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普及価格帯の薄型テレビでも大きなHDR効果を得られる新規格

2018年に急速な拡大が見込まれるHDRの最新拡張規格「HDR10+」とは?

米国・ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2018」では近年、映像系の最新トレンドとして4Kの次を担う高画質化技術「HDR(ハイダイナミックレンジ)」が大きな主役となっており、今年はその流れがさらに加速していた。

なかでも注目の新規格が20世紀フォックス、パナソニック、サムスンの3社が推進する「HDR10+」(新たにプラス”+”が付いていることに注目だ)。すでに昨年9月の「IFA 2017」で発表されていたが、Amazon、ワーナー・ブラザースらのパートナーも新たに加わり、パナソニックからも対応製品が発表され、ついに本格始動する。

HDR関連の規格では、Ultra HD Blu-rayや映像配信で採用されている「HDR10」が業界タンダードとなっており、「HDR10+」はその拡張版にあたるものだ。既存の「HDR10」との違いや、「HDR10+」ならではの特徴などをさっそく解説していこう。

パナソニックのプレスカンファレンスで発表された「HDR10+」

パナソニックのプレスカンファレンスで発表された「HDR10+」

「HDR10+」のロゴマークも新たに発表された

「HDR10+」のロゴマークも新たに発表された

既存の「HDR10」が抱える大きな課題

なぜ、HDRに新規格「HDR10+」が登場したのだろうか。

現在のHDRの業界スタンダードである「HDR10」は、最大10,000nitsの輝度情報を扱っている。コンシューマー向けの薄型テレビでコンテンツ制作者の意図した映像を再現しようとするなら、薄型テレビの実際の表示性能でピーク1,000nits以上の実力を持つことが理想とされている。しかし、現在主流となっている普及価格帯の薄型テレビでは、コストや消費電力の兼ね合いから、実際の表示性能ピークが500nits前後に留まっているのだ。

もちろん、入門クラスやミドルクラスの薄型テレビでも、「HDR10」の映像信号を入力すれば、性能なりにHDRの表示は可能だ。だが、問題はエントリーからミドルクラスの500nits程度の薄型テレビでHDRを表示すると、本来の輝度の”不足分以上に”画面が暗く見えてしまうことだった。

現在視聴できる「HDR10」はNetflixやAmazon等の映像配信、Ultra HD Blu-rayでの作品を視聴できるが、映像信号にはアクション映画の閃光や、太陽光を映したシーン等で瞬間的に4,000nits程度の輝度信号が含まれる。これにともない「HDR10」の映像信号に含まれるコンテンツ最大輝度 (MaxCLL)の静的メタデータには4.000nitsが入力され、薄型テレビ側で常に最大4.000nitsまでの信号入力に備えることになる。

映像作品のほとんどを占めるのは350-500nitsの信号だが、4.000nitsという最大輝度側の白飛びを避ける余裕を持たせるために、350-500nitsの信号も輝度を一段押さえて表示する。これが本来の輝度の”不足分以上に”画面が暗く見える原因だった。

輝度情報を”ダイナミックメタデータ”として扱うことで、ピーク輝度の低い薄型テレビでも高画質化を実現

こういった「HDR10」の課題をクリアするために新たに規格化されたのがHDRの新規格となる「HDR10+」だ。最大の特徴は、新たに”ダイナミックメタデータ”として映像のシーン単位で最大輝度情報を付与しているということ。

先の例では、最大500nitsのシーンでは最大500nitsまでと予め薄型テレビ側に伝達するで、テレビ本来の500nitsを使い切る形で映像を表示できる。結果として、ピーク輝度性能の低い「HDR10」対応の薄型テレビで抱えていた本来の輝度の”不足分以上に”画面が暗く見えることを回避できる訳だ。

パナソニックは20世紀FOXの作品で「HDR10+」のテクニカルデモを披露

パナソニックは20世紀FOXの作品で「HDR10+」のテクニカルデモを披露

HDRの最新フォーマットとして語られがちな「HDR10+」だが、「HDR10」からの差分は最大輝度情報を始めとした映像の統計情報を予め伝える”ダイナミックメタデータ”のみで、映像ストリーム自体は「HDR10」とまったく同じものとなっている。実際、「HDR10+」として作られた映像信号も「HDR10」との完全な後方互換があるため現行機種もそのまま利用可能となっている。

さらに、「HDR10+」となっても会員企業の年会費のみので、機器に対してはライセンスフリーで提供される。「HDR10+」と同じ”ダイナミックメタデータ”というアプローチを採用するHDR規格としては、すでに「Dolby Vision」が実用化されているが、こちらはライセンス料が発生する。「HDR10」との完全な後方互換を維持しつつ、ライセンスフリーで利用できるという点で「Dolby Vision」よりも敷居はかなり低い。

液晶テレビによる「HDR10+」対応(左)と非対応(右)の比較デモ

液晶テレビによる「HDR10+」対応(左)と非対応(右)の比較デモ

今後、急速な普及が見込まれる「HDR10+」

「CES 2018」では、「HDR10+」を推進するパートナー各社からの発表も多数あった。

ハードウェア方面では、「HDR10+」の立ち上げに携わったパナソニックから2018年に投入する薄型テレビとUltra HD Blu-rayプレーヤーで「HDR10+」へ対応することが発表された。

パナソニックの有機ELテレビ2018年モデルも「HDR10+」に対応する

パナソニックの有機ELテレビ2018年モデルも「HDR10+」に対応する

コンテンツ方面でもいくつか発表があり、新たにパートナー企業となったAmazonからは、「プライム・ビデオ」での「HDR10+」対応が発表された。すでに北米では「HDR10+」の採用が完了しており、今後は全オリジナル作品と購入した全HDR作品に「HDR10+」の展開を進め、グローバルで提供してく予定だという。

20世紀FOXは、「HDR10+」のライセンス開始後、全HDRコンテンツを「HDR10+」に対応すると発表。ワーナー・ブラザースも、2018年以降と過去(75本以上)の全HDRコンテンツで「HDR10+」へ対応すると発表し、ハードウェア・コンテンツの両面で「HDR10+」の急速な普及が見込まれる。

ディスクメディアへの対応も、Ultra HD Blu-rayで最新の技術仕様v3.2に「HDR10+」が盛り込まれ、制作ツールもテスト中。HDMIによる伝送はHDMI 2.0で対応可能と、こちらも対応タイトル登場まで秒読み段階に入った。

パナソニックからは、欧州向けに「HDR10+」対応のUltra HD Blu-rayプレーヤーも登場予定だ

パナソニックからは、欧州向けに「HDR10+」対応のUltra HD Blu-rayプレーヤーも登場予定だ

一見するとHDRを巡る新規格と思われがちな「HDR10+」だが、その内容はまさしく「HDR10」の発展系。2018年はパナソニックの2018年薄型テレビが発売、そしてAmazonの「プライム・ビデオ」によるグローバル展開がスタートすれば、日本でも普及する可能性大だ。

折原一也

折原一也

PC系版元の編集職を経て2004年に独立。モノ雑誌やオーディオ・ビジュアルの専門誌をメインフィールドとし、4K・HDRのビジュアルとハイレゾ・ヘッドフォンのオーディオ全般を手がける。2009年より音元出版主催のVGP(ビジュアルグランプリ)審査員。

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