PDA博物館
あのころ「PDAも」「ケースも」自慢したかった。

なぜ、「丑や」の本革PDAケースは人気だったのか? スマホになくてPDAにあった情熱とは

「丑や」の安田氏が手がけた「CLIE UX-50」のケース。スタイラスケースもついている

「丑や」の安田氏が手がけた「CLIE UX-50」のケース。スタイラスケースもついている

モバイル黎明期に誕生したPDAを振り返る本連載。

今回登場するのは、牛皮を使ったPDA用ケースを開発・販売していた「丑や」(うしや)の安田憲市朗氏。本業は呉服店だが、ご自身も「ガジェットマニア」であるため、「自分が納得できるケースがほしい」と思い、丑やを立ち上げたという。

マニアの視点から「使いやすさ」と「かっこよさ」を追求した、同氏が考える理想のケースについてお話をうかがった。(※聞き手=PDA博物館初代館長 マイカ・井上真花)

丑やの安田憲市朗氏。「今もガジェットの類いは大好きですが、買いたいものが見つからないので、スマホで犬猫の写真を撮るのが趣味に。そのほか、レゴブロックで作った作品をイベントに出展するといった活動をしています。スマホはカメラだ!」

――安田さんが好きだった端末を教えてください。

「Libretto 50」です。パーツを買いに、わざわざ京都から東京・秋葉原にあるチチブデンキに足を運んだりしました。あそこは「おでん缶」で有名ですが、リブラー(※Librettoユーザーのこと)にとっては聖地でしたから。

「Libretto 50」(東芝) ※画像は東芝ホームページより

「Libretto 50」(東芝) ※画像は東芝ホームページより

あとは「Palm」かな。「PalmPilot」から使っていました。「CLIE」も使ったけど、好きだったのは「WorkPad c3」。デザインがかっこよかったんですよね。あと、Palm界隈には面白い人がたくさんいて、交流するのが楽しかった。

「Palm Pilot」(USロボティクス) ※画像は本連載内「心の病を治してくれたPalmへの恩返し Project Palmの40万字はこうして生まれた」での取材時に撮影したもの

今考えてみると、PDAを持っていても、たいしたことはしていませんでしたよね。せいぜいメールぐらいで、それも「今どこそこにいます」と伝えたいだけ(笑)。それだけのために、わざわざ「PIAFS(PHS Internet Access Forum Standard)を使って高速通信できないか」と工夫したりして。でも、そういうことが楽しかったんですよね。

――「丑や」を立ち上げたきっかけは?

もともと自分がPDAを使っていたので、専用のケースが欲しかったんです。でも、既存の製品を探しても、あまり満足できるものがなかった。だから、自分で作ってみようかな、と。

試しに、IBM系のコミュニティ「ThinkPad Club」で「ケースを作ってほしいという人はいませんか?」って聞いてみました。すると、ヒトミさん(1103さん)という方が「Palm Top PC 110のケース作ってよ」と。それで作ったのが、処女作の「のり巻きケース」なんです。

「Palm Top PC 110」(日本IBM)

「Palm Top PC 110」(日本IBM)

――「のり巻きケース」とは?

その名の通り、本体にぐるっと巻きつける革のケースです。持ち歩くときだけこのケースを巻き、使うときはケースを外す、という使い方を想定して作りました。だから、ケースというよりカバーと言ったほうが近いのかもしれません。

のり巻きケースのイメージ図。のり巻きのように革のケースを巻きつけることから、こう名づけたという

のり巻きケースのイメージ図。のり巻きのように革のケースを巻きつけることから、こう名づけたという

――使うときは、外すのですか?

はい。PC110は、本体を両手で持って親指打ちするのが標準的な入力スタイルだったので、それがやりやすいような形を考えてみたら、のり巻きスタイルになりました。これなら、使うときはさっと取り出せます。

だいたい、PDAはケースをつけて使うもんじゃない。ケースをつけて、使いやすくなるはずがない。裸のままで使ったほうが、絶対いいんですよ。だって、そういうふうに作ってありますからね。スティーブ・ジョブズだって言っていたでしょ。「何でケースなんかつけるのか」って。

ぼくが作っていたのは、オタクのためのケース。オタクは、みんな次から次へと新しいガジェットを買いますよね(笑)。実際に、ぼくもそうでした。その理由は「人に見せたいから」。だったら、見せられなくちゃ意味がないんです。すっぽり覆うタイプのケースだと、パッと見て、それが何だかわからないでしょ。それじゃ、自慢できない(笑)。

――では、なぜPDAにケースが必要だったのでしょうか?

