Beats by Dr. Dre(以下、ビーツ)が1月28日に発売した完全ワイヤレスイヤホン「Beats Fit Pro」。米国では2021年11月1日にに発売されたイヤホンだが、日本国内でも約3か月遅れで登場した。アップル直販の「Beats Fit Pro」の販売価格は24,800円だ。
1月28日に登場したビーツの最新完全ワイヤレスイヤホン「Beats Fit Pro」
最初にビーツについて紹介しておくと、2006年創業のビーツは音楽やスポーツファンに支持され米国トップブランドに上り詰めた後に、2014年にアップルが買収。現在はアップルが自社開発するチップまで搭載していて、いわばアップルの別働隊的な存在。
「Beats Fit Pro」の仕様はアップル「H1チップ」搭載で、空間オーディオとダイナミックヘッドトラッキング対応、アクティブノイズキャンセル(ANC)搭載。スペックで語ると「AirPods Pro」に似過ぎていて兄弟モデルのように思えてくるが、ちょっと珍しいところでAndroid対応もうたっている。
アップル直販価格だと、「AirPods Pro」は30,580円、「Beats Fit Pro」は24,800円だが、3月4日時点での価格.com最安価格を基準で考えると、「AirPods Pro」が26,000円、「Beats Fit Pro」は約19,818円なので差額は約6,000円。この差額分の違いがあるのかどうか、今回は「Beats Fit Pro」と「AirPods Pro」を比較しつつレビューしていこう。
「Beats Fit Pro」、「AirPods Pro」を比較レビュー
「Beats Fit Pro」がビーツらしさを主張する最初のポイントが耳への装着感だ。「Beats Fit Pro」のイヤホンを実際に装着すると、外耳の溝にウィングチップが固定されて耳からまったく動く気配がなく、装着したままスポーツをするアクティブなユーザーに強烈にアピールする。イヤホンは、フィンを含めて重量は片側約5.6gと軽めで、耐汗耐水性能(IPX4等級)も有しており、スポーツユースも当然ターゲットに入ってくる。
ウィングチップ付きの「Beats Fit Pro」
いっぽう、「AirPods Pro」はフィット感自体はやさしいが、耳の下へとアンテナ部が伸びる形になる。このアンテナ部が冬服でコートの襟を立てていると、顔をひねった時に襟に触れ落ちる可能性がある。そう考えると「Beats Fit Pro」のほうが安全だ。
「Beats Fit Pro」は耳の溝にガッチリと固定されるタイプ
「AirPods Pro」は耳にひっかるようなタイプ
イヤーピースの形状も「AirPods Pro」はノズル部が存在しない独特の形状に対して、「Beats Fit Pro」は一般的なイヤホンに近い形状と基本設計から大きく異なる。
「Beats Fit Pro」はイヤーピースの形状も一般的なタイプに近い
イヤホン本体の再生時間は「Beats Fit Pro」が6時間、充電ケース付属で合計24時間再生と「AirPods Pro」より優秀。ただし付属の充電ケースは「Beats Fit Pro」の方が大きく、ポケットに入れるなら個人的には「AirPods Pro」を選びたくなる。「Beats Fit Pro」は携帯性よりも連続再生時間を取った、という見方もできるだろう。
「Beats Fit Pro」の充電ケース。ちなみに、充電端子はLightningではなくUSB Type-Cとなっている
充電ケースのサイズは、小型化が進むイマドキの完全ワイヤレスイヤホン基準だと小型とは言い難い
実際に「Beats Fit Pro」をiPhoneと接続してみると、アップル「H1チップ」搭載機種らしく、ホーム画面に自動的にペアリング画面が表示される。これはアップル製デバイスすべてで共通していて、ペアリング情報も共有される。
ケースを開けるだけでiPhoneとのペアリング画面が現れるのは「AirPods Pro」と同じ
iOSのBluetooth画面から表示できるノイズキャンセルのオン/オフ/外音取り込み、イヤーチップの装着状態のテストは画面デザイン含めてそっくりだ。
Bluetooth画面の設定項目も「AirPods Pro」にそっくり
ちなみに、「Beats Fit Pro」の操作はタッチセンサー式ではなく“b”のマーク部分を押し込むボタン式。スポーツなどで指が汗ばんでいても操作しやすいというメリットがある。操作方法はシンプルで左右ともに1/2/3回押しで再生/停止と曲送り/戻しのコントロール、長押しでノイズキャンセル/外音取り込みの切り替えが可能だ。iOSのBluetotoh設定画面から音量コントロールをオンにすると長押しで音量を上下できるが、ノイズキャンセル/外音取り込みの切り替え操作はできなくなる。
