ソニーのハイエンドスマートフォン「Xperia 5 III(マークスリー)」が、2021年11月12日から、NTTドコモ、au、ソフトバンクの各社より発売された。上位モデル「Xperia 1 III」の長所を凝縮しつつ、価格もいくらか手ごろになった本製品だが、価格.comの「スマートフォン」カテゴリーでの人気ランキングは1位を獲得。ユーザーレビューも4.58ポイント(2021年11月24日現在)という、相当の高評価を得ている。その実力に迫った。
ソニーのスマートフォン「Xperia」シリーズは、最近製品数が増加している。2021年登場の製品は、本機のほかに、ハイエンドモデルの兄貴分であるフラッグシップ機「Xperia 1 III」があるほか、あくまでプロ向けモデルではあるものの、より高性能な「Xperia PRO」とその後継機「Xperia PRO-I」もラインアップされている。このほかに、ミドルレンジモデルの「Xperia 10 III」と、その派生モデルで楽天モバイル専売の「Xperia 10 III lite」、およびNTTドコモ専売のエントリーモデル「Xperia Ace II」というのが、現行のラインアップとなる。
今回取り上げる「Xperia 5 III」は、フラッグシップモデルである「Xperia 1 III」の機能を一部簡略化して必要なものだけに絞り込むことで、ひと回り小さなボディに仕立てたもので、基本的なコンセプトは初代の「Xperia 5」シリーズから変わらない。端末価格は、NTTドコモ版「SO-53B」が113,256円、au版「SOG05」が121,405円、SoftBank版が137,520円(いずれも、税込、新規一括払い時のもの)で、安くはないが、「Xperia 1 III」の15~18万円という価格と比較すると、値ごろ感はある。
「Xperia 5 III」のボディサイズは、約68(幅)×157(高さ)×8.2(厚さ)mmで、重量は約168g。サイズ感としては、前モデル「Xperia 5 II」よりも高さが1mm小さいだけで、幅と厚さはそのままだ。このボディに、2,560×1,080のフルHD+表示に対応する約6.1インチの有機ELディスプレイを搭載する。なお、機能面も前モデルを引き継いでおり、IP56/68の防水・防塵仕様と、おサイフケータイで使用するFeliCaポートを搭載する。
昨今のハイエンドスマートフォンの中ではコンパクトなボディで、手の小さな人でも持ちやすい
左が本機で、右が前モデル「Xperia 5 II」。サイズ感はほぼ変わらない
ボタンは右側面に集中して配置される。写真右上から、ボリューム、指紋センサー内蔵の電源ボタン、Googleアシスタントボタン、シャッターボタンという並び
ディスプレイは、「Xperia 5 II」と同じく120Hzの倍速駆動および残像低減付き240Hz駆動、240Hzのタッチサンプリングレートに対応する。プロ用モニターの画質を再現する「クリエイターモード」にも引き続き対応している。
ディスプレイは、ノッチやパンチホールのない平面ディスプレイで、「Xperia 5 III」から変更はない
クリエイターモードも引き続き搭載。対応する映像コンテンツを制作者の意図に近い画質で再現できる
ディスプレイは120Hzのリフレッシュレートに対応。なお、残像低減機能付きの240Hz駆動は、ゲーム最適化機能「Game enhancer」に登録したアプリのみに適用される
サウンド面では、新機能として、ストリーミングサービスなどの音源を立体的なサウンドに変換する「360 Spatial Sound」に対応したほか、ヘッドホン端子は、「Xperia 5 II」と比較して音圧が約4割向上し、より迫力のあるサウンドを再生できるようになっている。スピーカーは基本的に前モデルのままのステレオスピーカーだが、横位置にした場合に左右対称の配置となるため、音の広がりや定位感にすぐれる。
ヘッドホン端子を搭載。前モデルより音圧が増したことで、サウンドの迫力が増した
新機能「360 Spatial Sound」に対応。対応するヘッドホンなどを使うことで、ストリーミングサービスの動画やサウンドが、立体的な音響で楽しめる
基本スペックだが、SoCは上位モデル「Xperia 1 III」と同じ「Snapdragon 888」を搭載。メモリーは8GBでストレージは128GBと、「Xperia 1 III」のメモリー12GB/ストレージ256GBよりも少ない。なお、1TBまで対応するmicroSDXCメモリーカードスロットを搭載している。OSはAndroid 11だ。
