ソニーのスマートフォン「Xperia 10 VI」が、NTTドコモ、au、ソフトバンク、UQ mobileの大手通信事業者および、IIJmioやmineoなどのMVNO事業者やオープンマーケットを通じて発売されている。コンパクトで必要十分な機能を備えたスマートフォンだが、決して割安な製品ではない。その狙いに迫ろう。
「Xperia 10 VI」、メーカー直販価格69,300円(2024年7月17日時点)、2024年7月5日発売
ソニーの「Xperia」は、旗艦モデルの「Xperia 1」シリーズを頂点に、ハイエンドの「Xperia 5」とミドルレンジ「Xperia 10」のコンパクトモデル2機種、価格重視の「Xperia Ace」と続き、さらに別枠で「PRO」シリーズを擁する一大シリーズだ。「Xperia 1」シリーズはモデルチェンジのたびに値上げが行われており、最新の「Xperia 1 VI」の端末価格は20万円前後。いっぽう、今回取り上げる「Xperia 10 VI」は69,300円(税込。メーカー直販価格)で、まだ現実的な価格だ。
最初に基本性能を見てみよう。本体サイズは約68(幅)×155(高さ)×8.3(厚さ)mm、約164g。前モデル「Xperia 10 V」と比較するとサイズは変わらないものの5gほど重くなった。ただ、コンパクトなAndroidスマートフォンを求める人にとっては「AQUOS sense8」と並ぶ貴重な1台になる。なお、防水仕様はIPX5/8、防塵仕様はIP6Xの高レベルを維持。もちろんFeliCaポートも搭載している。
性能の要となるSoCは、ミドルレンジ向けの「Snapdragon 6 Gen 1」だ。このSoCは、シャープ「AQUOS sense8」にも搭載されている。前モデル「Xperia 10 V」と前々モデル「Xperia 10 IV」の2世代が、同じSoC「Snapdragon 695 5G」を搭載していたので、2年ぶりに基本性能が向上した。メモリーは6GB、ストレージは128GBで、microSDXCメモリーカードスロットは、従来モデルの最大1TBから最大1.5TB対応になっている。ただ、7万円近い価格とスマホを長く使う傾向を考えるとメモリーとストレージはもう少しあってもよいだろう。
プリインストールされるOSは「Android 14」。なお、バージョンアップのロードマップが公表されており、2回のOSバージョンアップと、発売後4年のセキュリティアップデート配布が予定されている。ただし、競合の「AQUOS sense8」が最大3回のOSバージョンアップと発売後5年間のセキュリティアップデートを予告、Google「Pixel 8a」では7回のOSバージョンアップと、7年間のセキュリティアップデートを公表しているので、見劣りはする。
本体背面。フラットでコンパクトなボディ
右側面。指紋センサー一体型電源ボタン(左側)と音量ボタン(右側)。上位モデルに搭載されているシャッターボタンは搭載されていない
左側面にSIMカードスロットを配置。ピンを使わずにトレーを引き出せる。なお、1基のnanoSIMと1基のeSIMのデュアルSIMに対応している
上面にはイヤホン端子を装備する。なお、ステレオスピーカーをディスプレイの両脇に備えている
ベンチマークアプリを使って処理性能を計測した。CPUの能力を計測する「GeekBench 6」のスコアはシングルコアが950、マルチコアが2844となった。なお、「Xperia 10 V」では、シングルコアが900前後、マルチコアが2100前後なので、特にピーク性能が向上していることがわかる。
なお、グラフィック性能を計測するベンチマークアプリ「3DMark」の検査項目「Wild Life」のスコアは2388。「Xperia 10 V」のスコアは大体1200前後なので、グラフィック性能はかなり向上しているようだ。
「3DMark」の検査項目「Wild Life」のスコアは2388
体感速度を見ると、ミドルレンジ相応で普段の用途ならあまり問題はない。いっぽう、グラフィック性能は向上しているものの、負荷の大きい一部のゲームでは、限界を感じる場合がある。グラフィック性能に注目すると、ハイエンドとミドルレンジの間には大きな性能格差があるのが現実で、「原神」クラスの重量級ゲームを高画質で動作させたいなら、予算は大幅に上昇するが「Xperia 1 VI」のような最新またはそれに準じるハイエンドスマホを選ぶ必要がある。
ディスプレイは、前モデル「Xperia 10 VI」と基本的に共通の、フルHD+(2520×1080)表示に対応する約6.1インチの有機ELディスプレイ。リフレッシュレートは60Hz、タッチサンプリングレートは120Hzで、HDRには対応していない。基本的な画質も前モデルからそのままだ。ただし、上位機種「Xperia 1 VI」では廃止した21:9の縦長の縦横比を継続している。
ハイエンドモデルの「Xperia 1 VI」では廃止された21:9の縦長のディスプレイを本機は継続採用している
