2021年5月28日にNTTドコモから発売された4Gスマートフォン「arrows Be4 Plus F-41B」は、ドコモの今夏モデルでは最安価格となる21,780円(税込)のエントリーモデル。「arrows」シリーズの特徴であるタフネスボディや衛生機能、スマホ初心者向けの親切な機能を数多く備えてながら、思い切った低価格を実現した本機の実力を検証した。
NTTドコモの2021年夏モデルのラインアップは、5Gスマートフォンが中心となっているが、ソニー「Xperia Ace II」と、今回取り上げるFCNT(旧社名:富士通コネクテッド)「arrows Be4 Plus F-41B」(以下、「arrows Be4 Plus」)の2機種のみが、4Gスマートフォンとして発売される。これは、FOMA(3G)の終了に備えたケータイからスマートフォンへの移行ユーザーや、価格を抑えたいというユーザーの要望に応えるためのものだろう。しかも、今回取り上げる「arrows Be4 Plus」は、21,780円(税込)というNTTドコモの今夏モデルとしては最安価格を付けた製品だ。前モデル「arrows Be4」の発売当初の価格は23,760円だったので、1割ほど値下げされた形だ。
「arrows Be4 Plus」と前モデルの「arrows Be4」は、名前も外観もよく似ているため、筆者も最初は、ベースは変わらないマイナーチェンジモデルだろうと思った。しかし、基本スペックを比較してみると、両機にはディスプレイのサイズが5.6インチであることくらいしか共通点がない。以下に両機の基本スペックを比較してみた。
上記の表を見るとわかるように、「arrows Be4 Plus」では、SoCやメモリー・ストレージの増強で処理性能が向上している。また、バッテリーも大容量化された。そのいっぽうで、搭載する有機ELディスプレイの解像度が、従来のフルHD+からHD+にダウングレードされている。おそらくは、メインターゲット層をシニア層などに限定することで、アイコン表示などを大きくするため、フルHD+の解像度は必要ないという判断なのだろう。なお、このディスプレイは、有機ELらしくコントラストは高いが、解像度が低いため細かな文字ではエッジが少々にじむ。ただ、本機に備わる「Exlider(エクスライダー)」などの文字を大きく表示する機能を使えば、そうしたデメリットはある程度緩和できる。
有機ELらしいコントラストの高い映像だが、解像度は低め。標準状態でのアイコン表示も1列に4個と大きめの表示になっている
画面サイズに対して、解像度が低いため、細かな文字などの表示に多少の粗さを感じる場合がある
背面のデザインは目新しさには欠けるものの、手によくなじむデザインだ
ボディ下面に、USB Type-Cポートとヘッドホン端子を搭載
なお、arrowsシリーズの大きな魅力であるタフネス性能や衛生性能は継承されている。IPX5/8等級の防水仕様、IP6X等級の防塵仕様に加えて、米国国防総省の調達基準「mil-std-810G」の23項目(落下、耐衝撃、防水(浸漬)、防塵(6時間風速有り)、防塵(脆弱面90分)、塩水耐久、防湿、耐日射(連続)、耐日射(湿度変化)、耐振動、防水(風雨)、雨滴、熱衝撃、高温動作(60℃固定)、高温動作(32〜49℃変化)、高温保管(70℃固定)、高温保管(30〜60℃変化)、低温動作(-20℃固定)、低温保管(-30℃固定)、低圧動作、低圧保管、氷結(-10℃結露)、氷結(-10℃氷結))をクリアしている。なお、耐衝撃性能は1.5メートルの高さからの落下に耐えることが可能だ。
衛生面での機能として、ハンドソープや食器用洗剤を使った丸洗いにも引き続き対応する。また、ボディの塗装面に抗菌剤が含まれているほか、アルコール消毒液で拭くこともできるなど、昨今の世相を反映した作りとなっている。
ボディは、ハンドソープや食器用洗剤で丸洗いが可能
ボディの丸洗いの手順を解説する動画も収録されている
