スマートフォンやモバイル通信とお金にまつわる話題を解説していく「スマホとおカネの気になるハナシ」。今回は、各社から一斉に発表されたスマートフォンの中からフラッグシップモデルを中心に解説しよう。魅力的ではあるが高嶺の花、生き残りをかけた各モデルに迫った。
生き残りをかけた各社のフラッグシップスマホを解説
5月に入ってスマートフォンメーカー各社の新製品発表ラッシュが続いている。実際、ゴールデンウィーク明けからの2週間を振り返ってみても、5月8日から5月16日までの間に国内外のメーカー8社がスマートフォン新機種を発表している。
確かに例年5月は、夏商戦を狙ったスマートフォンの新機種が発表されるシーズンなのだが、これだけのメーカーが一斉に新機種を発表するのは異例だ。しかも各社が発表したスマートフォン新機種とその価格を見ると、かなり多くの異変が起きていることがわかる。
とりわけ大きな変化が起きているのが、メーカー各社の技術をふんだんに取り入れた、非常に性能が高い最上位のフラッグシップモデルだ。こうしたモデルは注目度こそ非常に高いものの、最近の記録的な円安によって価格は軒並み20万円前後と非常に高額となっている。さらに、追い打ちをかけるような、政府による規制強化によって大幅値引きも期待できなくなったことから、ここ最近は販売が大きく落ち込んでいる。
それだけに今シーズンのフラッグシップモデルを見ると、市場の実情に合わせてさまざまな変化を遂げている。その象徴的な事例となるのがソニーの「Xperia 1 VI」だ。
ソニーのフラッグシップモデル新機種「Xperia 1 VI」。最も力を入れているカメラの機能は強化が図られており順当な進化を遂げているが、それ以外の部分で大きな変化が起きている
「Xperia 1」シリーズは、ソニー製の最新イメージセンサーを搭載した非常に性能の高いカメラや、こだわりのオーディオ性能、そして映画コンテンツの視聴や撮影に適した4K画質で21:9比率のディスプレイというのが大きな特徴となっていた。
だが、その最新モデルとなる「Xperia 1 VI」は、それら特徴のうちディスプレイが劇的に変化。比率が19.5:9に変わり、解像度もFHD+と、4Kから引き下げられるなど、ほかの一般的なスマートフォンと大きく変わらないものとなっているのだ。
「Xpeira1 VI」はディスプレイが4K画質でなくなり、比率も19.5:9に変化したことから、手にするとXperiaらしさが薄れた印象を受ける
なぜ新機種でディスプレイが大きく変わったのだろうか? 理由のひとつは画素数を引き下げて消費電力を減らし、バッテリーの持ちを良くするため。そしてもうひとつは、消費者が視聴するコンテンツがワイドな縦横比の映画から、16:9比率で縦画面も多い、YouTubeなどスマートフォン向けの動画へと変化しつつあるためだという。
映画視聴に特化して設計された「Xperia 1」シリーズのディスプレイでは、逆に16:9比率で縦画面のスマートフォン動画が見づらく、撮影もしづらい。そこでユーザーニーズに合わせる形で、一般的なディスプレイの画素数と比率に変更したのだという。
このことは裏を返すと、ソニーがメーカー独自のこだわりを提供するのではなく、ユーザーの要望を取り入れることで“売れる”ことに重点を置くようになったと見ることができるだろう。また、「Xperia 1 VI」はオープン市場向けモデルで、安いものでは19万円前後、高いものでは21.9万円前後となるなど非常に高額だ。ただ毎年数万円ペースの値上げが続いていたが、今回、大幅な値上げはかろうじて阻止された。
現在の市場環境で従来の路線を継続しても以前ほど購入してはもらえない。数を多く売るためにより幅広い層を取り込むべく、値上げを抑制して、よりニーズを読み取った大幅な仕様変更に迫られたようだ。
ASUSの「ROG Phone 8 Pro」はゲーミングの機能・性能向上がなされたいっぽうで、背面のデザインはゲーミング色が薄れ、落ち着いたものになった。背面が光る機構も、単色のLEDを用い落ち着いた印象の「AniMe Vision」に変化している
同様の傾向を示しているのが、ASUSの「ROG Phone 8」シリーズ3機種だ。「ROG Phone」シリーズもゲーミングに特化した非常に高い性能を備える分、価格の高いスマートフォンとして知られている。
だが、「ROG Phone 8」シリーズはゲーミングに向けた機能・性能には引き続き力を入れているいっぽう、本体デザインはゲーミングデバイスらしい派手な印象を抑えたものに変更された。機能を見てもFeliCaに新たに対応し「おサイフケータイ」が使えるようになったほか、6軸ジンバルカメラを備えることで普段使いできるスマートフォンとなっている。
ベーシックモデルの「ROG Phone 8」は159,800円(税込)。20万円前後というフラッグシップモデルの相場をふまえれば、健闘した価格と見ることもできるだろう。
こうした変化もやはり、高額なスマートフォンの販売が厳しくなっている現状から、より販売を増やすためターゲットを広げる必要があったからこそだろう。
より思い切った戦略として高額なフラッグシップモデルをあえて提供しない選択をしたメーカーもある。それがシャープだ。シャープは今シーズンの新機種として「AQUOS R9」と「AQUOS wish4」の2機種を発表したのだが、その中に2023年の最上位フラッグシップモデル「AQUOS R8 Pro」の後継機の姿はなかった。
