キャンプを始めてしばらくすると、欲しくなるのが「ダッチオーブン」。オーブン調理をはじめ、煮物、揚げ物、蒸し物と、何でもできる“魔法の鍋”です。一見、扱いが難しそうですが、実はとっても簡単! 迷うとすれば、どの素材の製品を選ぶかぐらいでしょう。そこで、今回は素材の違いを解説しつつ、ダッチオーブンでどのような料理が楽しめるかを紹介します。
ダッチオーブンは家庭用の鍋とは異なり、焚火で下から加熱がしやすいように脚が付いていたり、フタに薪や炭を置いても落ちないように縁(フリンジ)があることが一般的でした。しかし、近年は家庭でも使えるように脚のないモデルがたくさん登場しており、今では脚なしのほうが主流となっています。
コールマン「SFダッチオーブン」を例に見てみると、12インチモデルには脚が付いていますが、8インチモデルと10インチモデルに脚はありません
底面に脚がないモデルであればゴトクに干渉しないので、家庭用コンロで使えるほか、アウトドアではツーバーナーに載せることもできます
また、ダッチオーブンには異なる素材のモデルがラインアップされています。「鋳鉄」「黒皮鉄板」「ステンレス」といろいろありますが、アメリカのカウボーイたちに西部開拓時代から愛用されてきたトラディショナルなモデルは「鋳鉄」製。鋳鉄は蓄熱性が高く保温性にすぐれているので、食材にじっくり、まんべんなく火を通すことができます。
そんな鋳鉄製ダッチオーブンは、使用前に、出荷時に塗られている防錆用ワックスを取り除く「シーズニング」という作業を行わねばなりません。シーズニングの手順は、まず中性洗剤でダッチオーブンを洗い、本体とフタを火にかけてしっかり乾かした後、オリーブオイルなどの植物性オイルを布やキッチンペーパーで全体に薄く塗り込みます。そして、本体を再び火にかけ、野菜クズを炒めて鉄臭さを除去。あとは、火からおろして自然に冷めるのを待つ、となりますが、このシーズニングがめんどうというユーザーの声も多く、最近はシーズニングを終えた状態で出荷される「シーズニングフリー鋳鉄」モデルが登場し、ビギナーを中心に人気となっています。
さらに、鋳鉄製ダッチオーブンは「落としたり、熱いまま水をかけると割れる」「洗剤で洗えない」といった注意すべき点があり、ダッチオーブンを始めるハードルとなっていました。そんな懸念点を解消すべく、「黒皮鉄板」や「ステンレス」素材を採用したモデルが続々誕生。鋳鉄製ほど取り扱いに注意を払わなくていいので、気軽に使いたい人には黒皮鉄板製やステンレス製のほうが適するでしょう。
一般的に、鋳鉄製→シーズニングフリー鋳鉄製→黒皮鉄板製→ステンレス製の順番で価格は高くなります。表にある「耐ヒートショック」とは、本体が熱いまま水をかけても割れない耐性のことです
なお、ダッチオーブンはサイズも複数用意されており、8インチ、10インチ、12インチがポピュラーなラインアップ。4人前後で使うなら、10インチを選べばいいでしょう。小ぶりなチキンであれば丸ごと入れることもできるので、ファースト・ダッチオーブンに最適。8インチは、大きな食材は入れられませんが、家庭でも使いやすいのが魅力です。このように比較すると、大は小を兼ねるで12インチを選べばいいのでは? と思われるかもしれませんが、容量が大きくなると重量も増すため、持ち運びが大変になるかも。大人数で使うことがないなら、あえて大きいサイズを買う必要はありません。使用人数に適したサイズを選びましょう。
コールマン「SFダッチオーブン」(シーズニングフリー鋳鉄製)の10インチ(左)と12インチ(右)で比べてみると、これだけ大きさが異なります。重量は10インチが約6kg、12インチが約10kgと結構重たい……
