2020年11月にAMDのデスクトップ向けCPU「Ryzen 5000」シリーズが登場してから2年弱。満を持して、待望の最新世代「Ryzen 7000」シリーズが登場した。まずは2022年9月に、「Ryzen 9 7950X」「Ryzen 9 7900X」「Ryzen 7 7700X」「Ryzen 5 7600X」が発売されたが、今回はその全4モデルを使用して、ベンチマークテストを中心に徹底検証。前編と後編の2回に分けて、その進化の実態をレポートしていきたい。この前編では、「Ryzen 7000」シリーズの進化のポイントを確認したうえで、主要ベンチマークプログラムをテスト。次回の後編では、クリエイティブ関連ベンチマークプログラムと、実際のゲームを使用したベンチマークプログラムでその実力を検証する。
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最初に振り返っておきたいのは、CPU市場でAMDとインテルが繰り広げてきた直近のパフォーマンス競争だ。その大きな分岐点となったのは、革新的な「Zen」マイクロアーキテクチャーを引っ提げて2017年2月に登場した、AMDの初代「Ryzen」シリーズ。それまでは、「割安だが処理性能も控え目のCPU」という位置づけだったAMD製CPUだが、この初代「Ryzen」シリーズの登場によって、インテル製CPUに堂々と真正面から立ち向かえる形になったと言える。さらに「Ryzen」は、プロセスルール(回路の細かさ)の微細化と多コア/多スレッド化を大きな武器に、その後も順調にアーキテクチャーを刷新していく。そして2020年11月に投入した「Ryzen 5000」シリーズで、当時最新のインテル「第10世代Core」シリーズを完全に凌駕。インテル側は慌てて価格を下げ、コストパフォーマンスで勝負せざるを得ない形にまで追い込まれてしまった。
しかし、崖っぷちに追い込まれたインテルはすぐさま覚醒する。2021年3月に「第11世代Core」シリーズを投入して劣勢を巻き返すと、わずか約半年後の2021年11月に矢継ぎ早に「第12世代Core」シリーズを発売。これによって完全に形勢が逆転し、今度は「Ryzen 5000」シリーズが価格を大きく下げて、コストパフォーマンスで対抗する格好となったのだった。
そのような流れがあったからこそ、今回の最新世代「Ryzen 7000」シリーズに対する自作PC界隈の期待は、いやが上にも高まっていた。そしてその期待に応えるべく最大限格闘した痕跡が、「Ryzen 7000」シリーズの仕様の随所に感じられる。
今回AMDからお借りしてチェックした「Ryzen 9 7950X」「Ryzen 9 7900X」「Ryzen 7 7700X」「Ryzen 5 7600X」。「Ryzen 7 7700X」と「Ryzen 5 7600X」のパッケージは薄めになっているが、CPU自体の形状は「Ryzen 9 7950X」や「Ryzen 9 7900X」と同様だ
「Ryzen 7000」シリーズ全4モデルの主な仕様をまとめたもの。今回、比較モデルとして使用する前世代「Ryzen 7 5800X3D」の仕様も、参考のために添えている
まず注目したいのは、プロセスルールを前世代の7nmから5nmにまで絞ってきた、「Zen 4」マイクロアーキテクチャーの導入だ。「第12世代Core」シリーズが採用する10nmプロセスルールを上回る微細化を達成しており、前世代と比較して、クロック当たりの処理命令数を示すIPC(Instructions Per Cycle)が約13%も向上しているという。コア数/スレッド数は据え置きだが、動作クロックを前世代から最大で800MHz上げてきていることも相まって、シングルコア性能の向上は約29%にも達する。命令のフェッチ(メモリーから命令を取り出す動作)や、命令のデコード(読み出した命令を解析して実行の準備を行う動作)などを行うフロントエンド部分の刷新も、とりわけこうしたパフォーマンス向上に大きく貢献しているようだ。
プロセスルールが微細化すれば、そのぶん同じ処理に必要になる消費電力も下がるため、ワット当たりのパフォーマンスも高まる。同じ電力消費時でも、前世代と比較して最大49%すぐれたパフォーマンスが得られるという。それに加えて、CPUソケットを、最大230Wの電力供給を可能にするSocket AM5に刷新し、TDP(ベースとなる熱設計電力)とPPT(電力リミット)を大きく上げてきた。最大温度も前世代の90℃から95℃まで上げており、最大限のパフォーマンスを発揮できるよう突き詰めたと言える。