アップルによる推奨では、「Beats Fit Pro」は“Hey Siri”のウェイクワードによる起動が可能なので、音量操作も“Hey Siri”で操作する思想のようだ。Siriは使いこなせばApple Musicの選曲も可能なので、頭に入れておくとよさそうだ。
また、「Beats Fit Pro」はAndroid対応として、専用アプリが提供されている。自動的にデバイスを検出する最新仕様で、iOSで実現している簡単ペアリングに発想は近い。機能的にはiOSの設定画面と同じで、コーデックはSBC/AACコーデックに対応する。
Androidでも近づけるだけで通知画面からペアリングが可能
ここから「Beats Fit Pro」のサウンド関連の機能を「AirPods Pro」との比較を交えつつ紹介していこう。
最初にApple Musicを音源として音楽リスニングの音質をチェックしてみたが、「Beats Fit Pro」と「AirPods Pro」のサウンドはまったく傾向が異なることがわかった。たとえば、YOASOBI『三原色』を聴くと、「Beats Fit Pro」はビーツらしい重低音のズンズンと沈み込むサウンド。全体的にパワフルでダイナミックなサウンドだが、中高域には若干クセがあり、歌声は響きがついて遠く聴こえることがある。「AirPods Pro」はもっとやさしく包み込まれるようなサウンドだが、中域の厚みは確保する。「Beats Fit Pro」「AirPods Pro」ともに音質水準としては同レベルなので、バランス違いととらえてもよさそうだ。
iPhoneと組み合わせて音質をチェック
続いてアクティブノイズキャンセル(ANC)について。「Beats Fit Pro」と「AirPods Pro」ともに、まずはエアコン音のする屋内でチェックした。どちらもなかなか強力で、ファン音をほとんど消してくれる。駅構内のガヤガヤとした場所でもチェックしてみたが、こちらもじゃまな騒音をうまく打ち消しており、なかなか優秀だ。
アクティブノイズキャンセル(ANC)は駅構内の騒音もほとんどカット
より騒音の大きな電車内でも「Beats Fit Pro」の騒音低減効果は強力で、走行中のゴーと響くような重低音もしっかりと低減。そして検証していて気づいたのが「Beats Fit Pro」は乗客の話し声のような中域に対する騒音低減効果が優秀だということ。話し声がまったく聴こえないわけではないが、相当ボリュームを抑えて快適なリスニング環境を実現してくれる。これはイヤホン構造によるパッシブ(遮音性)の差もあるだろうが、「AirPods Pro」よりも騒音低減の効果は上だ。
電車内の重低音だけでなく、乗客の話し声にも有効
続いて「Beats Fit Pro」による「空間オーディオ」も試してみた。僕自身、「AirPods Pro」ユーザーなので「空間オーディオ」の効果は体験済みだが……「Beats Fit Pro」でもダイナミックヘッドトラッキングの働く「空間オーディオ」の効果は本当にすばらしかった。音楽を再生しながら横を向くと、頭の向きに連動して音楽が再生される位置が変わる。この説明だとまったく不要な効果に思えるかもしれないが、実は真正面で音源を聴いても空間表現が極めてよくなるのだ。
Apple Musicの空間オーディオにも対応
特に空間オーディオの活用をおすすめしたいのが、Apple TV+やNetflixの映画コンテンツ。上方向、真後ろまで音が回り込む異次元のサラウンド効果を得られる。
アップルTV+などで提供されている空間オーディオ対応コンテンツも楽しめる
さて、空間オーディオの効果に対して「Beats Fit Pro」と「AirPods Pro」の違いは、改めて聴き比べてみると空間を再現する効果としては同等だ。ただイヤホンとしての元の音質差は感じられ、「Beats Fit Pro」のほうが音がエネルギッシュ。特にド派手な重低音の効果音はよく出るので、迫力重視なら好ましいサウンドだ。
以上、「Beats Fit Pro」「AirPods Pro」の実機を比較してみた。実のところ「Beats Fit Pro」「AirPods Pro」は、iPhoneとのスムーズな接続や空間オーディオと、体験の部分はとても似ている。「Beats Fit Pro」の差別化のポイントとなるのは、スポーツにも適した装着性と、低音がズンズンと響くサウンドキャラクター、そしてアクティブノイズキャンセル(ANC)。これらを重視するなら「Beats Fit Pro」は大いにアリだし、「AirPods Pro」よりも6,000円も安いので、本体デザインや装着感が気に入れば、コスパ重視で「Beats Fit Pro」を選択するというのも断然アリだろう。
PC系版元の編集職を経て2004年に独立。モノ雑誌やオーディオ・ビジュアルの専門誌をメインフィールドとし、4K・HDRのビジュアルとハイレゾ・ヘッドフォンのオーディオ全般を手がける。2009年より音元出版主催のVGP(ビジュアルグランプリ)審査員。