事前準備や取り扱いで気をつけないといけないことなど、ここまで基本的な話をしてきましたが、シーズニングは使用前に一度行えばいいことですし、取り扱いも慣れてしまえば問題にならないので、それほど難しく考えなくて大丈夫。そんなわずらわしさも飛び越えてしまうほどの楽しさが、ダッチオーブンにはあるのです。その1例として、ダッチオーブンの特性を生かしたアウトドア料理を3つ紹介しましょう。
今回使用するのは、コールマン「SFダッチオーブン」。メニューにあわせて、8インチ、10インチ、12インチを使い分けて調理しました
手軽でバツグンにおいしく、かつ豪快な作り方がアウトドア料理っぽいローストビーフは、ぜひ一度試してほしいメニューです。ダッチオーブンは蓄熱量が高く保温性にすぐれているので、塊肉の加熱にも最適。さらに、重みのあるフタで密閉するため、食材から出た水分を逃がさず、ふっくらと仕上げることができます。手順は、焼き色をつけた塊肉と野菜をダッチオーブンに入れて、待つだけ。塊肉に焼き色をつけるのも、ダッチオーブンのフタで行えるので調理道具も少なくて済みます。なお、今回は12インチのダッチオーブンを使ってローストビーフを作りました。
最初に行うのは、塊肉の表面を焼くこと。熱しておいたダッチオーブンのフタをフライパンの代わりにして肉を焼き、旨味を閉じ込めます。一度温まったフタは食材を置いても温度が下がらないので、ムラのない焼き上げが可能
焼き色をつけた塊肉をダッチオーブンに投入(ダッチオーブンは事前に熱しておきます)。野菜の皮はむかないほうが旨味が増すので、肉と一緒に丸ごと入れてしまいましょう。なお、食材が焦げないように脚のある網を底にセットしています(今回使用しているのはオプション品です)
食材を包み込んで加熱するように、ダッチオーブンのフタの上に熱した炭をセット
15分ほどしたら肉を取り出し、アルミホイルでくるんで30分ほど寝かします。野菜にはまだ火が十分に通っていないので、再びフタをしてさらに加熱
さらに加熱すること約20分。野菜にもしっかり火が通りました
寝かしておいたローストビーフをカットしてみると、断面は鮮やかなピンク色でおいしそう!
トータル60分ほどで、これだけのメニューが完成。ローストビーフはやわらかく、ジューシーで、野菜は無水調理の効果か、甘さがすごい!
次は、10インチのダッチオーブンを使って、魚介の煮込み料理「アクアパッツア」にトライ! ローストビーフの時には無水鍋のような効果を発揮したダッチオーブンですが、今回は圧力鍋で作ったような仕上がりが望めます。なお、12インチのダッチオーブンには脚があるので焚き火台で調理しましたが、10インチのモデルには脚がないため、ツーバーナーを使用しました。
熱しておいたダッチオーブンにオリーブオイルを塗り、内臓やウロコを取った魚を軽く焼きます。小ぶりなヘダイ2尾なので10インチモデルに納まりましたが、もっと大きな魚を使う場合は12インチモデルのほうがいいでしょう
魚の表面を焼いたあと、貝やプチトマト、ブラックオリーブなどの食材をすべて入れ、白ワインと調味料を加えれば準備完了
フタをして15分ほど煮込めばできあがりです
仕上げにスライスしたレモンとイタリアンパセリを飾れば、食卓に華やかさを添えてくれるような一品が完成
加熱時間が15分と短いので、煮崩れしていません。しかし、旨味はしっかり食材に染み込んでいます。ヘダイの身がふっくらとしており、バツグンにおいしい!
