薄型テレビやプロジェクターという映像機器を選ぶ上で、“ゲームプレイに最適な機種を選びたい”という声は常にあった。近年はeスポーツのメジャー化によって、市民権を得たと言ってもいいかもしれない。そこで今回は、“ゲームプレイに最適な機種”という視点から薄型テレビやモニター、プロジェクターの選び方を紹介していこう。
まず考えておきたいのが、薄型テレビやプロジェクターでプレイするゲームによって、ゲームプレイ向けに求められる性能に関していくつかのポイントがあることだ。
ひとつ目のポイントが、「PlayStation 4 Pro」や「Xbox One X」、そしてPCゲームにも拡大している“4K/HDR”への対応だ。プレイするゲームもRPGや、アクションであっても対戦要素のないゲームなど、ゲームの勝敗に直接関係するようなシビアな性能というより、ゲームタイトルの採用している最高フォーマットでゲームの臨場感を高めてプレイしたいというエンジョイ派に向けた性能だ。
家庭用ゲーム機でもHDRの映像表現が拡大している(PlayStation 4 Pro公式サイトより)
ふたつ目のポイントがバトルロワイヤル系タイトルや、特に日本国内のファン層の厚い対戦格闘ゲームといったeスポーツ志向のゲーマー向けの選び方。求められる性能は、ゲームを遅延なく快適にプレイできて、対戦で不利にならない性能。“低遅延”や“応答速度”といったキーワードがよくあがる。
そして最後のポイントが、年末には発売されると見られている「PlayStation 5」や「Xbox Series X」といった次世代ゲーム機への対応。こちらは“8K”や“4K/120Hz”などがキーワードになる。
2020年ホリデーシーズンに発売が予定されている次世代ゲーム機。こちらへの対応もホットな話題だ
以上の3つのポイントに対して、選び方のポイントと注目機種を紹介していこう。
選び方のひとつ目は、PS4 ProやXbox One Xなどで“4K/HDR”による映像技術への対応を求める場合。薄型テレビの4K/HDR対応は2015年頃から対応がスタートしていて、2020年の現時点では薄型テレビでは4Kテレビを選べば大手メーカーならすべて対応する。ちなみに、フルHDの機種では基本的に非対応なので注意してほしい。
現行の4Kテレビならほぼどの機種でも大丈夫と呼べるのだが、ゲーミング向けとして選ぶなら、「ゲームモード」を搭載する機種は選びたいところ。「ゲームモード」ではノイズリダクション等を簡略化し、ある程度のレスポンス改善の効果がある。価格.comでは「ゲームモード搭載」というスペックで絞り込みも可能だ。もっとも、そこを見ても2020年時点の薄型テレビでは、現在はソニー、パナソニック、東芝映像ソリューション、シャープ、LGエレクトロニクス、ハイセンスと主要メーカーが「ゲームモード」やそれに類する設定を用意。「ゲームモード搭載」というだけでは決定的に選びにくいので、次の章で解説しているポイントと合わせてチェックするのがいいだろう。
価格.comではゲームモードを条件に絞り込みも可能だ
ちなみに、PCモニターも同様に4K/HDR入力対応が製品選びの基準となっている。PCモニターの世界は4K/HDRの信号対応というだけでなく、「DisplayHDR」という性能基準を設けることによって、HDR信号を受けるだけでなく、実際に表示できるHDR性能の認定も行われているところが薄型テレビ以上にわかりやすい。
PCモニターでは「HDR」や「DisplayHDR」といったスペックで絞り込むと探しやすい
プロジェクターでも、4K/HDR信号入力については、4K対応の現行の機種はほぼ対応、フルHD以下の機種では非対応という形だ。例外があるとすれば、BenQのゲーミングプロジェクター「TH685」だ。こちら信号入力は4K/HDRで受けつつ、表示デバイスはフルHDにダウンコンバートする仕様。4K/HDR対応のプロジェクターには手が出ないけど、HDRの映像美を堪能できるという割り切り方はユニークだ。
BenQのゲーミングプロジェクター「TH685」は4K/HDR信号を入力してフルHD/HDRで表示
選び方のふたつ目のケースとしてあげるのは、eスポーツ志向のゲーマーが絶対的に求める要素、ゲームを快適にプレイでき、対戦で不利にならない“低遅延”と“応答速度”だ。ゲーム向け映像機器を探す人でも、本当に欲しいのはコッチという人も多いのだが、メーカーが情報公開に消極的で、選び方としても最難関だ。
キーワードとしてよくあがる“低遅延”と”応答速度”。よく混同して語られがちだが、この2つは別の要素だ。
“遅延”というのはゲーム機の映像をHDMI端子を通してテレビに映像信号を入力してから画質エンジンを経由してパネルに入力されるまでの時間。これはテレビとしての性能で、4K/HDR信号で概ね30ms前後だ。なお、遅延は基本的にシンプルな機種ほど少なく、意外かもしれないか、120Hz駆動(倍速パネル)では、60Hzパネルより遅延が大きくなる。また有機ELも液晶より大きくなる。
