今や、高画質テレビと言えば「有機EL」(OLED)の時代。LG、ソニー、パナソニック、東芝といった大手メーカーの上位モデルは、いずれも有機ELパネルを採用していて、ユーザーからの支持も厚い。
しかし現在、有機ELパネルの供給元はLGグループのLGディスプレイ1社に限られる状況だ。各テレビメーカーは、独自のパネルコントロール技術や画作りのノウハウで製品のクオリティを競っている。とはいえ、各社とも技術力は高く、決定的な大差が生まれがたいのも事実としてある。
有機ELテレビは今買うべきか、もう少し待つべきか。悩んでいる人も少なくないだろう
こうした状況下で大きなニュースと言えるのが、JOLED(ジェイオーレッド)の本格始動だ。JOLEDは、2015年にソニーとパナソニックの有機ELディスプレイ開発部門を統合し、本命と考えられてきた「印刷方式」による有機ELパネルの量産化と事業化を加速させるために発足した会社である。
同社は2017年末より、その「印刷方式」による21.6型の4K有機ELパネルを出荷開始した。そして2018年には、同パネルを搭載した製品が登場する見込み。いまだ本格的な量産には至っていないが、大きな前進と言え、各方面から注目が集まっている。
今回は、この「印刷方式」の解説を中心に、次世代高画質テレビの要と言える有機ELパネルの各種方式と、それぞれの特徴を解説する。
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まず、有機ELとは、「有機エレクトロ・ルミネッセンス」(Organic Electro-Luminescence)の略で、特定の有機化合物に電圧をかけると発光する “現象”のことを指す。くわしくは価格.comマガジンの過去記事「話題の次世代ディスプレイ「有機EL」って何?」を参照されたい。
有機ELを発光させる構造イメージ。有機発光層をプラス電極とマイナス電極でサンドイッチして、正孔と電子を注入する。正孔と電子が結合して有機発光層が高エネルギー状態になった後、それが元の低エネルギー状態に戻るときに発光する
この発光の仕組みを、テレビやスマホなどのディスプレイに応用するわけだが、パネル化する際にいくつかの「方式」があるのだ。
有機ELパネルの「方式」を理解する上で、「発光」に関わる方式と、「製造」に関わる方式を混同しがちなので、先に整理しておこう。
発光に関わる方式としては、一般に「RGB方式」と「カラーフィルター方式」と呼ばれる2種類がある。
「RGB方式」は、正確には「RGB独立発光方式」と言えるもの。R(赤)、 G(緑)、 B(青)のそれぞれに発光する有機EL素材を用い、同3色のサブピクセルを並べて1画素を構成する。構造上、光をさえぎるフィルター類がないので発光効率が高く、色の純度を向上させやすい。
RGB方式のイメージ。光の3原色であるRGBそれぞれに発光する有機EL素子を使用する
「カラーフィルター方式」は、白色に発光する有機EL素子とRGBのカラーフィルターを組み合わせてカラーを表現する。有機ELの発光量をRGBのサブピクセル単位で調整する仕組み。そのおかげで黒の再現性にすぐれ、暗部の色純度やコントラストが高い高画質を実現できる。
カラーフィルター方式のイメージ。白色有機ELとフィルターを使い、RGBのサブピクセルをそれぞれ独立して発光させる ※【訂正】記事初出時に使用していた「バックライト」という単語を削除いたしました。関係各位にお詫びして訂正しいたします(2024年9月20日)
ただしフィルターは、必要な成分以外を吸収するので、たとえば白色光から赤色を取り出そうとする場合、主に緑色や青色を“捨てる”ことになる。そのため、光の利用効率が低くなってしまう。さらに、色純度を高めようとすればするほど、捨てる成分を増やす必要があり、広色域化が難しい。
そして「製造」に関わる方式としては、「蒸着方式」と「印刷方式」の2種類がある。
「蒸着方式」は、有機EL素材を蒸発させ、基板表面に付着させるもの。真空状態を作り出す装置が必要で、画面サイズが大きくなるほど装置も大型化する必要があるが、ナノレベルの薄膜を比較的高速で作ることができる。
いっぽうの「印刷方式」は、インクジェットプリンターの要領で、有機EL素材を基板に印刷するもの。必要な部分に必要な量だけ印刷するので素材のムダが少なく、真空環境が不要なので、製造装置が比較的シンプルで費用も抑えられるメリットがある。過去、有機EL素材をインク化するのが難しく、実用化や製品化に時間を要した。
従来の「蒸着方式」と、JOLEDが手がける「RGB印刷方式」との違いイメージ(画像はJOLEDの公式サイトより:https://www.j-oled.com/technology/joled_tec_print/)
