デジタル放送時代にコンテンツの著作権保護を目的として導入されたシステム「CAS」。現在身近なのはHD放送に採用される「B-CAS」だが、最近は4K/8K時代に向けた「新CAS」が話題に上がることも多い。そこで今回は、「CAS」の基本と周辺情報を整理して解説する。
自宅のテレビやレコーダーに挿入されている「B-CASカード」。でも、「CAS」って、そもそもどういうもの?
CASとは、“Conditional Access Systems”の頭字語を取った名称。日本語では「限定受信機能」と訳されている。意味合いとしては、有料放送で視聴料を支払うなど、「放送サービスにおいて条件を満たす場合のみ視聴できる」ことを実現するシステムの概念だ。送出側の環境と受信側の環境が、同じルールや規格、システムに沿うことで実現する。
具体的に適用される技術やルールは固定されていない。現在の地上/BS/110°CSデジタルによるHD放送には「B-CAS」が採用され、次いでやってくる4K/8K放送ではセキュリティをより強固にする新しいCASシステムを採用する方向で検討が進められている。
CASを理解するには、まず現在身近な「B-CAS」を知るのが近道だ。
「B-CAS」は、ビーエス・コンディショナルアクセスシステムズ社(B-CAS社)が提供する限定受信方式。BS/CS衛星デジタル放送と共に運用が開始され、その後、地上デジタル放送にも適用された。テレビやレコーダーなどの放送受信機器にはB-CASカードが必須で、カード内には固有のID番号と暗号鍵が格納されている。このB-CASカードをテレビやレコーダーなどの機器に正しく挿入すると、テレビ放送の視聴や録画が可能になる。
地上デジタル放送は無料で視聴できるが、放送番組には著作権保護のための暗号がかけられており、B-CASカードにはそれを解除する鍵が収納されている仕組みだ。また、B-CASシステムは放送番組の録画およびコピー制限ルールにも利用されている(→くわしくは当連載の過去記事「デジタル時代のコンテンツ著作権保護「DRM」とは?」を参照)。
デジタルHD放送においては、テレビやレコーダーなどの放送受信機器に必ずB-CASカードスロットが付いていて、B-CASカードを挿入することでデジタル放送を受信できるようになっている
B-CASカードの裏面。ビーエス・コンディショナルアクセスシステムズ社(B-CAS社)が提供するものであることが明記されている
デジタル放送サービスにおいてB-CASシステムが導入された主な狙いは、有料番組の視聴可否判定を行うことのほか、NHKが受信料の徴収を目的に番号登録をうながすメッセージを表示させること、日本国外からの視聴を困難にすることなどがあげられる。ちなみに、地上デジタル放送専用に青色のB-CASカード、デジタルケーブルテレビ専用にC-CASカードなども発行されている。
なお、地上デジタル放送に限っては、B-CASのほかにソフトウェアベースのコンテンツ権利保護技術「地上RMP方式」が適用されることも補足しておこう。地上RMP方式は、スマートフォンやカーナビなどで採用されている。特にスマホなどのモバイル端末は、サイズ的にB-CASカードを挿入するのが難しいわけだが、地上RMP方式に対応した機種であれば、B-CASカードがなくてもフルセグ(携帯端末用のワンセグ放送ではなく、主に家庭用テレビ受像機用の高画質な標準放送)の視聴が行えるようになっている。
B-CASシステムはすでにハッキングされていて、B-CASカードを改ざんすることで、有料放送も無制限に視聴することが可能な状態になっている。現在では法律により、B-CASカードを改ざんするための情報やソフトウェアを公開したり、こうした保護技術を回避して視聴することが禁じられているが、こういう状態になってしまっては今後の新しい放送に同システムを適用するのは心もとない。
そこで、2018年に開始が予定されている4K/8K実用放送では、新しいCAS方式を採用する方向で話が進んでいる。その方式のひとつで有力なのが、一般社団法人新CAS協議会(公式サイトはこちら)による「ACAS」だ。
2018年にスタート予定の4K/8K放送で採用が見込まれる新CASはどんな方式?
一般社団法人新CAS協議会は2015年10月に、NHK、スカパーJSAT、スター・チャンネル、WOWOWの4社によって設立された。ACASは、高度な暗号化技術を採用し、セキュリティ性を強化したICチップとして機器に搭載する仕組みであることが発表されていて、CAS協議会では放送事業者や受信機器メーカーに採用を呼びかけている。ほかに有力な方式は見あたらないこともあり、4K/8K時代はACASチップが採用される可能性が高い。
ちなみにACASチップは、B-CASカードの機能も含んでいるので、ACASが標準的システムとして採用されたあかつきには、テレビやレコーダーからB-CASスロットやB-CASカードは廃止されそうだ。
4K/8K実用放送は、衛星放送をメインにケーブルテレビ(CATV)での伝送も検討されているが、視聴に必要な設備や機材の新調が必要になるため、視聴者への負担は少なくない。ACAS の場合、ICチップをテレビやレコーダーなどに搭載する必要があるため、機器のコストアップも懸念されている。さらに、4K/8K放送は著作権者の希望で録画不可となる動きも報道されており、そうなってしまうと一般視聴者側の希望とはかけ離れたものになる可能性がある。
スマホ、タブレット、テレビやモニターで手軽かつ見たい時に楽しめる動画配信コンテンツがクオリティアップしている今、4K/8K放送をビジネスとして成立させるには、CASに関して技術と運用の両面でエンドユーザーの意見も採り入れつつ、慎重な論議が必要だ。
オーディオ・ビジュアル評論家として活躍する傍ら、スマート家電グランプリ(KGP)審査員、家電製品総合アドバイザーの肩書きを持ち、家電の賢い選び方&使いこなし術を発信中。