PDA博物館
物理キーボード搭載デバイスの今と昔

あえて今、PDAの遺伝子を継ぐスマホ「Cosmo Communicator」と「HP200LX」を比べてみる

物理キーボード搭載のAndroidスマートフォン「Cosmo Communicator with HDMI」(画像左)。あえて今、ミニPCの名機「HP200LX」(画像右)と比較してみます

物理キーボード搭載のAndroidスマートフォン「Cosmo Communicator with HDMI」(画像左)。あえて今、ミニPCの名機「HP200LX」(画像右)と比較してみます

モバイル黎明期に誕生したPDAを振り返る本連載。今回は番外編として、現在発売されているスマートフォンと、往年の名機による比較記事をお届けします。

とは言っても、今回取りあげるのは、一般的によく知られているスマートフォンではありません。少し風変わりで、どこかPDAらしさを感じさせてくれるような「Cosmo Communicator with HDMI」に注目し、その中にひそむ、PDAの遺伝子を探っていく試みです。

PDAの遺伝子を継いだスマートフォン

物理キーボード搭載のAndroidスマートフォン「Cosmo Communicator with HDMI」

物理キーボード搭載のAndroidスマートフォン「Cosmo Communicator with HDMI」

今回ご紹介する「Cosmo Communicator with HDMI(10-101-JPN-J)」(PLANET製)は物理的なキーボードを搭載した、Androidスマートフォンです。

従来モデルの「Cosmo Communicator」は、2019年12月にリンクスインターナショナルが国内展開を開始。こちらのCosmo Communicator with HDMIは、USB Type-C to HDMIアダプターを新たに追加した製品として、2020年6月に発売されました。

なお、Cosmo Communicatorの前モデルは、本連載でインタビューに協力していただいた山根博士(関連記事:“日本一携帯電話に詳しい男”山根博士が描くモバイルの未来予想図)や、文市(あやち)さん(関連記事:「アキバの喫茶店で、はんだごて片手に改造!」あのころ、HP200LXユーザーグループはアツかった)が褒めたたえたAndroidスマートフォン「Gemini PDA」。その名が示すとおり、「PDA」の遺伝子を継いだ名機で、多くのPDAファンのハートを射止めたモデルでもあります。

Cosmo Communicatorの前モデルとなる「Gemini PDA」。「PDA」という響きに、胸がときめいた、かつてのPDAユーザーも少なくないはず

Cosmo Communicatorの前モデルとなる「Gemini PDA」。「PDA」という響きに、胸がときめいた、かつてのPDAユーザーも少なくないはず

Cosmo Communicator with HDMIは、そんなGemini PDAの後継モデルということもあり、これは、いやがうえにも期待が高まってきます。今回、リンクスインターナショナルさんのご厚意で実機をお借りすることができたので、ミニPCの名機「HP200LX」と比較しながら、レビューしていきたいと思います。

今回、Cosmo Communicator with HDMIと比較するのは、こちらのHP200LX

今回、Cosmo Communicator with HDMIと比較するのは、こちらのHP200LX

本連載の読者なら知らない方はいないと思いますが、軽くご紹介すると、HP100/200LXは1993年に発売されたIBM互換機のことです。小型ながらもキーボードを搭載し、プリセットでスケジューラーやアドレス帳、データベース、メモ帳、表計算ソフトなどが使えました。

当初は英語しか使えない端末でしたが、ユーザーの努力により、みごと日本語化を実現! このことからもわかるように、日本のLXユーザーグループは非常にポテンシャルが高く、そのおかげで、想定以上のユーザーを獲得することができたと言っても、過言ではありません。

そのユーザーグループの熱はいまだ冷めやらず、発売から30年近く経った今も、HP100/200LXを現役マシンとして使っているヘビーユーザーが存在します。また、ヤフオク!やメルカリでも、実機が取り引きされているようです。

これならLXの代わりになるかもしれない!

