オーディオビジュアル製品にとっての2018年は、ここ数年とは異なるユニークな年となっていたように思う。完成と次なる予兆、と表現すべきだろうか。いくちかの流れが終局を迎え、年末にさしかかると次なる時代の先鋒たる製品がいくつか登場してきたからだ。
たとえばAV機器でいうと、その代表といえるトピックが“OPPO DigitalのAV製品に関する企画・開発終了”だろう。BDプレーヤーで一世を風靡し、ヘッドホンやポタアンなどポータブルオーディオ機器にも手を伸ばし始めていたOPPO Digitalが、突然AV機器の新開発を終了させたのだ。特に、BDプレーヤーで絶大な人気を博していた同社がそのジャンルから撤退するということは、UHD BDの普及が進みつつあるフィジカルメディアの将来性に暗い影を落とすことにもなりかねなかった。
OPPO Digital「UDP-205」。すでに生産終了となっているが、いまだに中古市場で高値で取引されるなど、根強い人気を誇っている
しかしながら、これによって生まれた“すき間”を埋めるかのように、パイオニアとパナソニックが立て続けにUHD BDプレーヤーの新モデルを発表している。この情勢から察するに、まだしばらくはフィジカルメディアの需要と供給は(特に高画質を求める層に向けて)続きそうだが、VODサービスの普及にともない、いよいよ一番主流のコンテンツ供給手段、とはいえなくなってきそうだ。
ポストOPPO Digitalを狙ってか、パイオニアとパナソニックの2社からUHD BDプレーヤーの新モデルが久々に登場したのも記憶に新しい
当然ながら、AV機器もそれに応えるべく、その姿を様変わりさせてきている。その最たる例が、パナソニックの「おうちクラウドDIGA」だろう。もともとテレビ放送の録画がメインだった「DIGA」だが、その機能は保持しつつもVODサービスや動画共有サービス、写真の取り込み、CDリッピングなど、現在のライフスタイルにマッチした多彩なメディアサーバー機能を盛り込んできていた。そして、2018年秋に登場した新モデルでは、とうとうハーフサイズ(一般的なAV機器の半分の横幅サイズ)のモデルへと生まれ変わった。
実は、これはとても提案性のあるコンセプトだったりする。「おうちクラウドDIGA」は、立派なAV機器であることを捨てて、どんな場所にも気軽に設置できるライフスタイル家電へと進化したのだ。ビデオテープの時代から続くテレビ録画機から、さまざまな映像や音楽を楽しめるメディアサーバーへと、HDDレコーダーという製品は新しいカテゴリーの製品として次なる時代をスタートさせた、といえるだろう。
VHS時代から続いていた黒くて薄い板状の本体デザインを捨て、インテリアにマッチする白を基調にしたデザインに生まれ変わった「おうちクラウドDIGA」
また、映像面では12月にスタートしたBSの4K(と8K)放送も話題となった。これ自体はまさに次なる予兆の最たるものだが、対応テレビもレコーダーも、各社とも間に合うか間に合わないかギリギリのリリースタイミングだったし、4Kチューナーはもとよりアンテナのグレードアップも必要になるなど、さらに8K放送を録画できる機種はまたほとんど存在しないなど、幅広いユーザーにまで普及するのは大分先になりそうだ。まさに、スタートしたばかりでまだまだこれからの、来年以降の動向に期待したいジャンルといえる。
12月1日についにスタートした新4K/8K放送。視聴するには専用チューナーが必要ということもあり、12月1日の放送開始直後から、新4K/8K放送対応のチューナーを内蔵したテレビやレコーダー、単体チューナーなどの売り上げが徐々に伸びてきているそう
いっぽう、ポータブルオーディオ製品でも完成形と予兆、といえる製品がいくつも登場している。
まず、これはここ数年続いていることだが、高級製品のさらなる高価格化が挙げられる。これは各メーカーが音質をとことん追求した結果として、コストパフォーマンスよりも音質を最優先した結果として生まれてきたトレンドだが、中国/韓国メーカーの台頭などもあって、数多のブランドがひしめくようになり、現在は需要を超えるラインアップが並んでいる状況となっている。その結果として、人気のあるメーカーとそうでないメーカーが明確となってきた。これは、近年のピュアオーディオに近い傾向にも思える。ポータブルオーディオというジャンルが、成熟してきた証拠なのだろう。ポータブルオーディオ製品は、ひとつの完成形、ひとつの区切りのようなものを迎えようとしている。
写真の「M0」は、中国・深センに本社を構えるSHANLING(シャンリン)が手がける超小型のハイレゾ対応DAP。1万円ちょっとで買えるモデルながら、非常に多機能なモデルとして注目されている
