音楽リスニングの定番となった定額聴き放題のサブスク。そんな定額音楽配信サービスの中でも最近、高音質化と3Dオーディオ対応といった高機能化がテーマとして急浮上している。
なかでも7500万曲以上を配信しているアップルの「Apple Music」が6月より「ロスレスオーディオ」とドルビーアトモスによる「空間オーディオ」への対応が始まったことで、定番中の定番サービスが高機能のトップ争いに復帰したのだ(ちなみに、高機能のライバルはハイレゾ配信と3Dオーディオを手がけるAmazon Music)。なお、Apple Musicの月額料金は個人月額980円、学生480円、ファミリー1,480円で「ロスレスオーディオ」「空間オーディオ」は、追加料金なしで全ユーザーが楽しめるようになっている。
iPhoneユーザーの定額音楽配信の定番中の定番「Apple Music」
そんなApple Musicの「ロスレスオーディオ」と「空間オーディオ」をスマホで体験する方法を解説しよう。
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まずは「ロスレスオーディオ」について。Apple Musicで提供される「ロスレスオーディオ」とは、ALAC(Apple Lossless Audio Codec)フォーマットの48kHz/24bitで配信される。従来のAAC形式は劣化のある形式だったのに対して、「ロスレスオーディオ」は48kHz/24bitを中心に無劣化の約1.4Mbpsというビットレートとなっている。カタログ全体としてはCDと同じ44.1kHz/16bit、ハイレゾに定義される192kHz/24bit音声も含まれる。
iPhoneで「ロスレスオーディオ」を体験する方法についてだが、「設定」から「ミュージック」を選択、メニュー項目の「オーディオの品質」を選び、「ロスレス」(最大48kHz/24bit)、もしくは「ハイレゾロスレス」(最大192kHz/24bit)を設定するのみ。この設定はモバイルストリーミング、Wi-Fiストリーミング、ダウンロード別に設定が可能だ。
iPhoneで「ロスレスオーディオ」を体験するには、iPhoneの設定内の「ミュージック」から設定を行う
再生ハードウェアの準備は、実はとても簡単だ。
まず、最も簡単な方法は、iPhoneの内蔵スピーカーおよび別売り1,100円のアップル純正「Lightning - 3.5 mmヘッドフォンジャックアダプタ」を使うこと。「Lightning - 3.5 mmヘッドフォンジャックアダプタ」は以前iPhoneのパッケージに同梱されていたものだ。ただの内蔵スピーカーと純正変換アダプタ−なのだが、「ロスレス」(最大48kHz/24bit)に設定すると、Apple Musicのデータ処理上「ロスレスオーディオ」として動作しているのだ。
でも、その程度の環境で本当に意味があるの!? ということで、僕の「iPhone 12 Pro」で内蔵スピーカーから聴き比べてみた。楽曲はYOASOBI『夜に駆ける』をメインの試聴曲にしている。
iPhoneの内蔵スピーカーでも「ロスレスオーディオ」を再生して楽しめる
すると……「iPhone 12 Pro」の内蔵スピーカーでも「ロスレス」は効果アリ!! 一瞬でわかるくらいに音の厚みが違うし、ボーカルもクリア。低音も肉厚でリッチで躍動感ある。たかだか内蔵スピーカーと思いつつも、一度聴いてしまうと、従来音質にあたる「高音質」は物足りなくなる。
アップル純正の「Lightning - 3.5 mmヘッドフォンジャックアダプタ」も48kHz/24bit再生まで楽しめる
アップル純正「Lightning - 3.5 mmヘッドフォンジャックアダプタ」を使ってみても音質の違いは歴然。AKGのヘッドホン「K371」で聴いてみると、「ロスレス」はYOASOBI声のクリアさ、そしてコーラスなどの声の重なり方まで聴き分けられるようになる。「ロスレス」を体験してから改めて、従来音質にあたる「高音質」を聴くと、音の角が取れてる、歌声の潰れが……と甘さが気になってくる。「ロスレス」の設定をするだけなら無料でできる訳で、Wi-Fiやダウンロードではぜひ活用してみてほしい。
さて、次はもうワングレード上の「ハイレゾロスレス」を再生できる方法をご紹介しよう。
Apple Musicの設定でも、「ハイレゾロスレス」では外部ハードウェアによる再生が推奨されるように、ちょっとだけハードルが高い。