PDAを持ち歩くとき、カバンの中で、何かとぶつかって傷がつかないように保護するためですよ。PDAは値段が高かったから。裸で持ち歩いて壊れたり傷が入ったりしたら、泣くに泣けないでしょ。だから、持ち歩くときは、何らかの保護が必要。ぼくが作っていたのは、そのためのケースです。

――ほかにも、こだわりポイントはありますか?

できるだけ側面は裸のままにしておく、ということかな。そうすれば、手で持つときにカバーではなく、本体をつかむようになる。そうすると、うっかり落としてしまう心配が軽減されます。

簡単にはめられるようなケースはたくさんあるけど、「簡単にはめられるということは、簡単に外れるということ」だと思います。

ケースごとPDAを持とうとして、するっとPDAだけがすべり落ちることもある。本体が落ちて、ケースだけ手に残るなんて悲しすぎるから、持つときは必ず、本体に触れるように作りたかったんです。

あとは、かっこよさかな。PDAなんて、人に見せて自慢するために持つもの。いかにかっこよく見せるかがキモでしょう。だから、できるだけかっこよく見えるようにしたかった。

――そういえば、「HP100LX」には、ガンホルダーのようなケースがありました。あれはかっこよかった!

はい、ありましたね。ぼくも、キヤノンのデジタルカメラ「IXY DIGITAL」のケースはガンホルダーの形で作りました。撮りたい瞬間を逃さず撮影したいから、カメラを取り出すのに手間どっていてはダメ。だから、取り出しやすさにこだわったんです。

安田氏がはじめに作ったIXY DIGITAL用ケース

安田氏がはじめに作ったIXY DIGITAL用ケース

フタつきで、頭にネックストラップがつけられるようになっていた

フタつきで、頭にネックストラップがつけられるようになっていた

これは、その後に作ったケース。リコーのデジタルカメラ「GR DIGITAL」用に作ったものを、IXY DIGITAL用として作り直した

カメラをさっと取り出すための工夫を施している

カメラをさっと取り出すための工夫を施している

――こうして改めて見ると、やっぱりかっこいいですね。私も欲しかったけど、価格はそれなりに高めだったおぼえが。

本革製だから、まあ、そうなりますよね。でも、PDAも高かったからね。自動車と一緒ですよ。高い車だから、高いタイヤをはかせる。中身が高いから、周辺にもお金をかけるんですよね。ブランド物も結構あって、なかにはルイ・ヴィトンのPalmケースを使っている人もいましたよね。

ケースは、服と同じ。みんな、自分の大事なPDAを着飾らせたいんですよ。つまりPDAは、オタクのファッションアイテム。だから、こだわりがある。自分だけのスペシャルが欲しい。それも、できるだけかっこいいものがいい。そう思う人が多かったから、丑やのケースが売れたんだと思いますよ。

しかし、個人的には、スマートフォンに高いケースを使う必要はないと思っています。実際に、ぼくのスマートフォンにつけているのは、シリコンカバーケースと液晶保護シートのみ。持ち歩くことを考えれば、100円均一の防水クリアケースとか理想的だなと思います(笑)。スマートフォンには、PDAほどの愛着を感じないのかもしれませんね。

――丑やさんは、現在も営業していますよね。

やっていますよ。会社のHPがあるので、欲しい方はこちらからお願いします。言ってもらえれば何でも作りますが、数が少ないと単価が高くなるので、できれば20〜30個ぐらいまとめてもらえるとうれしいです。

「CLIE TH55」のケース(奥山芳樹さん提供)

「CLIE TH55」のケース(奥山芳樹さん提供)

ノートPCのケースも作った。これはVAIO(ソニー)のケース

ノートPCのケースも作った。これはVAIO(ソニー)のケース

VAIOのケースを閉じたところ

VAIOのケースを閉じたところ

取材を終えて(井上真花)

安田さんは京都にお住まいとのことで、今回もZoomを使って取材を行いました。しかも、2回。最初にお話ししたときは、レゴブロックの話で盛り上がってしまって、ケースのことは、あまり聞けなかったものですから。

ちなみに、PC110の「のり巻きケース」を依頼したヒトミさん(1103さん)という方もレゴビルダーとのこと。PDAとレゴブロック、あまり共通点はないように思いますが、安田さんによると「PDAもレゴブロックも、本気でやろうとするとお金がかかる」という共通点があるとのこと。なるほど、つまりどちらも「どれだけ本気でのめり込めるか」という本気度を試されるってことなんですね。

オフィスマイカ

オフィスマイカ

編集プロダクション。「美味しいもの」と「小さいもの」が大好物。 好奇心の赴くまま、良いモノを求めてどこまでも!(ただし、国内限定)

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