シャープのミドルレンジスマートフォン「AQUOS sense9」が2024年11月7日より順次発売されている。現実的な価格と必要な機能を両立した国民的スマートフォンで注目度は高い。そんな製品をしばらく使い込んでわかったことをレポートしよう。
「AQUOS sense9」(検証機は6GBメモリー+128GBストレージモデル)。市場想定価格は6万円前後。2024年11月7日より順次発売が始まっている
「AQUOS sense」シリーズは、国民機と言ってもよいスマートフォンだ。海外メーカーが低価格を武器にスマートフォン市場を席巻しているが、小さめのサイズやバランスのよい機能、そして耐久性など、日本市場を前提にした歴代の「AQUOS sense」は海外メーカー製品にはない魅力がある。
その最新モデル「AQUOS sense9」は、デザイナーの三宅一成氏(miyake design)による新デザインを採用。今夏モデルとして発売された「AQUOS R9」や「AQUOS wish4」と統一感のあるデザインになった。自由曲線を使ったカメラ部分のデザインが個性的だが、万人に受け入れられそうな雰囲気だ。カラーバリエーションも豊富で、ブルー、グレージュ、コーラル、グリーン、ホワイト、ブラックの6色を用意する。なお、販路によってカラーの組み合わせが異なる点には注意したい。
6色のカラーを用意。ただし、NTTドコモとKDDI系は5色、SIMフリーは4色、ソフトバンクは3色など販路ごとに組み合わせが異なる
サイズは、約73(幅)×149mm(高さ)×8.9(厚さ)mmで、前モデル「AQUOS sense8」と比べると幅が約2mm、厚さが約0.5mm大きくなった。重量は7g増えて約166g。前モデルよりやや大型化したが、カメラやボタン部分を除けば凹凸もなく感触も良好、アルミ合金を削り出して形成したボディはとてもしっかりしている。
なお、防水・防塵に加えて、米国国防総省の調達基準MIL-STD-810Gに準拠した耐衝撃(落下)性能など16項目をクリアしたタフネス性能も前モデル同様に備える。一定条件下における浴室での使用、ハンドソープを使ったボディの丸洗い、アルコール除菌シートへの耐久性も継続している。
少し大きくなったものの、競合製品と比べれば十分小さいほうだ
前モデルまではモノラルだったスピーカーだが、「AQUOS sense9」では2個のスピーカーを備えステレオ再生に対応した。そのいっぽうで長年搭載されていたヘッドホン端子は非搭載となっている。なお、手持ちのDAC内蔵型の汎用変換アダプターを使用することで有線接続は可能だ。
ヘッドホン端子が廃止。なお、手持ちのDAC内蔵の汎用の変換アダプターを使って有線ヘッドホンが接続できた
ディスプレイは、カメラの納まる切り欠き(ノッチ)のデザインが、水滴型からパンチホール型に変更された。サイズは前モデルと同じ約6.1インチの有機ELディスプレイでフルHD+表示に対応する。なお、名称が「IGZO OLED」から「Pro IGZO OLED」に変わり、1〜90Hzから1〜120Hzの可変リフレッシュレートになったうえに、1フレームごとに黒い画面を差し込む残像低減機能を組み合わせた240Hz駆動に対応した。こうしたディスプレイの強化は体感速度にも影響しているようで、なめらかなスクロールで視覚面から心地よい操作感覚をもたらしている。また、ピーク輝度も1300ニトから2000ニトへ高められている。
画面のノッチ(切り欠き)が水滴型から、丸くくり抜いたパンチホール型に変更された
「AQUOS sense」シリーズと言えばバッテリー持ちのよさが欠かせない魅力だ。「AQUOS sense9」は、前モデルと同じ5000mAhのバッテリーを搭載している。新旧のSIMフリー版のスペックを比較すると、「AQUOS sense8」の連続通話時間が約3980分で、「AQUOS sense9」が約2700分へと数値は低下している。
そのいっぽうで連続待受時間(静止時)は、「AQUOS sense8」が約770時間だが、「AQUOS sense9」が約890時間と向上している(いずれも6GBメモリー+128GBモデル)。なお、シャープの認識では新旧モデルの電池持ちにトータルで大きな違いはなく、いずれも1日10時間の使用ペースで2日の電池持ちが可能としている。
実際の電池持ちを検証したが、1日に3時間断続して使用しても5日間は充電せずに済んでいる。なお、以前行った「AQUOS sense8」の検証では1日4時間の使用ペースで4日のバッテリー持ちだった。それと比べて「AQUOS sense9」はほぼ同レベル。バッテリー持ちが悪化したことはないようだ。
急速充電の性能が高められているのもポイントで、36Wの急速充電に対応。充電時間は「AQUOS sense8」の約160分から、約100分へと約1時間短縮されている。65W対応の充電器を使用したが、フル充電には約1時間57分かかった。ミドルクラスの製品でも急速充電は普及しているので、本機の充電時間は前モデルより短くなったが、それでも長いほうだろう。ただし、急速充電が可能なバッテリーは大きく重くなりやすいので、ボディの大型化や価格の上昇を避けるなら仕方ないのかもしれない。
充電中の様子。ワットチェッカーは27W前後を示した。出力65Wの充電器を使ったが残量ゼロからフル充電まで1時間57分かかった
基本性能を見てみよう。搭載されるSoCはミドルハイ向け「Snapdragon 7s Gen2」で、6GBメモリー+128GBストレージモデルに加えて、SIMフリー版では8GBメモリー+256GBストレージモデルも用意される。