SoCが強化されメモリーも増強されたことで、基本性能も向上している。定番のベンチマークアプリ「AnTuTuベンチマーク」の結果は、総合スコア157,945(内訳、CPU:55,371、GPU:23,723、MEM:36,614、UV:42,233)、前モデル「arrows Be4」のスコアは92,253(内訳、CPU:38,185、GPU:9,445、MEM:24,129、UX:20,494)だったので、これと比較すると、全般的に大幅なスコア向上となっている。なお、GPUのスコアについては、アプリのテスト仕様が変わっているので、本スコアは全体的に参考値として見ていただきたい。
実使用でも、SoCの処理性能が向上したことや、ディスプレイの解像度がHD+に抑えられたことなどが重なり、エントリーモデルとしては全般的にスムーズに動作する印象だ。地図アプリやWebページ、SNSのトーク画面をさっとスクロールさせるような状況でも、もたつきは皆無ではないが少ない。グラフィック性能も向上しているので、3Dゲームなども適した画質に設定すれば、プレイは可能となるだろう。
AnTuTuベンチマークの計測結果。左が本機、右が前モデル「arrows Be4」。各サブスコアが大幅に向上している。なお、アプリのバージョンが異なるため、GPUのテスト項目が変わっている。全体としてあくまで参考値として見ていただきたい
「arrows Be」シリーズは、使い勝手を高める独自の機能も魅力だ。本機も、指紋認証センサーを使って画面の拡大が行える「Exlider(エクスライダー)」や、電話帳に登録のない番号からの着信に対する迷惑電話対策機能、音声認識技術を使って会話内容を解析する還付金詐欺対策機能を搭載している。また、新機能として、決済アプリやポイントカードアプリをお店ごとにまとめて表示できる「FASTウォレット」機能が追加された。また、マスクを装着した際の通話音声のこもりを軽減する「マスク通話モード」も、今の世相を反映した機能と言えるだろう。
こうしたユニークな機能に限らず、アイコンを大きく表示するシンプルモードや、ケータイのテンキーをイメージした文字入力画面、フリック入力の練習モードなどスマートフォン初心者の敷居を下げるような配慮が、ソフトウェアのあちこちになされている。こうした点からも、本機のメインターゲットが、ケータイからスマートフォンに乗り換えるシニア層であることがわかる。
指紋センサーをなぞることで、画面を最大5倍まで拡大できる「Exlider(エクスライダー)」を搭載。すべてのアプリや画面で利用できる
迷惑電話対策機能は、電話帳にない番号からの着信に対して対策をとる
お店ごとに、電子決済やポイントカードアプリをセットにして起動する「FASTウォレット」。レジ前でもたつくことなくカードやQRコードを提示できる
指紋認証とリンクしたアプリランチャーの「FASTフィンガーランチャー」も引き続き搭載
左は文字やアイコンを大きく表示するホーム画面「シンプルホーム」。右は数字ボタンを大きく配置した音声通話アプリ「かんたん電話」。このほか、電話帳や設定画面などで、文字を大きく表示する配慮があちこちに見られる
文字入力画面も4種類のデザインが用意されているがそのうち2種類を紹介。左はケータイのテンキー的なデザインの「ケータイキーボード」、左は通常のフリック入力画面だが、機能を漢字でわかりやすく表示している
本機のメインカメラは、約1,310万画素のシングルカメラだ。自撮りや顔認証で使うフロントカメラも約800万画素のシングルカメラとなっている。最近はエントリーモデルでもデュアルカメラやトリプルカメラを搭載することが多いので、本機のカメラはかなりシンプルと言える。なお、搭載するフォトレタッチアプリ「Adobe Photoshop Express」と連携した機能を備えており、撮影と同時に画質調整や編集も行える。
メインカメラは「arrows Be4」と同じ画素数だが、イメージセンサーが1/3.06インチから1/3.0インチにわずかながら大型化されたほか、レンズもF1.9からF1.8に明るくなっている