「ハイレゾロスレス」は外部DACの接続が前提だ
「ハイレゾロスレス」を体験するには、サードパーティー製のDACなどの外部機器の接続が必須で、かつ接続の際にはLightningのOTG動作可能なケーブルが必要となってくる。これをクリアするには、アップル純正の「Lightning - USBカメラアダプタ」(Lightning端子-USB type-A変換アダプター、このアダプターを経由するとUSBのOTG動作になる)経由で接続するのが確実だ。
iPhoneで「ハイレゾロスレス」を楽しむためには、「Lightning - USBカメラアダプタ」を経由してDACなどの外部機器を接続する必要がある
今回は比較的手軽な価格で購入できるSHANLING「UA2」を接続して音質を確認してみたが、外付けDACに変えるだけで音の解像感はかなり上がる。「ハイレゾロスレス」では、YOASOBIの歌声の伸びやかさ、抑揚の再現性がアップ。変換も含めると接続にひと手間かかるが、これがiPhoneで「ロスレスオーディオ」を聴くベストな手段かもしれない。
なお、最近メジャーなBluetooth接続の完全ワイヤレスイヤホンやヘッドホンで、ロスレス音声をロスレスで聴く手段は現時点ではナシ。……といっても「ロスレス」に設定しておくだけでBluetoothに伝送される前段階の再生ソースのクオリティが上がる訳で、実はしっかり音質向上効果はある。再生時のデータ容量を気にしないのであれば、オンにするだけ得する設定だったりする。
ところで僕はAndroidスマホユーザーでもあり、今はイヤホンジャック付きの「Xperia1 II」を使っている。あまり語られることがないが、Apple MusicはAndroid版アプリも存在していて、7月より「ロスレスオーディオ」も利用することができる。
実はAndroidユーザーも使える「Apple Music」アプリ
Android版のApple Musicは、アプリ内の設定でオーディオ品質を切り替えできる
AKGのヘッドホン「K371」を「Xperia1 II」のイヤホンジャックに接続して、アプリ内で設定を切り替え(Android版Apple Musicアプリでは、アプリ内で音質を設定)で音質を聴き比べると、やはりかなり高音質化の効果がある。特に「高音質」から「ロスレス」の音質向上が劇的で、ピアノの音の生々しさがまったく別次元。「ハイレゾロスレス」ではそこから音のキメ細かさが若干増すといったところ。
「Xperia1 II」ならイヤホンジャックにヘッドホンを直挿しで楽しめる
AndroidスマホでApple Musicを聴く特権とも呼べるのが、Bluetoothによるハイレゾ伝送だ。実際にソニーのLDAC対応のワイヤレスヘッドホン「WH-1000XM3」を接続して聴いてみたが、やはり「ロスレス」以上の音質向上はとてもよく、歌声のキレや情報量、密度感がアップ。「ハイレゾロスレス」では、上がり幅こそ大きくないが音の鮮明さがさらに向上する。LDAC対応のワイヤレスヘッドホンやイヤホンを用意できるなら、Androidスマホ環境でApple Musicという活用法は、思いのほか相性がいいのだ。
LDAC対応環境を揃えれば、Bluetoothを使ったワイヤレス接続でも「ハイレゾロスレス」を楽しめる環境を作れる
このほか、Androidスマホでも外付けのUSB DAC接続でハイレゾ再生というパターンも存在するのだが……機種にもよるがイヤホンジャックやLDAC対応のBluetoothのワイヤレスで聴けるなら、こちらのほうがずっと手軽で扱いやすいだろう。
続いて、Apple Musicで提供されているドルビーアトモスによる「空間オーディオ」について解説していこう。
「空間オーディオ」とは、映像配信の「AppleTV+」でも採用されているが、音を3D空間に配置して再生するサラウンド技術。ドルビーアトモスは映画制作、映画館、そして映像配信でも使われているメジャーな形式で、Apple Musicの音楽配信にも用いられるようになった形だ。ただ、音楽の楽曲制作全体としてみると空間オーディオで制作される曲は多くはないので、あくまで一部楽曲で利用可能になった新しい音楽体験といったイメージ。設定上は「設定」の「ミュージック」を選択、メニュー項目の「ドルビーアトモス」から有効にできる。
実際にApple Musicの「空間オーディオ」を有効化し、新着としてピックアップされていたOfficial髭男dism『アポトーシス』を聴いてみた。
