VAIOからLTE対応のモバイルノート「VAIO S11」が登場した。モバイルWi-Fiルーターやスマートフォンのテザリングを利用せずに、単体でインターネットに接続できるのが特徴だ。ソニー時代から3GやLTEに対応したVAIOはあったが、今回のVAIO S11はSIM(ロック)フリーで、好みの通信サービスと組み合わせられるのが大きな違いだ。VAIO自身もNTTコミュニケーションズと組んで、オリジナルのSIMカードと料金プランを用意する。SIMフリーのモバイルノートの使い勝手を試してみた。
11.6型液晶ディスプレイを搭載するVAIO S11。SIMフリーのLTE対応モデルの価格.com最安価格は134,784円(2016年1月13日時点)。月々約1,000円で利用できるVAIOオリジナルのSIMカードも用意する
VAIO S11の最大の特徴は下り最大150MbpsのLTEに対応する点だ。モバイルWi-Fiルーターやスマートフォンのテザリングを使わずに、単体でインターネットに接続できる。LTEがバンド1/3/19/21、3Gが1/19に対応しており、NTTドコモのネットワークをカバー。SIMフリーなので、NTTドコモ系のMVNOのSIMカードを利用できる。手元にあったIIJのSIMカードを装着してみたが、問題なくインターネットに接続できた。MVNO各社からさまざまなプランのSIMカードが販売されているので、好みのサービスを選べる。
VAIO自身もオリジナルのSIMカードをVAIOストア限定で販売する。最大通信速度200kbpsでインターネットに常時接続できて、必要なときに最大150Mbpsの高速通信が可能なSIMカードだ。高速通信は、1年間で32GBなど、年間で利用できるデータ量の上限が決まっており、必要に応じて切り替えながら使うことになる。高速通信への切り替えやデータ残量の確認は専用ユーティリティで行う。200kbpsの基本通信モードでは、メールチェックは問題ないが、動的なものや写真や画像の多いWebページは表示されるまで少々待たされる印象だ。「YouTube」はいつまでたっても再生がはじまらず、ネット動画の視聴は難しそうだ。使いものにならないということはないが、ストレスを感じることもある。
料金は、1年プラン(高速通信モード32GB分付属)で13,800円、2年プラン(64GB分付属)で22,800円、3年プラン(128GB分付属)が32,800円(いずれも税別)。1年プランなら、月々1,150円で約2.6GB分使える計算だ。VAIO S11と同時購入すると2,000〜3,000円割引くキャンペーンも実施している。スマートフォンの料金プランのように、データ量を月単位で使い切る必要がない年単位の一括払いプリペイド型なのもありがたい。難点は、高速通信できるデータ量を使い切った場合に追加する方法がないこと。たとえば、半年で高速通信できるデータ量を使い切ると、残り半年は200kbpsで使い続けることになってしまう。
VAIOオリジナルのSIMカードは、一括払いのプリペイド型なので月々の支払や面倒な契約手続きが不要。SIMカードはmicroSIM
SIMカードスロットは背面に搭載。カバーなどはないが、しっかりとハマるので抜ける心配はない
高速通信モードへの切り替えやデータ残量を確認できる専用ユーティリティ
続いて、LTE以外の部分をチェックしていきたい。ボディは、同社の最上位機種である「VAIO Z」に近いデザインだ。LTEの感度を高めるために、天板からパームレスト、底面にいたるまで樹脂材料を使っている。金属ボディのモデルと比べると高級感やプレミアム感はないが、個人的には道具として雰囲気が出ていてチープな印象は受けなかった。重量は約920〜940gで毎日持ち歩いても苦にならないだろう。バッテリー駆動時間は、カタログ値でVAIO Zと同じ最大約15時間。カタログ値の6割、7割だとしても8時間以上は使えそうだ。LTE接続時でも約8時間の連続駆動が可能で、スタミナはさすがと言える。
ディスプレイは1920×1080の11.6型。低反射コーティングが施されており、映り込みが少なく、屋外でも屋内でも見やすいディスプレイだ。IPS液晶で視野角が広く、表示品質は高く感じた。実際に使ってみて、画面の小ささは気にならなかったが、画面のアスペクト比が16:9で縦方向が狭いのが気になった。日本マイクロソフトの「Surface Pro 4」やアップルの「MacBook」は、3:2や16:10のディスプレイを採用しており、縦方向に余裕がある。それに対して16:9のVAIO S11は縦方向の表示スペースが狭く、一覧性が低い。単体で使うとわかりにくいが、他社のモデルと使い比べてみると、この差は意外と大きく感じた。