また、6nmプロセスルールで設計された新たなIOD(メモリーやインターフェイスを担うI/Oダイ)の導入により、インテル製CPUに先んじられていた、DDR5メモリーへの対応も実現。JEDECスペックでDDR5-5200まで対応している。さらに、簡易的なオーバークロックを実現する「AMD EXPO Technology」を新たに導入。インテル製CPUで使用されているXMP対応メモリーのように、UEFIでメーカーが用意したプロファイルを適用することで、対応メモリーのオーバークロックが可能だ。なお、新しいIODにはGPUコアが内蔵され、全4モデルが「Radeon Graphics」を搭載していることもポイントだ。
フラッグシップモデルとなる「Ryzen 9 7950X」。放熱の表面積を増やすためか、ヒートスプレッダが独特の入り組んだ形状をしている
「CPU-Z」で「Ryzen 9 7950X」の詳細を確認。前世代「Ryzen 9 5950X」のTDPは105Wだが、「Ryzen 9 7950X」は170Wと大幅に高く設定されていることがわかる。また、ディープラーニングや暗号化、エンコード処理などのパフォーマンスを上げるAVX-512命令セットに対応していることも確認できる
「Ryzen 7000」シリーズの中核モデルになるものと目される「Ryzen 7 7700X」
「CPU-Z」で「Ryzen 7 7700X」の詳細を確認。TDPは105Wで、前世代「Ryzen 7 5700X」の65Wから、こちらも大きく引き上げられていることがわかる。AVX-512命令セットに対応していることも「Ryzen 9 7950X」と同様だ
続いて、今回の検証環境を確認しよう。マザーボードに使用したのは、ASUS「ROG CROSSHAIR X670E HERO」。「Ryzen 7000」シリーズは、X670、X670E、B650、B650Eという4つのチップセットに対応しているが、本マザーボードはその最上位となるX670チップセットを搭載した上級モデルだ。DDR5-6400+(OC)までに対応するうえ、PCIe 5.0 x16スロットを2基備える。18+2フェーズのパワフルな電源回路と大型ヒートシンクを搭載し、「Ryzen 9 7950X」や「Ryzen 9 7900X」のような大消費電力CPUのオーバークロックでも、より安定して稼働させることができそうだ。
ASUS「ROG CROSSHAIR X670E HERO」は4基のM.2スロットを備えるが、すべてに広大なヒートシンクを装備。電源回路まわりのヒートシンクの巨大さも手伝って、尋常ならざるハイエンドモデルの風格が漂う
「Ryzen 7000」シリーズから新しく採用されたCPUソケット、Socket AM5。1718ピンのLGAパッケージとなったことで、最大230Wの電力供給ができるようになっているが、従来のSocket AM4とは互換性がないことに注意したい。ただし、Socket AM4用CPUクーラーにはおおむね対応(一部非対応)している。Socket AM4マザーボードからの乗り換えを検討しているユーザーは、新しいCPUクーラーを購入する前に、まず手持ちのCPUクーラーが装着できるか試してみてほしい
「Ryzen 7000」シリーズで対応になったDDR5メモリーのスロット。最大で128GBまで搭載できる。なお、「Ryzen 7000」シリーズではDDR4メモリーには対応していない
メモリーに使用したのは、G.SKILL「Trident Z5 neo F5-6000J3038F16GX2-TZ5N」(16GB×2)。先述した「AMD EXPO Technology」に対応しており、プロファイルを使用して、DDR5-6000まで簡単にオーバークロックが可能だ。なお今回は、「Ryzen 7000」シリーズの定格であるDDR5-5200に設定したうえで使用している。
大型ヒートシンクをまとったG.SKILL「Trident Z5 neo F5-6000J3038F16GX2-TZ5N」。レイテンシを表すメモリタイミングはCL30-38-38-96で、DDR5の中ではかなり秀逸だ
そのほかのパーツも含めた検証環境は以下のとおり。比較モデルとして使用した前世代「Ryzen 7 5800X3D」の検証環境もあわせて示しておく。なお、「Trident Z5 neo F5-6000J3038F16GX2-TZ5N」をDDR5-5200で動作するよう設定したほかは、UEFIの基本的な設定はデフォルトのAutoのままとした。基本的にはこの状態で、負荷に応じてPPTないし最大温度まで自動的にブーストがかかることになる。また、「Windows 11」のコントロールパネル内の電源オプションは「バランス」、設定アプリ内の電源モードは「最適なパフォーマンス」に設定したうえで、検証を行った。
「Ryzen 7000」シリーズ全4モデルと、比較用の「Ryzen 7 5800X3D」の検証で使用したパーツリスト