Official髭男dism『アポトーシス』が「空間オーディオ」で配信中
最も簡単な体験方法は、iPhone内蔵スピーカーによるリスニングだ。「iPhone 12 Pro」の内蔵スピーカーでOfficial髭男dism『アポトーシス』を聴くと、確かにスピーカーの鳴っている音がわからなくなる3Dオーディオ感があり、画面の上に音楽が浮かぶイメージ。映像作品のように正しい音の位置がわかる訳ではないが、広がり感がある。
実はiPhone内蔵スピーカーだけで「空間オーディオ」を体験できる
ワイヤレスイヤホンだと、アップルの「AirPods Pro」や「AirPods Max」、「AirPods」、Beatsの手がける一部イヤホン・ヘッドホンシリーズではドルビーアトモスを「自動」で利用できる。僕は「AirPods Pro」のユーザーなので手持ちの「AirPods Pro」でOfficial髭男dism『アポトーシス』を聴いてみたが、これはかなり有効だ。ボーカルは顔の前近くの位置から聴こえているのがわかるし、バンドの演奏、ドラムの音は後ろまで使って全方位に楽器が取り巻く。個々の音の粒立ち具合も空間オーディオとして極限まで攻めていて、これくらいメリハリを付けてくれると、新しい音楽体験としてハッキリ認識できる。
「空間オーディオ」に正式に対応するアップル「AirPods Pro」。iPhoneと組み合わせで「空間オーディオ」を簡単に楽しめる
iPhoneとの組み合わせでは、「空間オーディオ」のオン/オフ切り替えも簡単に行える
ちなみに、空間オーディオというと「AppleTV+」で対応するヘッドトラッキング対応を想像しがちだが、Apple Musicでは現時点でアップル純正イヤホン・ヘッドホンでも非対応。アップデートで秋に対応すると告知されている。
また「自動」でなく「常にオン」の設定を使うのであれば、実はヘッドホンの種類は問わない。先ほど検証用に用意したApple純正「Lightning - 3.5 mmヘッドフォンジャックアダプタ」にAKGのヘッドホン「K371」を接続して聴いてみると、楽器に囲まれるような包囲感ある音楽を体験できた。
Androidスマホでも、Apple Music「空間オーディオ」は対応可能。ただし、ドルビーアトモスとして再生するアルゴリズム部分はスマホ端末に依存するためか、ドルビーアトモス対応スマホのみ利用可能という制限が付く。
僕が検証に活用している「Xperia1 II」は、ドルビーアトモス対応Androidスマホのひとつだ。「Xperia1 II」であれば内蔵スピーカーでもドルビーアトモスで聴けるので、そのまま再生をスタートしてみると、確かにスマホのスピーカーから少し浮かび広がるような立体的な音場ができる。
Android版でも「空間オーディオ」は提供中だが、利用できるのはスマホ本体がドルビーアトモスに対応する場合のみ。対応機種は、設定にドルビーアトモスの切り替え項目が現れる
「Xperia1 II」の内蔵スピーカーで「空間オーディオ」を体験
もちろん、Bluetoothのワイヤレスヘッドホンでもドルビーアトモスを体験可能だ。ソニーの「WH-1000XM3」でOfficial髭男dism『アポトーシス』を聴いてみると、音楽が頭の周りで鳴ってる感が強烈。ボーカルは頭の上あたりだが、そこから頭部を取り巻くように楽器が展開していく。iPhoneにアップル「AirPods Pro」を組み合わせたパターンと比べると個々の音の鮮明さは出ないが、これも十分空間オーディオを体験できる。
Bluetoothイヤホン・ヘッドホンとの組み合わせでも「空間オーディオ」は楽しめる
さて、以上まとめると……iPhoneでも、Android(ドルビーアトモス対応端末)でも、どんなヘッドホンの組み合わせでもドルビーアトモスによる「空間オーディオ」は設定をオンにするのみで体験できる。体験の質はやはり最適化されているiPhone+アップル純正のAirPods Proが最もよくできていたが、「空間オーディオ」自体が正しさや厳格さよりも新しい音楽リスニング体験を楽しむ段階。気軽にオンして試して、体験してみてほしい。
PC系版元の編集職を経て2004年に独立。モノ雑誌やオーディオ・ビジュアルの専門誌をメインフィールドとし、4K・HDRのビジュアルとハイレゾ・ヘッドフォンのオーディオ全般を手がける。2009年より音元出版主催のVGP(ビジュアルグランプリ)審査員。