新しい世代のオーディオブランドを代表するひとつといってよいであろうSkullcandyから、同社初となる完全ワイヤレスイヤホン「Push」が登場。完全ワイヤレス市場の先陣争いにはあえて参加せずに、納得いくまで製品を作り込んで満を持しての参戦となったこのモデル、早速好評を博しているようだ。価格は税別で12,900円。
シンプルなフォルムに特徴的なカラー
スカルアイコンは目立たせずさりげない感じで入れてある
実物を手にするとたしかに「なるほどSkullcandyらしい完全ワイヤレス!」と納得。
ただ同社は2003年創業の若いブランドであり、オーディオに興味を持つ方々にもその「Skullcandyらしさ」がまだ伝わり切っていない感もある。それどころか「ファッションに振り切ったブランドでしょ?」みたいな誤解さえもされがち?
そこで今回は同社初の完全ワイヤレスイヤホン「Push」を紹介するとともに、そこに込められた「Skullcandyらしさ」にも注目。かっこいいけどかっこいいだけじゃない!その魅力をチェックしてみよう。
とはいえ実際に同社製品はルックス的な意味合いでのデザイン性にも重きが置かれていることは事実であり、そこも大きな魅力であることは否めない。というか力強く肯定できる。
Pushの場合、装着時に外から見える部分のフォルムは長方形の角を大きく落とし、その中に操作ボタンとロゴを配置しただけのシンプルな形状。このモデルに限らず同社の現行イヤホン&ヘッドホンのラインアップは、形としてはシンプルにまとめられているものが主流だ。
そのシンプルなフォルムと豊かなカラーバリエーションのおかげで同社製品は、スポーツからカジュアル、通勤時のスーツスタイルまで、さまざまなファッションに違和感なくフィットする。また形がシンプルだからこそ、そこをキャンバスとしたさまざまなカラーバリエーションがさらに映えるという面もあるだろう。
Pushはまず「Psyco Tropical」という、熱帯雨林の蝶や甲虫がまとっていそうな、見る角度によって色合いや輝きが変化するマジョーラ風のシックなグリーンカラーで登場。当面のレギュラーとしてはこの1色での展開とのことだ。
とはいえそれだけではないのがさすがで、同社が展開するカラーバリエーションキャンペーン「12 MOODS」の第1弾としてPushが選ばれ、数量限定だが、ポップなオレンジ「Tangerine」バージョンも早くも登場している。今後の展開への期待も高まる。
光が強く当たるとグリーンが強く出る
暗めの場所ではブルー寄りに輝く
「デザイン」という言葉は外観デザインだけを指すわけではない。工業製品においては機能や使いやすさのためのデザインも重要。機能や使いやすさ、外観や性能などをどれも損なわないようにまとめ上げるデザイン力が必要とされる。それらを兼ね備える「総合的なデザイン」にもすぐれていることも、Skullcandyのイヤホン&ヘッドホンのポイントだ。
Pushの場合だと例えば、耳の外に出る前述のラウンドスクウェアの部分が、装着時に横ではなく縦位置に収まるところに注目。
これはイヤホン左右の無線通信のためのアンテナの位置をなるべく耳そして頭の上の方にずらすことで、頭という障害物に邪魔されず頭上を回り込むようにして左右間の電波経路を確保するためだ。完全ワイヤレスイヤホンの課題である、左右接続の安定性を高めるためのデザインとなっている。
長方形が縦になるのが正しい装着。「FinFit」のハマり方にも注目
ぐにんとカーブしているパーツ「FinFit」もポイント
装着感に関わるところのデザインも機能的。
フィン状のパーツ「Secure FitFin イヤージェル」を耳のくぼみにはめ込むことで安定したフィットを確保。イヤホン本体で耳全体をふさぐ形ではなく、耳元にふわっとフローティング固定されているかのような印象で、装着感はとてもソフト。
もちろん、装着感はソフトだが固定力も十分だ。Skullcandyは特に動きの激しいエクストリーム系まで含めてスポーツカルチャーとの親和性も重視しているブランドであり、そこは抜かりない。