実は私も、そんなユーザーグループのひとりでした。LXがなければ、今の私はなかったと断言できるほど、たいへんお世話になった端末。スマートフォン全盛を迎えた今も、なかなか手放すことができなかったんです。

しかし、やっと「これならLXの代わりになるかも!」と思える端末に出会うことができました。それが、前述のGemini PDAというAndroidスマートフォン。購入当初は「やっと出会えた!」という手応えを感じていましたが、使っているうちに「これじゃない」感が高まってきてしまい、結局、手離してしまうことに。

今回ご紹介するCosmo Communicator with HDMIは、その後継機ということで、「今度こそ!」という期待が高まっています。しばらく使ってみて、本当にLXの代替機になるのかどうか、試してみたいと思います。

Cosmo Communicator with HDMIの概要をチェック

まず、Cosmo Communicator with HDMIを箱から出して、電源を入れてみます。液晶画面に「PLANET」というロゴが浮かび上がり、思わず、Gemini PDAを思い出してしまいました。今にして思えば、あの子もなかなかよい子だった……。

物理キーボードを搭載したCosmo Communicator with HDMIですが、本体を折りたたむと、縦長の従来型スマートフォンのようにも見えます。Gemini PDAと同様に、この状態のままでも通話できます。しかし、仕様が異なるのは、背面にディスプレイがあること。Gemini PDAには、背面ディスプレイがなかったため、通知内容を確認するのに、いちいち開く必要があったんですよね。

前モデルのGemini PDAは、背面にディスプレイがなかったため、通知などがすぐに確認できず、不便でした。いっぽう、Cosmo Communicator with HDMIは、その弱点をみごとにカバーしています。ちなみに、青く光るライトの部分には、指紋認証センサーが装備されています

前モデルのGemini PDAは、背面にディスプレイがなかったため、通知などがすぐに確認できず、不便でした。いっぽう、Cosmo Communicator with HDMIは、その弱点をみごとにカバーしています。ちなみに、青く光るライトの部分には、指紋認証センサーが装備されています

次に、気になるキーボードを試してみましょう。本体サイズはコンパクトですが、もちろんフルキーボードを採用。キートップはかなり大きめで、実際にキーを打ってみたところ、確かな打鍵感があって好印象。これなら実用として、十分かもしれません。

私は、ペコペコなキーボードが苦手なのですが、Cosmo Communicator with HDMIは適度に押し応えがあります。確かな打鍵感も気に入りました

私は、ペコペコなキーボードが苦手なのですが、Cosmo Communicator with HDMIは適度に押し応えがあります。確かな打鍵感も気に入りました

また、Gemini PDAと同様に、500万画素のインカメラを備えているので、フットワークの軽いテレビ会議端末としても使えそうです。Android OSを採用しているので、テレビ会議に必要なアプリは、Google Playストアから入手できます。ノートPCの代わりになる……というのは言い過ぎかもしれませんが、ちょっとした作業ならこれ1台で何とかなるかな、という印象です。

“電脳パンツ”HP200LXと比較してわかったこと

Cosmo Communicator with HDMI(画像左)とHP200LX(画像右)を並べてみると、Cosmo Communicator with HDMIのほうが小さいのがわかります

Cosmo Communicator with HDMI(画像左)とHP200LX(画像右)を並べてみると、Cosmo Communicator with HDMIのほうが小さいのがわかります

では、HP200LXと比較してみることにしましょう!

HP100/200LXは当時、ユーザーから「電脳パンツ」と呼ばれていました。その心は、「何があっても手放せない」ということ。実際、多くのLXユーザーがHP100/200LXをポケットやカバンなどにいれて持ち歩いており、カフェや職場など机があるところはもちろん、移動中でも、HP100/200LXをプチプチと操作していました。

HP100/200LXの魅力は、独自のキーボード。キートップは小さいけれど、キー同士の距離が離れているため、きわめてミスタッチしづらい作りになっていました。デスク上ではパソコンのようにタッチタイピングできるし、両手でホールドすれば、ゲームのコントローラーのように親指で入力することも可能。実際に、親指入力で1分間に500文字以上入力できる猛者もいました。

