ソニーが2022年5月27日に発売したワイヤレスノイズキャンセリングヘッドホン「WH-1000XM5」。ソニーのワイヤレスイヤホン・ヘッドホン「1000X」シリーズの最新モデルで、前世代の「WH-1000XM4」から約1年半を経て登場する後継モデルだ。今回は「WH-1000XM5」と「WH-1000XM4」と比較しつつ、装着感、ノイズキャンセル性能、音質を実機でレビューしていこう。
ソニーが5月27日に発売した「WH-1000XM5」。ソニーストアの直販価格は49,500円
【関連リンク】
ソニー「WH-1000XM4」ついに発表! ノイキャンヘッドホンの大本命モデルを速攻レビュー
「WH-1000XM5」のポイントは、「1000X」シリーズ史上最大の進化を遂げたというノイズキャンセリング性能、そして専用設計30mmドライバーユニットの搭載だ。プラットフォーム面でも「高音質ノイズキャンセリングプロセッサーQN1」に加えて、「統合プロセッサーV1」も搭載。合計8個のマイク信号の制御でノイズキャンセリング性能を高めているという。
細身のバンドを組み合わせ、スッキリとしたシルエットとなった「WH-1000XM5」
前世代モデル「WH-1000XM4」のユーザーにとっては、「WH-1000XM5」のデザイン面の変化にも注目だ。「WH-1000XM5」はヘッドバンドが全体的にスリム化。サイズ調整後もデザインが変わらない無段階スライダー構造になり、見た目としてもスマートな仕上げになった。表面仕上げもマットで、手触りのよさにも高級感がある。
「WH-1000XM5」を装着したところ
「WH-1000XM4」を装着したところ
本体形状が大きく変化したことで、キャリングポーチへの収納方法も変更されている。前世代モデルの「WH-1000XM4」はヘッドバンド部を折り畳めるデザインだったが、「WH-1000XM5」は折り畳みに対応しないためそのままの形で収納するようになっている。ケースのサイズよりも、ヘッドホンをむき出して運ぶ人が気になる変更点かもしれない。
「WH-1000XM4」は折り畳み対応だったが「WH-1000XM5」は非対応に
キャリングポーチはそのままの形で収納する形状に
「WH-1000XM5」はソニーのワイヤレスノイズキャンセリングヘッドホンの最上位モデルだけあり、機能面もかなり充実している。スペック面ではBluetooth5.2接続でLDAC、AAC、SBCコーデックに対応。複数デバイスへのマルチポイント接続にも対応している。バッテリー性能は最大音楽再生時間がノイズキャンセリングONで30時間、OFFで40時間。3分充電で約1時間再生、10分の充電で約5時間再生可能なクイック充電にも対応する。
また、「Headphones Connect」のアプリから操作できる機能も、高音質化「DSEE Extreme」、立体音響「360 Reality Audio」などが揃う。従来機種からの機能として自分の話し声に反応する「スピーク・トゥ・チャット」なども利用可能だ。
「Headphones Connect」アプリからイコライザなどさまざまなカスタマイズも可能だ
まず実機で検証したのは、「1000X」シリーズ史上最大の進化を遂げたというノイズキャンセリング性能だ。「WH-1000XM5」を実際に電車内に持ち出して、実環境でのノイズキャンセリング性能をテストしてみた。比較用に前世代モデルの「WH-1000XM4」も合わせて検証を行っている。なお、「WH-1000XM4」はテスト前にアプリからノイズキャンセリングの最適化を実行済み、「WH-1000X5」はこの過程が「オートNCオプティマイザー」という機能によって自動化されている。
まず「WH-1000XM5」を駅のホームで装着していると、周囲のガヤガヤとした喧騒もほとんどカットして静寂に包まれる。駅構内のアナウンスは聴こえるが、ボリュームが絞られてノイズキャンセリング性能が効果的に働いているポイント。ソニーがうたう“人の声などの中高音域のノイズカット率が向上した”という内容をしっかりと実感できた。テストした日は風もあったが、風音によるウィンドウノイズも小さめだ。
ノイズキャンセリングの設定を確認しつつ検証
走行する電車内でもノイズキャンセリングを検証してみた。「WH-1000XM5」をテストする前に、前世代モデルの「WH-1000XM4」のほうから効果を確認してみたが、電車の走行中の騒音低減はとても有効だった。轟音のような重低音はほぼ抑えられ、線路に擦れるような甲高い騒音こそ残るが中域は遠くで鳴る感じに抑えられている。