樹脂材料の天板。カラーはシルバー、ホワイト、ブラックの3色で、写真はホワイトモデル
底面も樹脂材料
1920×1080の11.6型液晶ディスプレイを搭載。映り込みの少ないノングレアタイプで、屋内でも屋外でも見やすい。画面のアスペクト比が16:9で、縦方向が狭いのが気になる
キーピッチは約16.95mmとやや窮屈だ。屋外での利用や会議中での利用を想定した静音構造なのはうれしいが、キーピッチの狭さへの慣れは必要だろう。キートップには、摩擦や手の油によって発生するテカリを防ぐフッ素含有UV硬化性塗装が施されている。長く使っても、キレイな状態が保たれるのはうれしいところだ。
タッチパッドはクリックボタンが独立していない1枚板タイプ。誤操作防止機能が盛り込まれており、操作中に手のひらが少し触れてもカーソルが飛んでしまうことはない。コンパクトなサイズの割には面積も広く、滑りも良いので使いやすかった。タッチパネルを搭載しない(オプションでも選択できない)ので、おのずとタッチパッドを利用する頻度は高くなると思うが、ストレスなく使えそうだ。
約16.95mmのキーピッチを確保したキーボード。タッチパッドは本体サイズの割には大きめで、Windows 10の各種ジェスチャー操作も行いやすい
キーピッチは窮屈で、使いこなすには多少の慣れが必要になるだろう
スペックは申し分ない。CPUにはインテルの「第6世代Coreプロセッサー」(Uプロセッサー・ライン)を採用し、ストレージには通常のSSD(SATA)より約3.7倍速い「PCIe対応第二世代ハイスピードSSD」が選べる。試作機は、「Core i7-6500U」(2.50GHz-最大3.10GHz)と8GBのメモリーを搭載したハイスペックなモデルだったが、試用中にスピードに不満を覚えるシーンはなかった。コンパクトでハイスペックなモバイルノートとして数少ない選択肢と言える。
VAIOストアでは、OSにWindows 10 Pro/Homeに加え、Windows 7 Professionalが選択可能。Windows 7でしか利用できない社内システムやソフトを使っているビジネスパーソンでも安心して選べる。
外部インターフェイスにLANとVGAのレガシーポートを装備するのも特徴だ。プロジェクターとの接続性や無線LANのない出張先のホテルでの利用を想定したもので、ビジネスパーソンを意識した端子と言える。ディスプレイを90度以上開くと、チルトアップヒンジ機構により、本体が傾き、本体よりも厚いコネクターをスムーズに接続できる。キーボードにも角度が付き、入力がしやすくなる効果もある。USB3.0端子は左右に1つずつあり、大きめのUSBメモリーを装着して干渉しないように隣の端子と距離をとって配置されている。最新のUSB Type-C/Thunderbolt 3も搭載しており、対応機器があればディスプレイや外付けストレージなどをケーブル1本で接続できる。なお、HDMI端子がないのは賛否ありそうだ。
右側面に、SDメモリーカードスロット、USB3.0端子、USB Type-C/ Thunderbolt 3(兼用)、1000BASE-TのLAN、VGA(アナログRGB)を備える
左側面には、電源端子、USB3.0端子、ヘッドホン端子を搭載
ディスプレイは最大145度まで開く。90度以上開くとキーボード部分に角度が付くチルトアップヒンジ機構を採用。厚みのあるコネクターもスムーズに接続できる
地味だが便利なUSB端子付きのACアダプター
気になる価格は、LTE非対応のCore i3モデルが価格.com最安価格123,984円と割安感がある。LTE対応モデルは約1万円高い134,784円(2016年1月13日時点)。LTE対応のモバイルノートが欲しかった人には待望のモデルと言えるのではないだろうか。VAIOオリジナルのSIMカードも、比較的手ごろな価格でインターネットに常時接続できて、高速通信も柔軟に利用できる。LTE対応ノートを現実的な価格で購入できて、手ごろな価格で運用できるようにした点でVAIO S11は画期的と言える。SIMフリーのLTE対応で注目されているVAIO S11だが、ハイスペックでコンパクトなモバイルノートとしても完成度が高い。高級感やプレミアム感こそないが、仕事の道具として選ぶならVAIO S11は満足度の高いモデルと言えそうだ。