PCパーツ探訪記

AMD「Ryzen 7000」シリーズ全4モデルをベンチマークで徹底検証【前編】

マルチコア性能は圧巻だが、シングルコア性能の伸びには限界も

■温度と消費電力

各種ベンチマーク結果を確認する前に、「Ryzen 7000」シリーズの温度特性をチェックしておきたい。というのも、今回全体的にTDPとPPTが大幅にアップしたうえ、最大温度が95℃にまで上昇しているためだ。そこで、CPUに100%の高負荷をかける「OCCT」を使用して、各CPUの温度をモニタリングした。その結果、100%高負荷時では、「Ryzen 9 7950X」「Ryzen 9 7900X」「Ryzen 7 7700X」の上位3モデルが上限の95℃に到達。「Ryzen 5 7600X」はかろうじて94℃に留まった。

CPU温度の測定結果。アイドル時はそれほど高温ではないが、100%の高負荷時になると、「Ryzen 7000」シリーズは基本的に最大温度付近に張り付く

CPU温度の測定結果。アイドル時はそれほど高温ではないが、100%の高負荷時になると、「Ryzen 7000」シリーズは基本的に最大温度付近に張り付く

今回CPUクーラーに採用したARCTIC「Liquid Freezer II 280」は、38mm厚の280mmラジエーターを備え、360mmラジエーターに匹敵するパワフルな冷却性能を誇る。それでも、100%の高負荷をかけた瞬間に、「Ryzen 9 7950X」「Ryzen 9 7900X」「Ryzen 7 7700X」の上位3モデルが、上限の95℃に到達した。最大温度に達したということは、その時点でCPUへの電力供給に制限がかかり、動作クロックが絞られてしまうことを意味する。

そこで、CPUの消費電力もあわせて確認してみることに。下のグラフ内の「100%の高負荷時(冒頭付近の最大値)」とは、「OCCT」で100%の高負荷をかけ始めた瞬間に記録された値だ。その瞬間にはいずれのCPUでも、TDP近辺か、それを超えるような消費電力に到達し、最大ブーストクロック付近の動作クロックが発揮された。しかしそれはほんの1〜2秒のことで、ただちに温度制限がかかってしまう。その後は基本的に、下のグラフ内の「100%の高負荷時(5分経過時点)」あたりの消費電力で継続的に推移する。つまり、280mm〜360mmの大型ラジエーターでも、最大ブーストクロックが発揮できるような時間は、1〜2秒ほどしか確保できないということだ。

CPU消費電力の測定結果。とりわけ「Ryzen 9 7950X」「Ryzen 9 7900X」「Ryzen 7 7700X」の3モデルで、「100%の高負荷時(冒頭付近の最大値)」と「100%の高負荷時(5分経過時点)」の落差が大きい

CPU消費電力の測定結果。とりわけ「Ryzen 9 7950X」「Ryzen 9 7900X」「Ryzen 7 7700X」の3モデルで、「100%の高負荷時(冒頭付近の最大値)」と「100%の高負荷時(5分経過時点)」の落差が大きい

「Ryzen 7000」シリーズでは、前世代から最大ブーストクロックが大幅に上昇したことをウリの1つとしているだけに、これほど突発的に温度が上昇し、すぐに電力制限がかかってしまうのは、少々もったいない。実際の作業では100%の高負荷が続く局面は限られてくるので、より効果的にブーストがかかる場面もあるだろうが、いずれにせよ280mm〜360mmの大型ラジエーターをもってしても、「Ryzen 7000」シリーズの上位モデルの最大ポテンシャルを引き出すには十分とは言えないのだろう。今回は時間の関係で詳しい検証はできなかったが、よりパワフルな本格水冷クーラーを使用すれば、さらにパフォーマンスが高まる可能性がありそうだ。

■Sandra 2021

続いて、CPUの基本性能を探るべく、多機能ベンチマークプログラム「Sandra 2021」をテスト。CPUの演算能力を測る「Processor Arithmetic」では、コア数とスレッド数にすぐれる上位モデルの伸びが際立った。マルチメディア系の処理能力を計測する「Processor Multi-Media」でも、スコアの伸びはほぼ同様。ただし、いずれもコア数とスレッド数の比率と等しくなるほどの伸びでもない。コア数が増えるとオーバーヘッド(付加的な処理)がより多く発生するため当然ではあるが、各CPUの動作クロックポテンシャルを考えると、もう少し上位モデルが伸びても不思議ではない。コア数が多いほど発熱しやすくなるため、先述した温度特性の重しが足を引っ張っている可能性もありそうだ。