以下に、本機のメインカメラを使った静止画の作例を掲載する。いずれも初期設定のままカメラ任せで撮影を行っている。
カラーサンプルの代わりとして撮影した色鉛筆。色の再現性は比較的良好で、ホワイトバランスも肉眼に近い印象だ
石像を撮影。明暗差の大きな構図だが、構図左端のハイライト部分に偽色が現われている
「Adobe Photoshop Express」モードで夜のビル街を撮影。元のデータはかなり暗かったが、近ごろのスマートフォンが搭載する夜景撮影機能くらいには明るく鮮明な仕上がりになった
本機のカメラ機能は、価格相応のシンプルなものだ。明暗差のある構図で威力を発揮するHDR機能は搭載されているものの、動作させた場合は、シーンの自動認識機能と手ぶれ補正機能が使えなくなるため、積極的には使いにくい。そういう状況では「Adobe Photoshop Express」との連携機能が使える。特に夜景撮影では明るさが増し、近ごろのスマートフォンに近い画質が得られる。
本機は3,600mAhのバッテリーを内蔵している。これは前モデル「arrows Be4」と比べて820mAh、率で言えば約3割の容量アップとなっている。カタログスペックを見ると連続待ち受け時間は約790時間、連続通話時間(EVS-SWB)は約1,540分となっている。電池持ちのよさでは定評のあるシャープ「AQUOS sense4」の連続待ち受け時間約820時間、連続通話時間約2,250分と比較しても、待ち受け状態ならほぼ拮抗するバッテリーの持ちだ。今回の検証は全部で14日ほど行ったが、ほぼ待ち受け状態なら7日経った時点でもまだ20%ほどのバッテリー残量があった。いっぽう、1日に3時間程度のペースで利用した場合、フル充電の状態から3日と半日でバッテリー残量が5%を切った。スマートフォンは電池持ちが悪いと言われ続けているが、本機は待ち受け主体で使うのであれば、ケータイと比べてもさほど違和感のない電池持ちと言えそうだ。1泊2日の旅行なら余裕で、2泊3日の旅行でもうまく使えば充電器なしで持ちこたえられるだろう。
なお、本機はUSB PDやQuickChargeといった現在主流の急速充電には対応していないため、フル充電には4時間近く(カタログ値で約220分)かかる。この点は多少注意が必要かもしれない。ちなみに本機の製品パッケージに充電器は同梱されていない。
5年後の2026年にNTTドコモのFOMA(3G)が終了することが発表されているが、iモードなどケータイを使った一部のサービス終了はすでに始まっている。2026年を待たずに、ケータイでできることはこれからどんどん少なくなってくるので、スマートフォンなどへの移行は急いだほうがよい。
本機は、防水・防塵ボディ、FeliCaポート(おサイフケータイ)搭載といった、ケータイ由来の機能はきちんと引き継ぎつつ、スマートフォンは初めてというユーザーに向けた配慮や、スマホ決済向けの便利な機能、衛生機能も備えたタフネスボディ、音声通話時のマスクモードなど、細かな配慮が行き届いた製品だ。低価格ではあるが、それなりに性能のバランスがとれており、Web、メール、SNSとった日常的な使い方であれば十分スムーズに利用できる。
本機と競合する製品としては、NTTドコモの同じエントリーモデルでほぼ同額のソニー「Xperia Ace II」や、本機の前身となる「arrows Be4」が想定される。「Xperia Ace II」は、文字やアイコンを大きくする「シンプルホーム」は備わるが、初めて使う人に親切な配慮が本機ほどは充実していない。また、体感速度も本機のほうに分がある。いっぽうの「arrows Be4」は機能面では本機にかなり近いが、処理性能の面で1年新しい本機にやはりアドバンテージがある。長い期間にわたり快適に使うのであれば、結局本機のほうが割安になるだろう。
FBの友人は4人のヒキコモリ系デジモノライター。バーチャルの特技は誤変換を多用したクソレス、リアルの特技は終電の乗り遅れでタイミングと頻度の両面で達人級。