Cosmo Communicator with HDMIで同じことができるかどうか試してみましたが、問題なし。タッチタイプは可能ですし、両手でホールドして入力することもできます。HP200LXのように、テンキーやファンクションキーがないのは少し残念でしたが、このサイズで打ちやすいキーボードが付いているメリットを考えると、許容できる範囲と言えます。

Cosmo Communicator with HDMIのキーピッチは約14mm。キーストロークもしっかりと確保されており、ちょっとした文章ならストレスなく入力できます。ただし、問題もあります。たとえば、キー配置。音引きなど、記号の入力が若干面倒なのは以前、Gemini PDAで経験したものと変わりませんでした。

Cosmo Communicator with HDMI(画像上)とHP200LX(画像下)のキーボード。似たような端末ですが、キーボードの仕様が大きく異なっています

Cosmo Communicator with HDMI(画像上)とHP200LX(画像下)のキーボード。似たような端末ですが、キーボードの仕様が大きく異なっています

もうひとつ、Cosmo Communicator with HDMIでは、設定を間違えると「かな文字」入力になってしまうことも気になりました。最初に「日本語キーボード」を選択するとなぜか、かな入力になってしまいます。これをローマ字入力に変更するには、設定を見直す必要がありました。

HP100/200LXも海外端末だったので、日本語入力するには、ユーザーグループが作ったディスプレイドライバーやフォントを入手し、インストールしたうえで設定を書き換えて……という作業が必要でした。市販のFEP(Front End Processor)を使うためには、パッチを当てたりする必要があったり……。これが結構たいへんで、途中で断念した方も多いのではないかと想像します。

それから約30年の時間が経過し、「もう、そういう苦労はないだろう」と高(たか)をくくっていたのですが、Cosmo Communicator with HDMIを見る限り、同様の苦労は、今もなくなっていないようです。「がんばれば使える」けど、「がんばらないと使えない(使いにくい)」ということを乗り越えなければ、こういった便利な端末の恩恵にはあずかれないのですね……残念。

Cosmo Communicator with HDMIのメリット

そのほか、いくつか気づいた点をあげてみます。

当然ながら、Cosmo Communicator with HDMIはインターネットに接続できるので、あらゆるクラウドサービスが使えます。スマートフォンなので、当たり前と言えば当たり前ですが、昔のことを考えると、この差はとても大きい。

もちろん、HP100/200LXでもパソコン通信はできたし、がんばれば、インターネットにも接続できました。しかし、Cosmo Communicator with HDMIほど、簡単ではありません。

さらに、HP100/200LX は、SIMが挿せないので、モジュラーケーブルやモデムを別途用意して接続しなければならず、外出先で気軽にネットが使える環境とは言えませんでした。(秋葉原のグレ電では多くの人がネットに接続していましたが ※編集部注:グレ電とは灰色のISDN公衆電話のこと)

今ではすっかり、当たり前の感覚になりましたが、クラウドサービスが使えるということは、外出先でも、GoogleカレンダーやGmailが使えるというわけです。

HP100/200LXの場合は、カレンダーや住所録を本体でポチポチ入力しなければならず、しかも、本体を忘れてしまうと確認できないという不自由さがありました。ネットワークを通じて、いつでもこれらにアクセスできるという点では、完全にCosmo Communicator with HDMIに軍配が上がります。

また、HDMI接続でディスプレイに出力できるのも便利です。解像度がそのまま表示されてしまうので、かなり画面が拡大されてしまいますが、文字が大きく表示されるのは、近くのものが見えづらい「ローガンズ」である私にとって大きなメリットになります。

たとえば、Cosmo Communicator with HDMIの画面をディスプレイに出力して、外付けキーボードとマウスなども接続すれば、あたかもパソコンのように使えます。さらに、テレカン(Teleconference)も快適にできそうです。スマートフォンの小さな画面でテレカンすると、周囲の人と画面を共有しづらいこともありますが、HDMI接続で大画面ディスプレイに出力しておけば、それも見事に解決します。

Cosmo Communicator with HDMIの画面をディスプレイに出力してみた。おお! そのまま表示されている! ただただ、でかい!