「Sandra 2021 Processor Arithmetic」のベンチマーク結果。「Ryzen 5 7600X」が前世代の「Ryzen 7 5800X3D」に匹敵するほど伸びていることから、全体的にパフォーマンスの底上げが大きく進んでいることがわかる

「Sandra 2021 Processor Arithmetic」のベンチマーク結果。「Ryzen 5 7600X」が前世代の「Ryzen 7 5800X3D」に匹敵するほど伸びていることから、全体的にパフォーマンスの底上げが大きく進んでいることがわかる

「Sandra 2021 Processor Multi-Media」のベンチマーク結果。全体的に上位モデルの伸びは見事だが、最上段の「Multi-Media integer」では、「Ryzen 9 7950X」が伸びきれていない印象もある

「Sandra 2021 Processor Multi-Media」のベンチマーク結果。全体的に上位モデルの伸びは見事だが、最上段の「Multi-Media integer」では、「Ryzen 9 7950X」が伸びきれていない印象もある

メモリー帯域幅を測る「Memory Bandwidth」では、設定したDDR5-5200にふさわしい値をマーク。「Ryzen 7 5800X3D」で使用しているDDR4-3200より3割ほど帯域幅が広がっているのは頼もしい。ただ、DDR5メモリーでネックとされるのは、メモリーが応答するまでに必要な時間であるレイテンシの大きさだ。そこで「Memory Latency」をチェックしてみたが、そこまで「Ryzen 7 5800X3D」のDDR4メモリーに突き放されてもいない。32MBまでは、むしろDDR4メモリーよりもレイテンシが小さい。今回「Ryzen 7000」シリーズで使用したG.SKILL「Trident Z5 neo F5-6000J3038F16GX2-TZ5N」のようにすぐれたDDR5メモリーを選べば、そこまでレイテンシを問題にしなくてよさそうだ。

「Sandra 2021 Processor Memory Bandwidth」のベンチマーク結果。まだまだDDR5メモリーの価格が高めだが、この帯域幅の差を考えると、「Ryzen 7000」シリーズがDDR5メモリーに対応したことは喜ばしい

「Sandra 2021 Processor Memory Bandwidth」のベンチマーク結果。まだまだDDR5メモリーの価格が高めだが、この帯域幅の差を考えると、「Ryzen 7000」シリーズがDDR5メモリーに対応したことは喜ばしい

「Sandra 2021 Processor Memory Latency」のベンチマーク結果。64MB以上になるとさすがに「Ryzen 7 5800X3D」のDDR4メモリーに軍配が上がるが、そこまでの大差でもない

「Sandra 2021 Processor Memory Latency」のベンチマーク結果。64MB以上になるとさすがに「Ryzen 7 5800X3D」のDDR4メモリーに軍配が上がるが、そこまでの大差でもない

■CINEBENCH R23

続いて、CPUの処理性能を端的に表してくれるCPUベンチマークプログラム「CINEBENCH R23」をテスト。その結果、マルチコア性能に関しては、「Sandra 2021 Processor Arithmetic」と同様の傾向で、コア数とスレッド数にすぐれる上位モデルが大きくスコアを伸ばした。ただ、注目すべきはシングルコア性能だ。前世代の「Ryzen 7 5800X3D」よりも「Ryzen 5 7600X」が大幅に伸ばしてきたのは確かだが、上位3モデルのスコアが、そこからほとんど伸びていない。最上位モデルの「Ryzen 9 7950X」に至っては、「Ryzen 9 7900X」と「Ryzen 7 7700X」に負けてしまっている。ライバルの「第12世代Core」シリーズと比べても、このスコアは物足りない。コア数とスレッド数が多い上位モデルではそのぶん発熱しやすくなるが、ここでも例の過敏すぎる温度特性が足かせとなってブーストがかかりきらず、シングルコアの伸びにまで好ましからざる影響を与えているのではないか。

「CINEBENCH R23」のベンチマーク結果。上位モデルのマルチコア性能は圧巻だが、基本タスクや画像編集、ゲームなど、シングルコア性能が問われる局面は少なくないだけに、シングルコア性能の足踏みは惜しまれる

「CINEBENCH R23」のベンチマーク結果。上位モデルのマルチコア性能は圧巻だが、基本タスクや画像編集、ゲームなど、シングルコア性能が問われる局面は少なくないだけに、シングルコア性能の足踏みは惜しまれる