最後は、冬に食べたくなるチーズグラタンを作ります。「煮込み+オーブン調理」が一度にできるのも、ダッチオーブンならではの魅力。生クリームとチーズで煮込むこってりと濃厚なグラタンなので、4人分を8インチのダッチオーブンで作るくらいがちょうどいい量です。
熱しておいたダッチオーブンにバターを入れて溶かし、輪切りにしたじゃがいもを炒めます
バターがじゃがいもにまんべんなく絡んだら、生クリーム、ブルーチーズ、シュレッドチーズなどの材料を入れます
タイムを3枝ほど沿えたら、フタをします
フタに熱々の炭を載せて、上下から加熱
10〜15分加熱したら完成です。少し水気が多かったのか、表面に焼き色はつきませんでしたが、水気が少なければオーブンで焼いたような焦げ目がつきます
今回はうまく焼き色がつかなかったので、器に盛りつけたあとトーチで軽くあぶってみました。じゃがいもがホクホクで、体が芯から温まります
今回使用したコールマン「ダッチオーブンSF」は鋳鉄製なので、洗剤を使って洗うのはご法度。シーズニングで作られた油の被膜が落ちてしまい、錆びやすくなるからです。洗剤を使わず、タワシでこすり洗いするのが基本! 少々手間かもしれませんが、きちんと手入れをすることで使いやすくなり、愛着も湧いてくるはず。そして使い込んでいくうちに、ダッチオーブンは「ブラックポット」と呼ばれる鈍く黒光りする状態になります。ここまでダッチオーブンを育て上げられれば、キャンパーとして一人前!
鋳鉄製ダッチオーブンのお手入れに使用するタワシは、植物繊維のものにしましょう。スチールタワシは油の皮膜を落としてしまうので、ご法度です
汚れを落としたら火にかけて、水分を飛ばします。水分を飛ばしきらないと錆びの原因になるので、しっかりと!
きちんと乾いたら、熱いうちに植物油をダッチオーブンの内側、外側、そしてフタにも塗って錆止めを行います
十分に冷ましたのち、新聞紙と一緒に収納バックに入れ保管
使い勝手やお手入れなどはダッチオーブンの素材によって少々異なりますが、料理はほぼ同じように作れます。自分の優先したいポイント(見た目、お手入れ、サイズや重量など)から選んでみてください。
使い始めのシーズニングや錆び防止のメンテナンスなど、少々手間はかかりますが、使い続ければ黒光りする状態「ブラックポット」に仕上げることができるのが醍醐味です。アメリカでは「妻は貸してもブラックポットは貸すな」と言われているほど。そんなに“かわいいヤツ”になるのか、手塩にかけて育ててみては?
ダッチオーブン、リッドリフター、ダッチオーブン用収納バッグがセットになったスターターセット。ダッチオーブンを火にかけたり、置いたりするためのスタンドも別売りされています。
サイズ(25cmモデル/30cmモデル)は約26(外径)×12.8(高さ)cm/約32(外径)×16.5(高さ)cmで、重量(25cmモデル/30cmモデル)は約5.2kg/約8.5kg
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直径30pの深型なので、鶏を丸ごと調理することも可能。さらに、フタを裏返すとジンギスカン鍋として使えるので、キャンプ料理の楽しみが増えます。
サイズは約32(外径)×17.5(高さ)cmで、重量は約11kg
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本体に脚は付いていませんが、フタを裏返してグリドル(鉄板)として使えるように脚を装備。直径や深さ違いで全6サイズ(ft1t/ft3t/ft6t/ft9t/ft12t/ft18t)がラインアップされています。
「ft3t」のサイズは約25.5(幅)×22(奥行)×12(高さ)cmで、重量は約5.2kg
めんどうなシーズニングの作業なしで使うことができる手軽さが最大の魅力。鋳鉄の特性はそのままなので、憧れの「ブラックポット」に仕上げることもできます。
今回のレビューで使用したモデルが本製品。シーズニングフリーなうえ、フタを持ち上げるための「リッドリフター」が付属しているので購入後すぐに使えます。8、10、12インチの3サイズがラインアップされ、12インチにのみ脚を装備。
サイズ(8インチ/10インチ/12インチ)は約20(直径)×10(高さ)cm/約25(直径)×13(高さ)cm /約31(直径)×19(高さ)cmで、重量(8インチ/10インチ/12インチ)は約3.5kg /約6kg /約10kg