「WH-1000XM4」は電車の走行音の騒音低減も有効
続いて「WH-1000XM5」を電車内で装着してみると、予想以上に効果に違いがあることに気付いた。轟音などの重低音部分の騒音低減の効果は高いまま、ノイズキャンセリング効果時の違和感が小さくなった。ただ、「WH-1000XM5」のノイズキャンセリング機能の不思議な特徴として、騒音低減の効果にライブ感(?)があって、騒音の大小に応じて騒音低減後の聴こえ方が大小する。これには悪い側面もあり、たとえば窓がガタガタするような騒音に対する働きなどにはあまり効果的に働かないようだ。前世代モデルの「WH-1000XM4」が騒音を一律にキッチリ抑え込もうと働くのに対して、「WH-1000XM5」の効き目は適応的に違和感がない形で全体のボリュームを抑えるという狙いなどだろうか。
「WH-1000XM5」は電車の走行音をやや残し気味
また、「WH-1000XM5」を装着していると、ノイズキャンセリング機能の働き方にいくつか発見が。電車の停車したホームを歩いていた時のこと、停車内の電車の空調から聴こえる“ヴォォォォ”という騒音に対するノイズキャンセリングの効き方が、僕の立ち位置によって切り替わるポイントがあることがあった。それにより、騒音の聴こえる音域の高さや音色が変わってしまっていた。重要なことは、その切り替わりを装着者がハッキリと認識できてしまうことだ。
ホーム上ではノイズキャンセリングの効き方が変化する場面も
それから、駅構内を歩いていると、ノイズキャンセリングの効き方が切り替わり、一気にノイズキャンセリング精度が落ちるポイントがあることにも気が付いた。これはイヤーパッドが少しズレて、「WH-1000XM5」の「オートNCオプティマイザー」が働き、密閉度の変化を検出しているためだろう。ちなみに、電車内でも首を真横近くまで振ると、この効果を確認できる。これは、WH-1000XM5のインテリジェントな挙動が働いているものだと温かい目で見守るべきだろうか。また、「WH-1000XM5」を無音で装着していると、時々“ボツッ”と鳴るような音がして少し耳に痛い。これも密閉度を計測するためのテスト音だが、驚く人も多いと思う。
電車以外の騒音も、カフェの騒音を流した状態で「WH-1000XM5」と前世代モデルの「WH-1000XM4」を比較してみた。
「WH-1000XM5」はガヤガヤした音にはノイズキャンセリング機能が効くが、食器の触れ合う音や、人の声は強めに残る。前世代モデルの「WH-1000XM4」は、中域の騒音を強烈に抑える効果があって、人の声や食器の触れ合う音などランダムな騒音にも強力に働く。また、「WH-1000XM5」は同じ環境で装着していても、数秒かけてじんわりと強度が高まる傾向がある。ただ、騒音低減の働きは最大まで強まっても「WH-1000XM4」のほうが働いているように感じた。
「WH-1000XM5」のノイズキャンセリング性能に対する僕の評価は、やや不満が残った。ソニーの言う前世代モデル「WH-1000XM4」と比べてシンプルに騒音低減の性能が向上したという内容を、絶対的なノイズ低減効果という内容に限定してしまうと、やや肩透かしを食らう。「WH-1000XM5」は密閉状態を測る仕組みが新しくなっていて、ノイズキャンセリング機能の挙動が変わったことが大きく関係しているのだろう。騒音低減の効果の強度は前世代モデルの「WH-1000XM4」のほうが強力で、「WH-1000XM5」は騒音低減の自然さ重視。トータルの評価として、どちらがよいとは一概には言えないだろう。
続いて、「WH-1000XM5」の音質をチェックしていこう。こちらも、ノイズキャンセリング性能のチェック同様、比較用に前世代モデル「WH-1000XM4」を用意した。iPhoneを使ったAACコーデック接続時、Xperiaを使ったLDACコーデック接続時の順にテストしていこう。
まずは確認用に前世代モデル「WH-1000XM4」からチェック。iPhoneにAACコーデックで接続した状態で聴いてみると、歌声もクリアかつ音情報豊富、躍動感のある低音も気持ちいい。「WH-1000XM4」だけ聴くと、まったく文句がない高音質だ。
iPhoneで「WH-1000XM5」と「WH-1000XM4」の音質をチェック