先の2機種のうち上位モデルとなるのは「AQUOS R9」だが、こちらは2023年でいうとスタンダードモデルに位置付けられていた「AQUOS R8」の後継機種だ。ライカカメラが監修したカメラを搭載し、12GBのRAMを搭載するなどある程度高い性能は備わっているものの、スマートフォンの性能を決めるチップセットはハイエンド向けではなく、そのひとつ下となるミドルハイクラス向けの「Snapdragon 7+ Gen 3」となるなど、性能はある程度抑えられている。
シャープの「AQUOS R9」は「AQUOS R8」の後継機。最上位の「Pro」モデルではなく、ライカ監修のカメラは引き継いでいるものの、チップセットの性能はミドルハイ相当に引き下げられている
その分「AQUOS R9」は価格が10万円前後と、比較的購入しやすいモデルとなるようだ。シャープとしては高額なフラッグシップモデルが日本では当面売れないと判断し、性能を落として購入しやすいモデルの販売に重点を置くことにしたとみられる。
フラッグシップモデルの存在感が薄れるいっぽう、メーカー各社が非常に力を入れているのが、5〜10万円くらいとなるミドル〜ミドルハイクラスのスマートフォンだ。実際このクラスのスマートフォン新機種として、上記のシャープ「AQUOS R9」に加えサムスン電子の「Galaxy A55 5G」やシャオミの「Redmi Note 13 Pro 5G」「Redmi Note 13 Pro+ 5G」、モトローラ・モビリティの「motorola edge 40 neo」、ソニーの「Xperia 10 VI」、そしてFCNTの「arrows We2 Plus」と、かなり多くの機種が発表されている。
それらのなかでも最も注目を集めたのはGoogleの「Pixel 8a」ではないだろうか。Googleの「Pixel」シリーズ、とりわけ「a」が付く低価格のモデルは、上位モデルと同じチップセット「Tensor」を搭載しAI関連の機能が非常に充実していながら、価格が非常に安いことで人気を獲得。日本市場でGoogleが躍進するきっかけを作った立役者となっている。
復活したFCNT「arrows」もミドルとエントリーの組み合わせだった
それだけに、最新のチップセット「Tensor G3」を搭載したPixel 8aの販売価格は大きな注目を集めた。しかし、結果は72,600円と、前機種「Pixel 7a」(発売当初の価格は62,700円)より1万円近く値上がりしてしまった。円安が本格化する前に発売された「Pixel 6a」(発売当初の価格は53,980円)と比べると、2万円近く値上がりした計算となり、円安の直撃により大幅に値段が上がってしまった感は否めない。
Googleの「Pixel」シリーズの低価格モデル新機種「Pixel 8a」。上位モデルと同じチップセットを搭載し、AIを活用した機能の充実が魅力だが、円安が影響し価格は1万円近く値上がりしてしまった
とはいえ、米国での販売価格が消費税抜きで499ドル(約78,000円)であることを考えると、税込でそれを下回る日本での販売価格は、まだ安いと見ることもできる。
「Pixel 8a」の価格を消費者がどのようにとらえるかが、今シーズンのスマートフォン競争を大きく左右する要素のひとつになることは間違いないだろう。
そしてもう1社、お得感で日本市場を攻めようとしているのがシャオミだ。実はシャオミは先に触れたミドルクラス2機種に加え、「Xiaomi 14 Ultra」の日本市場投入も発表している。
「Xiaomi 14 Ultra」はライカカメラと共同開発した4つのカメラを搭載し、非常に強力なカメラ機能を備えた最新・最上位のフラッグシップモデルである。これまでシャオミがフラッグシップモデルを日本に投入することはなかっただけに、高額なスマートフォンが売れない現在のタイミングで、こうした機種を投入したこと自体驚きがある。
シャオミは日本市場に向けて、初めて同社の最上位フラッグシップモデル「Xiaomi 14 Ultra」を投入。値段は高いが専用の周辺機器「Xiaomi 14 Ultra フォトグラフィーキット」も無料で手に入るキャンペーンを実施している
性能が非常に高いだけあって「Xiaomi 14 Ultra」の価格も199,900円(税込)と非常に高い。しかし、こちらも海外で発表された際の販売価格は1,499ユーロ(約253,000円)と、もっと高い。しかも日本で「Xiaomi 14 Ultra」を購入すると、装着してデジタルカメラ感覚での撮影が可能になる独自の周辺機器「Xiaomi 14 Ultra フォトグラフィーキット」(税込22,000円)が無料で手に入るキャンペーンも実施されるという大盤振る舞いぶりだ。
そうしたことからシャオミは、日本市場でハイエンドモデルが売れず競合が力を入れなくなっていることを好機と見て、日本でのブランド力を高めるためにあえて「Xiaomi 14 Ultra」を海外より安く販売。ファンを増やして将来的なシェア拡大につなげようとしていると考えられる。
このように、異例尽くしとなったのが今シーズンのスマートフォン新機種だ。しかし、各社とも非常に厳しい市場環境を乗り越えるべく、消費者が選びやすい、購入しやすいスマートフォンを提供することに力を入れていることは間違いない。それだけに消費者が各社の新機種をどう評価し、どの機種が多く購入されるのかが非常に気になるところだ。