実際の処理性能を、定番のベンチマークアプリ「AnTuTuベンチマーク」を使って計測したところ、総合スコアは727,594(内訳、CPU:180,884、GPU:295,586、MEM:113,602、UX:137,522)となった。Snapdragon 888搭載機としては標準的な性能と言える。 体感速度については、アプリをたくさん起動した場合の切り替えでは、12GBのメモリーを搭載する「Xperia 1 III」との違いを感じる場面もあったが、決定的な差とは言えない。むしろ、後述するように、連写に強いカメラ、オーディオ、ゲームなどにこだわる本機の性質を考えると、128GBというストレージがやや物足りなく感じる。特にゲームアプリは近ごろかなりデータの巨大化が進んでおり、1タイトルで10GBを超過することもざらだ。大容量かつ高速のmicroSDXCメモリーカードを組み合わせて、撮影データを保存するなど、ストレージの節約を心がけたほうがよいだろう。
AuTuTuベンチマークの結果。総合スコア、サブスコアともに、Snapdragon 888搭載機として標準的な結果となった
本機のメインカメラは、約1,200万画素の超広角カメラ(16mm)、約1,200万画素の広角カメラ(24mm)、約1,200万画素のペリスコープ構造となる望遠カメラ(70mmと105mmの切り替えが可能)という組み合わせのトリプルカメラだ。ZEISS監修のレンズや搭載するイメージセンサーなど、基本的には上位モデル「Xperia 1 III」と共通のカメラとなるが、「Xperia 1 III」に備わる3D iToFセンサーは省かれており、オートフォーカスのトラッキング性能に差がある。
3基のカメラはいずれもデュアルPD(フォトダイオード)センサーを採用しており、1画素あたり2つ用意されるPDのうち、1つをAFに使用するため、AFの速度や精度にすぐれるのが特徴。もちろん位相差AFにも対応している。広角カメラと望遠カメラは光学式手ブレ補正機構を備えており、手ブレにも強い。なお、プリインストールされるカメラアプリは、「Xperia 1 III」と同じく「PhotographyPro」に一本化された。物理シャッターボタンももちろん搭載されている。
その他の機能面では、毎秒20コマのAE/AF連動の連写やリアルタイム瞳AF、動画撮影時における「FlawlessEye」対応のハイブリッド手ブレ補正などが「Xperia 1 III」から継承されている。
3基のメインカメラはいずれも、ZEISS監修のレンズを採用する
カメラアプリは「PhotographyPro」に一本化された。初期設定の「BASIC」モードでは、タッチ式シャッターにも対応している。
以下に、本機のメインカメラを使って撮影した静止画の作例を掲載する。「PhotographyPro」を、初期設定から「AUTO」モードに切り替えて、シャッターボタンを使って撮影を行っている。
巨大なしめ縄を撮影。肉眼の印象を維持しつつ、暗部となる屋根裏まではっきり写っている。画素数が少ないものの、しめ縄のディテールは中心から周辺まで解像感が保たれている
同じ被写体を超広角カメラで撮影。しめ縄全体が構図に収まる。トーンの変化も抑えられ、劣化が目立ちやすい周辺部分もキレイだ
望遠カメラに切り替えて撮影。70mmのズームのためしめ縄の細部が、より精細に写る。こちらもトーンの変化が少なく、画質は安定している
望遠カメラの焦点距離を105mmに切り替えて撮影。同じ被写体でも105mmの望遠では構図の印象が大きく異なり、ズーム撮影の楽しさが味わえる
夜景のイルミネーションを撮影。手持ち撮影だが手ブレはほとんど見られず、ノイズも目立たない。夜景でも肉眼の印象から大きく変わらない仕上がりとなっている
上と同じ風景を撮影。こちらも手ブレは見られない。ノイズの少なさや明暗差などの表現が広角カメラとほとんど変わらない
望遠カメラを105mmに切り替えて撮影。20枚近く撮影したが、そのうち数枚に手ブレが見られた。望遠ではやはりしっかりホールドする必要は出てくるが、光学式手ブレ補正の効果もあり、手持ち撮影でも歩留まりはかなり良好と言える
本機のカメラは、「Xperia 1 III」と同じようにレスポンスがよい。オートフォーカスも速く、連写もよく効く。また、望遠カメラで夜景を撮影しても手ブレはかなり抑えられる。ハイエンドスマートフォンらしい、安定した画質のカメラだ。
