズやIMEの設定などが苦になるエントリーユーザーにも適した端末です。
さらに、クラウドファンディングでは、OSに「Ubuntu」や「Lineage」などを搭載した「F(x)tec Pro1-X」の先行予約が実施されました(※2021年1月14日18時をもってプロジェクトは終了)。メモリーやストレージなどの仕様面が強化されており、「持ち出せるパソコン」として、さらに実用的な端末になっています。今後の一般発売にも期待しましょう。
F(x)tex Pro1自体は、PDAのように、ユーザー自身が工夫する余地はあまり多くはありませんが、メーカー側がニーズをくみ取り端末を進化させてくれています。それだけに、今後の展開が楽しみですね!
編集プロダクション。「美味しいもの」と「小さいもの」が大好物。 好奇心の赴くまま、よいモノを求めてどこまでも!(ただし、国内限定)