縦長ディスプレイを生かし、縦に2つのアプリを並べても表示に少し余裕がある。上部にYouTube動画を流しながらSNSをチェックする、マップを開きつつ旅行サイトを参照するような使い方ができる。
縦長ディスプレイは2画面表示でメリットがある。画面サイズの制約はあるが一般的な画面縦横比のスマホに比べれば扱いやすい
カメラの性能を見てみよう。メインカメラは広角カメラと超広角カメラのデュアルカメラ。「Xperia 10 V」に搭載されていた望遠カメラは廃止され、広角カメラのデジタルズームを利用する仕様となった。
広角カメラは1/2.0インチの約4800万画素イメージセンサー「Exmor RS for mobile」に、35mm換算の焦点距離で26mmのレンズを組み合わせる。なお、通常時は4個のサブピクセルを1個にまとめたピクセルビニングによって約1200万画画素のセンサーとして機能するが、望遠撮影時はピクセルビニングを解除したうえで、センサーの中央部分を使った2倍のデジタルズームによる焦点距離52mmの撮影を行う。こうした望遠カメラをデジタルズームに代替する試みは「Xperia 5 V」で実績があり評価も悪くない。本機ではどうなるのか気になる。
背面にはデュアルカメラ。超広角とメインの2つだが、カメラのUI上は「2倍」の表記があり、トリプルカメラのように動作する
カメラ部分の出っ張りは最小限
以下に静止画の作例を掲載する。基本的にカメラ任せで撮影を行っているが、マニュアル操作を行っている場合は、その旨を記載している。
広角カメラを26mmの広角で撮影した。前景の写りは、陰影やディテールの再現などかなり良好だ
上と同じ構図を2倍のデジタルズームで撮影。ピクセルビニングを解除するため感度性能が低下するものの、日中であれば画質への影響を気にせずに使える
こうしたピンク寄りの赤い花は飽和しやすいが階調も比較的残っている。ただ、構図周辺の画質はミドルレンジ相応のざらつきが見られる
こちらも超広角カメラだが、接写気味で撮影している。比較的近距離の被写体のほうが画質はよいようだ
ユニークなカメラ機能として「ルック」機能がある。「ルック」では、「Daily」「Cherry」「Film」「Nostalgic」など9種類のモードを選ぶことで、マニュアル操作が必要なホワイトバランスや露出の調整を手軽に行える。
ルック機能を使えば、簡単に写真の色味を変えて撮影できる。「Daily」や「Cherry」といったポップなものから「Film」や「Nostalgic」といったクリエイティブなものまで9種類が用意される
上がルックをオフの状態で撮影。中央は「Daily」。暗部を持ち上げて明るいイメージになる。下は「Film」メリハリのある発色でインパクトが強い
望遠カメラを廃止した影響だが、2倍のズーム程度であれば画質に大きな不満はない。歴代の「Xperia 10」シリーズの望遠カメラは、誰でもきれいに撮れるとは言いにくかったが、「Xperia 10 VI」のほうがずっと実用的で、スペックよりも実質をとったものだ。また、「ルック」機能は写真の印象を大きく変えられるのでなかなか楽しい。
画面上をタッチするとAF合わせが行われ、さらに露出補正バー(画面上)とホワイトバランスバー(下)が表示される。マニュアル操作が手軽に行えるのはユニークだ
内蔵するバッテリーは「Xperia 10 V」と同じ容量5000mAhで、メーカーの調べによると、動画再生時間は約34時間から約1割伸びている。ただし、NTTドコモの公開するスペック情報を見ると、連続待受時間(LTE)は「Xperia 10 V」の約730時間に対して「Xperia 10 VI」は約570時間、連続通話時間(VoLTE、HD+)は「Xperia 10 V」の約2120分から、「Xperia 10 VI」は約2000分にそれぞれ短くなった。
ただし、実際に使った限りにおいて、メーカーの言うように2日のバッテリー持ちは可能だった。使用状況による影響はあるとしても「Xperia 10 V」から大きくバッテリー持ちが悪化するようなことはなさそうだ。
以上「Xperia 10 VI」の検証をお届けした。本機と競合しそうなミドルレンジスマートフォンを見ると、強力な高コスパモデルが数多く登場している。具体的にはGoogle「Pixel 8a」、オッポ「OPPO Reno11 A」、シャープ「AQUOS sense8」、シャオミ「Redmi Note 13 Pro+5G」と「Redmi Note 13 Pro 5G」、NOTHING「Phone(2a)」あたりだろう。それらと比べても本機は、率直に言って割高で、スペックの面でも特筆する優位性は見出しにくい。
しかし、今やソニーはビジネス向けスマホに特化した京セラを除けばほとんど唯一の国内のスマートフォンメーカーで、「Xperia」シリーズは人気が高い。先の読めない時代にソニーの持つ安心感や堅実さは価格で測れない価値があるのだろう。また、コンパクトなスマートフォンが欲しい人にとっては「AQUOS sense8」と並ぶ貴重な存在であることは間違いない。“コスパ”とか“効率”とは異なる価値観に立てば、満足できる製品となるだろう。