なお、「Xperia 1 III」に搭載されるToFセンサーがないことによるオートフォーカス精度の影響だが、電車の入構シーンなど、構図の奥行き方向に速く動く被写体を追尾する場合に違いを感じやすかった。ただし、本機のカメラでもある程度の追従性はあるので、動作が単調かつあまり速くないものであればさほど問題はない。
本機に内蔵されるバッテリーの容量は4,500mAh。前モデル「Xperia 5 II」よりも500mAh増量されている。駆動時間に関する指標は、連続待ち受け時間は約330時間(4G)、連続通話時間(VoLTE AMR-WB)は約1,530分で、「Xperia 5 II」よりも、連続待ち受け時間が約90時間短くなった。そのいっぽうで、連続通話時間は290分伸びた。
価格.comのユーザーレビューに寄せられる声を見ても、「バッテリー」の評価項目は、カテゴリー平均3.67に対して、本機は4.31とかなり高い(いずれも2021年11月24日時点の値)。本機が搭載するSoC「Snapdragon 888」は、バッテリー消費と発熱がネックと言われるが、本機は「Snapdragon 888」の中では、バッテリー持ちに対する満足度が例外的に高い部類だ。
実際に本機を1週間ほど使ってみた。検証エリアは、時間で見れば9割以上が、NTTドコモの5Gエリアである。1日に1時間程度の使用で、待ち受けがメインであれば1日に25%前後のペースでバッテリーが消費される。フル充電で放置しても4日程度はバッテリーが持続する計算だ。これは、昨今のハイエンドモデルとしてはなかなかのスタミナである。
ゲームなどで長時間使い込んだ場合でも、バッテリーの消費速度が極端に速まることはなく、「Snapdragon 888」搭載機の一般的な傾向と比べてもバッテリーの減りはおだやかで、発熱も少なめであった。ただし、高負荷で知られるRPGタイトルの「原神」を、画質設定を引き上げてプレイしたところ、CPUの温度は50℃を越え、相当のスピードでバッテリーを消費した。ただし、これはレアケースと言っていいだろう。
Snapdragon 888搭載機としては発熱の少ない本機だが、あえて高負荷な状況に追い込んだ際に、CPUの温度が50℃を越えることがあった
本機は、NTTドコモ版、au版、ソフトバンク版の3モデルが発売されており、いずれもSIMロックフリーの状態で発売される。5Gの通信機能は、3モデルともに、Sub6のみの対応で、「Xperia 1 III」では対応しているミリ波には対応していない。
各モデルの対応する4Gと5Gの周波数帯を下記の表にまとめた。通話エリアに大きな影響を与える4Gのプラチナバンドに注目すると、NTTドコモのB19、auのB18、ソフトバンクのB8は、それぞれ自社モデルだけが対応している。そのため、「Xperia 5 III」を他社のSIMカードで組み合わせると、郊外エリアや、都市部でも建物の中や地下街では圏外になりやすいことが想定される。他社の回線を使う利点は、対応エリアの点では見いだしにくい。
また、いずれもeSIMには対応しておらず、SIMカードスロットも従来同様1枚のみの対応である。もし、回線の自由な組み合わせを求めるのであれば、SIMフリー版の登場を待つほうがよさそうだ。ただし、本機のSIMフリー版はまだ発表されていない。
※国内で使用される5G・4Gの周波数帯のみを抜粋
「Xperia 5 III」は、ハイエンドモデルである「Xperia 1」シリーズの性能をコンパクトにまとめるという、「Xperia 5」シリーズのコンセプトを踏襲した、安定感のある製品だ。ディスプレイは高品質かつレスポンスがよく、サウンドも高音質なので、ゲームでよし、カメラもよし。さらに、今期のハイエンドモデルの中ではバッテリー持ちも良好と、全方位ですぐれた性能を誇る。気になる点としては、内蔵ストレージが128GBと、余裕が乏しい点だろう。
本機のライバルとなりそうな製品としては、同じ「Snapdragon 888」を搭載するサムスン「Galaxy S21」や、オープンマーケットモデルのASUS「Zenfone 8」あたりだろう。本機はこれらよりも価格が高いため、コストパフォーマンスで見るとやや不利だが、カメラを中心とした性能面は高く、バッテリー持ちも良好、さらに「Xperia」というブランドの強みもある。上位モデルである「Xperia1 III」のエッセンスをうまくまとめつつも、さまざまな用途に扱いやすい、多くの人の期待を裏切らない製品と言えそうだ。
FBの友人は4人のヒキコモリ系デジモノライター。バーチャルの特技は誤変換を多用したクソレス、リアルの特技は終電の乗り遅れでタイミングと頻度の両面で達人級。