とはいえ、身近な音楽リスニング手段であり、大切に扱ってメインテナンスを続ければ20年30年とひとつの製品を使い続けられるピュアオーディオとは製品特性も耐用年数も異なるため、こういった傾向ばかり目に付くのはどうかと思っている。リファレンスとしてずっと使い続ける1台は欲しいが、手軽に楽しめる価格帯であることも、ポータブルオーディオのジャンルでは重要だと思う。初心に戻って、といういい方をすると語弊があるかもしれないが、せめて10年前の値段感覚を忘れず、新たなるヘッドホン好き、イヤホン好きを増やしていこうとする気持ちや行動は忘れないで欲しい。
そういった視点で考えると、日本メーカーの多くは先々をしっかりと見据えているような気がしている。ソニーはスマートフォン全盛時代のいまも変わらず低価格なウォークマンAシリーズをリリースし続けてくれているし、オーディオテクニカの「CK350」シリーズやfinal「E1000」など、中高生や女性でも気軽に買える価格のイヤホンをリリースしてくれている(もちろん音質的に良質なのが大前提だ)。また、海外ブランドでもスカルキャンディ「Riff Wireless」など、手軽に良質なサウンドを手にすることができる製品も存在している。こういった、音楽リスニングの楽しさ幅広い層にアピールできる製品はとても重要なので、こういったカジュアル路線もしっかり注力してくれることを各メーカーには期待したい。
ウォークマン「A50」シリーズ。ハイレゾ対応ウォークマンの入門モデルとして展開されているAシリーズの最新世代で、音質や機能面にさらに磨きをかけてきた
さて、少し遠回りしたが、ポータブルオーディオ製品で新たなる“予兆”といえば、やはり「TWS Plus(TrueWireless Stereo Plus)」だろう。これは、「QCC3026」などの最新Bluetoothチップと最新スマートフォンに搭載されているモバイルSoC「Snapdragon 845」とを組み合わせることで実現できるものだが、これによって格段に接続性がよくなり、バッテリー持続時間も大きく向上することができるという。まだまだ「TWS Plus」をしっかりとテストできる環境が入手できない状況のため(対応しているという噂を聞いていろいろ試してみたがハッキリとした裏付けが取れなかった)、実際のところはどういったメリットが生み出されるが確認できない。
クアルコムが開発した完全ワイヤレスイヤホン向けの新技術「TrueWireless Stereo Plus」。この技術をサポートしたBluetoothチップを搭載する製品が徐々に出始めている
とはいえ、「QCC3026」を採用する完全ワイヤレスイヤホンからは、そういったメリットの片鱗がうかがえる。なんと、一般的な完全ワイヤレスイヤホンが3時間程度のバッテリー持続時間であるのに対して、「QCC3026」搭載モデルは9時間10時間と、3倍近くも音楽を聴き続けることができるのだ。これは、現在の完全ワイヤレスイヤホンが左右で“親機”“子機”が固定されているためバッテリーが方減りするのに対して、「QCC3026」では“親機”“子機”を適宜入れ替えながら接続する仕組みになっていて、左右のバッテリーを最大限有効活用することができるため。さらに、音切れも格段に減っていて接続の安定性も高まっていることが分かる。
しかも、チップ内部の音声回路がクオリティアップを果たしたのか、音もいい。現在はAVIOT「TE-D01b」やNUARL「NT01AX」、Mavin「Air-X」と、販売がスタートしている「QCC3026」搭載モデルはまだまだ少数にとどまるが、今後はかなり増えてくるだろうし、来年のうちに本命の「TWS Plus」対応もスタートしてくれることだろう。来年は、いよいよ完全ワイヤレスイヤホンがBluetoothイヤホンの主流に躍り出てくるかもしれない。まだ具体的な搭載例のないaptX、aptHDコーデック対応の「QCC5100」シリーズも控えていることだし、来年のBluetoothイヤホン&ヘッドホンの動向は、大いに注目していきたい。
クアルコムの最新Bluetoothチップ「QCC3026」を搭載するAVIOT「TE-D01b」(写真左)とNUARL「NT01AX」(写真右)。現状は規模の小さなメーカーからしか搭載製品が出ていないが、年明け以降は大手メーカーの採用が進みそうだ
ヘッドホンなどのオーディオビジュアル系をメインに活躍するライター。TBSテレビ開運音楽堂にアドバイザーとして、レインボータウンFM「みケらじ!」にメインパーソナリティとしてレギュラー出演。音元出版主催のVGP(ビジュアルグランプリ)審査員も務める。