そしてここからが本番だ。「WH-1000XM5」をiPhoneにAACコーデックで接続した状態でサウンドを聴いてみたが、歌声の聴こえ方が変わっていることに驚く。宇多田ヒカルの『あなた』はヘッドホン(イヤホンもそうだが)によって高域がキンと響くのだが、「WH-1000XM5」はやわらかく音を残しつつ情報で解像するイメージ。それでいて歌声はセンターで存在感を放つし、オーケストラとバンドの楽器の情報量とスケールがしっかりと再現されている。YAOSOBI『三原色』も楽器もセンターへの定位が鮮明で、曲の静と動のメリハリが大きくなり、曲を聴く楽しみがアップ。BTS『Dynamite』も歌声の美しさはそのままに音の実体感がアップし、重低音のグルーヴ感はそのままに、よりタイトに引き締まる。前世代モデル「WH-1000M4」と比べると、「WH-1000XM5」は情報量志向はそのままに、歌声や楽器、センターの音の実体感が適度にアップ。S/Nを上げて空間的な音の滲みも排除、サウンドフィールドも広げた上で音の鮮明度アップを果たしているのだ。
続いて、XperiaにLDACコーデックで接続し、ハイレゾ音質を試聴してみた。こちらも確認として前世代モデル「WH-1000XM4」から聴いてみたが、LDACでは歌声の実体やS/Nが優秀。誤解を恐れず言うと、「WH-1000XM4」のLDACコーデック接続時の音質は、iPhoneとAACコーデックで接続した「WH-1000XM5」の音の傾向と似ていた。
XperiaとLDACコーデックで接続し、「WH-1000XM5」と「WH-1000XM4」の音質をチェック
さて、それを踏まえて「WH-1000XM5」のLDACコーデック接続時のハイレゾ音質を試聴してみたが、集中するとどこまでも深掘りできそうな肉厚さのある情報量志向に突き進む。宇多田ヒカル『あなた』は、やはりLDACで聴くと化ける楽曲で、歌声に高域のきつさがまったくなくなり、歌声の中域のニュアンスやその中の響き含めハッキリとした実体ある音として浮かび上がる。ピアノの音色の余韻も美しいし、低音の付帯音が小さくなり(聴こえ方は若干弱くなる)深さを再現した上で、バスドラの音の躍動感もある。YAOSOBI『三原色』も極めて音数豊富で、歌声もやさしいニュアンスをていねいに出るようになった結果、存在を意識しやすくなる。特筆したい点は横、奥行き、そして高さ方向までのサウンドフィールドの広さで、デフォルトでバーチャルサラウンドがかっているのではないかと設定を確認してみたほどだ。BTS『Dynamite』も、男性ボーカルの声まで徹底的な情報量志向だし、低音の締まりも優秀。「WH-1000XM5」をLDACコーデックで聴いたサウンドは、やわらかかつ音情報豊富、そして特にサウンドフィールドの広さや包囲感がすばらしかった。音楽に包まれるような至高のサウンドは絶品と呼ぶほかない。前世代モデル「WH-1000XM4」からの音質向上はなかなかのものだ。
最後に通話音質についてもふれておこう。「WH-1000XM5」では“AI技術を活用した高精度ボイスピックアップテクノロジー”という高機能な通話機能を搭載している。MacとペアリングしてZoomで通話テストをしてみたが、騒音のない状態では空間すべての音を拾いつつ、騒音を流すと人の声をフォーカスして拾うタイプだった。
「WH-1000XM5」の通話性能もテスト
ソニーの「WH-1000XM5」は、流石はソニーと呼ぶべきワイヤレスノイズキャンセリングヘッドホンの最高峰モデルだ。ただ、前世代モデルの「WH-1000XM4」も同様の賛辞を受けていた訳で、差分を語ると音情報と音空間向上による音質アップがやはり大きい。最近対応スマホも増えてきたLDACコーデックでの再生音質は特にすばらしかった。いっぽうで、ノイズキャンセリング性能については、密閉度の測定を自動化したことで挙動が若干変わっており、ノイズ低減の性能が「WH-1000XM4」より必ずしもアップしたとは言えない。また、折り畳み収納ではなくなり、収納ケースのサイズも若干大型化している。「WH-1000XM5」はソニーのワイヤレスヘッドホンの最高峰ではあるが、その立場に甘んじることなくさまざまなチャンレンジをしつつ新世代への革新を進めたモデルといったところだろうか。
PC系版元の編集職を経て2004年に独立。モノ雑誌やオーディオ・ビジュアルの専門誌をメインフィールドとし、4K・HDRのビジュアルとハイレゾ・ヘッドフォンのオーディオ全般を手がける。2009年より音元出版主催のVGP(ビジュアルグランプリ)審査員。