ここまででお気づきと思うが、技術的には「発光方式」と「製造方式」のかけ合わせは自由。その時点の技術や製造効率で、もっとも適した組み合わせが選択されることになる。
・「RGB方式」×「蒸着方式」
・「RGB方式」×「印刷方式」
・「カラーフィルター方式」×「蒸着方式」
・「カラーフィルター方式」×「印刷方式」
スマートフォンなどの小画面有機ELパネルは、「RGB方式×蒸着方式」が主流。「蒸着方式」はスマホで先行して実績があるものの、製造工程が複雑なため、テレビのような大型パネルには適用が難しい。
その昔、テレビ用としては、「カラーフィルター方式×蒸着方式」と「RGB方式×印刷方式」が有力候補と考えられた。そして、開発の前提としてどちらを選択するかが、その後の明暗を分けることになった。
LGは早期の量産化を重視し、製造工程がシンプルで大画面にも向く「カラーフィルター方式×蒸着方式」を採用し、現在に至っている。先見の明と着実な技術開発により、成功を収めたと言ってよいだろう。
「カラーフィルター×蒸着方式」を採用するLGの有機ELテレビ(2018年モデル)
パナソニックやソニーは元々、画質とコストの両面で将来性を見込み、「RGB方式×印刷方式」=「RGB印刷方式」を選択したが、量産化に時間がかかってしまった。新技術がゆえに難易度が高かったこともあるが、言い換えれば生産体制をスピーディーに確立する資金が不足していたことも背景にある。
そんな経緯を経て、産業革新機構を中核にパナソニックとソニーの有機EL技術を統合して効率化を図るJOLEDの存在が、出遅れた「RGB印刷方式」の実用化と普及に寄与するのは間違いないだろう。実際に「RGB印刷方式」による有機ELディスプレイの出荷がスタートしたことで、各方面で期待が高まっているのだ。
ようやく量産化のメドが立った「RGB印刷方式」の有機ELパネルがテレビに採用されたら、ユーザーにどのようなメリットをもたらすのだろうか? 筆者の期待も含めて今後の展望を考えてみた。
有機ELテレビといえば、55型以上の大型サイズがメインだ。これは現在の「蒸着方式」のコストを含む技術的制約によるものと思われる。いっぽうの「RGB印刷方式」は、原理的に幅広い画面サイズに対応できる。
JOLEDは、2017年末に21.6型の4Kパネルの出荷を開始したが、これは「蒸着方式」で製造が難しいサイズに狙いを定め、新しい用途と市場を創造するという戦略だろう。すでにASUSがPCモニターとして、ソニーが医療用モニターとして製品化を発表している。家庭用テレビとしても、手頃なサイズの高画質有機ELが登場すれば、高価格でも注目を集めるに違いない。
JOLEDのRGB印刷方式による有機ELパネルを採用したASUSのプロフェッショナルモニター「ProArt PQ22UC」
JOLEDでは、製造設備が整ってコスト競争力が付けば40型以上の大画面へ、高精細印刷技術が確立すれば5〜10インチサイズでタブレットやノートPC用途にも進出する計画があるというから、今後が楽しみだ。
真空設備が不要な印刷方式なら、100インチ超の大型ディスプレイも期待できる。ロール・ツ−・ロール(Role to Role)と呼ばれる、トイレットペーパーのように巻き取りながら連続で印刷する方式なら、実質、長さの制約はないので200インチクラスも不可能ではない。「印刷方式」が軌道に乗れば、家庭でも、壁一面を有機EL映像が覆うような大画面を楽しめるようになるかもしれない。
現在、家庭用のテレビといえば、32〜60型が主流。「RGB印刷方式」なら技術的には対応可能なサイズだ。「カラーフィルター方式×蒸着方式」と比べると、RGB発光により色純度が高く広色域な色再現が得られ、また、フィルターを用いないので光の利用効率が高まるため、高輝度化および高コントラスト化と低消費電力化の両立が期待できる。
当面、高価で用途が医療用や映像のプロフェッショナル用途に限定されそうだが、製造設備が整って量産化が進めば、「蒸着方式」に比べて有機EL素材のロスが少ないことや、製造がシンプルで効率的という長所が生き、低コスト化も期待できる。
有機ELのパネル構造は、バックライトや偏光板を必要とする液晶に比べても格段にシンプル。言い換えれば、いずれ液晶テレビよりも安価になる可能性を秘めている。JOLEDの「RGB印刷方式」による有機ELパネル実用化は、先述の通り、あらゆる面で将来性が期待できるため注目されている。
もちろんJOLEDの「RGB印刷方式」が躍進すれば、ほかの有機EL方式や、「マイクロLED」といった他方式の開発と切磋琢磨して、各方面でさらなる発展も期待できる。2020年のスポーツ観戦は、「RGB印刷方式」の有機ELか、それとももっと新しいデバイスか。高画質での観戦に期待が高まる。
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