暖房器具を稼働していても、暖かい空気は天井付近にたまってしまい足元は寒くなりがち。そんな状況になるのを防ぐために、扇風機やサーキュレーターを併用することは今や一般的なこととなっている。そこで注目したのが、ヒーターとサーキュレーターが一体化したボルネード「iControl-JP」。空気を循環させながら暖めることで、室温のムラを低減するという。その実力を確かめてみた。
サイズは30.5(幅)×33.3(高さ)×26.2(奥行)cmで、6〜12畳の部屋に対応する。重量は3.1kgとなっており、持ち運びにも苦労しないだろう
吸い込んだ空気を電熱部で温め、温風にして放出する電気ファンヒーターは速暖性に優れるが、部屋中を暖めるほどの能力はないためスポット暖房として利用されることが多い。その理由の1つに、「離れた所までは温風が届かない」ということがあげられる。そこでiControl-JPは、ヒーター内にサーキュレーターを組み込むことで電気ファンヒーターの弱点を解消。同時に、空気を循環させるサーキュレーション効果で均一な暖めを実現した。また、“ヒーター+サーキュレーター”の暖房運転だけでなく、サーキュレーターのみの運転も対応しており通年で利用できる。
背面の吸気口が盛り上がるような形状をしているので奥行はあるが、安定性はいい。吹出口は若干上を向いているものの、床に対して垂直に近い感じだ
吹出口にビニールテープを付けて稼働してみると、やはり風は前方に向かった。暖房時にサーキュレーターを設置する場合、上向きにすることが多いので、この風向きで部屋が均一に暖まるのか気になるところ
操作部に表示されるのは、左から「切タイマー」「室温」「設定温度」。暖房する際は、希望する室温を5〜35℃で指定すれば温度やファンの速度を自動調整して、設定温度になるように運転してくれる。また、暖房運転には「LOW HEAT(弱)」と「HIGH HEAT(強)」の2モードを用意
室温21℃、設定温度22℃で運転した際の吹出口近くの温風は、「LOW HEAT(弱)」が36.4℃、「HIGH HEAT(強)」が50.6℃となった。2つのモードは、温風の温度が異なるようだ
「HIGH HEAT(強)」では温風が約51℃になったが、体感的にはぬるめ。本体の吹出口部分も高温にならないので、触っても火傷する心配はない
吹出口から出る風の向きは前方だが、本当に部屋は均一に暖まるのだろうか。実際に12畳のLDKで使用してみた。検証時の室温は18℃で、設定温度は22℃にして「HIGH HEAT(強)」で運転スタート。風の動きが見えるように、天井からビニールテープを垂らしておく。
iControl-JPは部屋の角のほうに設置
運転開始すぐに、ビニールテープが下から巻き上げられるように勢いよくなびいた。風が床面を這って吹き上げるように流れているのがわかる
天井の角にあるビニールテープもゆらゆらと揺れていることを確認。本体の高さが低く、前方に吹き出されることから懸念していた天井付近にも風が拡散し、しっかりと空気が循環できているようだ
そして、40分ほど経過した時に運転が静かになった。iControl-JPに装備されている、設定温度を超えると運転をセーブして室温を一定に保つ自動温度調節機能が作動したようだ。放出する温度だけでなく、送風でも室温をコントロールするため、より高い省エネ運転が望めるという。
大きく揺らいでいたビニールテープが、微弱な揺れに変わった
ワット計で測定してみたところ、「HIGH HEAT(強)」ではほぼスペック表どおり最大1,200Wだった消費電力が、自動温度調節機能が働くと10W以下に。人の出入りなどによる室温変動にあわせて出力が随時切り替わることを確認できた
設定温度に到達したので、室温を測ってみる。というのも、本体に表示される室温はiControl-JP付近の温度となるためだ。部屋の各所の温度を測定し、iControl-JPによりどれほど温度が上昇したのかをチェック。
部屋の中心部の温度は、床上1m付近は19.6℃→22.6℃、床上1cm付近は18.8℃→21℃となった
温風が吹き出る方向とは反対側の部屋の角の天井付近は19.8℃→21.6℃、床上1cmは18.6℃→20.8℃に上昇
もっとも暖まりにくい窓際の床上を測定してみたところ、15.6℃→19.2℃にまで温度が上がった
設定温度22℃と比べると窓際の床上の温度は少し低めだが、窓付近はどうしても冷気が入るので若干温度が低くなるのは仕方ないだろう。それ以外の測定ポイントは、設定温度22℃に対して寒暖差は1℃程度に留まった。温度は人の動きなどによってすぐ変動してしまうため今回の結果が絶対ではないが、体感的には不快を感じないレベルの温度差だ。
上で検証した住居は、鉄筋コンクリート建てのマンションで気密性が非常に高いため、暖房の効きもすこぶるよい。では、気密性が低い居住環境でも満足度の高い暖めができるのだろうか。岐阜県にある築100余年の超低断熱な古民家の8畳の居間で使用してみた。
検証した日は室温12℃と高めだったが、降雪時には室内でも10℃を下回るため石油ファンヒーターとこたつを併用している
すき間だらけな木造住宅なので、室温12℃から設定温度22℃に達するには1時間40分かかった
iControl-JP付近は設定温度22℃になったようだが、離れた場所の室温はどのぐらいなのだろうか。本体からもっとも遠い窓側の温度を測ってみたところ18.4℃という数値に。あまり期待していなかったが、この過酷な住宅環境でこの温度ならば十分合格だ
気密性の高いマンションに比べると、快適な温度になるには時間もかかるし、温度差も大きくなる。とはいえ、もともと10℃前後だった部屋の端でも20℃に近い温度が保てるのだから、部屋を均一に暖めるという観点では一定の実力を実感した。普段生活している住人からは、足元が暖かい点が高評価。検証した日は比較的暖かかったのでiControl-JPのみで過ごせたが、もっと気温が下がった寒い時にも電気カーペットなどを併用すれば寒さはしのげそうという声も得られた。
iControl-JP から放出される温風はそれほど高温ではないため、室温が低い時に直接風が体に当たる状態で使用すると少し寒いかもしれない(体に風を当てない使用が推奨されている)。しかし、不思議なことに室温は寒過ぎず、暑過ぎない温度に保たれており、本体背面側の空間も暖か。暖房しているとのぼせるような暑さを感じることがあるが、iControl-JP ではそのような不快感はなかった。設定温度に到達していない段階でも、やさしい暖気が部屋中に漂っている感じで心地いい。2週間ほど試してみたが、暖まり具合は室温に依存するものの室内を均一に暖める効果という点ではほぼ宣伝文句に偽りはないことを実感できた。
また、今回は使用していないがサーキュレーター単体として使えるモードがあるのも魅力だ。送風の角度を変えることはできないが、室内の空気を天井付近から床、そして隅のほうまで循環できていたので、冬場に他の暖房器具と併用するもよし、夏にエアコンと一緒に使うのもいい。1年中使えて、部屋間の持ち運びも容易。効果的に暖められる汎用性の高い暖房器具と言えるだろう。
雑誌記者・編集者などを経て、2004年に渡仏。2006年に帰国後はさまざまな媒体において、家電をはじめ“ライフスタイル”的切り口で多ジャンルの記事を執筆。