■PCMark 10

次に、より実践的な総合ベンチマークソフト「PCMark10」を使用して、もっとも幅広く性能をチェックする「PCMark 10 Extended」を実行。するとここにきて、モデル順のスコアとはならない結果に。フラッグシップモデルの「Ryzen 9 7950X」こそ「Total Score」で最上位を守った。だが、それも僅差であるうえ、「Ryzen 9 7900X」に至っては、より下位モデルの「Ryzen 7 7700X」になぜか負けてしまっている。内訳を確認すると、基本タスク性能を表す「Essential」やビジネス性能を示す「Productivity」で「Ryzen 7 7700X」が大きく伸ばしていることがわかる。いや、「Ryzen 7 7700X」が伸ばしているというよりも、「Ryzen 9 7900X」と「Ryzen 9 7950X」が伸ばしきれていないのだろう。こうしたタスクではシングルコア性能が問われる場面が多く、多コアで発熱的に不利な上位モデルに悪影響が出ている可能性がある。

「PCMark 10 Extended」のベンチマーク結果。「Total Score」では上位3モデルがかなりの僅差になった

「PCMark 10 Extended」のベンチマーク結果。「Total Score」では上位3モデルがかなりの僅差になった

■3DMark

最後に、ゲーミング性能を測る「3DMark」を用いて、DirectX 12をターゲットにした「Time Spy」(2560×1440)と、その4K解像度版である「Time Spy Extreme」(3840×2160)をテスト。「Time Spy」もまた、モデル順のスコアが出揃ったものの、上位3モデルはかなりの僅差になった。また、これまでのベンチマークプログラムの多くでは、「Ryzen 5 7600X」と前世代の「Ryzen 7 5800X3D」が拮抗していたが、ここでは「Ryzen 7 5800X3D」が「Ryzen 5 7600X」を大きく上回っていることが興味深い。なお、「Time Spy Extreme」では、上位3モデルの差が「Time Spy」よりも大きくなっており、より本来のポテンシャルが発揮される形となった。解像度の高い「Time Spy Extreme」では、よりマルチコアを活用するように処理の割り振りが行われ、こうした結果につながった可能性がありそうだ。

「3DMark Time Spy」のベンチマーク結果。上位3モデルの差が少なく、シングルコア性能により直結した結果となった

「3DMark Time Spy」のベンチマーク結果。上位3モデルの差が少なく、シングルコア性能により直結した結果となった

「3DMark Time Spy Extreme」のベンチマーク結果。こちらはより差が大きくなり、よりマルチコアのポテンシャルが生かされている様子がうかがえる

「3DMark Time Spy Extreme」のベンチマーク結果。こちらはより差が大きくなり、よりマルチコアのポテンシャルが生かされている様子がうかがえる

パフォーマンスは前世代よりも大きく進化!ただし、温度特性に課題も残る

前世代の「Ryzen 5000」シリーズから2年弱の歳月を経て投入された「Ryzen 7000」シリーズは、そのタイムラグを埋め合わせるだけの着実な進化を見せてくれた。5nmプロセスルールで設計された「Zen 4」マイクロアーキテクチャーの導入や、動作クロックと消費電力の引き上げ、そしてDDR5メモリー対応などにより、パフォーマンスが大きく向上したことは間違いない。とりわけマルチコア性能に関しては、上位モデルのパフォーマンスの伸びが目覚ましく、こうしたマルチコアが生きるタスクでは、前世代との劇的な違いが体感できるだろう。

ただし、最大230Wの電力供給を可能にするSocket AM5に刷新し、TDPとPPTを大きく上げたことによる弊害もうかがわれた。これらによって動作クロックが大きく引き上げられているのは確かだが、それにともない温度上昇も急激化。とりわけ上位モデルでの発熱がすさまじく、最大ブーストクロックで動作する時間がほんのわずかしか確保できないため、ポテンシャルを生かしきれていない可能性が高い。こういった温度特性のせいか、シングルコア性能も上位モデルであるほど伸び悩んでしまっている。これでは、ライバルの「第12世代Core」シリーズに追いすがったとまでは言えても、打ち勝ったとまでは言えない。

もちろん、パワフルな大型の水冷クーラーを導入するのなら、「Ryzen 9 7950X」や「Ryzen 9 7900X」の秘めるさらなる実力を拝めるのだろう。ただし、電力と温度の上限を狙ってぎりぎりまでパフォーマンスを引き上げることは、「公式オーバークロック」に近いもの。ハイエンド水冷クーラーへの投資や、UEFIでの設定追い込みである程度追い込める余地があるとはいえ、こうした仕様によってこれまでの「Ryzen 5000」シリーズに比べるとやや扱いにくいというイメージがあるのも確か。上位モデルのパフォーマンスを最大限発揮するには、それなりのコストと手間がかかることは頭の片隅に入れておいたいいかもしれない。

冨増寛和

冨増寛和

ライター、編集者、画家。学習院大学文学部哲学科卒業。制作会社で経験を積んだのち、コンテンツ制作会社の株式会社理感堂を設立。PC、ICT、芸術文化など、幅広い分野で書籍や記事の執筆・編集を手がける。

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