“応答速度”は、パネルに入力してから映像の表示までにかかる時間で、これはテレビではなくパネル自体の性能。液晶パネルは種類によるが(TN方式が実は高速、IPS方式は方式としては遅いが高速IPSパネルも登場している)約1〜8ms程度。有機ELパネルは応答速度はμs単位と超高速だ。
では、“低遅延”“応答速度”を重視して薄型テレビを選ぶにはどうすればいいのか。実はここが大問題で、多くのテレビメーカーはどちらのスペックもほぼ非公開。有志の間では実際に表示測定をする人たちもいるので、たとえばRTINGS.comといった海外サイトでは独自に遅延を計測していので覗いてみてほしい。
それを踏まえた上での選び方は……日本で普通に購入するならテレビメーカー自らが“低遅延に取り組んでいる”と宣伝している製品を選ぶのが正解だろう。東芝映像ソリューショやハイセンスなんかはゲーム遅延の数字まで公開している。なお、パネルの“応答速度”はテレビメーカーがどこも公開してないので、ここばかりはメーカーを信じるしかない。
東芝映像ソリューションの「REGZA M540X」。「瞬速ゲームモード」では4K/60p入力で0.83msの超低遅延を実現
有機ELの機種では「REGZA X9400」が「有機EL瞬速ゲームモード」を搭載。ただし遅延速度は約9.2msecと液晶の方が上だ
ハイセンスの「U7F」。こちらも「ゲームモード」で最小遅延0.83msと性能を公開している
PCモニターは基本的に高画質エンジンの処理がシンプルなため、ゲーミング仕様の機種以外でも遅延10ms以下が多い。ゲーミング用の機種なら遅延5ms以下というものあり、薄型テレビと比べると有利だ。また、モニターという製品特性からかパネルの応答速度が公開されている製品も多い。32V型以下でテレビ機能が不要なら、素直にPC用のゲーミングモニター選ぶのがいいだろう。
LGエレクトロニクスの27V型ゲーミングモニター「27GN950-B」。IPSパネルで応答速度1msのゲーミング仕様だが遅延速度は非公開
最後のポイントとしてあげるのは、次世代ゲーム機への対応。PlayStation 5の発売が年末に予定されている今、PS5レディの仕様も気になる人も多いはずだ。PlayStation 5では、CPUにRyzen Zen 2アーキテクチャーを採用し、8K解像度やレイトレーシングなどの映像強化が発表されている。機器選びとして押さえておきたいのは、その映像出力を出力する方式とフォーマット。PlayStation 5では、従来通りHDMI端子を用いつつも、HDMI 2.1規格による“4K/120Hz”、“8K”、“VRR”(可変リフレッシュレート)の採用が発表されている。
“4K/120Hz”や“8K”、“VRR”と映像フォーマットも最新形式となるPlayStation 5
実はこれがかなりの難題。PlayStation 5の採用する映像フォーマットは2017年に発表されたHDMI 2.1規格に含まれているが、実際の対応はまだ始まったばかり。“4K/120Hz””VRR”対応は、薄型テレビ等で実際に運用された前例はない。そんな状況の中、4Kテレビで“4K/120Hz”“VRR”対応までハッキリと打ち出すメーカーは、現時点ではLGエレクトロニクスの1社のみだ。
LGエレクトロニクスの4K液晶テレビ「55NANO91JNA」はホームページで“4K/120Hz”と“VRR”への対応を明記
“8K”にいたっては、現時点では8K信号を受けて処理できるエンジンは8Kパネルを搭載する機種にしか搭載されていない。となると8Kテレビが必須であり、シャープ、ソニー、LGエレクトロニクスの3社に絞られる。
シャープの8K液晶テレビ「8T-C60CX1」は“8K”も入力でき、“4K/120Hz”にも対応と、現実的に購入しやすい選択肢だ
LGエレクトロニクスの65V型8K液晶テレビ「65NANO99JNA」。“8K”入力対応で、“4K/120Hz”や“VRR”にも対応と今回紹介した全要素が揃う
こうして条件を並べてみると、“4K/120Hz”、“8K”、“VRR”は現在発売されているテレビではほとんどが非対応だ。これらの新映像フォーマットがPlayStation 5発売後どれだけ活用されるか次第で対応モデルが増える可能性はあるが、大多数の人が現在のメジャーな基準である4K/HDR 60Hzでプレイする以上、必須になる可能性は低い。ただ、PlayStation 5の登場で、今後ゲーミング向け映像機器の基準として採用されていく流れになることは確実なのは間違いない。PlayStation 5のフルスペックを堪能するなら、こういったスペックを満たすモデルから選ぶということをあらかじめ頭に入れておこう。
PC系版元の編集職を経て2004年に独立。モノ雑誌やオーディオ・ビジュアルの専門誌をメインフィールドとし、4K・HDRのビジュアルとハイレゾ・ヘッドフォンのオーディオ全般を手がける。2009年より音元出版主催のVGP(ビジュアルグランプリ)審査員。