特別企画
あらゆる電気製品を変えるかもしれない注目のテクノロジー

現実に近づいた夢の次世代バッテリー「全固体電池」を見た!

スマートフォンやスマートウォッチといった小型機器から、自動車や潜水艦にまで使われるリチウムイオン二次電池。その“次”として注目されるのが全固体電池だ。どんな特徴があるのか、実用化はいつごろになるのか。2016年3月2日〜4日に開催された「バッテリージャパン 2016」の日立造船ブースの様子からレポートしよう。

バッテリージャパン 2016に出展された日立造船の全固体電池をレポート

バッテリージャパン 2016に出展された日立造船の全固体電池をレポート

リチウムイオン二次電池の次を担う技術として注目される全固体電池

充電と放電を繰り返して利用できるリチウムイオン二次電池は、さまざまな製品で幅広く使われており、現代社会を支える基本技術の1つだ。さらなる大容量化が期待できる新技術として注目を集めるのが全固体電池である。

最初に、現在主流のリチウムイオン二次電池の原理をおおまかに解説しよう。リチウムイオン電池では、正極にリチウム金属酸化物などの金属系素材を、負極に炭素系素材などを使用し、両極の浸かる電解液の中をリチウムイオンが移動することで、充電と放電が行われる。今回取り上げる全固体電池も、リチウムイオンを使うという基本部分はそのままだが、正極、負極、電解質のいずれも固体でできているのがポイントだ。

全固体電池のメリットは多岐にわたる。その1つは安全性だ。現在一般的なリチウムポリマー二次電池は、電解液を半固定のゲル化することで、安定性を高めているが、電解質に使われる有機溶媒は可燃性で発火の危険性は今でもゼロではない。だが、全固体電池は、原理上、そのような危険性がない。仮に全固体電池の一部に穴が開いたとしても発火はせず、そのまま使い続けることができるのだ。

また、重量や体積あたりの充電容量を示すエネルギー密度も、現状の4〜5倍程度になると見られている。エネルギー密度の向上は電気製品であれば駆動時間、電気自動車であれば航続距離に直結する。

さらに、全固体電池は、陽イオンとなるリチウムイオンだけが電解質の中を移動し、対となる陰イオンは移動しない。陰イオンは、バッテリー劣化の原因となる副反応を呼び起こすため、全固体電池は原理的に劣化を抑えられる。

このように、全個体電池は、リチウムイオン二次電池が抱える問題を解決できる技術の1つとして注目されているのだ。

全固体電池では固体電解質を介して、正極と負極の間をリチウムイオンが移動することで充電や放電が行われる

全固体電池では固体電解質を介して、正極と負極の間をリチウムイオンが移動することで充電や放電が行われる

全固体電池の断面の模式図。黄色い固体電解質をはさんで片方に水色の負極、もう片方に赤色の正極が埋め込まれている。固体電解質は、イオンを媒介するだけでなく正極と負極の接触を防ぐセパレーターの役割も担っている

薄さが光る全固体電池

今回日立造船が展示していた全固体電池は、豆粒のようなペレットタイプと極薄のシートタイプのものの合計4タイプ(下写真)。ペレットタイプは基本容量が2mAhとごく小容量だが、最大の100×100mmサイズでは200mAhという容量がある。なお、基本電圧は、いずれも3.6Vとなっており、現在のリチウムイオン二次電池と同クラスだ。

これらのサンプルを見ると、全固体電池では電池1つひとつの容量を確保するために面積の確保が必要なことがわかる。そのいっぽう、シートタイプは0.3mmときわめて薄く、面積を確保できれば形状の制限は少ない。そのため、薄い本体を大量に重ねることで、電圧や電流を高めることが容易に行えるという。

寿命も長く、日立造船の全固体電池では、250回の充放電を繰り返しても容量が98%も維持される。説明員の話によれば、1日1回の充電で、90%の容量を10年間維持できるという。

なお、エネルギー密度については、現状と比べて同等程度にとどまっており、今後の課題の1つとなっている。

左端のペレットタイプは直径10mmで基本容量2mAh。20×20mmで8mAh、50×50mmの50mAh、そして100×100mmで容量200mAhが並ぶ

本体部分の厚さは0.3mm。展示サンプルはフィルムで保護されているが、より薄い絶縁素材を使って重ねれば大容量化もしやすいという

全固体電池7個を直列に配置して25.2Vまで電圧をアップさせる実験も披露された

全固体電池7個を直列に配置して25.2Vまで電圧をアップさせる実験も披露された

熱に強いのも特徴。リチウムイオン二次電池のように冷却の必要性が少ないので、設置場所の柔軟性が高い

熱に強いのも特徴。リチウムイオン二次電池のように冷却の必要性が少ないので、設置場所の柔軟性が高い

2030年の実用化が目標だが、大幅に前倒しされる可能性も

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が2010年に取りまとめたロードマップ「Battery RM2010」では、全固体電池を2030年以降に実用化される技術として取り上げている。だが、今回取り上げた日立造船では、評価用のサンプル提供を2016年に、2020年以降に量産を開始するとしている。現状は、量産化やエネルギー密度の更なる向上などいくつか課題もあるが、それでも当初2030年と言われていた実用化が、大幅に前倒しされる可能性が高くなっている。

また、全固体電池の研究は、今回取り上げた日立造船以外にも、ソニーやトヨタ、旭化成、出光興産といった大手企業や、大阪市立大学などが行っており、今後さらに研究が進むと見られる。気になるコスト面でも、こうしたプレーヤー間の競争によって改善されることを望みたい。

全固体電池は、安全性の高さなどから自動車や宇宙開発、発電や蓄電といった重厚長大産業向けが先行して普及しそうだ。だが、劣化が少なく長寿命という利点はモバイル機器や家電製品といった民生用の電気製品全般にも十分魅力的。そして、リチウムイオン二次電池がロボット掃除機やドローン、電気自動車といった新しい製品ジャンルを下支えしたように、全固体電池が、新たな製品ジャンルを生み出すきかっけになるかもしれない。

田中 巧(編集部)

田中 巧(編集部)

FBの友人は4人のヒキコモリ系デジモノライター。バーチャルの特技は誤変換を多用したクソレス、リアルの特技は終電の乗り遅れでタイミングと頻度の両面で達人級。

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