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1896年に誕生した本場アメリカの老舗ブランド「ロッジ」のシーズニングフリーモデル。5mmの肉厚な作りはバツグンの熱制御性能を発揮し、食材の旨みを引き出してくれます。直径や深さ、形状が異なる10種類がラインアップ。
サイズは約25.5(外径)×8(深さ)cmで、重量は約5.25kg
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深型構造なので、大きめの食材を使ったり、たっぷりのスープ料理を作ったりと、メニューの幅が広がること間違いなし! 脚がないうえにIHにも対応しているので、家庭用コンロでも使用可能。8、10、12インチの3サイズが用意されています。
サイズ(8インチ/10インチ/12インチ)は約20.7(外径)×10(高さ)cm/約26(外径)×13.5(高さ)cm /約32.5(外径)×16.5(高さ)cmで、重量(8インチ/10インチ/12インチ)は約3.7kg /約5.5kg /約11kg
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“薫製”を作るためのスタンドネットが付属しており、スモーカーにもなる小型ダッチオーブン。スタンドネットやフタの向きを変えるだけで、簡単に熱薫や温薫を作り分けできます。
(※本製品は香りにこだわったスモーカーなため、「薫製」と呼んでいます)
サイズは約33.5(幅)×12(奥行)×12(高さ)cmで、重量は約5.4kg
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中華鍋や業務用フライパンなどに採用されている酸化被膜(通称「黒皮」)でおおわれた鉄板を採用。全体がムラなく加熱され、油のなじみもいいのでダッチオーブンになっても、最高のパフォーマンスを発揮してくれます。また、洗剤も使用でき、洗ったあとは乾かして油を塗るだけと、鋳鉄製ほどメンテナンスに手間がかからないのも魅力。
2本がクロスするように装着されているツルは、持ち運びや吊るして調理する際にも安定性がバツグン。脚がないタイプで、IHにも対応しています。また、洗浄の際、金タワシで洗うことも可能。
サイズ(8インチ/10インチ/12インチ)は約20.5(直径)×9.5(高さ)cm/約26(直径)×11(高さ)cm /約30.5(直径)×13(高さ)cmで、重量(8インチ/10インチ/12インチ)は約4.2kg /約5.8kg /約8.8kg
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衝撃に強いステンレス製は錆びにくいため、残った料理をそのままひと晩入れておいても問題なし! 油を使ったメンテナンスも行わなくていいので、白米を炊いたり汁物を作っても油が浮かず、家庭用の鍋と同じような感覚で扱えます。
フタにある十字型のハンドルは、フタを取り外すためだけでなく、ダッチオーブンを重ねる際には脚代わりになります。つまり、フタに熱した炭を並べたダッチオーブンの上に、もうひとつダッチオーブンを載せて調理することも可能というわけ! IHクッキングヒーターにも対応しているので、汎用性もバツグンです。
サイズ(8インチ/10インチ/12インチ)は約31(幅)×22.6(奥行)×12.5(高さ)cm/約36.5(幅)×28(奥行)×16(高さ)cm /約41.5(幅)×32.6(奥行)×16.5(高さ)cmで、重量(8インチ/10インチ/12インチ)は約3.5kg /約4.9kg /約6.9kg
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上で紹介した「ステンレスダッチオーブン」よりも浅型のモデルが欲しいなら、「10インチハーフ」を選ぶといいでしょう。かさのない料理に適するほか、卓上で鍋をする際にも役立つはず。なお、フタは裏返さず、そのままの状態でフライパンのように使用できます。
サイズは約36.5(幅)×33(奥行)×10.5(高さ)cmで、重量は約5kg
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深型と浅型のどちらも使いたいという欲ばりな方に、本製品はうってつけ。なんと、フタを反転させることで深型としても浅型としても使えるワザありモデルです。もちろん、フタはフライパン代わりに使うことも可能。
サイズは約32(幅)×27.5(奥行)×12.4(高さ)cmで、重量は約5.3kg
アウトドア雑誌の副編集長職を経てフリーランスとして独立。以降、アウトドアをはじめ、グッズ、クルマ、旅行などレジャー関連を中心に執筆している。