最大1TBまで対応するmicroSDXCメモリーカードスロットも搭載。プリインストールされるOSはAndroid 14で、前モデルと同じく最大3世代のOSバージョンアップと、5年のセキュリティアップデート配布が予定されている。
また、SIMフリーモデルで8GBメモリー+256GBストレージモデルが選べるようになった。大容量のメモリーを積むことでタスクの切り替えがスムーズになる。ストレージの容量がいっぱいになると事実上スマートフォンは何もできなくなるので、長く使うつもりならこうした大容量モデルを選ぶほうが安心だろう。
microSDXCメモリーカードスロットを備える
いくつかのベンチマークアプリを試した。左が「AQUOS sense9」、右は前モデル「AQUOS sense8」のものだ。
定番のベンチマークアプリ「AnTuTuベンチマーク」の結果。「AQUOS sense9」の総合スコアは615864(左画面)、「AQUOS sense8」は509792(右画面)。2割ほどスコアが向上している。通常の作業で影響する「CPU」のスコアが大きく伸びている。また、体感速度に影響する「UX」の値も伸びている。
グラフィック性能に特化したベンチマークアプリ「3D Mark」の結果。左の画面が「AQUOS sense9」、右は「AQUOS sense8」のものだ。「AQUOS sense9」は2割強のスコアアップとなっている
CPUの処理性能で広く使われるベンチマークアプリ「GeekBench 6」の結果。左の画面が「AQUOS sense9」でシングルコアは992、マルチコアは2757。右画面の「AQUOS sense8」は、シングルコア938、マルチコアは2566となった
いずれのベンチマークテストの結果も、「AQUOS sense9」は性能が向上していることを示している。特にCPUの処理性能は大きく、体感速度の向上にも影響を与えている。そのいっぽう、グラフィック性能は伸びているものの、絶対的な性能はそこまで高いわけではなく、負荷がかかるとボディの熱やバッテリーの消費速度も高まる。「原神」のようなゲームを高画質で長時間動作させるような状況では、ハイエンドスマホのようには行かない。本機は日常の用途を快適に行うことを目指したスマートフォンだろう。
カメラの性能に迫ろう。ボディ背面のカメラは標準カメラと超広角カメラのデュアルカメラで、いずれも約5030万画素のイメージセンサーを搭載。標準カメラは1/1.55インチのイメージセンサーに光学式手ブレ補正を組み合わせる。超広角カメラは1/2.5インチの小型のセンサーを搭載するが、35mm換算の焦点距離が13mmの超ワイドカメラだ。
メインカメラは、標準カメラと超広角カメラのデュアルカメラだ
以下に、静止画の作例を掲載する。いずれも初期設定のまま、カメラ任せで同じ構図で複数枚撮影し、そのうち最もよく撮れたものを選んでいる。
逆光でバラ園を撮影した。太陽部分の階調を維持しつつフレアを抑え、コントラストも保たれている
上と同じ構図で超広角カメラに切り替えた。ダイナミックレンジが異なるためかハイライトに引っ張られて全体にアンダー気味になった。センサーは5030万画素だが解像感も今ひとつ
深紅のバラを撮影。スマートフォンのカメラはこうした強い色を苦手にしやすいが、色の飽和、階調の不自然さもギリギリ抑えられている。発色は肉眼よりも少し鮮やかだった
明るめの夜景を撮影。ハイライト部分の階調や暗部となる街路樹、ブロックを敷き詰めた舗装面のディテールもミドルクラスとしてはかなり再現性が高い。手ブレも抑えられていた
上と同じ構図を超広角カメラで撮影。感度の不足だろうか発色がややアンバーに偏っている。ただ35mm換算で13mmの超ワイドのため迫力はある
かなり暗い夜の給水塔を撮影。カメラに大きな負担のかかる構図だが、ギリギリまで増感しながらノイズを抑え、ディテールも維持しバランスを取っている
本機のカメラ、特に標準カメラは、ミドルレンジクラスとして満足できる性能だ。日中から夜景、強い色の被写体などさまざまなシーンを撮ったが手ブレも少なく発色もよい。操作性の面でも、カメラアプリ起動のもたつきやオートフォーカスの迷いが減り、以前の「AQUOS sense」シリーズが抱えていたカメラの欠点がかなり解消されている。いっぽう、超広角カメラはハイエンドスマホのそれよりも見劣りは否めない。ただし、標準カメラに注力するのはミドルクラスの製品ではよくあることなのも確かだ。より高品質な超広角撮影や光学ズーム撮影が行いたいならより高価な製品を選ぶ必要がある。
本機の購入を検討する際には、コスパのよい海外メーカーの製品が競合となるだろう。しかし、日本市場をメインに設計された「AQUOS sense9」は、ボディが小さく持ちやすいうえに、タフネス性能や浴室で使えるといった独自性は今でも健在で、本機を選ぶ価値は十分にある。
また、スマートフォンの本質的な性能となる通信性能を見ても、Sub-6の5G専用周波数帯として、n77、n78、n79の3バンドに対応している。そのためNTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルいずれのネットワークでもフルに5G(Sub-6)を利用できる。特にNTTドコモだけが使用するn79に対応していない海外メーカー製のSIMフリーAndroidスマートフォンはまだ多く、本機はその点でも貴重だ。また、近ごろ増えているeSIMに対応している点もありがたい。
「AQUOS sense9」は、引き続き日本市場をいちばん重視したスマートフォンだ。完成度の高い国民機として多くの人が引き続き満足できる製品と言えよう。