左右どちらを何回押すかによって再生と曲スキップ、音量上下、音声アシスタント呼び出し、着信応答を操作できる、操作ボタンの押しやすさについても紹介しておきたい。
まずボタン自体。そもそもボタンを大きめにしてある上に、硬すぎず軽すぎず絶妙のクリック感もあって押しやすい。
さらに全体のフォルムもポイント。ボタンを押し込む際に指先でイヤホン本体をつまむようにして支えやすい形になっている。その押し方をすれば、ボタンごとイヤホン全体を押してイヤホンを耳に押し込んでしまう、あの不快な押し心地を避けることができる。
このように親指と中指でイヤホンを挟みながらボタンを押すといい感じ
また単純なスペック面も、特にハイエンド的に突出した性能を誇るようなブランドではないが、どのモデルでもそのジャンルや価格帯での必要十分な性能はしっかり確保してくる。
Pushの場合だと例えばバッテリー周りは、イヤホン単体での連続駆動が6時間で、ケースからの充電を合わせると12時間。長い方ではないが、通勤通学等の途中で切れてしまうことはないだろう。
ケースの充電端子はUSB Type-Cとなっており、充電ケーブルを最新スマホと共有できる。
特段に強力ではないが普段使いには十分なレベルのウォータープルーフもさらっと確保。
ブランドロゴのスカルが入ったショートケーブルが付属
ケース内でイヤホン本体はマグネット固定される
付属イヤーチップが小さめで一般的なLサイズに相当するものがない点は要注意
Skullcandyのイヤホン&ヘッドホンのサウンドは、ハイエンド的に端正に整えられたものではないが、派手に演出されたカジュアルすぎるものでもない。
マニアックなイヤホン&ヘッドホンファンが興味半分みたいな感じで聴いたら、「意外と普通にいい音!」という印象を受けるかもしれない。そして例えば高校生や大学生が初めてのちょっといいイヤホンやヘッドホンとしてSkullcandyを購入してその音を聴いたならそれこそ普通に、「やっぱりいいイヤホンはいい音だ!」と感動するだろう。
オーディオ的にシビアな再現性を追求はしすぎず、しかし再現性を無視して低音や高音を派手に打ち出しすぎることもなく、気張らずに音楽を楽しめる「ちょうどいい感じ」のサウンドに落とし込まれている。
Pushのサウンドもそうだ。
例えばバンドサウンドを聴くと、高音側にはシンバルの明るさやキレを少し強調するような、低音側にはベースラインの聴こえやすさやその太さを少し強調するような、音作りの演出があるにはある。しかし、シンバルの高音が耳に痛いとかボーカルよりベースが目立つとか、そういう破綻はない。そうはならないような軽いアクセントを付けるにとどめられており、全体のバランスを崩してしまうようなことはないサウンドだ。
それにこのイヤホンはアクティブなシーンでの利用、その際の安全性の確保も考慮してか、遮音性はさほど高められていない。そのため街中や電車内などでは周りの騒音もある程度耳に入ってくるのだが、そのときにこの高音と低音の少しのアクセントが音楽の聴こえやすさをサポートしてくれる。
そして逆にだが、もしもこのイヤホンがオーディオ的にシビアな正確性を重視した音作りだったとしても、その音の強みは街中では騒音に負けて生かされないことだろう。
そういうことにはせず、実際のユーザー層や利用シーンに即した音作りを施してあるのがこのPushであり、Skullcandyのイヤホン&ヘッドホンなのだ。
音だけでもルックスだけでもないバランス感覚というのが、このPushというイヤホン、そしてSkullcandyというブランドのポイントだ。
Skullcandyはたしかに、これまでのオーディオブランドのように音の良さを第一に追求するブランドではないかもしれない。
しかし音だけに偏らないからこそ、音だけではなく外観も使い心地もすべてをトータルで考えてのユーザーのライフスタイルに向けた最適解への落とし込み、そのバランス感に長けるブランドだ。
この春に完全ワイヤレスデビューを狙う方であれば、Pushはその候補のひとつに入れておいて損はないだろう。完全ワイヤレスはまだお好みないなら、Skullcandyは一般的なワイヤレスのイヤホンやヘッドホンのラインアップも豊富なので、そちらをチョイスするのもアリだ