Cosmo Communicator with HDMIの画面をディスプレイに出力してみた。おお! そのまま表示されている! ただただ、でかい!

それでもやっぱりHP100/200LXにはかなわない?

と、ここまではCosmo Communicator with HDMIのほうがよかった点をあげましたが、実は私、やっぱりHP100/200LXのほうがよいのでは? と感じています。その理由を書いてみます。

HP100/200LXには、アプリをワンキーで起動して、簡単に切り替えられる「特殊キー」があり、とても便利でした。いっぽう、Cosmo Communicator with HDMIは、アプリを起動するのに、ランチャーが必要です。ランチャーを工夫すれば、アプリがスムーズに切り替えられるようになるとは思いますが、この点では、初期設定のままですでに切り替えがスムーズだった、HP200LXに軍配が上がります。

もうひとつ、これは私の好みかもしれませんが……クラウドではなくローカルにあったほうが便利なデータもあるのではないかと思います。

HP100/200LXのシステムマネージャーには「Data base」というカード型データベースアプリがあり、簡単な操作でカード型データベースを自作できました。ちょっとしたお役立ち情報、たとえば、「押すと気持ちいいツボ」のデータベースを自作している人がいて、「いいな、それ欲しい」と言えばデータをわけてくれたり、お返しに、私が作ったレシピデータを差し上げたり。ネットではなく、個人がちまちま作ったデータをローカルでやりとりするという、特殊な楽しみ方があったような気がします。

そう言えば、「Train」という路線検索アプリもありました。もちろん今は、スマートフォン向けに路線検索アプリが提供されており、すぐに検索できて便利です。しかし、いざという時にネットワークにつながらず、なかなか路線が調べられない……ということもあり、そのような場合に、「むしろローカルにあって、ネットがなくても調べられるほうが、便利なのではないか」と考えてしまうわけです。

コミュニティについて

最後に、Cosmo Communicator with HDMIとHP100/200LXを比較して、率直に感じたことをまとめてみます

最後に、Cosmo Communicator with HDMIとHP100/200LXを比較して、率直に感じたことをまとめてみます

これはCosmo Communicator with HDMIに限ったことではありませんが、現在は、ユーザーが「利用者」という立場でしかアプリに関われなくなっています。これが便利なようで、意外と不便なのではないかという気がします。

HP100/200LXには、開発者とユーザーが協力してサービスを育てていくコミュニティがありました。そもそも、そういったコミュニティがなければ、日本語化できなかったため、「おのずと、そうなっていった」という言い方をしてもいいかもしれません。

Cosmo Communicator with HDMIとHP100/200LXを比較するうえで感じたのは、この違いでした。

HP100/200LXは、コアな端末ということもあり、購入できる場所も限られていました。そのため、全国のユーザーが新宿の紀伊國屋書店アドホック店に集まり、購入したり、情報交換したりしていたんです。(関連記事:ミニPCの名機「HP-LX」をヒットさせた、新宿アドホック店の“元祖エバンジェリスト”

実際、アドホックでの雑談から生まれたアプリもあったと聞いています。実際に会って話をしながら結びついていく、そういうコミュニティが存在していたということは、とても大きかったと思います。

オフラインだけでなく、オンラインでも同様で、困ったことがあればパソコン通信のユーザーコミュニティで相談するのが当たり前でした。今はブログやSNSで調べる人が多いようですが、あのころは、もっとお互いの距離が近かったように感じます。

そう考えると、不思議ですね。HP100/200LXはインターネットに閉じられた端末でありながら、人と人を強く結びつけていた。いっぽう、Cosmo Communicator with HDMIは、インターネットに開かれた端末でありながら、あのころと比べれば、人と人との関係は希薄に感じられます。私にとって、PDAが魅力的だったのは、その背後にあるコミュニティだったのかもしれないと、今さらながら気がつきました。

オフィスマイカ

オフィスマイカ

編集プロダクション。「美味しいもの」と「小さいもの」が大好物。 好奇心の赴くまま、よいモノを求めてどこまでも!(ただし、国内限定)

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